ミニスカートの女王がやって来た! 
伝説の英国デザイナー、日本初の回顧
展『マリー・クワント展』レポート

渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムにて、『マリー・クワント展』が2023年1月29日(日)まで開催中だ。
本展はイギリスからスタートして各国を巡回し、ここ渋谷での開催がファイナルとなる。本国イギリスでは40万人近くが足を運んだという人気ぶりだが、日本ではマリー・クワントが何者で、どんなことをした人なのかは、まだそこまで知られていないのではないだろうか?
1960年代のストリートカルチャーを牽引
端的に言うと、マリー・クワントは“ロンドンをswingさせた女性デザイナー”である。本展では衣服約100点、小物や資料映像などを通じて、1955年から1975年にかけて彼女が歩んだデザイナー・起業家としての歴史をたどっていく。それは同時に、ロンドンを世界の中心として若者文化が大きく花開いた、1960年代の「Swinging London(スウィンギング ロンドン)」と呼ばれるカルチャームーブメントを理解することにつながるだろう。
エントランスで迎えてくれる若き日のマリー・クワント女史ご本人。ちなみに、92歳となった今でも美脚は健在だという(!)
ここで、本展を楽しむ上で欠かすことができない音声ガイドについても触れておきたい。展示解説を務めるのは人気声優の梅原裕一郎。穏やかな美声でエスコートされつつ会場を巡れば、理解が深まること間違いなしだ。さらに、ロンドン生まれのブロードキャスター、ピーター・バラカンのコメントが特別コンテンツとして収録されているのも見逃せない。実際の盛り上がりを体感した身として当時を振り返り、音楽の分野などから60年代を紐解いていく。展示と併せて楽しむことで、Swinging Londonの雰囲気をつかむことが出来るのでかなりおすすめだ。
第1章 ブランドの構築
展示風景
第1章は「マリー・クワント」の前身であるブティック「BAZAAR(バザー)」時代の作品が並ぶ。現代からすると衝撃だが、当時はまだ“若者ファッション”というものは存在しておらず、子ども服を卒業した少女たちは母親と同じような服を着るしかない状態だったという。だからこそ、自分の着たい服が無いから、作って売る! という若きデザイナー・クワントの新しいアイテムは、若者に歓喜をもって受け入れられた。ちなみに、「BAZAAR」にはSwingin Londonを代表するスター、ジョン・レノンも来店していたとか。
展示風景
1960年代、クワントのヘアカットを担当していたのは、カリスマスタイリストのヴィダル・サスーン。キュッと引き締まったボブカットをトレードマークに、クワント自身がファッションアイコンとなってブランドを引っ張っていく現代的な広報戦略が採られた。また「淑女気取り」「イワシ」など、ドレスごとに想像を掻き立てるタイトルを与えたのも、イメージ形成の上での大きなポイントだろう。
展示風景 マネキンが並ぶステージも、よく見るとデイジーの形。中央にご注目あれ……
マリー・クワントのファッションショーやウィンドウディスプレイは、かなり個性的なものだったという。本会場でも、マネキンが何故か立派なロブスターをお散歩させていてびっくり。さらに映像では、モデルが転げ回るように高速で踊りまくる、ハイテンションなショーの様子も見ることができる。
展示風景
写真中央のドレスは、本展のビジュアルにも使われているジョン・コーワンの写真作品《近衛兵の先を行く》にて着用されているものだ。近くでよく見ると、所々に経年による小さな穴が見られる。デザインだけ見ると50年以上前の衣服だと忘れてしまいそうになるが、改めてその歴史にハッとさせられる瞬間だ。
展示風景
1963年に発表された「ウェット・コレクション」も興味深い。新素材のポリ塩化ビニールを使った雨天対応型のファッションは、注文が殺到し大反響を巻き起こしたものの……くっつきやすく溶けやすいなどの特性から商品化が遅れ、実際の店頭展開までは2年を待たなければならなかったという。成功に向けて階段を駆け上がっていったように思えるマリー・クワントにも、思い通りにいかないことや試行錯誤の日々もあったのだと思うとしみじみする。
第2章 成功の扉
展示風景
第2章では、人気デザイナーとなったクワントが新たに立ち上げた「ジンジャー・グループ」のドレスなどを見ることができる。「ジンジャー・グループ」はそれまでよりさらに若々しく、低価格の商品を扱うラインで、イギリス国内だけでなく欧米やオーストラリアでも展開した。
