20年に渡り北村想作品を上演してきた
〈avecビーズ〉が、今作で解散。最終
公演『港町 memorial・II〜ラビロー
ニへ〜』を名古屋で

2003年の旗揚げ以来、名古屋在住の劇作家・北村想の意欲的新作を発表する場として、ほぼ年に一度のペースで公演を行ってきた〈avecビーズ〉。女優の金原祐三子が代表を務め、これまで20年間に渡って16作品を上演してきたが、〈avecビーズ〉としての活動は今回の公演をもって終えることが決定。2023年1月26日(木)~29日(日)に名古屋の「損保ジャパン人形劇場ひまわりホール」で行われる、『港町 memorial・II ~ラビローニへ~/すべて我が胎内に在り波に映え 光、風、空、夢、心/』が最終公演となる(公演期間後に上演映像配信も予定)。
『港町 memorial・II〜ラビローニへ〜/すべて我が胎内に在り波に映え 光、風、空、夢、心/』チラシ表  宣伝美術:藤島えり子(room16)
北村作品といえば、近年は、太宰治や江戸川乱歩、坂口安吾ら文豪の作品をもとに手掛けた戯曲がシス・カンパニーの「日本文学シアター」シリーズでも毎年のように上演されているが、〈avecビーズ〉ではこれまで完全オリジナル新作を発表。毎年新作が舞台化されるという活動拠点ならではの貴重な場であったが、劇団経営上の問題から、定期公演及び劇団としての活動は断念。やむなく解散の道を選ぶことになったという。
とはいえ北村は、予定した公演の数年前には戯曲が出来ているのが常、という劇作家だけに、今作は最終公演用に書かれたものではなく、前作『港町 memorial ~マッチ擦る束の間海に霧の見ゆいずこに逝きし我が故郷は~』の続編として、2年前には完成していた作品を上演するという。作者による【あらすじ】は、以下のとおりだ。
【『港町 memorial・II ~ラビローニへ~/すべて我が胎内に在り波に映え 光、風、空、夢、心/』あらすじ】
動く地殻(地球の表層部を形成する岩石層)humming bird の住人たちの遭遇するエピソードの続編。何処の何処だかの海上で彼らはゴムボートで漂流する女性二人を救助する。彼女たちは、連邦ラザリオ自治区の女性だけで構成された「洗濯部隊」の隊員で、連邦は現在、独裁帝国「チナトア民主主義自由連帯ご一緒共和国」の侵略を受けていて、なんとか戦況の劣勢挽回のための秘密作戦を実行しようとしているのだ。とはいえ、例のマスターも船町センセイも、四姉妹も呑気なもので、humming bird が活動停止している状態をなんとかしようと、努力しているのだかそうでナイのか成り行きまかせ。と、そんな彼らの目を覚ますようなチナトア民主主義自由連帯ご一緒共和国のミサイル攻撃が始まる。ともかく脱出。だが、humming bird は動いてはくれない。しかし、こういう物語には脱出のヒントが用意されているのが当然で、それは洗濯部隊の女性のコトバ「ラビローニ」。地名なのか、人名なのか、さっぱりワカラナイのだか、なんやかんやしているうちに、彼らは時空を飛び越え(そういう装置が humming bird には在る。のだ)、なんとかラビローニらしいところに到着する。かくて反撃を開始、したのかどうか、作者には記憶がナイ。なにしろ、コロナ禍の前に構想された作品なので、コロナ禍の煽りで、ようやっとの上演になったからだ。ともかく記憶にあるのは humming bird の地殻の動力が人工地震兵器に使えそうだということ、humming bird の動力起動スイッチが灯台付近にありそうだということ、それくらいなのだから、作者の加齢による脳の惚け防止スイッチを捜したほうがいいのではないかという、そんなハナシではナイだろうか。(そんなワケがナイ)

