連載『ワンフェス』インタビュー実行
委員会・田中氏「誰のためのイベント
か?ということを改めて考えた――」

『Wonder Festival 2023 Winter』(以後『ワンフェス』)が2023年2月12日(日)、幕張メッセ国際展示場の1~8ホールすべてを使い開催される。

『ワンフェス』は造形メーカー海洋堂が主催する、世界最大のガレージキットのイベント。今回は『ワンフェス』に関わる様々な方々に登場いただき、「ワンフェスとはなんなのか?」を掘り下げていこうと思う。
連載第1回は『ワンフェス』の運営を手掛ける、海洋堂の社員であり、ワンダーフェスティバル実行委員会アソシエイターである田中佑志氏にご登場いただきお話を訊いた。
――本日はよろしくお願いいたします。
お願いします、ちょっと緊張しておりますが(笑)。
――改めてになるのですが、そもそも『ワンフェス』とはどういうイベントなのかというのを、これから行ってみようと思う方にもわかりやすく説明していただければと思うのですが。
『ワンフェス』は、1984年12月、大阪の小さなショップでスタートした、プロ・アマチュアを問わず造形を愛する人々の熱い想いと、その作品が一堂に会す世界最大級の造形・フィギュアの祭典です。今年で39年目を向かえ、毎回2000組のディーラーと50000人が集う大きなホビーイベントです。
――初回が1984年なんですね、ガイナックスの前身のゼネラルプロダクツが最初に開催したというのは知っていましたが、お話を聞くと歴史が長いですね。これだけ長く続く理由みたいなものは、田中さんから見てどういう部分なのでしょうか?
そうですね、『ワンフェス』のルーツにして最大の魅力は、プロアマ問わず、造形を愛する人々の精魂込めた力作がひとつの会場に集結する事だと思っています。特にガレージキット作品はここでしか見る事が出来ない作品が会場にたくさんあふれています 。
――ガレージキット、所謂“ガレキ”はプラモデルが流行っている現在でも、名前は知っていてもどういうものか掴みきれていない人も多いような気がしています。
そうかもしれませんね。ガレージキットとは、簡単にいうと個人が作るフィギュアなどの造形物を、組み立て式の商品(キット)にしたものです。ガレキの世界では「なければ作ればいい」が合言葉で、自らが愛する作品やキャラクターへの愛を形として表現したものだと思っています。イラストやアニメとはまた違う立体物だからこその表現、感動がそこにある気がしていますね。
――田中さんは実行委員会アソシエイターとして『ワンフェス』ではどのようなことをされているのでしょうか?
1つ目がディーラーさん、つまりは『ワンフェス』で展示・販売を目的とした出展する側の方々への募集も含めた対応ですね。一般の方もそうですし、企業のディーラーさんも募集するんです。そして2つ目が一般来場者を集めるための、いわゆる集客施策です。プレスリリースを作成して配信したり、TwitterなどのSNSに投稿して、「こんな企画があるよ!」とか、「ワンフェスいつやりますよ」っていう情報を発信して行く、そのあたりがメインの活動になります。
――『ワンフェス』は2020年秋の中止、2021年冬と秋はオンライン開催と、大型イベントのご多分に漏れずコロナ禍の影響を受けてしまいました。それを経て、2023年2月12日はフル開催ということですが、そんなコロナ禍を抜きにしても相当な大規模イベントなわけです。やはり大変なことが多いのではないでしょうか?
きちんと準備して皆さまをお迎えする立場なので「大変」という言い方をするのは恐縮ですが、出展者さんへのお申込内容の確認と手配、イベント内イベントの企画や告知準備、安全に開催するためにいろいろな所に許可をいただくための調整など、多岐にわたる業務をこなさないといけないのですが、なかなか大変ですね。特に多くの出展者さんからご申請いただく「当日版権」に関する手続きは、その申請数の多さもあいまって大変といえば大変です。
――なるほど。今、当日版権という言葉がでてきたんですが、この仕組みについてお聞かせいただければ。知らない方も多いと思うので。
はい、『ワンフェス』では、通常個人では得ることができないキャラクターライセンスをWF実行委員会が窓口となり、「開催当日・会場内限定」で特別に展示・販売することができます。それが「当日版権」とよばれる制度で、版権元各社のファン活動へのご厚意によって実現できております。イベント当日、その一日だけっていうところが魅力的なんです。
――これが『ワンフェス』の面白いところですよね、その日売っているキットは公式の許可が降りている、というのが凄い。あれだけのディーラーさんが制作しているものが許諾済みというのが。
そうですね、『ワンフェス』で許諾される当日版権の作品数は5,000アイテムを越え、名実ともに世界最大。また独創性あふれるオリジナル作品も展示・販売されており、WFに欠かせない魅力の一つとなっていると思っています。
――実際ディーラーさんはどのくらい参加されるのでしょうか?
