甲本ヒロトの出身地 岡山を舞台芸術
の発信地に──9月グランドオープン
のハレノワ劇場長&プロデューサーが
明かす、「魅せる・集う・つくる」新
劇場のあり方

岡山県岡山市に新たに誕生する「岡山芸術創造劇場 ハレノワ」。中四国エリアで最大規模かつ、アートサロンと11の中小の練習室も持ち、地域と共に創造する劇場になるという。こけら落とし公演は9月1日(金)、指揮に園田隆一郎、演出に栗山民也を迎え、岡山フィルハーモニック管弦楽団の演奏でオペラ『メデア』を上演する。メデアを岡田昌子、ジャゾーネを清水徹太郎が演じる日本初演作品としても注目を集めている。岡山芸術創造劇場 ハレノワの開館事業ラインナップや、劇場としての在り方について、岡山芸術創造劇場の草加叔也劇場長と渡辺弘プロデューサーに話を聞いた。
開館ビジュアルデザイン
演劇やダンス、伝統芸能、ロックフェスと充実の開館事業ラインナップ
――岡山芸術創造劇場 ハレノワ(以下、ハレノワ)はどのような特徴を持った劇場なのでしょうか。
草加叔也(以下、草加):最新鋭の機能を持っている施設であるのは間違いありません。それを支える舞台技術者を揃えているので、どんな公演であっても支えることができる体制をとっています。大劇場でも8、9人の技術者をつけますので、安心して使っていただける劇場です。
渡辺弘(以下、渡辺):岡山は交通の要衝ということもすごく大きいですよね。私は埼玉から岡山に来て分かったのですが、東京から乗り換えなしで来られます。四国もすぐですし、関西と北九州や福岡をつなぐ拠点になるはずです。
草加:高速道路は山陰までつながっていますし、四国にはエックスハイウェイという4県をつなぐ高速道路があるので、どこからも来やすい。瀬戸大橋が岡山に直結しているのが強いですね。中四国は私どものマーケットだと思っています。
渡辺:岡山の方々が大阪とか神戸、京都に演劇などを観に行っているので、関西の方々も岡山は近いので来てくれることを願っています。
『メデア』
――ハレノワのこけら落とし公演はオペラ『メデア』です。会場となる大劇場(総席数1,753席)では、オペラに適した音響や照明設備などが施されているのでしょうか。
草加:岡山市民会館という既存の施設があるのですが、ハレノワはその代替施設の役割を担っていきます。そのうち大きく異なるのは音響反射板の有無です。ハレノワの大劇場は、音響反射板を持っておりません。それは、私共の財団(岡山文化芸術創造)は岡山シンフォニーホールも管理しているので、ハード面で役割分担をしましょうということで、ハレノワの大劇場は音響反射板をなしにして、その代わりにオーケストラピットや奈落など、舞台芸術に重心を置いたハード機能を備えています。
――岡山シンフォニーホールとすみわけておられると。
草加:岡山シンフォニーホールは、生音を生かした約2,000席の大型ホールですから、コンサートホールとしてこれからも事業をやっていっていただきたいと思っています。ハレノワは、どちらかというと演劇や伝統芸能、ダンスや身体表現系のパフォーミングアーツに重心を置いた活動をやっていこうということで、全体のメニューが決まりました。
『Harenowa Bunch☀Harenowa Rocks!!』
――そうなんですね。開館事業のラインアップを拝見しますと、割と渋いプログラムですよね。
草加:公立ホールがオープンする際は、有名な交響楽団や海外からオーケストラを招くことが多いのですが、ハレノワでは演劇やダンス、伝統芸能を中心にプログラムを組んでいます。開館事業は9月1日(金)にオペラ『メデア』で幕を開けて、9月17日(日)、18日(月・祝)には岡山市民ミュージカル『慈愛と恵み 石井十次物語』を上演します。その間にロックキッズにも劇場に来てもらいたいので、9月9日(土)と10日(日)に『Harenowa Bunch☀Harenowa Rocks!!』を組みました。9日は奥田民生さんとマカロニえんぴつさん、10日はザ・クロマニヨンズさんとSUPER BEAVERさんにご出演いただきます。ザ・クロマニヨンズの甲本ヒロトさんは岡山県岡山市のご出身で、毎年、岡山市民会館でコンサートをされています。今年はそのスペシャル版としてハレノワに出ていただけるということなので、SUPER BEAVERさんとライブをしていただきます。
『劇場へ行こう!』の様子
ーー9月3日(日)には岡山市表町商店街を縦断し、劇場1階の千日前スクエアと呼ばれる全天候型広場でborn dance=盆ダンスを踊る『100人ダンス』が予定されています。早速、劇場の外に飛び出すのも面白いなと思ったのですが、これはどういったプロジェクトなのでしょうか。
草加:2022年9月4日(日)に開館1年前をお祝いする『劇場へ行こう!』というカウントダウンイベントを行いました。街の中でのダンスとはどういうことかというものを観ていただきながら、市民の皆さんに劇場に関心を持っていただこうというものです。岡山駅から岡山芸術創造劇場の近くの表町商店街 南時計台までパレードをしながら、随所でダンスをするというイベントを1日かけて実施しました。今回の『100人ダンス』はその「開館バージョン」です。
――開館バージョンでは、どういった内容になるのでしょうか。
草加:この劇場の存在意義として街に活気を作ろうというのも市や市民が期待している大きなポイントなので、それを実践するための一つの試みとして、劇場内だけではなく、劇場の周りの回遊性を高めていこうと考えています。
――2024年1月20日(土)には新潟に拠点を置くNoism✕鼓童『鬼』、翌月の2月11日(日)には国立劇場おきなわ特別公演『琉球舞踊と組踊』と、全国の作品が観られるのもすごくいいですね。
草加:演劇とダンスと伝統芸能をなるべく幅広く見ていただきたいのです。12月3日(日)の日本舞踊家集団・弧の会『コノカイズム』もそうですね。弧の会は12人の男性の舞踊団で、流派を超えて踊るというのが一つの目玉でもあります。男性だけの日本舞踊家というのも、あんまりないですよね。とても力強くて、我々は半分伝統芸能、半分ダンスだと思っています。
市民や他県の劇場とのコラボレーションでさらなる発展を
大劇場
――9月30日(土)、10月1日(日)には、「老いと演劇」OiBokkeShi 開館特別公演『レクリエーション葬』が行われます。こちらは俳優で介護福祉士の菅原直樹さんを中心に作られてきたものですね。
草加:菅原さんは2014年から岡山県内に居を構えてこられたので、もう地元のアーティストだと思っているんですね。2年ぐらい前からいろんなワークショップをしていただいています。『レクリエーション葬』の主演俳優は97歳の岡田忠雄さん。岡田さんには「舞台に立ちたい」という大きな希望があって、我々も一緒にそれを実現したいと、菅原さんと話をして開館事業として上演してもらうことになりました。
――こちらの演目は、渡辺さんがプロデュースされているのでしょうか?
