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【TOC インタビュー】
今までで一番やる気のある
ベスト盤かもしれない

一回死んでみるくらいの
気持ちで生きてみる

「パラソムニア」はトラックもめちゃくちゃカッコ良いです。今、世界的に注目されているという日本のシティポップの潮流にも似ていると言いますか。スムースジャズのようなサックス、ラテンなリズムもちょっと大人っぽいですよね。

最初は“レゲエを作ろう”と思って作ってたんですよね。アレンジャーはWAPLANという後輩で。もともと彼はR&BヒップホップのDJで、ずっと一緒にクラブイベントをやったりしてたんですけど、彼に合わせた得意分野を用意したって感じではあります。

レゲエとおっしゃいましたが、最初に「パラソムニア」を聴いた時はちょっとスティングの「Englishman In New York」を思い出しましたよ。

そこら辺は大好物なんですよ。クラブ時代によくDJが流していて、サイドMCでめちゃめちゃ聴いた曲だったので。話は逸れるんですが、スティングってワイナリーを持ってて、“Sister Moon”っていうワインを作ってるんですけど、めちゃめちゃお薦めです(笑)。

美味いんですか?(笑)

めっちゃ美味い!(笑) 実際に「Sister Moon」って曲があって、その楽譜がワインのラベルになっているんですけど、スティングはビジネス的にもすごく優秀だなって思いますね(笑)。本当に勉強になる。

確かに。パンクロックの頃に登場して今でも生き残っている人たちはやっぱりすごいですよね。

本当に。何歳になってもすごいエネルギッシュで、カッコ良い。定期的に来日しているし。最近思うんですけど、若い頃に作った楽曲を今50歳、60歳になっても歌っている人たちがどう表現してるのかというのは、ライヴを観に行くと本当に勉強になるんですね。

それは逆に言うと、TOCさん自身も10年後、20年後を見据えているってことですよね?

そうですね。これからがとても楽しみなんです。“求められてる楽曲やパフォーマンスを今の自分とどう擦り合わせるのか”…それ以前に“擦り合わせるのかどうか?”という判断もそうだし、“今の自分をどう見せるのか?”っていうのは人それぞれで、自分もそういう年齢に差しかかってきている。はっきり言って、ライヴで半音が出ていないアーティストもいるんですね。でも、それを“誤魔化している”と言うのは変ですけど(笑)、独自の見せ方に変えている、もしくはもう見せない。そこで言うと、これからが楽しみですね。

その“TOCのこれから”ということに話を移すと、新曲の「生きて」はこのアルバムの一番のキーではないかと。こんなに赤裸々なリリックは過去になかったのではないかと思うほどです。

これは自分にとっての死生観みたいなものを書こうと思ったんですけど、昨年、一昨年はめちゃめちゃ周りで人が亡くなって…身内も含めて急死する人がいたり、自ら死を選ぶ人もいたり、コロナ禍ということもあって、本当に死がすごく近かったんです。先輩が亡くなっちゃったんですけど、俺、その先輩と喧嘩別れしていて、お別れ会みたいなのがあったんですけど、行かないようにしていて。でも、周りから誘われて渋々行ったんですけど、全然悲しくなくて。でも、ライヴでその先輩と一緒に作った曲とかかかわっていた時期の曲を歌うと自然と涙が出てきて、“これは何なんだろう?”みたいな。

「生きて」のリリックはまさにそういう内容ですね。

それをリリックに書いたんです。死は自分にとってすぐ側にあるものだって。だから、周りの人が死んでもあんまり悲しくなくて、でもなぜか涙が出てくる…それはマジで分かんない。

10代も20代も別れはありますけど、年を重ねるとそれが増えていくのは自然なことですし、ここ2~3年はコロナ禍で直面することも少なくなかったですしね。「生きて」について言えば、恋愛を綴ったもの、日常を歌ったもの、あるいは若い頃の攻撃的なものといったこれまでに書いてきたものとはまた別のテーマなので、今後はこういうものが増えていくんだろうなと思わせる内容でもありますよね。

自分にとって書きたいこともそうですけど、今の自分に求められてることはメッセンジャーとしての自分で、それがすごく強いことを感じていて。一にも二にもリリックを見られるんですね。で、それが聴く人に刺さるというか、支えになってる人が多くて。「生きて」は、“だったら、もうそっちに振りきって書いてみよう”と思ったんです。“死が悲しくない”って言ったら、他人から見たら白状だと思われるんでしょうけど、実際にそう思うから書いてみようかなと。あとは、やっぱり恐れずに自分の人生を完遂すること、楽しむこと…自分がそうだったように、一回死んでみるくらいの気持ちで生きてみるというのは訴えかけたいものではありましたね。

“memento mori(※ラテン語で“死を忘れるな”の意味)”という言葉があって、それをモチーフとした楽曲を作っている日本のアーティストも多いんですが、今のTOCさんの話を聞いてて“memento mori”を思い出しましたし、「生きる」は“TOC版memento mori”と言えるのかもしれない。

