Absolute areaの「挑戦」が結実した
、2022年現在の集大成ワンマン 

Absolute area one man Live2022「Fighter~未来への架け橋~」 2022.12.4 渋谷WWW X
12月4日に、渋谷 WWW Xにて、Absolute area のワンマンライブ『Absolute area one man Live2022「Fighter~未来への架け橋~」』が行われた。今年の活動指針として「挑戦」を掲げていた彼らは、シングル、アルバムのリリース、さらには『SUMMER SONIC 2022』への出演にライブハウスでのワンマンライブと、その言葉通り躍進してきた。その上で今回のライブは、そんな彼らの現時点の集大成と呼べるに相応しいライブだった。
山口諒也(Vo/Gt)、萩原知也(Ba)、高橋響(Dr)に加え、今回はサポートメンバーの坂本夏樹(Gt)と松本ジュン(key)のふたりが、常にステージ上で共に演奏するスタイル。メンバーの衣装も、最新のアーティスト写真に合わせたジャケット姿で、気合の入りようが伺える。以前、山口にインタビューした際に、今回のライブについて伺ったところ「ハンドマイクでのパフォーマンスが増えると思う」と話してくれたのだが、その言葉通り、1曲目の「少年」からステージを左右に大きく動きつつ、晴れやかな楽曲の下で自由度高くプレイ。この日リリースされた3rdミニ・アルバム『Future』から披露された新曲「マイナスの要素たち」では、明るく爽やかなメロディに合わせて、山口が飛び跳ねたり、萩原が気持ち良さそうにノッっていたりする様子からは、程よい緊張感はありつつも、過度の気負いはしていないように見えた。
「挑戦」と言葉にするのは簡単ではあるが、実際にその言葉に見合った行動をとり続けるのは難しい。それを1年かけて有言実行してきたAbsolute areaは、今年5月に代官山SPACE ODDでのライブ時よりも格段に自信を持った様子だったし、堂々としていた。高橋のタイトなドラムを合図にプレイされた「まだ名のない歌」もまた、山口のファルセットには安定さと磨きがより一層かかっていて、豊かに、それでいてはっきりと会場に響いていた。
その後、最新作『Future』から「いくつになっても」が披露されたのだが、これは昨年10月に、まさにここWWW Xにて、未公開の新曲として初披露された楽曲だ。約1年の時を超えて、当時とはまた異なった響きを持ってダイナミックに歌い上げられたのだと思うと感慨深いものがある。「いくつになっても傷付きあう2人でいよう」という歌詞の、「傷つけあう」ではなく「傷つきあう」という表現。長い時間を共に過ごせば過ごすほど、慢心や惰性が芽生え、相手に対しても、自分に対しても鈍感になっていく。君とはそうはなりたくないんだ、という想いが、この一文字の違いから見えてくる。ポップバンドとして成長していきたいと躍進しているAbsolute areaではあるが、過度な慰めや励ましはほとんどしないし、傷つくことに対して躊躇しないといった、割とシビアな目線も持っている。その視点で物事を俯瞰し、向き合った上で、人との繋がりや人間的な温かさ、優しさ、尊さを歌うからこそ、アブソの歌は聴き手にしっかりと届くのだろう。オレンジの照明の下で、切なげに、それでいて強い意志を宿して歌われた「カフネ」もまた、私たちの胸にじんと響いた。
「音楽を通して出会った、仲間やみなさんに出会えたことに感謝しながら、次の曲を聴いてください」と届けられたのは、しっとりとしたバラード「出会うべき人」。そして、軽やかさと温かみが同居するミディアムチューン「ANNIVERSARY」だ。鍵盤の音が大々的にフィーチャーされている2曲だが、カラーは全く異なっていて、その違いも楽しい。バンド形態であることに変わりはないが、自分たちが見据える理想に近づくための試行錯誤を絶えず行っているアブソだからこそ、鍵盤に大きな役割を担わせる楽曲も生まれていく。そこからもまた、彼らの「挑戦」の一手が見えてきた。
そして、その挑戦を踏まえた上でのこの日のハイライトのひとつとなったのは、「記憶の海を泳ぐ貴方は」だった。深海に向かって差し込む陽の光のように、優しく、幻想的にステージを上方から照らす照明は、楽曲の世界をより一層際立たせていたし、ハンドマイクでの歌唱により、普段以上に歌に集中している山口から放たれる、感情がぎゅっと詰め込まれた言葉の数々。ダイナミックに、それでいて繊細さを失わずに展開していくドラム。躍動が波のよう感じられ、聴き手の想像力を掻き立ててくるベース。メンバーがそれぞれ持つピースが、今まで以上にがっちりとハマっていた感覚がして、特に後半は大波に押し寄せられた時のように思わず息が詰まった。それほどに、楽曲が持つ世界と、今のアブソの表現力が最高の形でリンクしていて、新鮮な感動を覚えた。
今いる場所から進めば、何かしらの代償を払うことではある。それでも、自分が選んだ道の先には良い景色が待っているはず。その想いを言葉にした後、「みなさんと一緒に、通り過ぎていく過去に手を振りたいと思います」と届けられたのは、新曲「遠い春の夢」。手を振っているかのように軽快に波打つハンズアクションがフロア全体に広がる様子を見て、山口は「これやってみたかったんだよね!」と笑顔を見せる。この「遠い春の夢」と、続く「僕が最後に選ぶ人」では、疾走感と清涼感のあるメロディに合わせて、ボーカルにはエフェクトがかかり、電子的な響きを携えながらも彩り豊かに響いた。現代のJ-POPサウンドをアブソ流に解釈した、というバンド側の遊び心と好奇心がダイレクトに伝わってくるこの2曲を経て、「パラレルストーリー」と「いつか忘れてしまっても」で勢いをつけつつ、ライブは終盤へ。
山口は、体調不良を乗り越えて迎えたこの日のライブを総括するように、「普通に歌を歌えるって、こんなに幸せなんだなと思いました」と素直な感想を述べた。そして、「今のAbsolute areaの全ての力を出し切る1曲を、最後にお届けします」とラストに届けられたのは「introduction」。今のバンドの集大成的ライブの最後に、またここから始まるんだという意味を示唆させるこの曲を持ってくるところに、彼らがこれから先も絶えず進んでいくという意志を感じた。
アンコールで「ひと夏の君へ」と「橋を越えれば」を届けた彼らは、大勢のファンの目の前で歌えたことへの感謝と有難みを噛み締めつつ、目標に向かって邁進してきた1年間を振り返りながら「僕が思い描いている未来の自分像に、どんどん近づいている感覚がしている」と伝えた。ここからAbsolute areaは、どんな道を歩み、どんなバンドへと成長していくのだろうか? 答えは誰にも分からないけれど、彼らはきっと、私たちをワクワクさせてくれるような未来を見せてくれるだろう。

取材・文=峯岸利恵

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