PLAY/GROUND Creation #3『The Prid
e』〜陽月華×福田麻由子「知ってい
るフリをしていた知識をアップデート
して、自分の言葉で語りたい」

PLAY/GROUND Creation #3『The Pride』が、2022年7月24日(日)〜7月31日(日)、赤坂RED/THEATERで上演される。本作はイギリスで活躍する劇作家アレクシ・ケイ・キャンベルのデビュー作。日本ではTPTで初演されている。1958年と2008年のロンドンを舞台に、二人のゲイ、オリヴァーとフィリップ、そして二人と深い関わりを持つ女性シルヴィアの物語。それぞれの時代を生きる人間たちは、同じ名前を持つ別人だけれど、物語の進行とともに時代を超えて精神が共鳴し合い、やがて二つの時代が溶け合っていく。そしてヒリヒリとするやりとりの先に、人間の尊厳と愛が浮かび上がってくる。稽古開始から10日ほどを経て、シルヴィアを演じるside-Aの陽月華、side-Bの福田麻由子に対談をしてもらった。
――お二人は、演じることへの興味はいつごろからお持ちだったんですか?
陽月 私のキャリアは宝塚歌劇団からスタートしています。宝塚と出会うきっかけは叔父叔母夫婦が好きだったからですけど、新聞を見ていても「宝」と「塚」の文字が浮かんでくるぐらいハマって。演劇はジャンルを問わず大好きです。創作の世界は、たとえば線を引いて、ここから先は宇宙だと言えば宇宙になる、その自由な世界観が好きなんです。
福田 私は子役のころから映像を中心にお仕事をしてきました。初舞台は小学校時代のキャラメルボックスさん(『雨と夢のあとに』)。20代でちょこちょこ舞台にも触れるようになりましたが、自分の未熟さを知るばかりで、私にとっては怖さとチャレンジの場所でした。
――『The Pride』の戯曲をご覧になっていかがでしたか?
陽月 私は映像のご縁が続いていて、舞台から遠ざかっていたから非常に舞台に飢えていたんです。オファーをいただいたこと自体がうれしかった。そして「こういうのをやってみたかった」という作品でもありました。誰しも「人間とは、自分とは何だろう」ということを考えますよね。そのときに世界で起きている問題について知らないこと、また、わかったフリをしてしまっていることが多くて、その一つがジェンダーのことだったりする。この作品は、そのことにしっかり向き合う時間にもなると思ったし、とにかく興味深い題材だと思いましたね。
陽月華 撮影:保坂萌
福田 私も演劇のお話をいただくことは少ないので、とにかくうれしくて。去年、新国立劇場の「こつこつプロジェクト」で初めて海外戯曲に触れたころ、この作品にお声がけいただきました。まさに「こういう作品をやってみたかった」と言えるくらい、チャレンジしたいことが詰まっている作品でしたので、すぐにやりたいと思いました。一方で、初めてのこともたくさんあって、果たして私はどこまでたどり着けるのだろうかという思いもありました。そして陽月華さんと同じ役をやるってどういうこと?って(笑)。そのプレッシャーもありましたけど、同じ役を同じ稽古場で同じ時間にほかの方がやっているところを見られる、一緒に役をつくり上げていけるなんて滅多にないことですよね。もちろん同じ舞台には立たないけど、すごく心強いです。日常的に、なぜみんながありのままに生きられないんだろうということを思っていた時期だったので、自分の中ですごくタイムリーでした。
陽月 最初テーブル稽古を1週間くらいやって、セリフの解釈もですが、ゲイの方々が歩んできた歴史などをみんなで共有したんです。知っていたつもりだったことも、それは古い知識、知識とも言えないような触りぐらいだったことにショックを受けました。これはアップグレードするべきだと。戦ってきた歴史をすっ飛ばして、わかったフリをするのは、すごく失礼なことだと気がついたんです。この作品のおかげで意識が改革されてきています。
――シルヴィア役について、今はどんなふうに考えていらっしゃいますか?
