勘九郎×七之助『平成中村座』合同取
材会レポート~宮藤官九郎書き下ろし
の新作歌舞伎は「まともな役の人があ
まり出てこない」!?

十八世中村勘三郎は、「江戸時代の芝居小屋を現代に復活させ、多くの方々に歌舞伎を楽しんでいただきたい」との思いから、2000年に平成中村座を立ち上げた。2012年に勘三郎は旅立ったが、その夢は中村勘九郎と中村七之助へと受け継がれ、平成中村座の公演は続き、2022年10月5日(水)、平成中村座の2ヶ月連続公演がはじまる。両月とも、第二部では宮藤官九郎が書き下ろす新作歌舞伎『唐茄子屋 不思議国之若旦那(とうなすや ふしぎのくにのわかだんな)』が上演される。新作の印象や、この公演への思いを、勘九郎と七之助が合同取材で語った。
■浅草で、2ヶ月連続ロングラン公演
平成中村座が浅草寺境内で開催されるのは、コロナ禍を経て4年ぶりとなる。『平成中村座 十月大歌舞伎』は10月5日から、『平成中村座十一月大歌舞伎』は11月3日からの公演。
勘九郎「平成中村座が復活できることを、夢に見てきました。10月と11月にやらせていただけることに、感謝しています。しかも宮藤官九郎さんが新作歌舞伎を書き下ろしてくださいます。その喜びも大きいです。先ほどうかがったのですが、江戸時代の中村座は、天保13年10月5日にはじまったそうです。今回は10月5日初日です。ご縁を感じます。偶然が重なり、神様も味方をしてくれておりますので、良い公演にしたいです」
七之助「第二部では、宮藤官九郎さんによる新作歌舞伎を上演します。平成中村座で新作が行われるのは初めてのこと。それは大きなことですが、第一部では、見取り(みどり)狂言にこだわった父の遺志を継いで演目を決めました。若手も私達も、一生懸命やらせていただきます。ぜひ浅草へ足をお運びください」
■宮藤官九郎の新作歌舞伎『唐茄子屋』
コクーン歌舞伎『天日坊』、歌舞伎座さよなら公演での『大江戸りびんぐでっど』、勘九郎が主演したNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』や七之助が主演した映画『真夜中の弥次さん喜多さん』など、歌舞伎ファンにも馴染みのある話題作を、数々手がけてきた宮藤官九郎。新作『唐茄子屋』は、古典落語の『唐茄子屋政談』をベースにした物語となる。台本を読んだ印象を問われると、2人は、思い出し笑いをこらえるかのように語った。
勘九郎「相当、面白いです。『唐茄子屋政談』だけでなく、色々な古典落語が入っています。また『不思議国之若旦那』とあります通り、『不思議の国のアリス』の要素も出てきます。これを、どうやるんだろうかと悩む作品は、相当面白いものです。これからの稽古がすごく楽しみです」
勘九郎は、主人公の若旦那・徳三郎を勤める。七之助は、傾城桜坂とお仲の2役。
七之助「若旦那は、どうしようもない男です。その男が、改心するわけでもなく、どんどん物語が進んでいって……。若旦那役の兄は、出ずっぱりです。主人公がここまで出ずっぱりの歌舞伎も、なかなかないように思います。舞台上にいない時間が、1分くらい?」
勘九郎 「1分あるかないか……大変です!」
七之助 「そして僕は、変わっている役と、まともな人間の2役。まともな人間があまり出てこない作品です。稽古が楽しみです」
勘九郎の長男・勘太郎は若旦那(小)役、次男・長三郎はお仲倅イチ役で配役に名を連ねている。
勘九郎 「勘太郎は、ミニ若旦那ですね。ミニ若旦那とは……何を言ってもネタバレになってしまうので、詳しくお話できないのですが、2人も台本を嬉々として読んでいます!」
宮藤が、オリジナルの新作歌舞伎を書き下ろすのは、『大江戸りびんぐでっど』以来となる。演出家としての宮藤に期待することはあるのだろうか。
