L→R 本城聡章(Gu)、大槻ケンヂ(Vo)、橘高文彦(Gu)、内田雄一郎(Ba)

L→R 本城聡章(Gu)、大槻ケンヂ(Vo)、橘高文彦(Gu)、内田雄一郎(Ba)

【筋肉少女帯 インタビュー】
誰よりもぶっ飛んでいる若者は
若い頃の自分自身だった

“自分が社会から疎外されてる感”を
勝手に感じていた

『SISTER STRAWBERRY』のバージョンと比べてもメタル色は抑え目ですよね。

大槻
演奏陣に“抑えてくれ”って言ったんですよ。“これは言葉が命の曲で、とにかく言葉を聴かせなきゃいけないから抑えてください”とお願いをしましたね。ただ、「いくぢなし」の歌録りをしたその日の夜、僕、コロナを発症したんですよ。おかげでカップリングの歌入れが延びたりして…迷惑をかけました。
内田
とんでもない!

ヴォーカル自体もメロディーがしっかり立っていて、オリジナルに比べると非常に聴き取りやすくなりましたよね。

大槻
単純にキーがまるで違うというか、オクターブを下げて歌っているんですよ。むしろそれが曲に合っていて。カップリングの「KEEP CHEEP TRICK」なんかはオクターブを下げたことによって、ようやく歌が分かったというのかな? 非常に今の声と合っていて、ちょっとブルージーな感じも出たんで、これは良かったなぁと。

40年で熟成されたワインのような味わい深さがありました。

大槻
この曲、ライヴでやることもそんなになかったし、曲自体あまり覚えていないっていうファンもいるくらいなんですけど、個人的には大好きだったんですね。歌詞も…やっぱり世俗にまみれたくないという想いと、逆にまみれた安心感があって。そんな中でも“俺だけは分かっているぜ”とニヤつくヤバい奴の歌ですよね。曲自体は内田くんが即興的に作ったという話なんだけど、そのヤバい感じがよく出ている素晴らしい展開だなぁと僕は思っているんですよ。とても完成度が高いし。しかも、今回は最後の終わらせ方がちょっと違うんだよね。
内田
うん。最後だけちょっと変えたね。

アウトロがカットされて、歌い終わると同時にスッと終わりますよね。

大槻
その終わり方が僕的にとても良かったんだよなぁ。映画監督でミュージシャンでもあるジョン・カーペンターの音楽の雰囲気がすごく出ていて、“あっ、ジョン・カーペンター味がある!”って。たぶん内田くんは意識していないだろうけど。
内田
うん(笑)。カップリングの2曲は空手バカボン(大槻ケンヂ、内田雄一郎、ケラによるユニット)の曲なんですけど、当時はやりたくなかったんですよ。なぜかケラさんが“空手バカボンやろうよ! アルバム作ろうよ!”と言ってきて、“えー、面倒くさいよ!”って作ったアルバム(1988年1月発表の『バカボンの頭脳改革 -残酷お子供地獄-』)に入っていた曲で。ライヴで1回もやったことがないかもしれない2曲だから、もう全然覚えていない!
大槻
もう1曲の「7年殺し」のB面感はとても好きですね。A面の曲を録ったスタジオミュージシャンたちが、とりあえず“なんかB面作ってくれ!”って言われて、数時間のうちになんとなく作ったみたいなセッション感がいいんだよなぁ。全員いい意味で着地点を見つけないまま終わる感じがして、こういうハイブロウで高尚なことをやってるっていうのは分かってもらえるんですかね? 
内田
これは一番見えなかったんだよね、仕上がりが。
大槻
そう! “どこに行くんだろう?”って。なんでエディ(サポートKeyの三柴 理の愛称)は間奏で静かに弾くの? オルガンでバーッ!といくのかなと思ったら静かに弾いているのがいいね。驚いた!
内田
それもレコーディングしていく中のセッション感ですね。
大槻
みんな手練れすぎて、もうやることが分かんないよ! ちょっとすごすぎて、逆にB面感が出ているのがいい(笑)。

原曲は妙なラテン感もあるんですけどね。

大槻
ね。それがラテン方向にも行っていないですからね。
内田
いや、あれはエレクトーンのリズムで、ニューウェイブっぽい感じは何かないかなってなると、やはりマンボとかになっちゃうわけですよ。昔はテープの回転を上げて録ったりとか、そういうことも実はやっていましたね。“こんなんでいいだろう!”って結構適当でしたけど(笑)。

それが今回はヒップホップに変貌してません? ヴォーカルがしっかりラップになっていて。

内田
昔は絶叫系でしたからね。アジテーション系だったのが、今回はオーケンがヒップホップに挑戦!
大槻
いわゆる“言葉尻を置きにいく”っていうのを、近年は意識するようにしているんですよ。J-RAPとかがワーッと広まった当初は“何だろう?”と不思議だったんだけれども、言葉の最後を置きにいくっていうのは、非常に音に乗ってる感じがしていいんだなぁと気づいて。ただ、いきなりラップができるわけでもないので、言葉尻だけでも置きにいったり、たまに韻を踏んでみたりっていうのを意識してやりました。

ちなみに、歌詞の中でリフレインされている“ベントラ”って何ですか?

大槻
UFOを呼ぶ言葉です。昔、流行ったんですよね。宇宙友好協会の人たちが始めたのかな?

あぁ! ということは、《カモーン!》《来た?!》と続くのはUFOのこと?

大槻
そうです。よく聴くとUFO的な音が入ってるんじゃないかしら?
内田
入れました!

サビでは《すべての脳髄入れ替えろ》と歌っていますが、大槻さんの初期の歌詞って、やたら“脳髄”という言葉が出てきますよね。「いくぢなし」しかり、それが収録されていたアルバム名も“とろろの脳髄伝説”だったり、代表曲の「釈迦」(1988年6月発表のシングル)にも出てくるし。その理由に何か思い当たるものってあります?

大槻
恐らくね、夢野久作の『ドグラマグラ』に脳髄に関しての描写があったんですよ。“脳髄は人間の中の迷宮である”とかってフレーズが。サブカルアングラ少年としては、それが印象深くて“脳髄”っていう言葉を使っていたんじゃないかな?

そのフレーズ、そのまま「いくぢなし」に出てきますよね。あとは、“アンテナ”というワードも多い。

大槻
出てきますよね。何なんだろうな? やっぱり当時はぐれ者っていうか、サブカル少年特有の“自分が社会から疎外されてる感”っていうのを勝手に感じていたので、“きっとどこかに分かってくれる人がいる。そういう人たちと通じ合うコミュニケーションツールとしての電波、それを受信するアンテナみたいなものがあれば!”みたいなことを考えていたんじゃないかな? 今だったらインターネットなんでしょうけれども。

なるほど。世俗にまみれた周りの人間を“いくぢなし”だとか“凡庸な人”と呼び、自分は違うと主張しつつ、そんな自分を分かってくれる人がどこかにいるはずだという。

大槻
そうですね。そういう想いは当時アングラロックをやってる人は、きっとみんなあったんじゃないかな? ネットがなかったっていうのも大きいと思いますね。簡単に会えないもん、そういう人と。もし会えても『宝島』とか『フールズメイト』の文通欄で探すしかなかったもんなぁ。あとは、ライヴハウスで見つけるか、そうやってできたのが筋肉少女帯でした。

OKMusic編集部

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