津軽三味線の若き名手・中村滉己にイ
ンタビュー~東京では初となるソロホ
ールリサイタルを開催、その意気込み

民謡一家に生まれ、幼少の頃から津軽三味線の手ほどきを受けて育ち、数々のコンクールで優勝を飾ってきた中村滉己が、東京で初のソロホールリサイタルを開催する。津軽三味線の若き名手は、このステージにどのような想いで挑むのか。話を聞いた。
――今回、東京では初となるホールでのソロリサイタルです。どんなご心境でいらっしゃいますか。
東京では初めてソロでホールでの演奏をさせて戴くので、自分自身の個性をどれだけ出すことができるのか、三味線と声だけでどれくらい皆さんの心をつかむことができるのかを、とても楽しみにしています。ライブハウスでやった時よりも3倍くらい大きいので、どれくらい響くのかもわからないんですよ。ホールによって響きも違うので、今回がどんなステージになるのか、自分でも楽しみにしています。
――どんな楽曲を演奏されるんでしょうか。
津軽三味線と言えばこの曲!というような「津軽じょんがら節」といった伝統的な曲は、もちろんお届けします。オリジナル曲では、ちょっとフォーク調だったり、なんとなく神社で流れていそうな感じだったりと、津軽三味線とそういう雰囲気の楽曲との合わせ方も楽しんでいただけると思います。あと、オリジナル曲では新曲もこのステージで披露する予定です。少し長唄っぽい、ゆったりしたバラードようなイメージでいますが、これから制作するので、全然違う感じになるかもしれないです(笑)。ホールの雰囲気に合わせて曲ができたらいいなと思いますね。
(c) Takafumi Ueno
――伝統的な曲から挑戦的な新曲まで、さまざまな楽曲を演奏されることと思いますが、サウンドづくりで意識していることは?
すごく当たり前のことかもしれないですが、物語性はすごく大事にしています。そして、その時の自分の感情、その時にしか作れない曲を作ろうと思っていますね。例えば、YouTubeにアップしている「labyrinth」という曲があるんですが、僕自身が迷いに迷っていた時に作った曲なんですよ。昨年に作ったんですが、僕自身の活動スタイルをどうしていくか迷っていて、でも今こう迷っているのって今だけなのかも知れない。そして、今後迷うこともあるかもしれないけど、この悩み方はもしかしたら2度と来ないかもしれない、とも思ったんですよね。じゃあ、今のこの感情をそのまま曲にしてしまえ、って思って作りました。感情や心情って、再現されることって少ないと思っているので、そういう時にこそ曲を作ろうと思っています。
頂いた曲については、作曲者の方の意図や残っている音源をいかに忠実に再現するかを大切にしていますね。まずは頂いた音源に合わせてちょっと歌ってみて、三味線のフレーズが入っていない楽曲だったら、そこに自分のニュアンスで音を入れて、歌って、聴いてはまた歌って…の繰り返しです。僕はあまり楽譜を見ないタイプで、本当に重要な時以外は楽譜って見ないんですよ。耳で聞いて、実際にやってみて、というトライアルを何度も繰り返して練習しています。
――別ジャンルのもので、ご自身の音楽に影響を与えているものはありますか?
最近、すごく刺激になっているのがジャズですね。三味線も即興なんですけど、ジャズの方々って昔から即興でいろいろなことをやっていらっしゃって、特にソロ回しのところは完璧にその時の気分で演奏するじゃないですか。三味線にもそういう部分はありますが、あそこまでいろいろなコードとかを配慮したうえでソロをやるっていうのは、並大抵な努力じゃないと思うんです。それをすごく感じるので、勉強になりますね。ジャズ以外だと、ロックやEDM、クラブミュージックみたいなものも好きでよく聴きます。
(c) Takafumi Ueno
――中村さんご自身は、どのようなところがご自分の個性だと考えているのでしょうか。
少し感動的なフレーズを織り交ぜて曲を構成していくのは、僕のひとつの個性なのかな、と思っています。そこは三味線以外の楽器や音楽も刺激になりますね。クラシックピアノとかを聴いていると、すごく心にしみるようなフレーズがあったりするんですね。それをそのまま取り入れるわけではなくて、その心にしみた感覚を三味線に取り入れたらどうなるのか、というところをすごく考えます。
――津軽三味線に向き合う中で、スランプや壁に当たったこともあるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
大きな壁は2~3回ありましたね。小学校の頃と中2と高2くらいの頃。壁というか、マジで音が出せなくなったんです。いろいろな方の曲を聴きすぎて、自分の音がわからなくなったというか。脳がキャパオーバーしちゃって、自分のスタイルがもうどこかに行っちゃったみたいな感じになっちゃって、本当にメガトンパンチを食らったみたいになりました。改善するのにも時間がかかりましたし、弾くのが怖い時期もありましたね。弾いていても誰かの真似のような気もするし、自分らしくないと感じてしまって、上手く音にできないんです。すごくモヤモヤしました。
――その壁をどのように乗り越えていったんでしょうか。
昔の時のことは正直よく覚えていないんですけど、最近のほうは、津軽三味線の巨匠・工藤武先生に「普通に弾ければいいんだよ」と言ってもらえたことで救われました。人の音源とかはいったん抜きにして、僕が持っている自分の演奏、自分の曲を思うままに1回弾いてみな、と言っていただいて感動したんです。そこから、普通に弾くことをちょっと意識してやるようになりました。そしたら、昨年から日本一を5連続でいただくことができたんです。あまり聴きすぎずに、自分の曲をあっさりと演奏することがいかに大切なのか、思い知らされました。いろんな方に「滉己、よかったよ」と言っていただいていた時の三味線を取り戻せたような感覚になりましたね。自分の三味線を、もう一度自分に再インストールできたような気持ちでした。
(c) Takafumi Ueno
――たくさんの音源に真剣に向き合っていたからこその迷いだったのかもしれないですね。ちなみに、オフの時間はどのように過ごされていますか?
結構、洋服を見に行ったりすることが多いですかね。古着も好きですし、アウトレットに行ってバッグを見てみたり。父親がもともとアパレル関係に勤めていたことがあって、その影響もあってファッションは好きです。今は全身の色を統一するようなスタイルがマイブームです。黒とかで統一させるのにハマっていますね。今のアーティスト写真も、ちょうどそんな感じですね。トレンドを追いかけるよりも、好きなものを好きなように着てみようと思っています。
――時には気分転換を入れつつ、初の東京ソロコンサートを楽しんでいただければと思います。最後に、公演を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします!
自分にとって初めての東京でのソロコンサートです。何が起こるか分からない、まだまだ未知の領域ではあるんですが、津軽三味線の伝統的な音から、オリジナルの新しい音まで、最高の準備を進めていきたいと思います。来て良かった、また聴きたいと思っていただけるように、そして津軽三味線のイメージを壊しつつも日本人としての心を揺さぶれるように演奏したいと思っていますので、ぜひ楽しみにお越しください!

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