勘九郎「すべてです! 宮藤さんが、楽しんで臨んでくださってるようで、それが一番嬉しいです」
上演時間は、1時間半程度を目指しているという。
勘九郎「コンパクトに凝縮されたエンターテインメント作品になるでしょうね。世話物ですが、踊りも入ります。見せていただいた美術プランも、素晴らしい。劇中の音楽は、すべて歌舞伎音楽で演奏されるそうで、目にも耳にも、楽しんでいただける作品になるのではないでしょうか」
8月、台本の読み合わせがあった。
勘九郎 「リモートで、本読みをしました。その時、宮藤さんが獅童さんに、『今の台詞を、3倍速く読んでもらえますか』と注文されたんです。獅童さんが、大汗をかきながら3倍速で読んでみたら、ものすごく面白くなったんです。宮藤さんの演出、こういうことだよなって思いました」
七之助 「あとは宮藤さんの演出に、歌舞伎役者が、ついていけるかどうかでしょうね(笑)。『大江戸りびんぐでっど』の時も、宮藤さんは『こういう心情で』などの演出はされませんでした。僕たちの好きなようにやらせてくれて、そこから『ここは、こういう風に』と伝えてくれる。自分がやるべきことをやれば、宮藤さんが何か言ってくれるはず。そのためにも、まずは僕たちが一生懸命やらなくてはいけません」
■古典の名作も見逃せない10月の平成中村座
『唐茄子屋』は、キャストを一部変更し、10月と11月の2か月、連続で上演される。その他の演目も見逃せない。10月の第一部では、『双蝶々曲輪日記 角力場』を勘九郎の濡髪長五郎、中村虎之介の放駒長吉で上演する。山崎屋与五郎に坂東新悟、藤屋吾妻に中村七之助という配役。
勘九郎 「7月、大阪松竹座でご一緒していた松本幸四郎さん、中村壱太郎くん、中村虎之介くんと話していた時に、決めました。若手の虎之介くんにもチャンスとなるような演目を、と考えていたところ、たしか壱太郎くんが『角力場』はどうかと。あ、いいんじゃない? じゃあ、幸四郎さんに習って? はい、分かりました……と(笑)。縁というのでしょうか、そういうものも大事なんです。 2011年に平成中村座でやらせていただいた時は、私は与五郎と長吉の2役を播磨屋のおじさま(中村吉右衛門)に習いました。平成中村座での舞台稽古も見にきてくださり、丁寧に教えていただいた思い出深い演目です。今回は濡髪をやらせていただけることも嬉しいですね」
第一部では、『幡随長兵衛(ばんずいちょうべえ) 公平法問諍(きんぴらほうもんあらそい)』も上演される。獅童の幡随院長兵衛、勘九郎の水野十郎左衛門。
勘九郎「獅童さんが『いつかやりたい』とおっしゃっていた演目です。(獅童の息子)陽喜くんと一緒にどうですか、とお話ししました。通常の公演では、水野と近藤(片岡亀蔵)が舞台の下手(黒御簾の上)から劇中劇の芝居を見おろしますが、平成中村座でやった時は、(客席後方2階の特別席)お大尽席に登場しました。江戸時代にタイムスリップしたような感覚になったことを覚えています。今回もその演出ができれば。10月の第二部は、序幕に『綾の鼓』を、扇雀さん、虎之介くん、鶴松で。こちらは、扇雀さんがかねてより『やりたい』とおっしゃっていた演目です」
■若手がさらに活躍、11月の平成中村座
11月は、古典の演目と、2ヶ月目突入の『唐茄子屋』が上演される。
七之助 「第一部では、序幕に若手の皆で『寿曽我対面』をやっていただきます。中幕では、私が踊りをやらせていただきます。『舞妓の花宴(しらびょうしのはなのえん、男舞)』が、いいのではないかと。厳かにはじまり、色々な衣裳でお見せして、華やかに終わります。お客様に、スカッとした気持ちになっていただけたら、と選びました」