稽古風景より
帆草とうかによる詩集「ラビローニへ・I」と、ノーベル文学賞作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの著作「戦争は女の顔をしていない」をリサーチし、リミックスして書いたという今作。帆草とうかは現在、難病を抱えながらも詩作、童話、ラジオ・ドラマ脚本で活動している元劇団員で、
「詩を書いていらっしゃって、良い詩だからこれで戯曲を一本書こうと。それがコロナの影響で公演が延び延びになっていたから、これだけはやっておかないと、と思ったんですよね」と、北村。
もうひとつの題材である「戦争は女の顔をしていない」(1984年初版)は、雑誌記者をしていた当時30歳代の著者アレクシエーヴィチが、第二次世界大戦下で旧ソ連軍に従軍した500人以上の女性にインタビューを試み、戦争の真実を記した証言集だ。昨年2022年2月にロシアのウクライナ侵攻が始まったことから注目され、コミック化や本作を原案にした映画も公開されたことで話題になった作品だが、北村はそれ以前から着目。前述の詩集と本書を題材として、まるで現在の状況を予見したような内容の戯曲を2021年3月に書き上げている。
稽古風景より
執筆から約2年という時間を経た今回の上演にあたり、改稿はしていないのか尋ねると、
「書き方としては、『寿歌』(※1)を書いた時の書き方に一番近いんですよ。何も決めずに書き進めていって長くなりましたけど、途中で「これは長くなるから止めよう」という風には思わなかった。そういうことは考えに入れずに、書きたいものはとにかく全部書いたんです。後からカットすればいいや、と思って。ところがそのまま上演しようと思うと、どうしても2時間は掛かる。私の身体的状況が良くないのでとにかく切りまくって、なんとか1時間40分くらいにして。30分くらいはカットしてます(笑)。だからこの物語は、フランスの哲学的思考の理論ではデ・コンストラクション(脱構築)とか言いますけど、あんな風な言葉は使いたくないから、数学的な言葉で言うと、非線形確率論的微分方程式で出来ています(笑)。カットしてもうまく繫がるように書き加えたりはしてるんですけど、あれだけカットしたものを繋いでいったらそうならざるを得ない、という感じになってます」と。
※1『寿歌』
1979年に発表され、今なお全国各地から上演依頼が絶えない北村想の代表作。手書きしたものがそのまま謄写版になる「ボールペン原紙」に直接書きつけ、一字一句訂正ナシ(下書きナシ)で完成したという驚異的作品。
稽古風景より
ちなみに、題材となった詩集のタイトル及び本作の副題にもなっている“ラビローニ”という固有名詞が何を意味するのかは北村も知らず、「ラビローニとは何か?」を探す物語として構成したのだとか。作者による【あらすじ】の中だけでもこの“ラビローニ”はじめ、“洗濯部隊”や“チナトア民主主義自由連帯ご一緒共和国”など何やら気になるワードが幾つも出てくるが、劇中では他にも、“生前輪廻”なる不可思議なキーワードまで登場。果たして、動く地殻 humming bird に流れ着いた二人の女は一体何者で、戦況はどうなるのか? そして、そもそも humming bird とは何なのか…?
「書きたいものを全部書いた」という作者の言葉どおり、雄弁に語り続ける登場人物たちの台詞は情報量満載でありつつも元の台本から割愛されている部分も多いため、上演を観ただけでは物語の全容を把握しきれないかもしれない。そこで今回は、いつものような上演台本ではなく、上演用にカットされる前の完全版台本を販売するそうなので、北村いわく「今までのホンの中で一番分厚い(笑)」という台本も入手して、作品世界をより深く楽しんでみるのも。
稽古風景より
〈avecビーズ〉で上演されてきたこれまでの作品の中でも、とりわけ個性豊かで明朗快活な人物たちが登場し、実にアホらしいやりとりも随所に盛り込まれた本作は、作者自ら「書き方が似ていた」と言及する『寿歌』をまさに彷彿とさせる、あっけらかんとした明るさで彩られている。また、北村作品の音響を長年務めてきたノノヤママナコの作曲によるバラエティに富んだ挿入歌の数々も魅力で、全員が力いっぱい歌い上げる、生のエネルギーに満ちた合唱シーンも見どころのひとつだ。
劇団解散によって今後は定期的に公演を行うことは難しくなったものの、金原は「この作品の続編を今回のメンバーでまた上演できれば、と想さんも言われていますので、いつか実現できるといいな、と思っています」と述べ、北村も、「演劇なんてものは無理にやる必要は何もなくて、やりたい時にやれる時が重なって、その2つの条件が合ったらやるべきですね」とのことなので、次の公演が行われる、来たるべき日を心待ちにしたい。
尚、公演期間後の2023年2月12日(日)からはツイキャスプレミア配信も予定されているので、劇場へ足を運べない方などはこちらでぜひご高覧を(劇場公演を収録・編集した映像を配信。詳細については下記、公演情報欄を参照)。また、今回の上演では本編の前に出演者の小林正和による15分間の前説も用意されているため(各回、開演20分前より)、劇場で観劇の際は早めにご入場を。
『港町 memorial・II〜ラビローニへ〜/すべて我が胎内に在り波に映え 光、風、空、夢、心/』チラシ裏
取材・文=望月勝美

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