渡辺:これは岡田さんに合わせた菅原さん主宰OiBokkeShiの新作です。劇場と菅原さんとで行う公演としては、12月23日(土)、24日(日)の『ハイスクール演劇公演』や、2024年3月3日(日)の岡山芸術創造劇場✕OiBokkeShi✕三重県文化会館『老いのプレーパーク 岡山・三重ツアー』を予定しています。
中劇場
――三重県文化会館とのコラボレーションもあるのですね。
渡辺:三重県文化会館では、菅原さんを中心に高齢者の演劇に取り組んでいます。『老いのプレーパーク』もある種の劇団みたいなものです。ほかに、烏丸ストロークロックの柳沼昭徳くんと市民劇を作ったり、サンプルの松井周くんと若手向けの演劇ラボでコラボしていたりと、世代を問わず幅広く取り組んでいます。特に柳沼くんとは何年もコラボしているんですね。『老いのプレーパーク 岡山・三重ツアー』もその一環です。せっかくなので岡山と組んで両館でやってみようということになりました。新しい試みですね。これを発端に、また新しい展開も考えていますので、楽しみにしていてください。
――岡山市民の皆さんの演劇への関心は高い方なのでしょうか?
草加:ワークショップをすると、たくさんの方に参加していただけますね。それから、この3年くらいはコロナで自粛をされているところが多かったのですが、岡山や倉敷には地元劇団がたくさんあります。地元劇団の方たちが去年の暮れあたりから自主公演を再開するようになってきているので、そういう方たちの活動を支えていくのも我々の仕事の一つだろうと思っています。
渡辺:この辺は市民ミュージカルが盛んなんですよね。これは愛媛県松山市の「坊っちゃん劇場」の影響もすごくあるので、その面も伸ばしていった方がいいのかなと考えています。
小劇場
――渡辺さんは、この劇場だからこそできることで、何かお考えのことはありますか。
渡辺:これまであまり行われていない岡山から発信する「創造」事業をやりたいですね。子供たちに劇場に来てもらって、いろんな感情を出してもらう、劇場を遊び場にするということを考えています。そこで地元や関西のアーティストたちが子供たちと遊ぶようなことをしてみたいと思っています。
一大ミッション「魅せる・集う・つくる」を完遂するために
3F情報展示ギャラリー
――今後、ハレノワをどう育てていきたいか、お聞かせください。
草加:我々は「魅せる・集う・つくる」というミッションを掲げています。「魅せる」は、いい作品を招聘してくる、あるいはいい作品を作ることによって、岡山市民あるいは岡山の周辺の人たちに劇場へ足を運んでいただけるようにしたい。「集う」は、劇場という名前の施設ですけれども、お芝居を観る、ダンスを観るだけではなくて、ちょっと行ってみたいと思われる場所になりたいと思っています。今までの市民会館は公演がないときは閉まっていたんですね。ですが、ハレノワでは、公演がない日もチラシを置いてあるスペースやギャラリーなどを開けて、そこで演劇に出会ったり、人と交流したりしていただきたいと思っています。
アートサロン
ーー11もの練習室が併設されていることも「集う」ことに繋がりそうですね。「つくる」に関してはいかがでしょうか。
草加:作品を創ることを通して、観客を創りたいと思っています。渡辺プロデューサーも、私も決して若くはないので、この劇場を運営していく劇場人を創らなきゃいけない。それから、舞台を華やかにしていただけるアーティストも創っていかなきゃいけませんね。
渡辺:そこにもう一つだけ付け加えるとすると、それをした上で街を活性化することですね。岡山市には商店街やお城もあって、いい街なので、いろいろ活性化に繋がればというのも、もう一つのミッションです。
草加:街に賑わいをつくることは重要だと思います。我々ができることは「関心人口」を増やすことだと思っています。公式ホームページを覗いていただいて、「こんなことやってんだな」とか、「観に行ってもいいかな」「観に行きたいな」と思ってくれる方を増やしていくというのが我々の大きな仕事です。現在「ハレノワ・メンバーズ」というインターネット会員を募集しています。北海道から沖縄まで47都道府県に必ず一人は会員がいるという状況にしたいと思っていて、既に北海道と沖縄にも会員がいます。今後、「全国に発信してるぞ」と言えるよう、岡山でこんなことやっているという情報を会員の皆様に発信していきます。
第8練習室
取材・文=Iwamoto.K

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