永嶋柊吾×松本大×三好大貴×タカイ
アキフミに聞く~TAAC『世界が消えな
いように』のテーマは「消えること」
と「消えないこと」

2023年4月7日(金)~16日(日)下北沢 小劇場 B1にて、TAAC『世界が消えないように』が上演される。
TAACはタカイアキフミが主宰・作・演出をつとめるソロプロデュースユニットで、今回はコロナ禍の延期を経て2021年4月に初演された作品の再演となる。出演者は永嶋柊吾、松本大、大野瑞生、髙橋里恩、三好大貴の5人で、初演と同じメンバーがそろった。
なんでもないきっかけで友達になった5人の大学生を描いた青春旅行群像劇となっている今作に挑む思いを、タカイ、永嶋、松本、三好に聞いた。
再演にあたり「初演のメンバーが全員そろうなら」と言った
ーーまずはタカイさんにおうかがいします。今回がTAACにとって初めての再演になるということですが、なぜこの作品を選んだのでしょうか。
タカイ:この作品の初演が2021年の4月だったのですが、元々は2020年の6月にやる予定だったところを延期しての上演でした。そうしたコロナ禍の状況も踏まえた上での青春群像劇に仕上がったのですが、その初演から2年経て、コロナに対する価値観や、我々の営みなんかも少し変わってきたと思うので、そのへんを踏まえてアップデートしたいなと思いました。アップデートするにあたり、もう一度初演を共に作り上げた5人の仲間たちとやりたいな、ということを思ったのでこの作品に決めました。
ーーキャストのお三方は、再演のお話しが来た時はどんなお気持ちでしたか。
永嶋:タカイさんから「久しぶりに会いたい」という連絡がきて、「新作をやるのかな」と思っていたら「再演したい」と言われたんです。初演のときは僕もすごく楽しかったので、それはぜひやりたい、と思いましたが、条件として「初演のメンバーが全員そろうのであれば」と言ったんです。そうしたら他のみんなも「全員そろうなら」と言ったと聞いて、これはやっときましょう、と思いましたね。やっぱりいい連帯感があるんだな、と嬉しかったです。
永嶋柊吾
松本:再演オファーへの返事を一番渋ったのが恐らく僕だったと思います。僕はみんなとはちょっと職種が違ってミュージシャンで、ちょうど新しいことを始めるための準備期間中なんです。それと、また同じ役で出演するということに対しての迷いというか、違う役でのオファーだったら多分、もっとすんなりやってみようかなという気持ちになったかもしれないんですけど。でも初演に出演したときに、自分がやっている本職の方にも良い影響を及ぼす感触というのは確かにあったから、また出演することに対しての興味はありました。そんなふうに「どうしよう」とずっと悩んでいたら柊吾に呼び出されて。
永嶋:「お前どういうつもりだ」って聞いたんですよ(笑)。
松本:そう聞かれて「あ、はい、やります」って答えて(笑)。
三好:僕もタカイくんから「大ちゃん(=松本)はどうなるかまだわからない」とずっと聞いていて気になっていました。
松本:初演のときは、役を自分が飲み込むような感覚でした。僕は経験も少ないし、他の俳優たちに遅れをとってはいけない、自分が見劣りすることで作品を駄目にしてはいけない、と思いながら、ミュージシャンの自分がどういうふうにアプローチできるかをすごく考えていたんですね。今回またやろうと思ったきっかけのひとつとしては、今度は役の側に飛び込んでみるというか、自分のどうしようもない部分だったり、スチール撮影とかではNGになるような顔だったりを見せていきたい、そういう自分の崩れた部分を自分自身が受け入れられるようになりたいと思った次第です。
ーー三好さんはいかがでしょうか。
三好:初演がすごく好評で、「もう一回見たい」と言ってくれる人も多かったんです。自分も同じ気持ちで、もう一回やりたいと思ったんですが、僕以外のメンバーは断るんじゃないかな、と思っていました。だからまさか全員同じメンバーでやるということがまず驚きなんですけど、嬉しい気持ちもすごくあって。大ちゃんはミュージシャンだし、柊吾と瑞生と里恩と僕は役者と言ってもこれまで出演してきた作品とかはバラバラだし、全員が似たようなタイプではないというか、そこがすごい面白くて、今回もいろんな魅力を持ったみんなと、派手な演出とかもなく、芝居をじっくり見せていくという濃密な作品にトライできるのは、むちゃくちゃ幸せなことだなと思っています。