今回1770ぐらいになりますね。
――そのディーラーさんの受付から、レイアウトを考えたり、会場の机を並べたりと、実際の開催前から当日まで、かなり大変だと思います。準備期間というのは、前の『ワンフェス』が終わったあと、例えば冬が終わったら夏の準備、みたいな感じなんですか?
そうですね。幕張メッセを全部借りる、という規模のイベントだとモーターショーぐらいで、もちろん集客も大変なんですけど、設営もやはり大変です。もう半年かけて準備のサイクルを回っていく感じです。
――半年単位で『ワンフェス』の準備をされていると。相当な長丁場ですから大変ですね。
そうなんです。開催の直前に次の『ワンフェス』のいわゆる参加マニュアルっていうものを作って、終わったタイミングで公開するので、開催前の一時だけすごい重なっている時期があるんですけど、今回でいうと1月ぐらい。そこは結構ヒーヒー言っています(笑)。
――僕らは『ワンフェス』に遊びに行くと、「幕張メッセのイベントの設営は大変だろうなぁ…」って思いながらいつも思っているのですが、そんな中でやりがいを感じる部分はどのようなところなのでしょうか?
『ワンフェス』自体がディーラーさんのために開催をしているので、ディーラーさんからやっぱり「ワンフェス楽しい!」とか、オンラインイベントもある中で「やっぱりリアルイベントっていいよね!」など、言っていただくとすごい『ワンフェス』をやってよかったなと思いますし、続けていかないといけないなあっていう気持ちにもなります。
――やはり参加されるディーラーさんたちの感謝の言葉や楽しんでいるところが見れるところが大きいんですね。
そうですね。『ワンフェス』は、造形をする人たちの発表と交流の場ですが、互いに高めあって成長できる場でもあると思っています。そういう場に携われるということに、誇りというか、生きがいというか、責任というのは本当にもうスタッフ全員が思っているところです。
――その中で企業出展も多数見られますよね。
はい、多くのホビーメーカーさんにとってもワンフェスは大きな意味を持つ場所だと感じてもらっていると思います。多くの愛好家たちが集い、メディアからも注目度が高い子この場所は、自社の新作をお披露目する絶好の機会でもあるんですよね。こうした観点から、出展企業様は新作の発表を行ってくださいますし、またこの日限りの限定品の販売を行うことも恒例となっています。
――企業ブースもどんどん面白い企画が増えている気がしています。
企業ブースのもうひとつの楽しみがステージイベントですね。新商品の発表にあわせた原作タイトルのステージや、クリエイターたちのトークなど、普段見聞きする事ができない特別なライブイベントが開催されます。『ワンフェス』のステージは、舞台と客席が近く、演者を間近で見る事も密かな魅力のひとつだと個人的には思いますね。
――新企画もあるんでしょうか?
今回は「第一回幕張国際レイバーショウ」という『機動警察パトレイバー』という作品の版権元さんと一緒にパトレイバーだけの世界観を作って、フィギュアだったり、キャラクターものだったりを展示する場所を作ります。そういった試みは今まで『ワンフェス』でやってこなかったんですけれど、パトレイバー好きの方には是非来ていただいて、楽しんでもらえるかなと思います。

(c)HEADGEAR (c)Wonder Festival Project Office
――それは燃えますね。物語でも開催されていた「レイバーショウ」が実現すると。(※『機動警察パトレイバー』の作品の中でも、現在はなくなってしまった晴海展示場を舞台に「レイバーショウ」が開催されていた)

今回はこれまでとちょっと違うのが、いわゆるディーラーとして参加しないんですけど、「レイバーショウ」だけ参加したい、という方も結構いらっしゃって。そういうこれまでと違ったユーザーも巻き込んだ企画になっています。
――すごく面白いですね、『機動警察パトレイバー』のファンは多いですし。ご多分に漏れず僕たちも『機動警察パトレイバー』の大ファンなので、現地に駆けつけないと(笑)。
そうなんですね!(笑) 3年ぶりとなる「THE NEXT GENERATION パトレイバー」98式AVイングラムデッキアップ​の実施も決定しているので、ぜひ会場で体感してほしいです。
――僕らは造形をしている身ではないですけど、見に行くだけでも楽しいというか、「こういう表現で作るんだ!」とか、「こんなマニアックなものを作れるんだ!」とかもあるし、『ワンフェス』は凄くおもしろい場だなと思ってます。そしてやはりこれだけの大規模イベントですと、コロナ禍の影響についての話は外せないのですが……『ワンフェス』にとってコロナ禍はどのような影響を及ぼしたのでしょうか?