もちろん死は怖いんですけどね(笑)。怖いんだけど、生きることとはすごく紙一重だなぁとは思いますね。

ひとりの大人、ひとりの人間として発するべきものがまた変わってきた感じはしますよね。このタイミングで「生きて」をベストアルバムに入れたことは、あとになってめちゃめちゃ象徴的なことと思うかもしれない。

“欲望と向き合う”みたいなことが最近多いと思うんです。我欲と向き合うというか。それはなくなってはいけないものだけど、支配されてもいけないものだし、だから…まぁ、何とも言えないんですけど(苦笑)」。

(笑)。「生きて」でも《カラーがない キャラじゃないこんな歌/だけどわからない 先がどうなるか》とありますし、「FOOLISH」にもそういうニュアンスはあったと思いますから、先のことが分からないのは当然だと思います。でも、分からないものを分からないままに発することもまた赤裸々ということでしょうし、それもアーティストとしては必然でしょう。

はい。今は本当にいいマインドになっています。“こういうのを書いたらいいだろう”っていう色気がない。色気なく書けているから本当にいい状態なんですね。自分にとってはHilcrhymeがメジャーに行く直前みたいなマインドですね。本当にそんな感じはしました。

冒頭で“HilcrhymeでできないことをやろうとしたのがTOCだった”とおっしゃいました。ただ、この『TOC THE BEST』を聴いてもTOCとHilcrhymeが近づいていることは分かると思うんですよ。やはりこの2形態でいくのがTOCさんにとってはスムースですか?

スムースとかではなく、もう意地です(笑)。特にDJ KATSUくんがいなくなってからは完全に意地ですね。これからも意地で続けていこうと思っています。これはとても大事なことで、ここで止めたらマジで意味がないと思うので。

なるほど。確かに、近づいているものの、TOCとHilcrhymeとはキャラクターが微妙に違うわけだし。

微妙に違うんですよね。もはや差別化はそこまで考えていなけど、やっぱりどうやっても微妙に違うんです。だから、それはそれでいいんじゃないかと。TOCの立ち上げの時にHilcrhymeのサウンドディレクターから“限定するな”と言われたんですね。“TOCをやる上でHilcrhymeでやろうとしてたことを変えないでくれ”とか、“攻撃的な部分をHilcrhymeでは隠そうとはしないでくれ”とか、逆も然りなんですけど。つまり、“お互いのデメリットになるような方向には行かないでくれ”“アウトプットの場所を隠さないでくれ、分けないでくれ”と。それが今になってすごい納得できるんですよ。“TOCをやっているからって、Hilcrhymeでは毒を吐かなくなるようなことは止めてくれ”っていうことなんですけど、今そういうふうにできていると思います。

それでは最後に。今秋、『TOC 生誕祭2023』の開催が決まっていますので、そこへの意気込みを語っていただきたいと思います。

『生誕祭』は今回は2デイズありますから、『TOC THE BEST』のリリースパーティー的に受け取ってほしいです。Hilcrhymeのパフォーマンスもありますが、あくまでも主役はTOC…ソロのほうなので。あと、“TOCはHilcrhymeでできないことをやる”っていうのは変わらず、これからも実験的な活動をやっていきたいと思うから、お客さんをびっくりさせたいっていうのが一番にありますね。内容はまだ考えていないけど、自分も自分に対して“何をやってくれるんだろう?”って期待したいですね(笑)。

取材:帆苅智之

アルバム『TOC THE BEST』2023年6月28日発売 Universal Connect/DRESS RECORDS
    • 【初回限定盤A】(CD+DVD)
    • POCE-92153
    • ¥9,350(税込)
    • 【初回限定盤B】(CD+DVD)
    • POCE-92154
    • ¥5,500(税込)
    • 【通常盤】(CD)
    • POCE-12197
    • ¥3,300(税込)

ライヴ情報

『TOC生誕祭2023』
10/04(水) 東京・Spotify O-EAST 
10/09(月) 大阪・umeda TRAD

TOC プロフィール

ティーオーシー:HilcrhymeのMC、自身が主宰するレーベル『DRESS RECORDS』のレーベルヘッド、そして、アイウェアブランド『One Blood』のプロデューサーとして、多角的な活動を展開。Hilcrhymeとしてメジャー進出し、メジャーフィールドにもしっかりと爪痕を残し、スターダムに登っていったが、その活動に飽きたらずソロとしての活動を展開。2013年10月に1stシングル「BirthDay/Atonement」、14年11月にはソロとしての1stアルバム『IN PHASE』をリリースし、ソロとしての活躍の幅を広げていく。その後、ソロMCとしてのTOC、及び『DRESS RECORDS』がユニバーサルJとディールを結び、メジャーとして活動していくことを発表し、16年8月にメジャーデビューシングル「過呼吸」を、18年1月にメジャー第1弾アルバム『SHOWCASE』をドロップ。メジャーフィールドでポップスター/ポップグループとしての存在感とアプローチを形にしたHilcrhyme、Bボーイスタンス/ヒップホップ者としての自意識を強く押しだしたソロ。これまでに培われたふたつの動きがどう展開されていくか興味は尽きない。TOC オフィシャルHP

「TOC THE BEST」Teaser

OKMusic編集部

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