(左から)三好大貴、永嶋柊吾、松本大
言いたいことを言える、脱力感のあるカンパニー
ーータカイさんと男性5人キャストという、男性6人での稽古場の雰囲気はいかがでしょうか。
松本:むさくるしいですよね(笑)。
タカイ:確かに男性ばかりなのでむさくるしさはあるのかもしれないですけど(笑)。そこまで気が張ってないというか、力んでないというか、どちらかというと脱力感があるようなカンパニーなのかなとは思います。そんなに若くはないので(笑)、その若くなさがいい感じに利いてるのかな、という気がしています。
松本:この脱力感は、誰もかっこつけようとしないからっていうのはあると思う。
ーー皆さんお互い気心が知れている空気感がある、という感じなのでしょうか。
タカイ:再演だということもあるかもしれないですね。初演はいい意味でも、ちょっとピリッとした空気のときもあった気はしますが、それぞれが大人になったというか、あれからいろいろ考えたこともあるだろうし、各々のことを知った上でもう一度集まったという、そこの覚悟みたいなものを感じる気がします。
永嶋:年も近いので、言いたいことが言えるというのはあります。一番年下なのが髙橋里恩なんですけど、一番下が一番うるさいし(笑)、何か疑問に思ったことを正直に言える空気があるのはいいなと思いますね。
ーーお互い変に遠慮しあうことはないという感じでしょうか。
永嶋:遠慮はないと思います。タカイさんも演出家という立場ではありますが、タカイさんから僕たちに質問してくれることもあるし、それに対してみんな思うことは言うし、ひとつの座組としてとてもいい空気なんだろうなこれは、と思いながらやっています。
松本:みんなで作っているんだな、という感じはありますね。演者としての自分は、とにかく今までの自分じゃ考えられないぐらい弾けていこうと思っているので、奇行に走っています(笑)。
(一同爆笑)
三好:奇行って、文字になったらめっちゃおもろいね(笑)。
松本:これまでやったことのないことをやっているので、僕のことを知っているミュージシャンサイドのみんなは目が点になるかしれないです(笑)。でもそれも多分、稽古場に安心できる空気があるから自分を解放できるのかもしれないですね。
松本大
三好:うまく伝わるかわからないですけど、30歳くらいの同窓会って、20歳の頃とはちょっと違うじゃないですか。昔はノリで簡単に二次会に行けたけど、30歳ぐらいになるとなんとなく9時ぐらいには帰るみたいな。でもこの稽古をやっていく中で、「やっぱもっかい宅飲みぐらいまで行かなあかんな」っていう、作品に対しても、見に来てくださるお客さんに対しても、ガッと踏み込んで深く近づいていくぐらいの勢いというか、それぐらいの気持ちを持ってがんばろう、という意気込みでいます。
初演よりさらに5人の生活をのぞき込むような芝居になる
ーー今回は初演からアップデートをするということですが、劇場も駅前劇場から小劇場B1になって、客席がステージに対してL字型になります。舞台面が一面ではなく二面になることで、舞台の使い方やお客様への見せ方も必然的に変わってくる部分もありながらのアップデートになるのだと思いますが、現時点でのビジョンを教えていただけますか。
タカイ:初演のときはコロナ禍の真っ只中で、誰もが何かに祈りや希望を持っていないと生きにくいような世の中だったので、物語としても祈りがふんだんに込められていたと思います。でも2023年になって、皆さんがそれぞれの人生を現実的に生きはじめたような気がするので、より地に足がついたような物語の進め方にしたいなと思っています。舞台美術については具体的なことは言えませんが、TAACはよく「ひとつの世界をのぞき込んでるような作品」だと言われることが多いんです。そういう意味では二面舞台でかつ今回の舞台美術ということで、初演よりさらに5人の大学生グループの生活をのぞき込むようなお芝居にできるんじゃないかなと思っています。
ーー演じる側としては、初演のときは正面にお客さんがいる状態だったのが、今回は二方向からお客さんに見られるということで、状況が少し変わるのかなとも思うのですがいかがでしょうか。
永嶋:舞台の形で言ったら、大(=松本)がこういう形は経験ないんじゃない? ライブだとお客さんと向き合う形がほとんどでしょう?
