ユルさとアツさで独自の進化 清純派
ヒップホップアイドルグループlyric
al schoolはブレイクするか?

(参考:伊藤博文は明治時代のトップヲタだった!? 快著『幻の近代アイドル史』を栗原裕一郎が読み解く)

・女子大生風のユルいラップと今風の高品質なトラックの組み合わせ

 結成は今から4年前の2010年8月。美大生を中心とする集団「NEWTRAL」によるプロデュースプロジェクトとして発進したのが始まりだった。NEWTRALの企画、構成を行っていたのはキムヤスヒロ。「『国際青少年映像キャンプDINFAC2006』日本代表」「第1回映画甲子園最優秀作品賞獲得」「デジタルスタジアム出演」といった経歴を持つ彼は、当初から現在に至るまで、同グループのプロデュースを行っている。TENGAをスポンサーに迎えたことで、つけられたグループ名はtengal6。わざわざ「"清純派"ヒップホップアイドルユニット」を肩書きとしたのは、このTENGAのイメージを逆手に取った戦略だったと見ていいだろう。また、メンバー募集の際のテキストには「ポップなヒップホップのトラックに、ヘタウマな女の子のラップが乗ることによって、あどけないかわいさが生まれればと思っています」とあり、実際初期のグループの魅力は、女子大生的なユルいラップと今風の高品質なトラックの組み合わせの妙、にあった。大学生たちが仲間たちと遊びの中で作っている、というモラトリアム感が心地良かった。ももクロのブレイクにより「少女たちが全力で歌い踊る」というスタイルがアイドルシーンの中で流行するのはもう少し後のこと。それとは既に差別化できていた、という点で見れば、少し早過ぎる登場だったのかもしれない。

 2012年5月には、tofubeats、元ズットズレテルズ・呂布、WEEKEND・泉水マサチェリー、餓鬼レンジャーポチョムキンokadada、Fragmentらが参加した傑作アルバム『CITY』をリリース。これを最後にtengal6からlyrical schoolに改名することになる。

・"ユルさ"にアイドルらしい"アツさ"さを加えた、独特の進化

 2012年6月、改名と同時に発表されたのは、タワーレコードのアイドル専門レーベル「T-Palette Records」に参加すること。ここからリリスクのパフォーマンスは、元々の魅力である「ユルさ」を残しつつも、そこにアイドルらしさを加えた、独特の進化を遂げて行く。それはtengal時代にはむしろ避けられているかに見えた、前述の今日的なアイドルらしいアツさであり、全力感を取り入れて行くことだった。そのことを最も象徴した出来事は、2012年8月に開催された「TOKYO IDOL FESTIVAL2012」でのストリートラップだろう。思わぬアクシデントで出演するステージがなくなった彼女たちは、TIFの無料スペースをファンとともに練り歩き、ハンドクラップをしつつ持ち曲を披露。ピースフルな雰囲気がありつつも、ステージに出られない悔しさやアツさを感じさせる、リリスクらしいパフォーマンスだったといえる。

 モラトリウム期を終えたリリスクは、メンバーの脱退、増員を繰り返しながら、シングルを定期的にリリースし、その度に規模を拡大させた来た。中心にいるのはプロデューサーのキムヤスヒロであり、マネージャー兼多数のリリスク曲の作詞を手掛ける岩淵竜也。高校の同級生だった彼らが舵を取り、tofubeatsをはじめ、イルリメNATSUMENの・AxSxE、KICK THE CAN CREWのLITTLE、RomancrewのALI-KICKなど、多彩なアーティストと絡みつつ、振り幅を広げて行った。

BABYMETALでんぱ組.incBiS…lyrical schoolが目指す先

 「何が王道のアイドルとするか」は意見の分かれるところだが、仮に既に国民的な認知度の高いAKBやハロプロを王道のグループアイドルとするなら、ももクロはそれら王道アイドルがやらないことをあえてやる「非王道スタイル」を貫くことで他との差別化をはかり、ブレイクを果たした。だが、ももクロがブレイクした後は、その非王道スタイルも王道スタイルの1つの形態となったといえる。それらのグループのブレイクはアイドル市場拡大の呼び水となり、多様性を促進させた。「アイドルとメタルの融合」を掲げるBABYMETAL、電波ソングを主軸としたでんぱ組.inc、アイドルカルチャーに対するメタ的な視点から活動を展開して来たBiS…。清純派ヒップホップアイドル・lyrical schoolがそこへ続くかどうか、今後に注目して欲しい。(岡島紳士)

リアルサウンド

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