第一部の三幕目は、勘九郎が宗五郎を勤める『魚屋宗五郎』。
勘九郎 「父がいなくなり、最初の平成中村座(2015年)で、音羽屋のおじさま(尾上菊五郎)に教わった作品です。女房おはまは、扇雀さんに初役でやっていただきます。とても好きな演目であり、とても良い作品です。楽しみにしています」
第二部は、序幕に『唐茄子屋』、結びに『乗合船恵方萬歳』が上演される。
勘九郎「『乗合船』は、毎回松竹さんにすすめられるんです。僕は『いやだいやだ』とお断りしてるのですが、プロデューサーに、『いつも、いやだいやだとおっしゃるので、実はまだ1回もやってないんです』と言われました。あ、そうだったんですねっていうことで(笑)。歌舞伎座よりもコンパクトな舞台に、七福神がぎゅうぎゅうに船に乗って華やかに登場します」
会場は、浅草寺のすぐ裏手に設営される。『唐茄子屋』のモチーフの『唐茄子屋政談』は、浅草界隈から隅田川にかかる吾妻橋の辺りが舞台だ。
勘九郎「浅草という町には、10代の頃から、浅草公会堂でお世話になっています。町ぐるみで、いつも応援してきてくれました。コロナ禍で観光客が離れ、今は徐々に人が戻りつつあるようですが、平成中村座を浅草でやらせていただくことが町の活性化につながり、また、浅草でやることが活きる作品になればいいですね」
■平成中村座だからできること
下の世代にも目を行き届かせるキャスティングに、どの様な意図があるのだろうか。
勘九郎「父は、平成中村座の時、若手が大きな役に挑戦する場として、試演会を行っていました。みんな役者ですから、色んな役をやりたい気持ちは、持ち続けているもの。私たちも、父や先輩方のおかげで、若いころに良い役、色んな演目をやらせていただきました。その御恩があり、お返ししたい気持ちもあります。いくら稽古をしていたって、活躍の場がなければダメなんです」
そういった活躍の場が、コロナ禍の影響で、数多く消えてしまった。
七之助 「大きな役に挑戦し、乗り越え、育っていかなくてはいけない時期に、舞台に立てず、芝居を観ることもできない。きつい状況の役者が本当に多かったと思います。今は、歌舞伎座も緩和してきた部分があり、先月の新作『新選組』では、中村福之助と中村歌之助が歌舞伎座で主役を勤めました。稽古では、坂東彌十郎さんが、『あの2人が主役をやっていると……』って、涙もろいおじいちゃんみたいに、泣いていました(笑)。でも、その気持ちは、僕らも同じです。僕らもまだ若手ではありますが、さらに若い世代にも活躍してほしい。彼らにはその実力があります。『角力場』の虎之介くんには、どんどん出て行ってね、という気持ちです」
平成中村座には、花道もあり、廻り舞台も独特の空気がある。
勘九郎「やれることは、歌舞伎座と変わりません。父の"古典の見取り狂言を"という思いを受け継ぎながら、今回は、そこではじめて新作をかけます」
七之助 「歌舞伎座は、僕らにとってもお客様にも、重厚で、良い緊張感のある素敵な空間です。平成中村座は、いい意味で緊張感がありません。お客様は"見る"というより"参加する"感覚で、楽しもうとお越しくださいます。そして、しばらくぶりに建てられた平成中村座の中に入ると、倉庫に眠っていたはずなのに、ふしぎと平成中村座の匂いがするんです。役者、スタッフ、全てのお客様が、楽しもう、楽しませようと作り上げてきたものが、しみ込んでいるのでしょうね。初めて平成中村座に足を踏み入れた方も、その空気は感じてくださると思います。それが、平成中村座マジックなんじゃないかなと思います」
取材・文・撮影=塚田史香

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