『バンクシーって誰?展』5m級の壁画
が梅田に上陸、原寸大で街並みごと再
現ーー「カッコ良さの裏に隠れた意味
合いを考えるキッカケに」

バンクシーって誰?展 2022.4.23(SAT)〜6.12(SUN) グランフロント大阪
4月23日(土)、グランフロント大阪北館 ナレッジキャピタル イベントラボにて、『バンクシーって誰?展』が開幕した。同展覧会は、世界各都市を巡回して人気を博した、バンクシー最大のエキシビション『ジ・アート・オブ・バンクシー展』を「没入型展示」という日本オリジナルの切り口で紹介するもの。今回は大阪会場の様子をお届けするとともに、同展の落合ギャラン 健造プロデューサー(日本テレビ)の解説をもとにピックアップした作品を、限定コラボカフェなどの情報と併せて紹介する。
車の音、道端のゴミ箱や雑草まで、海外の街並みをリアルに再現
世界各地のストリートに神出鬼没に現れ、ステンシルの技法を用いたグラフィティアートで表現を続ける覆面アーティスト、バンクシー。2018年、代表作「風船と少女」がサザビーズのオークションで落札された瞬間に、額に仕込まれたシュレッダーが動作し作品を切り刻んだ事件をキッカケに世界中の人に知られることになった。しかし彼の創作活動の全貌や正体は依然として謎に包まれている。
「Flower Thrower」の再現展示の前で解説を行う、日本テレビの落合ギャラン 健造プロデューサー
そんなバンクシーの作品を、現地に行って鑑賞したかのように感じられる「没入型展示」であることが、同展の最大の特徴だ。一歩会場に入ると、古いイギリスの路地裏に迷い込んだような感覚になる。最初に出会うのは、バンクシーの作品でも最も有名であろう、火炎瓶の代わりに花束を持つ覆面の男性が描かれた「Flower Thrower(花束を投げる男)」。その高さは約5m。なぜこのように巨大なのかというと、パレスチナ自治区ベツレヘムのガソリンスタンドの裏の壁に描かれた実物がこの大きさだからだ。
同展の重要な構成要素のひとつに、現地の作品を原寸大で街並みごと表現した「再現展示」がある。バンクシーは故郷のイギリス・ブリストルで1990年代に活動を開始、その後ロンドン、ニューヨーク、パレスチナといった世界の様々な場所でグラフィティを描いてきた。彼がキャンバスにするのは街中の公共の壁であるため、落書きと見なされて消されたり、上書きされたり、壁自体が取り壊されたりすることも多い。現存しない作品もあるばかりか、現在はコロナの影響で世界旅行ができず、実際にバンクシー作品を巡るのは難しい。しかしこの再現展示では、まるで現地に足を運んだかのような気持ちで作品を鑑賞することができる。
バンクシー「The Son of a Migrant from Syria」2015 フランス カレー(再現展示)
そしてバンクシーは、権力や社会に対する怒りや反抗といった痛烈なメッセージを作品に込めるアーティスト。作品が描かれる「時と場所」にも大きな意味がある。写真などで作品だけを切り取って鑑賞するのではなく、周りの環境もあわせて鑑賞することで、観る者により強く訴えかけ、観る側は作品の意味合いをより深くキャッチすることができるのだ。
再現展示の装飾は、映画や舞台、ドラマのセットを手がける職人らが制作。「エイジング」と言われる、敢えて古く見せる塗装やサビの表現、雑草など、本物と見紛うほどリアルな出来となっている。また、街の雑踏や車の通り過ぎる音など、BGMでも再現率を高めている。
小道具のゴミは海外から輸入したものも。スプレー缶はスペインのストリートアーティストが実際に使っているものだそう。
落合プロデューサーは「(バンクシーは)結局ストリートアーティストで、額装されたものを美術館の中で観てもらうために作品を描いている人ではない。街や情勢、時と場所を選んで作品を世界中で描いています。今コロナで世界各地に行けない中で、この会場に来ていただければ、バンクシー作品の主だったものを疑似体験していただける、没入型の展覧会になっています。バンクシーも生きた作家ですから、時間を追うごとに新しい作品を生み出していく状況がありました。それに応じて我々も、主題や企画を変えていきました」と、コロナ禍でのバンクシー本人の活動も考慮して展示内容を決定したと話した。