福田 正直まだつかめてないなぁ。シルヴィアも精神的に不安定なところがあったり、LGBTQではないけれど社会に生きづらさを感じている。ゲイの方々を取り巻く環境について1958年当時でも一般よりも理解し、意識が高い女性だと思うんです。ただその理解をどこまでにするか悩んでいて。現代に生きる私だって勉強してもわからないことはあるし、ましてや1958年はいくら理解があっても、ゲイの方々がどんな困難を抱えているかとか、表面に出ていないことの方が多かったでしょう。またそのころの社会の常識が彼女にも刷り込まれているかもしれない。だから安易に理解がある人、にはしたくなくて。
福田麻由子 撮影:保坂萌
陽月 (演出の井上)裕朗さんから初見を大事にしてほしいというオーダーをいただいて。私の中ではそのときと今の感覚はあまりずれてなくて。シルヴィアはとにかく優しい人なんですよ。戯曲を読んでいるうちに涙が出てくるぐらい優しい。そこを大事にしながらも、麻由ちゃんが言ったように、彼女が生きている時代が与える影響もちゃんと捉えて考えていかなければいけないと思ってます。
――この作品は1958年と2008年の様子が交互に描かれます。登場人物の名前は同じですが、2008年はまったく違う人物によって物語が進みます。2008年のシルヴィアについてはどんな印象ですか。
福田 言葉はくだけているけど、ちゃんとした女性。
陽月 たぶん周りもそういう言葉遣いなんだよね。私たちもまだ二つの時代がどうリンクしてくるかわからない、でもそこがこの戯曲の面白さかも。逆にお客様が俳優が同じ役をやっていることで何かリンクするところがあるはずだと伏線回収的にご覧になるかもしれないけど、私はお客様各々が何かつかんで三つ編みしてくれればいいと思っていて。どう受け取っても、それが正解だと思うんです。単純に一人の俳優の違うタイプの芝居が見られて面白いって思っていただくだけでもいいのかな。
福田 1958年と2008年では、もちろん違う人物ではあるんですけど、同じ魂みたいなものがあるとして、その魂はどの時代に生まれたかによって人物像がすごく変わる。それは社会が違うからで、もしかしたらただそれだけのことなのかもしれない。その人の個性は絶対ある。でも時代が違ったり、国が違ったり、ほかの要素も含めて背負って生きているから、個性が違って色づけされていくんでしょうね。
陽月 そうだね、私が戦前、戦争中に生まれたら同じ人間ではないかもしれない。
福田 日本も一見平和だから、同性婚のこともそうですけど、個人の問題、せいぜい家庭の問題といった具合に矮小化されがち。でもそれじゃあ済まないことがいっぱいあると思うんです。私はこの戯曲を読み解く中で、もっと歴史を勉強しようって本当に思いました。過去からこんなにも影響を受けているんだっていうことがいっぱいあるんですよ。
福田麻由子 撮影:保坂萌
――同じ役を演じることはいかがですか? お二人が並んでいると歳の離れた姉妹というか、親子というか、同じ役をやられることがイメージできないところもあって。
福田 私たち溶け合っていますよね。少なくとも私はようこちゃん(陽月)にすごく影響を受けていて、真似しているわけじゃないけど、ようこちゃんのシルヴィアがあったからこそ生まれる何かが確実にある。
陽月 麻由ちゃん、すごい繊細でしょ。感性がすごく研ぎ澄まされてる人だから、私はごめんなさい、こんな雑な人間でと思っちゃう。私も自分にない視点や声の感覚とか麻由ちゃんからたくさんもらっているし、麻由ちゃんの演じるままのシルヴィアからすごく影響を受けている。
福田 始まる前は、Aチーム、Bチームとあるから、「私はBチームに出ます」みたいな言い方をするのかなと思ったけれど、全然そんな気持ちにならなくて、稽古がこれからチームごとに分かれたときにすごく寂しくなると思う。
陽月 とはいえ同じ作品をやっているのにまったく別の作品なんだよね。裕朗さんから同じ課題を投げかけられて、AB交互に稽古しているんだけど、色が違ったり、その人が見えているものが違ったりしていてすごい面白い。
福田 面白いですよね。年齢差だけじゃない。人と人とが関わって、でも人が違うからこそ生まれてくるものも違う。そして絶対にABお互いが影響し合っている。
陽月 裕朗さんが稽古場で最初の1週間すごく力を入れていたことは、お互いを知ることだったんです。私もいい格好したいし、寡黙な女に憧れているから、
福田 なんでですかー(笑)。
陽月 私は寡黙な人間でいたいの、そしてやることやってサッと帰りたい! だけどそれを許さない現場なんです。まずお互いを知るために、すごい雑談をしたんです。そしたら、みんなおしゃべりで、いろいろな話題をする中で「この人たちの感覚好きだな」って思って。そこから、ここで自分がどうありたいからと言って壁をつくることは得策じゃないと思い、あえてリミッターを外したんです。そうすると役を演じていても、出てくるのは自分の特色なんですよね。チームごとの特色はまだわからない。でもきっと稽古が進んで、自分たちも流れを把握したらもっと特色が出てくると思うんです。
陽月華 撮影:保坂萌
福田 本当に両方を見てほしいとしか言えないんです。
陽月 もちろん。私は友達にせっかくだから別のチームも見て、自分の答えをあぶり出してほしいと言ってます。
福田 私は同世代の人とか若い人に見てほしい。「今の生き方は、本当に自分で決めた生き方なの?」って私が自分に問いかけていた時期でもあったから、すごくこの戯曲が刺さって。『The Pride』はゲイの話ですけど、性的マイノリティの方々がどれだけいろいろなものに傷つけられているかという視点では、そういうものを見過ごしてきた大人にも見てほしい。だからみんなに見てほしい!
陽月 私も含め、特に日本では、性という言葉が性欲とかエロスと直結しがちじゃないですか。どこかタブー視されてきた。でもそうじゃない。性そのものはその人の個性をつくり上げる要素の一つだから、タブー視してはいけない。この物語から気づく人もいるんじゃないかなと思うと、全世代に見てもらいたいですね。
福田 私も理屈では「同性婚の何がいけないの、いいじゃん」と思っていましたけど、それを実際に発信するための自分の知識、言葉のなさを痛感したんです。今まさに稽古しながら勉強している。戯曲に書かれたセリフはもちろん自分の言葉ではないけれど、そこに甘えず、自分の想いとして訴えていける言葉を身につけたいと思っています。
――いやぁ、大変な戯曲ですよね。
陽月 そうなんですよ。
福田 いろいろ言いましたけど、社会性と普遍性とエンタメが一緒になった作品なので、単純に楽しんでください。
陽月 うん、うまいこと言った!
陽月華(左)と福田麻由子 撮影:保坂萌
取材・文:いまいこういち

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