松本:まあでも、僕の場合はフロアに降りちゃうからね。
三好:むしろ囲まれるのか(笑)。
松本:柊吾が稽古初日だったかな、今回は正面を意識しなくていいね、みたいなことを言っていて、まさにそうだなと思いました。
永嶋:苦手なんですよ、正面向いてセリフを言うのが。実際演じているときは舞台の形を意識することはそんなにないと思いますが、自由度は高いんだろうなと想像しています。それこそのぞき見しているような感じということであれば、なおさら制約なくフリーな状態でやっている方が雰囲気も出るのかなと思います。
三好:今回はL字型の舞台で、お客さんもチケット購入時にAサイド、Bサイドの二面から客席を選べるので、両方見ますと言ってくださる方もいて。両方を見比べたら面白いでしょうね。見えていた人がよく見えなくなったりとか、風景が違ってくると物語の追いかけ方というか、のぞき方が変わるかもしれないですね。
三好大貴
今作を見て「愛のバロメーターが上がってくれたら」
ーー今作をやることへの思いや、見どころをおひとりずつ教えてください。
タカイ:まず再演ということ自体が演劇独特ですよね。映像作品でもリメイクというのは聞きますが、もう一度同じメンバーが集まって同じ作品に改めて取り組むという、そして基本的には決まった時間と場所で共有されるものというのがやはり演劇特有の体験だと思うんですよね。今作は「消えること」と「消えないこと」をテーマにしていて、上演しては消えていってしまう演劇というもの自体と通じるところもありますし、コロナ禍の今の時代に限らずこれまでも「消えること」と「消えないこと」を繰り返してきた世の中を、演劇媒体を通して表現できるといいな、と思っています。
永嶋:初演時より歳はとりましたけど(笑)、基本的な軸としては22歳の役なので、その頃の純粋さとかを嘘をつかずに我々が作った空気感で届けるということにまず挑戦したいのと、僕らの関係性もそうだし、お客さんに対して届けるものとしても、初演のときよりもう一歩グイッと踏み込んで、人として関わっていられるような時間を作りたいですね。今作を見ながら「この世界が消えて欲しくないな」と思ってもらえたらいいな、と思っています。
松本:稽古が始まってみて、なんとなくみんな垢抜けてるな、と感じるんですが、絶対垢抜けちゃいけないんですよ、22歳をやろうと思ったら。だからもっと垢にまみれなきゃいけないな、という気持ちがまずひとつ大きいです。あと個人的には、前回たくさんいい評価をもらったんですけど、その後お芝居の仕事に誘われることはなかったので、どうせやるんだったら今回は次のお芝居の仕事に繋がったらいいな、という気合の入り方をしています。あとは、これは僕が勝手に思っていることですが、どこかのタイミングで客席にアプローチするっていうのをやってみたいな、という気持ちがあります。そういうアプローチをすることによって「そこに立っているのは、松本大じゃないんだ」ということがより明確になる気がしていて。どこかにそのチャンスないかな、と貪欲に探しています!
三好:初演のときにもらった感想で、疎遠になった友達に連絡してみたくなったとか、兄弟に会いたくなったとか、あとはちょっとだけ自分が好きになったとか、店員に優しくできたとかいろいろあったんですけど、今回も願わくばそういう気持ちになってもらえたらいいなと思っています。僕らにできることはこの芝居を信じてやるのみですが、今作を見て、ちょっとした温かさを感じてもらって、自分に対してでもいいし、他者にでもいいし、対象は何でもいいんですけど、形は違えどそれぞれが少しだけ愛のバロメーターが上がってくれると嬉しいな、と思いながら稽古に励みたいと思います。
(左から)三好大貴、永嶋柊吾、松本大
取材・文=久田絢子     撮影=池上夢貢

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