L→R 本城聡章(Gu)、大槻ケンヂ(Vo)、橘高文彦(Gu)、内田雄一郎(Ba)

L→R 本城聡章(Gu)、大槻ケンヂ(Vo)、橘高文彦(Gu)、内田雄一郎(Ba)

【筋肉少女帯 インタビュー】
誰よりもぶっ飛んでいる若者は
若い頃の自分自身だった

こんな不思議な曲を作った奴らは
すごいなぁと思った

ギターがツインになったりといったバンド編成の変化はあれど、基本ラインは当時のままで進めたと。実際、再び歌い、演奏してみていかがでした?

大槻
こんな不思議な曲を作った奴らはすごいなぁと思いましたね。こんな不条理で、どこにもカテゴライズできないような曲を作った過去の自分たちとまた出会えて、感動に打ち震えましたよ! 最近、ボカロとか歌い手さんとか、若い人の音楽をいろいろ聴いていて“あぁ、すごいなぁ。こんな発想があるんだ!?”ってなるんですけど、それとはまったく違う文脈というか。寺山修司的なものをやりたかったのかなと推測することはできるんだけど、その着地点がまったく違うところに行っているんですよね。あえて“古い”“新しい”で言うならば、“この人たちは80年くらい進んでたんだなぁ。たぶん彼らが死ぬまで時代は追いついてこないんだろうなぁ”と思いました。独特すぎる音楽なんで、逆にTikTokとかで今の若い人に聴いてもらいたいですね。“何だろう、これ?”ってなるんじゃないかな?

音源を開放したらいいのでは? 歌い出しの《フェティシストの義兄はいくぢなし》とかは素材にして遊んでもらえそうじゃないですか。

大槻
そう! “《フェティシストの義兄はいくぢなし》って、何だ、それ!?”って。…いや、今にしてみると分からないんだよなぁ。ただ、今回収録している3曲に関して言えるのは、まだサブカルがメインストリートに出ることもできない時代、こじらせた若者が自分の存在とイコールである表現をまったく受け入れられないことのもどかしさ、コンプレックス、さらに自分たちだけが分かっているという歪んだ優越感…そういうものが全て歌詞に込められてますね。それはすごいと思った。
内田
ふふふ。
大槻
この頃って19歳だったみたいなんですけど、真面目に就職しなきゃいけないという想いの一方で、そんなふうに世の中に出ていく気持ちもないっていうか。いわゆる世俗にのまれるってことが、すごく嫌だったんですよね。後に“サブカル沼の帝王”と言われる人間としては…って、“サブカル沼”ってひと言も褒めてない! むしろ蔑称だよ!っていう(笑)。だから、その頃の想いが全部出ていると思います。歌詞に出てくる“アンテナ売りの義兄さん”っていうのが、世俗にまみれてしまった人間の象徴なんでしょうねぇ。

思春期の揺れ動く大槻さんの心象世界が、意外とダイレクトに投影されているんですね。つまり、タイトルの“いくぢなし”というのは世俗にのまれてしまった人間のこと?

大槻
あるいは、完全にドロップアウトしきれない自分が“いくぢなし”なんじゃないかなとも感じますね。今にして思えば。アウトサイドを歩き出す勇気が、今ひとつなかった自分ですよね。まぁ、これから数年後にバンドブームが起きて、こういうヤクザな道にどっぷりと浸かることになるんですけど(笑)、この頃は“真っ当なお仕事に就く”ってことを、まだ考えてたもんなぁ。ちなみに、このファンキーな音作りはどこから来たの? 全然覚えてない!(笑)
内田
ファンキーではないんだけど、あの時代の高校生バンドがやるような感じっていうのは残ってるかもしれない。(リリース時のドラマーだった)みのすけがチキチキやっちゃっているのとか、当時のニューウェイブ的なものとかが色濃く出つつ、すごく幼い感じもあるよね。その中でも“なんか変なことをやってやろう!”みたいなパワーが「いくぢなし」にはあって。“変なことが偉い!”と思っていたからね。それが新しいんだ!って。
大槻
あった、あった。
内田
当時のことはまったく覚えてないんで、“何でこうなったの!? ”ってことは多いけど、幼さの中から今じゃできないものが生まれていて。それはすごいところかな?

幼いからこそ湧き出るものって絶対ありますよね。

内田
そうなんです。ちょっと手練れになってくるとできないようなことをやれるんだよね。うん。

そんな幼さゆえの不合理な底知れなさを、超一流の演奏で表現しているんですから、ある意味いいとこ取りというか。

大槻
19歳、20歳の若者が作ったものを、もうアラカンのバカテクミュージシャンたちが録音しているわけですから、もちろん奇妙なものが生まれるんですよね。だから、内田くん、あれじゃないか? 昔の『ヤマハポピュラーソングコンテスト』(以下、『ポプコン』)とかでさ、10代の若い子が出場して“曲は面白いけど、商品にする場合は君たちには演奏させないよ!”って、アレンジャーを立てて、スタジオミュージシャンを呼んできてっていうのと同じ構図にもなりかねないよね。
内田
でも、これ、ヤマハは取ってくんないね。
大槻
ヤマハは取ってくんない! ヤマハ感まるでない!

インディーズ時代、そういったコンテストって出ていました?

内田
出ていたよね。『ポプコン』はテープ審査で落ちた。
大槻
それはね、CBSソニーのオーディションですよ。

光るものはあっても尖りすぎていて、きっとどう扱っていいのか分からなかったんですよ。

大槻
そうでしょうね。今「いくぢなし」みたいなものを作ってくる奴がいたら、僕でも“君たち最高だよ! でも、売れる気はないんだね” って言いますから。あるいは“今はこういうものが売れ筋なの? 驚いたよ!”って。今回の3曲は筋肉少女帯の曲の中でもちょっと色合いが違うと感じていて、わりと近年の筋肉少女帯はヘヴィメタルっぽさが強かったんですけど、今回はどアングラですから(笑)。この曲をどうやって売るのか、僕は今も疑問に思っています。

OKMusic編集部

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