【牧野由依 インタビュー】
音楽でファンのみなさんと
またつながれる作品を作りたい
「世界でいちばん愛しい音」は
子供の鼓動のイメージ
そして、ラストの「世界でいちばん愛しい音」は牧野さんご自身が作曲を担当していますが、やはりご出産を経験されたことで生まれた楽曲なのでしょうか?
出産する前から何曲か書いていたんですけど、“出産後に書くとまた違った曲ができるかもよ”というディレクターさんの助言もあって。出産後、子供を抱っこしてあやしながら鼻歌で歌ったりなどして作っていきました。あとから自分で聴いてみて、確かにそれ以前に作ったものとは変わったと思いますね。明るくなったというか、やさしくなれたというか。そういう雰囲気が、この曲にはあるかなって。
作詞を映画監督の岩井俊二さんにお願いした理由というのは?
岩井監督は私が8歳の時からずっとお世話になっていて、今の事務所に入ったのも岩井さんからのご紹介ですし、私の人生に寄り添ってくださっていて。ある意味で父親的な存在というか、ずっと成長を見てくださっている方なんです。自分が命をつなぐという経験をした時、小さい時から見てきてくださった岩井さんの世界観で歌ってみたいと思ったんですね。それで、子供を産んで命がつながっていく不思議だったり、そういうことを感じたというお話を岩井さんにさせていただいたら、こういう歌詞を書いてくださいました。それを読んで“こう歌いたい”と新たなインスピレーションが湧いたのもあって、レコーディングの前々日に急遽メロディを一部変更したりということもありましたね。
“世界でいちばん愛しい音”というタイトルは牧野さんが考えられたそうですね。その音とは歌詞に出てくる《天使の 小さな 寝息》のことですか?
イメージは鼓動だったんですよ。あまり説明するのもあれですけど、音源をよく聴くとちょっと鼓動っぽい音が聴こえると思います。妊娠中、子供の存在をちゃんと確認できるのがエコー検査での心音だったんです。“あぁ、本当にいるんだな”と思って。でも、検診って月に一回なので、それまでの間はちゃんと生きていてくれているか、本当に不安でしょうがないんですよ。そんな時に主人と話していて、“こんなに人の心音にフィーチャーした経験って今までの人生でなかったよね”と。
なので、その心音が“世界でいちばん愛しい音”だと。あと、岩井俊二監督の映画や脚本は必ず暗い部分や現実を突きつける部分があるというイメージで、この曲の歌詞にも《あきらめたばかりの空を》という暗さを感じさせるフレーズがあって。
恵まれた状況で出産できる人ばかりではないということですね。お子さんを身ごもりながら大変な暮らしをしている人もいらっしゃるし、いろんな時間を過ごしていらっしゃる方がいる。子供が生まれてハッピーというだけじゃなく、そういう影を落とす部分にもスポットライトを当てているのが岩井さんらしいです。
小さな希望にあふれていて、《いつか》という言葉に未来を感じます。
そうですね。最後に《どんな夢を見ているんだろう/どんな夢を叶えるんだろう》という歌詞があるんですけど、それはまさに私も日々思っていることです。
やはりレコーディングでは我が子を思いながら歌ったのですか?
子供が生まれた時、残せるものは何かすごく考えましたが、あくまでも人に聴いてもらうものなので、自分の経験が表現の幅のひとつになればいいなと思いながら歌いました。この曲も含めて、本当にいろいろなものがつながっていると感じていただけるアルバムになったんじゃないかなぁと思います。
あと、初回限定盤AのBlu-ray DiscにはDolby Atmos(立体音響)のMVとアルバム音源を収録されているということで。
映画ではよく聞きますけど、それが私の曲でどういうふうになるのかは、実際に聴くまでなかなか想像ができなかったです。聴かせていただくと、本当に音が動き回るんですよ! 左から右にとか。「世界でいちばん愛しい音」の最後で私が鼻歌を歌ってコーラスが入っていて、そこは“音の玉が上に飛ぶような感じにしたい”というリクエストを出させていただいたら、まさに飛んでいて! 音が動くということが新鮮でした。「幸せのメロディ」はバンドサウンドですけど、自分を中心にバンドの方が周りを取り囲んでいて、一緒に演奏しているような気持ちになれる楽しさがありますよ。左にギターがいて、後ろにはドラムがいて、音の方を向くとプレイヤーの方と目が合うような気がするくらい臨場感があります!
初回限定盤Bにはフォトブックが付くとのことですが、ジャケットやアー写も含めて撮影はいかがでしたか?
ジャケット写真とアーティスト写真は群馬県立ぐんま天文台で撮影していて、通常盤で私の後ろに映っているのは日時計です。朝焼けの空を狙うために前日の深夜に出発して、暗いうちからメイクを始めて準備しました。そして、フォトブックですが、これは群馬にあるロックハート城で撮影していて、ジャケやアー写とは違う雰囲気を楽しんでいただけます。オフショットっぽい写真が多く、ジャケットなどでは見せていない柔らかい表情を楽しんでいただけると思います。
そして、11月13日にはビルボードライブ横浜で『牧野由依 Billboard Live2022 〜あなたとわたしを繋ぐもの〜』が開催されますが、どんなライヴにしたいですか?
ビルボードは2019年にWEAVERのライヴで朗読をさせていただいた時に、大阪と東京で立たせていただいたんですけど、ソロでは初めてで。すごく大人の上質な空間を提供する会場というイメージがあって、そこでライヴを行なうことに憧れていたから、すごく嬉しいです。ピアノが弾ける会場ということでもあるのでピアノの弾き語りも入れつつ、今までやってきたライヴとはまた少し違った雰囲気になるんじゃないかと思っています。ぜひ楽しみにしていてほしいですね。
取材:榑林史章