鈴木エイト氏

鈴木エイト氏

統一教会の天敵 鈴木エイトとは何者
なのか  取材・文/本橋信宏 撮影
/武馬怜子

安倍元総理が銃撃により死亡、統一教会と政界との関係が明らかになって以降、1人の男をメディアで頻繁に見かけるようになった。なぜか。この男しか、統一教会と政界の現在の関係を語れる存在がいなかったためだ。この男、鈴木エイトとは何者なのか。ノンフィクション作家・本橋信宏が迫る。
※このインタビューは2022年9月に行われたものです。
「最初のころは突撃系ユーチューバーだと思われて、生放送中に放送禁止用語を言うんじゃないかとテレビ局も僕を警戒していたみたいですね」
 今やこの男の顔を見ない日はない。フリージャーナリスト・鈴木エイト(年齢非公開)である。
 ユニークな名前、ジャーナリストとしては異質なファッションに髪型である。
 霊感商法で高額の壺、印鑑、数珠、多宝塔を買わせ、信者からは破産するまで献金させ、裁判沙汰になり、毎年のように初対面の男女を組み合わせた合同結婚式をあげてきた、旧統一教会(現在・世界平和統一家庭連合)。
 気づけば旧統一教会は自民党と政府にまで浸透し、影響力を及ぼしていた。
 破産するまで献金し、家族が崩壊しながらなおも献金を辞めない母。自己犠牲は宗教的法悦感を満たすので、徹底して収奪する。その息子が旧統一教会を糾弾しようと、象徴としての人物を標的にし、結果として安倍晋三元総理射殺事件が起きてしまった。
 列島を今も震撼させる旧統一教会問題を20年近く追いつづけてきた、鈴木エイトとはいったい何者なのか。
「旧統一教会問題を追うきっかけになったのが、2002年6月に日本テレビの『報道特捜プロジェクト』で放送した、北千住での信者による偽装勧誘を見たことでした」
 同番組は架空請求詐欺業者に何度も何度もスタッフが電話する「イマイが行く」コーナーが人気を集め、他にも粘り強いレポートに定評があった。
「番組を見た次の日、渋谷駅改札口に立って、目の前で嘘をついて勧誘しているところに割って入って論破しました。偽装勧誘は何十組もいましたね。手相、意識調査という名目で勧誘してました。彼らを論破するのが楽しかった。仕事が終わり、夕方から終電まで毎日、渋谷駅で、土日は朝から晩まで偽装勧誘の中に割って入りました。そのうち彼ら彼女たちが悪意で勧誘しているわけじゃないと気づきました。彼らにとって、(旧統一教会の)素晴らしい教えがあるから、そこに導くために嘘をついている。カルト団体特有の、本人は正しいと思ってやっているけど、外から見たら詐欺行為であるという、その構造に興味をもって、カルト問題をもっと調べようと思いました」
 旧統一教会が霊感商法や合同結婚式などで世間を騒がせたピークは90年代だった。
 その後、旧統一教会問題を取り上げるメディアは激減していくなか、鈴木エイトは時代の波に逆らうかのように、旧統一教会問題を追っていく。
 活動の舞台になったのは、カルト問題を扱う「やや日刊カルト新聞」(ジャーナリスト藤倉善郎主宰)だった。
旧統一教会にアポなし取材 今から9年前、旧統一教会の名を隠して信者獲得をおこなっているとされるある施設に、鈴木エイトがアポなし取材を試みる動画(やや日刊カルト新聞TV)がある。
   *   「ここは統一教会の施設かどうか確認しにきたんです」
 鈴木エイトとスタッフが突然、統一教会の偽装施設を訪れた。
 今より髪が長く、ジーパンに黒のジャンパー、GLAYTAKUROみたいだ(かっこいい!)。
「こちらは統一教会の施設ですよね」
 女性信者らしき人物が出て来る。
「いえ違います」
「信者さんではないんですか?」
「違います。すいません、どういう内容でやっているのかわかりませんけど、どういう目的で来られてますか?」
「ここが統一教会の施設かどうか調べてるんですが」
「調べてどうするんですか?」
「報道しますよ」
「なんで報道するんですか」
「ここは統一教会ですね」
「違いますけど」
「街頭勧誘しているとき会ったことありましたよね」
「ないですよ。(勧誘は)してませんし」
「ここに誘い込んでますよね。あの女性たちはここが統一教会の施設だと知ってるんですか」
「関心があるかたは、どうぞと言ってます」
「そのとき説明してます?」
「はい、してます」
 鈴木エイト、ここで統一教会広報部に、この施設が統一教会の施設なのか、応対している女性2名が信者かどうか、確認しようと電話を入れる。
「あーもしもし、しんちゃん? エイトです」
 この間も、女性2名とやりとりする。
「松濤の本部行ったことありますか?」と鈴木エイトの質問に女性が答える。
「渋谷に統一教会の本部があるのは知ってますよ」
「あ、知ってるんですね。統一教会の本部が渋谷にあるって知ってる人はあまりいないと思うんだけど」
「そうですか」
