クジラ夜の街、“ファンタジーを創る
バンド”が音と言葉と光の力で魅せた
ツアーファイナルをレポート

クジラ夜の街ワンマンツアー“6歳”

2023.6.21 LIQUIDROOM
6月21日、恵比寿LIQUIDROOMで『クジラ夜の街ワンマンツアー“6歳”』を観た。クジラ夜の街は、“ファンタジーを創るバンド”として極めてユニークな世界観を持ち、5月に日本クラウンよりメジャーデビューを果たしたばかりの4人組だ。音源だけでなく、ステージでの物語性の高さや演劇的なパフォーマンスが評判のバンド。初めてライブを体験するのが楽しみだ。
「皆様、大変長らくお待たせしました。これよりファンタジーを創るバンド・クジラ夜の街の、6歳の誕生日会を始めましょう」
マイクスタンドやアンプにきらきら輝く電飾を仕込んだ、手作りのエレクトリカルパレード感あるステージ。ギターボーカル・宮崎一晴のいなせな口上で幕を開けたライブは、「風のもくてきち」の明るく弾むリズムに乗って加速する。「夜間飛行」ではドラムス・秦愛翔とギター・山本薫が気合の入ったソロで超満員のフロアを沸かせ、そのまま「夜間飛行少年」へ。クジラ夜の街の楽曲の特徴として、「Prelude」と称するインストやセリフ入りの短い曲があるのだが、「夜間飛行少年」の導入として「夜間飛行」があり、「ラフマジック」の導入として「詠唱」がある。クラシックやプログレッシヴロックを思わせるドラマチックな構成で、全体が組曲のように繋がってゆく。加えてメンバーの演奏能力の高さ、そしてボーカルであり語り部でもある宮崎一晴の、何よりも歌詞の物語性を重視する朗々たる歌声。開始わずか15分、既に別世界。
1曲ごとに物語があり、本のページをめくるように音楽は進む。サポートの高田真路が弾くピアノがコロコロ弾む「あばよ大泥棒」から「BOOGIE MAN RADIO」へ。突如“ファンタジーが大嫌いな魔王”の声が響き渡ったり、宮崎がいつの間にか黒ハットと黒マントの魔法使いモードに着替えていたり、エンタメ要素を増しながらライブは進む。5弦ベースを高く掲げた佐伯隼也がかっこいいソロを決める。キャッチーでメロディアスなギターロック、ボードビル風のノスタルジックなアレンジ、プログレッシヴロックの構成、ラウドで尖ったオルタナロック、様々な要素をミックスして才気走る演奏。主演は宮崎として、脇を固めるメンバーの見せ場も多く、視覚的にも音楽的にも飽きさせない。
ここで一休み、MCを任されたドラムスの秦がノリノリでしゃべってる。メジャーデビューを記念して、メンバー全員に宛てた手紙の朗読は、愛とユーモアと茶目っ気に溢れた内容でフロアに笑いを巻き起こす。楽曲とパフォーマンスは作り込まれてはいても、素顔の人間味は隠さない。それがクジラ夜の街のライブ。
「インカーネーション」から「奔走」「幽霊船1361」へ。《僕の女神はここにいる》、《僕だけは忘れないよ君の人生を》。宮崎の歌う歌詞はファンタジックな設定だが、恋愛であれ人生であれ、そこにある切実な感情と願いは空想ではない。「裏終電・敵前逃亡同盟」というタイトルを初めて聞いた人は、一体どんな曲だと想像するだろう。とぼけたシャッフルビートに乗せて、怪しげな魔物との会話が続く。続けて「ロマン天動説」「浮遊」「ハナガサクラゲ」と、楽曲の世界観はどんどん内面的でディープな方向へ。物語の解釈はあなた次第。ファンタジーは全てを内包する。
「……それでも時々、自分が何なのかわからなくなる時は、俺が何度でもこの歌を歌ってあげるよ」
宮崎の優しく力強い曲紹介と共に歌われた「平成」は、この日のライブの白眉であり、平成生まれ平成育ちのクジラ夜の街のアンセムとして深い感動を呼び起こす。「ご唱和ください」という宮崎の呼びかけに、全員が歌声を重ねて返す、なんて美しい光景。ドラムス秦の豪快なソロをきっかけに、ぐっとテンポを上げて「時間旅行」「時間旅行少女」へと繋げ、フロアを盛り上げる流れも絶妙。ライブ終盤に向けて、時間がどんどん加速してゆく。
最終セクションは、ファンタジーを創るバンド・クジラ夜の街のライブパフォーマンスの神髄を見せるものになった。宮崎が指揮者のようにメンバーを操り、様々な楽器のエフェクトを駆使して時間が遡る様子を聴覚化した「再会の街」から「ヨエツアルカイハ1番街の時計塔」へ。「音で夜景を見せるバンドです」と宮崎は言ったが、録音された効果音に頼らずに生演奏でそれをやってのけるバンドは極めて稀だ。暗闇の中に立つ時計台が音の中に浮かび上がる。やがて夜が明け、曲は「序曲」から「オロカモノ美学」へ。どことなくケルト的な音色の、明るくダンサブルな曲調に乗って手拍子が湧き起こる。《愚か者にも心はここにあり》。どんなに暗い夜があっても、最後はきっと明るく前向きなハッピーエンドが待っているはず。それがクジラ夜の街のファンタジーの物語。
アンコールでは、新しいアーティスト写真の公開、アニメ『闇芝居 十一期』のエンディングテーマ「マスカレードパレード」のワンコインCD本日リリース、7月12日からの配信リリースと、嬉しいニュースの連発に大きな拍手が送られる。6歳になったが気持ちは新人、メジャーデビューほやほやのクジラ夜の街の未来には希望しかない。新曲「マスカレードパレード」は、複数の拍子が交錯する複雑なテンポ、マイナー調の哀愁メロディ、尖ったオルタナギターサウンドを組み合わせた、トリッキーだがキャッチーな1曲。この曲のみ撮影可ということで、観客たちが撮影した映像がTikTokやTwitterに上がっているのでぜひチェックしてほしい。
「プロデビューして初めての、これは旅立ちのワンマンライブです。みんなで革命を起こしにいきましょう」
ラストを締めるのは、力強いミドルテンポで前進するメッセージソング「0話革命」と、楽しく踊れるアップテンポの「踊ろう命ある限り」。歌詞は全くファンタジーではなく、バンドの、宮崎の、命ある限り生き抜こうという哲学をまっすぐに伝える。いや、それこそが現代のファンタジーなのかもしれない。ハッピーな夜の終わりを盛大な祝福の拍手が包み込む。全員が笑顔で記念写真に収まる。
6月21日、夏至の日に6歳の誕生日を迎えたバンドは、年内にニューアルバムをリリースすることも発表した。ファンタジーという形式を借りつつ、現実を見据えて新しい未来を創るバンド・クジラ夜の街。派手なセットも映像もなく、音と言葉と光の力だけで魅せたライブパフォーマンスは、すでに唯一無二の域に達している。

取材・文=宮本英夫 撮影=Ryohey
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