正直いっぱいあるんですけれども……昨年2月と7月も『ワンフェス』を開催しましたが、やはりディーラーさんも、来場者の方も減少してしまったっていうのは大きな影響だと思っています。ただ一方で、我々ももう一回『ワンフェス』というイベントを見直して、「誰のためのイベントか?」っていうところからチーム内でもいろいろ議論が出来たのは大きかったです。話した結果「やっぱりワンフェスはディーラーやクリエイターのためのイベントだよね」っていうところで落ち着いたんです。コロナ禍はそういった根本的な目的なども見直すきっかけにはなりました。
――コロナ禍によって『ワンフェス』の在り方を再確認できたと。
あとは『ワンフェス』だけではないのですが、エンターテイメント全般において、このコロナ禍でいろいろと方法が変わったことで、一つのステージをクリアした気がしています。音楽ライブは配信という形も定着しましたけど、やっぱりリアル感っていうのも必要なんだな、というのも感じましたし、我々も新しいお客さんへの新しい見せ方みたいなものを勉強し、それをチャレンジしていく機会にもなったと思っています。
――イープラスはコロナ禍でいち早くStreaming+という配信プラットフォームを開発して提供しましたが、一方でリアルでの開催との難しさは感じていて…やっぱりリアルイベントはすごく楽しいんですよね。特に『ワンフェス』はリアル開催でないと得られないものが絶対にある。
ディーラーさんや作家さんと触れ合って、「やっぱり欲しいから買おう!」っていう流れもあると思っています。単純に欲しいものをネットで買うのではなく、ディーラーさん、作家さんとの会話も思い出の一部になりますし、そういったところも『ワンフェス』の特徴、魅力かなと思いますね。
――確かにその場での出会いやきっかけなども大事ですよね。では田中さんが個人的にこれは伝えておきたい! と思っているものがあれば、それも聞きかせてもらえたら。
そうですね……繰り返しにはなってしまうんですが、ガレージキットとは、既存の製品に飽き足らず「TVやコミック等で受けた感動を自身の思うままに立体物として表現」した作品なんです。量産品では金型の制約等もあり表現が難しかった「骨格のあるキャラクター造形」や「人が演じているかのような生き生きとしたロボット」などが製作者独自のイマジネーションとテクニックにより造形され、それぞれが唯一無二の魅力を持っているんです。
――情熱ありきですよね、ある意味採算性度外視ということも出来ますもんね。
そうなんですよ、その情熱がこもったガレージキット生み出すのが、各々ディーラー(出展者)です。ディーラーは、半年に一度の「ハレの日」であるワンダーフェスティバル当日に向けて自身の「立体にしたい」欲求をぶつけ、造形にうち込みます。メーカーからはなかなか商品化されない自分だけの”推し”や、「こんなものまで」というようなマイナーなアイテムまで、「好きだからこそ」表現できる製作者の愛情や熱意がそれぞれの造形物に込められています。造形力がディーラーの熱意そのものと言えるかもしれませんね。
撮影:池上夢貢
――たしかにそうですね、会場を回ってみて凄いものに出会ってしまうのも『ワンフェス』の面白さのような気がします。
そうですよね、驚くほど自分に刺さるものが見つかることもある、それも面白さだと思います。
――では、改めて今回はフル開催されるわけですが、『ワンフェス』が開催されてきた歴史を振り返って変わったところ、変わらないところなどはあるんでしょうか。
先ほども言いましたが、一番はやはり一般ディーラーさん・クリエイターさんのためにやっているイベントっていうところですね。もともとの始まりもディーラーさんが自分たちで集まって開催したものが、拡大していって今は幕張メッセのすべてを使う規模になったんですけど、やっぱりそこは変わらないですね。一般ディーラーさん・クリエイターさんがいないとワンフェスは成立しない。ということは今後も変わらないと思います。
――ディーラー・クリエイターを応援するっていう立ち位置は変わらないし変えちゃいけない部分だと。逆に続けていく中で変わってきたな、と思う部分はありますか?