 だめ押しで鈴木エイトが「(勧誘するとき)統一教会のことは言ってないですよね」と問うと――。
「説明するときはきちんと説明しますから」
「イマイが行く」に負けず劣らずのしつこい質問に、女性がつい本当のことを漏らしてしまった。
   *   「あのときは突撃ユーチューバーっぽいですね」
 鈴木エイトが笑った。
「偽装勧誘を阻止するとき、“お前ら、やめろ!”って言うやり方は好きじゃなかった。信者とコミュニケーションとって、まず(偽装勧誘を)やめさせて、(信者に)捕まっている人は解放して、信者と話し込むようにしました。コミュニケーションのとれる信者と話し合うと、脱会してから僕に連絡してくれたりするんですよ。そういう人間関係が今に役立っています」
 鈴木エイトの継続的な追及を、旧統一教会が問題視した。
「指名手配されたんです。嫌われてましたね、教会からは」
 幕張メッセでおこなわれた旧統一教会のイベントに潜入しようと髪の毛をオールバックに変装して、交流のある信者からチケットをもらうはずが、警戒されたのかチケットをもらえず、次の手段を考えていたら、たまたま前を歩く信者がチケットを落としたので、拾って会場に入ろうとしたら、バレた。
「変装したのを信者から笑われました。僕からイベント会場の中が見られないように暗幕が張られたり。2011年には、地方から内部告発があって、僕のところに“こんなのが回ってきました”って、指名手配写真が送られてきたんです。僕が写ってる写真なんだけど、不細工なんですよ。“写真があまりにヒドいので差し替えてくれ”って、統一教会の広報に連絡入れて、写真を変えてもらったんです。身長も“185センチ”って書いてあって、実際はそんなにないから、“180センチ”に書き換えてもらいました」
 鈴木エイトのごく近しいところにも、信者がいるという。
 本人はテレビで見るのと同じように、肩に力の入らない、飄々とした好人物である。
「正義というのは人によって違うし、立場によっても違うから、僕から押しつけたことがないんです。自分の中でこれはおかしいな、と感じたことが、(取材・執筆)のモチベーションになっていますね。彼ら(信者)のメンタリティを知って、より深く入っていったら、だんだん政治家との関係が見えてきました。カルト(教団)より政治家のほうがひどい。信者を使うだけ使っておいてポイ捨てですから。カルト団体が搾取している信者をさらに政治家が搾取している。ひどい」
今年前半ライター業はほぼゼロ 滋賀県出身、日本大学経済学部入学、26歳までバンド活動をおこなってきた。
「ボーカルで化粧もしたり、腰まで髪がありました。ニューウェイブ系です。アマチュアでやってきて、それなりに人気が出ましたけどプロにはなれなかった」
 競売物件を入手し、手入れして貸し出すことをやったり、施設設備管理の仕事をして定期収入を得てきた。
「食いっぱぐれはしないですね。ストイックにすべてをかけてやっているというより、気が楽です」
 20年近く、世間もマスコミも忘れかけていた旧統一教会の問題を追いつづけてきたが、経済的にはほとんど見返りがなかったはずだ。
「そうですね。一銭にもならなかったですね。統一教会の施設を訪ねたら、“まずはインターホン鳴らしてから来るのが普通でしょう”と言われて、後からインターホン押しに行ったりして(笑)、カルトいじりをしながら楽しみつつやっていました。ここ10年書いてきて、原稿がまとまったので、いくつかの著名なノンフィクション賞に応募したけど、落ちつづけてきました。雑誌でも宗教ネタ・政治ネタも書けなくなってきて、コアマガジンから声をかけてもらって書いたくらいで、今年になってからライター業はほぼやっていなかった。オファーがないから」
 去年9月、安倍晋三元総理大臣がビデオメッセージを旧統一教会向けに送った。
「一部メディアで取り上げられたけど、大手は一切取り上げなかったです。あのビデオも1日限りで、あとは表に出すなという条件でした。それ以前も安倍元総理と教会との関係の裏はとれていたけど、いざとなったら安倍は言い逃れができる。でもビデオメッセージで安倍と教会が結びついたので、僕としてかなり衝撃だったんです。安倍元総理は弁護士団体からの抗議文は受け取らないから、教会との関係をおおっぴらにしたわけではない。でもその日だけとはいえネットでビデオメッセージは広がりました。それでも自分と政治生命、選挙、自民党にはなんでもないとたかをくくっていたはずです。これを報じたのは、赤旗・週刊ポスト・FRIDAY、それにこの実話BUNKA超タブー、4誌だけでしたから、安倍さんの見立ては正しかった。でも政治生命には影響なかったが、自分の命自体が奪われてしまった皮肉な結果になりました」
安倍元首相銃撃後の生活の変化 銃撃事件がおきたとき、鈴木ファミリーは夏休みでホテルにいた。
 当初報道は、旧統一教会の名称を一切出さなかったが――。