ドーン! と誇らかに並ぶマネキンたち。前に立つと、なぜかこちらまで仁王立ちになってしまうような……
そしてマリー・クワントといえばミニスカートである。マネキンは右から左に向かって年代順に並んでおり、時代を追うにつれてどんどんスカート丈が短くなっていくのがわかる。当初はタブーとされていたミニ丈が大流行を経て定着し、女性たちからはもっと短く! もっと! との熱狂の声が上がっていたという。
展示風景
ベレー帽にミニスカートにタイツ、という“これぞマリクワ”ないでたちだ。背後には勲章を掲げたクワントらの記念写真が展示されているが、決して棒立ちにならず、大股で段差に脚をかけた動的なポーズを取っているところに、このブランドの根底にあるヤンチャさが表れているような気がする。ぜひ会場で確かめてみてほしい。
第3章 グローバル化
展示風景
第3章では、マリー・クワントの代表作であるカラフルなジャージードレスたちが勢揃い。伸縮性の高いジャージー素材は活発な動きを妨げない。楽チンでおしゃれな服は、女性たちを物理的にも精神的にも解放したと言えるだろう。
展示風景
大量消費の時代を見越した戦略として、1966年にはブランドロゴのデイジーマークを商標登録したマリー・クワント。各国の現地企業とライセンス契約を結び、デイジーのロゴのもとに、世界中でマリー・クワントのアイテムが製造・販売されるようになっていった。本展では、こういったクワントのビジネス面での先見性も知ることができる。
第4章 ファッションの解放
展示風景
最後の第4章では、1960年代後半以降のデザインがずらりと並んでいる。写真中央のストライプ柄のドレスには、当時新たにアートシーンで注目を浴びていたオプ・アートの影響を見ることができそうだ。オプ・アートは錯視効果を利用したアートジャンルで、クワントと1歳違いでロンドンに生まれたブリジット・ライリーなどがその代表作家である。あらゆるものをインスピレーションの元として取り込む、クワントの貪欲な姿勢が伝わってくる。
展示風景
この頃には軍人や金融家をイメージさせる男性性の強いデザインのドレスや、一方では幼女のようなコットンのワンピース(その名も「清純派」)に網タイツを合わせた危ういスタイルも。階級やジェンダーなど、既存の価値観・枠組みに捉われず、さらに自由に羽ばたこうとする作品たちに注目だ。そして“ファッションをすべての人に”という信念のもと、マリー・クワントはコスメやインテリア、着せ替え人形などを手掛け、幅広くライフスタイルを彩るようになっていく。
展示風景
ちなみにマリー・クワントが定着させたファッションアイテムといえば、ミニスカートのほかに忘れちゃいけないのがタイツ。タイツが市民権を得るまでは、どんなに寒い日でもガーターで吊るタイプのストッキングを履くしか無かったとという。
心が勝手に踊りだす
出口付近には、モデルのツイッギーと一緒に撮影できるフォトスポットが。
私たちはもっと自由になれる、もっと自分らしくなれる。そんなメッセージを放つ溌剌としたデザインを眺めていくうち、何かじっとしていられないような、オシャレして弾けたくてたまらない! という欲望がむくむくと湧き上がってくるのを感じた。なるほど、これがswingなのかも……?
あれもこれも欲しくなる、魅惑のミュージアムショップ!
マリー・クワントの1955年〜1975年にかけての歴史を見渡しながら、イギリスにとっての“最高だったあの頃''のムードを少しだけ追体験するような展覧会だった。60年代のロンドンに咲き誇ったマリー・クワントのデイジーの花は、こうしてそのポジティブな種子を現在、未来へと伝えていくのだろう。街の空気が決してイケイケとは言えない今だからこそ、ぜひ足を運んでみてほしい。
『マリー・クワント展』はBunkamura ザ・ミュージアムにて、2023年1月29日(日)まで開催中。なお本展と期を同じくして、上階のBunkamura ル・シネマではドキュメンタリー映画『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』が上映される。この冬はマリー・クワント旋風を受けて、ミニスカートブームが再来するかもしれない。

文・撮影=小杉美香

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