「最後のカルテットへの挑戦」と銘打
ったコンサートツアーを終えた、ヴァ
イオリニスト前橋汀子に聞いた!

昨年(2022年)、演奏活動60周年を迎えたヴァイオリニスト前橋汀子が次なる目標と話していたのが、“最後のカルテットへの挑戦”と銘打った、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲に特化したコンサートだった。
2023年3月29日(水)高崎芸術劇場、30日(木)東京文化会館小ホール、4月1日(土)いずみホール、2日(日)宗次ホールと続く“最後のカルテット” ツアーを無事にやり遂げた前橋汀子は、ゆっくり寛いだ時間を過ごすことなく、次なる目標と定めたベートーヴェンのヴァイオリンソナタの楽譜を開きたいと話す。「カルテットをやって来て気付いた事を、ベート―ヴェンのソナタ演奏で試したい!」
前橋汀子に、話を聞いた。

ヴァイオリニスト前橋汀子   (c)篠山紀信
―― 「最後のカルテットへの挑戦」と題した、前橋さんのベートーヴェン弦楽四重奏への挑戦が終わりました。

このメンバーでカルテットを始めてざっと10年です。チェロの原田禎夫さんを始め、ヴァイオリンの久保田巧さん、ヴィオラの川本嘉子さんには大変勉強させてもらいました。原田さんは桐朋学園の同級生ですが、久保田さんや川本さんは、ずっと若い年代。ただ、稽古中は歳や先輩・後輩は一切関係無く、遠慮せず言い合ってきました。皆さんお忙しい方ばかりですし、限られた時間のなか緻密に毎日練習をしてきました。多い日には5時間、6時間続けて。時間を惜しんで、一緒に食事をしたこともありません(笑)本番は、持てる力は出し切りましたが、聴衆の皆さまに少しでも思いが伝わったでしょうか?そうだと良いのですが。
―― 素晴らしかったです。第14番は楽章間の切れ目なく続く40分の大作ですが、楽章ごとに雰囲気は変わり、その違いを楽しんでいると、あっという間に終わった印象でした。大阪公演では久しぶりにブラヴォーも飛び出し、喜びに溢れた客席でした。前橋さんがそもそも、弦楽四重奏をやってみようと思われたのは何故だったのでしょうか。
カルテットに取り組みたいと思ったのは、もっともっとベートーヴェンの事を知りたいと思ったからです。ヴァイオリンソナタは彼の比較的若い30歳台の作品です。最後のヴァイオリンソナタ第10番でも1812年、42歳です。ここから1827年に亡くなるまでの15年間、耳が聞こえなくなり、絶望の中、必死に這い上がっていく狂気が反映された作品でヴァイオリンで演奏できるのは後期のカルテット6曲です。今回のツアーで取り上げた第14番は死の前年の作品です。これらの晩年の曲を勉強し、ぜひ弾いてみたかったのです。
前橋汀子カルテット   写真提供:KAJIMOTO
―― なるほど。「最後のカルテットへの挑戦」をやり終えた今、何を感じておられますか。
カルテットを経験する中で、いろいろな発見がありました。それらをこれからのソナタ演奏時に生かしたいです。カルテットを弾き終えた今、直ぐにでもソナタの楽譜を開いて勉強を始めたいと思っています。
―― 休む間もなく勉強、ですか。次はベートーヴェンのヴァイオリンソナタに挑戦したいと仰っていましたね。5月にソナタ全曲の演奏会がありますね。
はい。岐阜のクララザールで3日間に分けて全曲演奏します。これまで2009年に東京と大阪で全曲演奏会をやりましたが、全曲まとめて弾くのはそれ以来です。今回、弦楽四重奏を経験したことで、やはりベートーヴェンを追求したいという気持ちがさらに強くなりました。残された時間の中、あれもこれもというわけにはいきません。ベートーヴェンを選んだわけですので、ヴァイオリンソナタは大切に勉強していきたいです。
―― ベートーヴェンのヴァイオリンソナタの中で、お好きな曲は何番ですか?
うーん、優等生的な答えですが、それぞれにキャラクターが違うので1曲を選ぶのはなかなか難しいですね。今から50年ほど前になりますが、ヨーゼフ・シゲティ先生に第2番のソナタをレッスンしていただきました。先生は「この曲はプログラムの1曲目に弾くと良いから、レパートリーにしておきなさい」と言われましたが、実現できてなくて(笑)。改めて、先生とクラウディオ・アラウとの素晴らしいレコードを聴いて、ベートーヴェンってこんな面もあったのかと新たな発見をしました。いたずらっ子がお茶目ないたずらをしているように聴こえたりとか。そういうことを考えると、改めて全曲をさらい直すのが楽しみです。第5番「春」と第9番「クロイツェル」は、今もオファーが多く、演奏機会も多いのでちょっと横に置かせて頂きますが、それ以外ですと第6番は弾く機会は多くありませんが、何か、私にはベートーヴェンが内緒話をしているように思えて大好きな曲です。それと、第7番ですね。第7番もシゲティ先生に教わった曲で、ベートーヴェンにとって特別な意味を持つハ短調の劇的な曲です。シゲティ先生の書き込みがある当時の楽譜を大切に持っています。この曲は今年のサントリーホールの「アフタヌーン・コンサート」でも弾こうと思っています。