やはり客層も変わってきていますね。これはたまたまなんですけど、弊社のBOME(ボーメ)が文化庁長官から、「令和4年度文化庁長官表彰」、いわゆる功労賞みたいのもらったんです。BOMEはまさに美少女フィギュア専門の造形師で、1980年ぐらいからずっと創作を続けているので、多分功労賞をいただけたのでしょうけど、やはり文化庁に認められたっていうことは、BOMEが認められたっていうよりも、いわゆるオタク文化だとか、美少女フィギュアみたいなものが、多くの方に認知していただいているんじゃないかなって思ったんです。
――たしかにそうだと思いますね。
BOMEだけじゃなく、BOMEを愛してくれているファンの皆さんとか、全体がカルチャーとして市民権を得ていると実感しましたし、そういう意味ではものすごく変わってきていると思いますね。いわゆるオタクの人たちに対する見方も随分変化してるような気がします。
――確かにアニメなどを幼少期から見て育ったり、ゲームセンターに行くとフィギュアがクレーンゲームの景品としてあることで、いわゆるオタク文化はもうサブカルチャーではなくなっているのでは? と常々感じています。
『ワンフェス』でも若い方の参加が多くなってきていますし、なかには家族連れで来られている方もいらっしゃいます。今は会場内に体験コーナーっていうのがあるんですけれども、それを家族で楽しまれたという声も聞いているので。本当に幅が広がってきたっていうのは感じています。
――アニメやゲームの一般化に付随するように、一般認知度があがり、オタクがポジティブな意味でとらえられてきていると感じていて、体験ブースもその流れを感じられた部分があったのかなと。
僕ら世代からすると、オタクってすごいいい言葉なんですよ。僕らにとって、その分野に対して知識もあって、人生かけてお金を使って、何て言うかプロというか、そういう意味がある。「お前は○○オタクやな」と言われたら褒められている感覚になるんです。
――ああ、それは世代感あるかもしれませんね、僕ら40代からするとネガティブに取られるんじゃないかという刷り込みはあります、でもアニメ関連の仕事をしているというと「凄い!」って言われるようになってきたのもあるんですよね。
なので、そういう自分がすごく好きなものがたくさん集まって、それを好きな人同士が繋がれる場っていうすごく貴重な場所に『ワンフェス』はなりたいです。またあの場所に行けばいつでも戻れる、いつでも会える、そういう場所であってほしいなって思いますね。
――それはそうですよね。「ワンフェスやるんだ!ちょっと行ってみよう、面白いものに出会えるかも!」という感覚で足を運びたいですね。
今回初めて「午後割」というものをやるんですが、これは13時から入場できるチケットなんです。その分入場料も安く1500円になるので、初めてだけど行ってみたいであったり、ゆったりとしたペースで会場を見たいという方は是非「午後割」を使って、昼から会場を見てもらって、『ワンフェス』ってこんなイベントなんだっていうのをまずは知ってもらいたいですね。
――一度に入る数をコントロールすることで、待ち時間も少なくできるメリットもありますよね。初めて参加しようと思っている方々に、どのようなところを楽しんでいただきたいと思われていますか?
本当に会場が広いので、丸一日いても時間が足りないと思うんです。なので、まずはざっと見てもらえたらいいんじゃないかと。その中に自分の琴線に触れるような作品が絶対一つはあると思うんです。そういうものを見つけてもらえたら嬉しいですね。あと当日版権が特徴だとお話もしたんですけども、オリジナル作品を出しているディーラーさんにも注目してもらえたら。オリジナル作品って0から自分が生み出したキャラクターなので、それを立体物にしているっていうところは本当に見ていただきたいなと思います。
――確かにオリジナル作品で本当にスゴイ物がありますよね。
必ず見たこともないものを発見できますし、感じたことない自分の感性に触れることができると思います。あとは寒さ対策は万全にしてきてもらえればと(笑)。
――2月開催ですからかなり寒いですからね。コスプレしてる人たちも、いつもギリギリまでダウンジャケット着てたりしますし、ちゃんと厚着してカイロは必須かもしれない(笑)。
それに今回も丸一日楽しめるようにキッチンカー、フードエリアを設けています。食事だけではなく、ちょっとした休憩とかにも使っていただいてもいいですし、本当にお腹も心も満たせるイベントになっていますので、ぜひ初めての方も気軽に来ていただきたいです。
取材=加東岳史・林信行 文=加東岳史

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