「事件の一報を聞いたとき、政治がらみ、イデオロギーがらみ、暴力団がらみというのが動機だろうという報道でした。自分が今まで書いてきたことも日の目をみることはないと思ったんですが」
 途中から旧統一教会の名前が出てくると、地道に追ってきた鈴木エイトに注目が集まった。
「安倍さんの事件と統一教会をきっちり書けるのは僕しかいない」
 旧統一教会の韓鶴子総裁を「マザームーン!」と何度も絶叫する山本朋広自民党議員。
「井上先生はもうすでに信徒となりました。私も大好きになりました」と持ち上げられ、会場から「井上義行コール」が沸き起る自民党議員。文鮮明を「真の御父様」と呼ぶ統一教会の信者たちの前で講演をおこないながら、なかなか深い関係を認めようとしなかった萩生田光一自民党政調会長。元自衛官で「戦場を知る政治家」ヒゲの隊長こと佐藤正久自民党議員が防衛問題を発言しながら、親族に旧統一教会信者がいたこと。
 自民党というのは日頃の言説とは違い、霊感商法で日本からカネを吸い上げ、合同結婚式で日本から若い女性を吸い上げる、朝鮮半島由来の反日カルト教団に極めて甘い政党だということがさらけ出された。
「メディア側も長い間、旧統一教会問題を取り上げてこなかったことに忸怩たる思いをもっている人が多いです。今はチームJAPAN的にみんなで疑惑を追っていこうというところにジャーナリズムを感じます。特に地方局ががんばっている。僕が追い切れなかった関係性を地方局がつなげてくれたり、僕が行けなかったことを大手メディアが総出でやってくれてる。ネタを独占するつもりはない。まだ埋まってなかったピースをどんどんみんなが埋めてくれてる」
 露出が増えたことで、変化があった。
「テレビによく出ていることに、子どもはピンときてないみたいです。スーパーマーケットで半額シールの買い物してたら、後ろに並んでいたおじさんに“エイトさんですよね。こんなところに住んでるんだ”って声をかけられて、恥ずかしかった」
──何の損得も考えず、コツコツやってきたエイトさんに光が当たることは、まだ世の中見捨てたもんじゃないと思いました。毎回テレビに出るたびに、エイトさんファンのかみさんが、ダンディファッションがグレードアップしていくことを喜んでいます。
「ありがたいです。そうやっていじってもらえるのは(笑)。妻が色々コーディネイトしてくれて、ローテーションで着ています」
 数字に関する名前を使っていたために、ペンネームが“エイト”になった。
「癖っ毛なんですよ」と地毛を引っ張ってみせる。
 巷では最近、鈴木エイト・ヅラ説が流れているらしいが、本人はとぼけた顔で言った。
「1回、番組で髪をズラしてみたらウケるかな」
 先日発売された『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』(小学館)は、今までの鈴木エイトの地道な取材が実を結んだ労作である。
[初出:実話BUNKA超タブー2022年11月号]
「実話BUNKA超タブー」は隔月偶数月2日発売です。コンビニ・書店・ネット書店でお求めいただけるほか、発売半月後には電子書籍としても販売。一部読み放題サービスなどでもお読みいただけます。
PROFILE:
鈴木エイト(すずき・えいと)
滋賀県生まれ。2009年創刊のニュースサイト『やや日刊カルト新聞』で副代表~主筆を歴任。旧統一教会問題を中心に、カルトや宗教の2世問題や反ワクチン問題を取材し続けてきた。共著に『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩選書)、9月26日に『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』(小学館)を上梓。
本橋信宏(もとはし・のぶひろ)
1956年埼玉県生まれ。ノンフィクション作家。著書『全裸監督 村西とおる伝』がネットフリックスで2回に渡りドラマ化、全世界公開し大ヒットを記録。『出禁の男 テリー伊藤伝』(イースト・プレス)『新・AV時代 全裸監督後の世界』(文春文庫)など著書多数。
鈴木エイト氏著書:『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』(小学館) 第二次安倍政権以降の自民党と旧統一教会の関係を唯一追い続けてきた、鈴木氏の9年間に渡る取材の記録が一冊になり緊急刊行。安倍元総理と旧統一教会が実際のところどういう関係にあったのか、誰も踏み込めていない謎を鈴木氏が明かしていく。鈴木氏曰く「自分で読んでいてもかなり面白い」とのことで必読!
https://books.rakuten.co.jp/rb/17262228/

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