ヴァイオリニスト   (c)篠山紀信
―― 5月13日、14日、22日で、岐阜のクララザールでソナタ全曲演奏会ですね。その他は、先々まで演奏会が決まっておられますが、前半がベートーヴェンのソナタ、後半がヴァイオリンの有名な小品シリーズというパターンですね。前橋さん肝いりの「アフタヌーン・コンサート」は、今年が19回目ですね。

一人でも多くの方に気軽にクラシック音楽、生のヴァイオリンの音を聴いて欲しいと2005年に私が企画し、サントリーホールで始めたコンサートです。土、日か祭日の午後、料金は当時のCD1枚分の3500円で、私が厳選した珠玉の名曲満載のプログラムです。このコンサートが好評を博し、同じ趣旨のコンサートが大阪や札幌でも誕生し、今年も6月に行われます。
――  今年はどこの会場も前半のヴァイオリンソナタはベートーヴェンですね。6月18日(日)、サントリーホールでの「アフタヌーン・コンサート」がソナタ第1番と第7番「アレキサンダー」、6月21日(水)の札幌Kitaraホールはソナタ第4番と第7番「アレキサンダー」。そして6月24日(土)の大阪ザ・シンフォニーホールは第5番「春」と第7番「アレキサンダー」です。
5月にソナタ全曲を弾くこともありますが、これからはベートーヴェンのソナタ中心のプログラムになります。後半は私の好きな名曲の小品集です。6月は上記の他にも、6月17日(土)に横浜市戸塚の戸塚区民文化センターさくらプラザと、6月25日には東京都武蔵野市の武蔵野市民文化会館大ホールでも演奏会があります。また、5月の連休中には4年ぶりに「ラ・フォル・ジュルネ」が戻ってきます。私は5月5日に東京国際フォーラムのホールCで演奏します。
4月に行うコンサートで、少しパターンの違うコンサートがあります。
―― それが、この演奏会ですね。会場は東京芸術劇場で、バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番より『シャコンヌ』から始まって、弦楽アンサンブルでヴィヴァルディの『四季』より、“春”を演奏。そしてオーケストラをバックにサン=サーンスの“序奏とロンド・カプリツィオーソ”、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、サラサーテの“ツィゴイネルワイゼン”ですか。ヴァイオリン好きには堪らないコンサートですね。これは休憩無しで、何分のコンサートですか?
当初、日本フィルさんからは90分と言われたのですが、90分という事は1時間半。私のコンサートにいらしてくださるのは高齢の方が多いし、1時間半席を立てないコンサートは、ちょっと難しいかと思い、休憩無しの80分になりました。いろいろな形のヴァイオリンの魅力を聴いていただけたらと。
―― 前橋さんの直筆メッセージがチラシに書かれていて、スペシャルなコンサートであることが伝わって来ました。このスタイルのコンサートをクラシック音楽ファンがどう受け止めるのか、とても興味があります。チケットは今からでも間に合うようですので、予定が合うという方にはお勧めいたします。
前橋さん、カルテットを終えられてお疲れのところ、長時間ありがとうございます。最後にファンの皆様にメッセージをお願いします。
前橋汀子カルテットの演奏会では素敵な仲間に囲まれて、とても有意義な学びの時間を過ごすことが出来ました。カルテットの活動を通して得た新たな発見を、これからのソロの活動に生かしていけたらと思っています。1回1回のコンサートを大切にしたいと。ぜひ皆様に聴いていただけましたら嬉しいです。
皆様のお越しを、コンサートホールでお持ちしています   写真提供:KAJIMOTO
取材・文=磯島浩彰

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