「新しいサイコパスヒーローが誕生し
てしまった」[Alexandros]川上洋平、
夢見る少女が凶暴なシリアルキラーへ
変貌していく様を描いた『Pearl パー
ル』を語る【映画連載:ポップコーン
、バター多めで PART2】

大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回取り上げるのは、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』や『ミッドサマー』で知られる映画スタジオ・A24制作。昨年公開された、史上最高齢の殺人鬼夫婦が住む屋敷を舞台にしたホラー映画『X エックス』の前日譚であり、最高齢のシリアルキラー・パールが夢見る少女だった頃を描いた『Pearl パール』を語ります。
『Pearl パール』
去年のカワカミー賞の偏愛特別賞を受賞したカレン・ギランがインスタグラムに「『Pearl』めっちゃ良かった!」って公開時に上げてたので、楽しみにしてました。
──そうなんですね(笑)。
タイ・ウェスト監督は「続編は『X』みたいなホラー映画じゃなく、割とオーソドックスなノスタルジックな映画になる」って言ってて、「ホラー映画の続編でそんな映画作れるの?」って思ってたんですけど、全然ホラー映画感はありましたよね(笑)。
──そうですよね(笑)。
ただ、確かに『X』みたいなスプラッター系ではなく、クリスチャン・ベール主演の『アメリカン・サイコ』みたいなシリアルキラーの要素が強かったんで、どちらかというとそっち方面ですかね。
──シリアルキラーの心情に焦点が当たっているというか。
そうそう。『X』は心霊的なオカルト要素から、徐々にスプラッター系のホラー要素が強くなっていったけど、『Pearl』は猟奇殺人の人間の怖さ。スプラッター的な要素はあったけど(笑)。
──そうですね。『Pearl』は前提として『X』のシリアルキラーの老婆がどうやって生まれたのかということを描いていますから。
ジャンルが違いますよね。だから1作目の雰囲気を期待してると意表を突かれるかもしれない。でも映画自体は完成度が高かった。
『Pearl パール』より
■抑圧された状況から抜け出してスターになりたいと夢を抱く気持ちは理解できる
『Pearl』はシリアルキラーにとっての最初の殺人というか、“パール・ファースト・キル”があって。でもその前から家畜を殺したり、ナチュラル・ボーン・キラーの資質があるんだろうなって思いました。感情が昂るとそういう行動に出てしまうという描写が序盤からありました。
──そういう資質が、夫が戦争へ出征し、厳格な母親に抑圧されながら病気の父と家畜の世話をするという環境の中、ミュージカルスターになる夢を母に否定されたことで爆発するという。
そうね。でもあんな閉塞的な家庭に育って縛りつけられたら爆発はするよなー。パールのお母さんはドイツからの移民で厳格。父は病気で車椅子での生活。そんな抑圧された状況ならそこから抜け出してスターになりたいと夢を抱く気持ちは理解できますよね。実際僕もミュージシャンになりたいという気持ちはあったわけだし。人殺しはしないけどさ。
──その分かれ目が描かれてはいますよね。『X』の主人公はマキシーンというスターになる夢を抱いていた女性でしたが、そこがパールと通じるからこそ、主演のミア・ゴスがマキシーンも若い時のパールも老いたパールも全部ひとりで演じています。
不思議なプロットですよね。3部作なので次で完結するわけですけど、『Pearl』は『X』の前日譚で、そこは割とお決まりの流れですが、3作目はどうなるんだろう?
──今撮影中の3作目の原題は『MaXXXine』だそうです。つまり、『X』の主人公のマキシーンが主役なんですかね。
ね。次も面白そうだな。
『Pearl パール』より
『Pearl パール』より
■「もしかしたら自分にもこういう要素があるのかもしれない」と深層心理を試されるところに醍醐味がある
僕が思うのはシリアルキラー映画って、「なんて酷いことをするんだろう」って思いながらも、「もしかしたら自分にもこういう要素があるのかもしれない……」と深層心理を試されるところに醍醐味があると思っているんです。『Pearl』もそこがしっかり味わえました。
──そうですよね。
『アメリカン・サイコ』もそうだけど、殺戮シーンがぶっ飛びすぎてて不謹慎だけどちょっと笑ってしまう過剰さがあるんですよね。引かれると思うけどさ。
──わかります。『X』も笑えましたけど(笑)。
おー、同志ですね(笑)。前作の『X』は何の予備知識もなく見始めて、しばらくして違和感があったんですよね。その後どこかのタイミングで、「主人公と老婆が一人二役やん!」って気付いた時にゾワッとしました。でも映画を見終わってもまだもやもやした感じがあって。そうしたら3部作だってことを知って合点がいきました。あまりにもまだ説明されていない箇所があったし、エンディングはまだまだ続きがありそうな雰囲気がありましたから。例えば『スター・ウォーズ』的な感じ。
──サーガ的な。
そう(笑)。その空気はありましたね。
──そうですよね。『X』で若者たちが牧場でポルノ映画を撮影するわけですけど、それを恨めしそうに覗いていた老婆=パールは若い頃、映写技師にポルノ映画の走りであるスタッグフィルムを見せられ、「いずれこの映画は合法化され、ビジネスになる」と伝えられる。そこも伏線でしたね。
確かに。あと、パールが涙を流すシーンがありますけど、マスカラが滲んていてちょっとジョーカーぽいなって思ったのは僕だけでしょうか。
──確かに!
さすがにオマージュとかではないだろうけど、ピエロを表しているのかもね。
──あそこがスイッチが切り替わった瞬間なのかもしれないですね。
うん。映画に出てくる殺人鬼って、悪いことをしてるんだけど、どこか魅力的。ダークヒーロー的なところがありますよね。
──そうですよね。魅力的な悪役ランキングみたいな企画もよくありますから。ジョーカーもそうですけど、ハンニバル・レクターとか。
大好きですね。『アメリカン・サイコ』のクリスチャン・ベールもエロティシズムを感じるし。ミア・ゴスもそういう魅力を持っていますよね。だから、新しいダークヒーローならぬ、サイコパスヒーローが誕生してしまったなと。ラストのずっと笑ってるシーンもすごく不気味だった。あれは歴史に残るエンディングだわ。
──ジョーカーも笑いがキーになってますからね。
ね。ちなみに、海外の映画サイトによると、「パールのわかりやすい作り笑顔は、誰でも仮面をつけていることのメタファー」って書いてありますね。
──ああ、なるほど。
やっぱりジョーカーのオマージュ?(笑)。いや、そんなことはないな。というのも『Pearl』はどちらかというと『オズの魔法使い』のオマージュですよね。カカシとのダンスシーンとかめっちゃ不気味で素敵だったな。そして、ミア・ゴスはすごい役者だなと思いました。かわいいけど怖い。
──脚本とエグゼクティブ・プロデューサーとしても参加しているので、ミア・ゴスありきの映画って感じですよね。
間違いなく代表作ですよね。そして新たなるサイコパスキラーの金字塔。令和のサイコパスヒーロー、ここに誕生。
※2022年カワカミー賞はこちら
取材・文=小松香里
※本連載や取り上げている作品についての感想等を是非spice_info@eplus.co.jp へお送りください。川上洋平さん共々お待ちしています!

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