そしてもうひとつの重要な構成要素は、『ジ・アート・オブ・バンクシー展』と同じく、バンクシー本人が2008年に設立した唯一の認証機関Pest Control(ペストコントロール)の証明書付きの作品が展示されていること。直筆のサインやシリアルナンバーが入っているので注目してみよう。
3つの地域ごとに作品を展示
展示は、バンクシーの活動の3大地域であるイギリス、アメリカ、中東のエリア別に行われる。最初はイギリスエリアだ。
バンクシー「Aachoo!!」2020 イギリス ブリストル(再現展示)
「Aachoo!!」は、バンクシーの故郷といわれるイギリスのブリストルで、コロナ禍に描かれた作品。頭にスカーフを巻いた女性がくしゃみをして入れ歯を飛ばしている。イギリスでも屈指の急勾配であるブリストルの地形を生かし、社会風刺とトリックアートの2つの面を見せている。落合プロデューサーは「老婆がくしゃみしたことで、街全体が傾いているように見える。新型コロナウイルスの蔓延で世の中が変わってしまったところを表現しているんじゃないかなと。2020年12月に描かれた作品ですけども、イギリスのエリザベス女王が当時マスクをせずに公務をしていたことを揶揄しているんじゃないかという見方もあるそうです」と解説した。ちなみに手すりの中に入って写真を撮ることも可能とのことだ。
左:バンクシー「爆弾を抱きしめる少女」Bomb Love 2002年 個人蔵 右:バンクシー「ノラ」Nola(Pea Green & Blue Rain)2008年 個人蔵
向かいの壁には額装のステンシル作品も。「ノラ」は2005年8月、多数の死者を出したアメリカ・ニューオリンズのハリケーンによる大洪水を受けて、現地のストリートで描かれたグラフィティをプリントしたもの。犠牲者を追悼すると同時に国や州の不十分な災害対策を批判している。
バンクシー「Spy Booth」2014 イギリス チェルトナム(再現展示)
イギリス国家の監視活動を批判したと考えられる「Spy Booth」は、既に撤去された現存しない作品だ。電話ボックスは鉄でできており、中の電話機はイギリスから輸入したそう。周りの雑草やゴミ箱まで非常にリアルに再現されている。
バンクシー「Les Misérables」2016 イギリス ロンドン(再現展示)
ロンドン西部にあるフランス大使館の向かいの建物に描かれた、ビクトル・ユーゴーの名作『レ・ミゼラブル』の登場人物コゼットが催涙ガスで涙を流す「Les Misérables」。ポイントは作品の一部として描かれたQRコードだ。実際の作品では、QRコードを読み込むと、フランス政府の警備隊が催涙ガスなどを用いて難民キャンプを弾圧しているYouTubeの映像にリンクした。もちろん、今回の再現展示でも……? ぜひ、スマホでトライしてみよう。
バンクシー「辛うじて合法」Barely Legal 2006 アメリカ ロサンゼルス(再現展示)
赤とイエローでペイントされた象が鮮やかな「辛うじて合法」は、2006年にアメリカ・ロサンゼルスでバンクシーが開催した個展で展示されていた作品。実際には、ペイントを施した本物のインド象が部屋を歩いていた。これは、部屋の中にペイントされた象がいるという明らかな違和感がありながら誰も指摘しない、「見て見ぬふりをする」という意味の慣用句「Elephant in the room」を可視化したのだと落合。「世の中には貧困問題や難民問題、今日的な問題がたくさんあります。そういった問題に警鐘を鳴らしたり、今一度考えさせるような作品です。バンクシーの作品は、見た目はオシャレでカッコ良いものも当然ありますが、その裏にどういう意味合いがあるのか、今の情勢を踏まえてどういうふうに捉えたらいいのかを、お客様1人ひとりが考えていただくキッカケになる展覧会になればいいのかなと思います」と語った。
バンクシー「コンジェスチョン・チャージ(混雑税)」Congestion Charge 2004年 ポール・スミス蔵 (c)
同展には世界中のコレクターから借りた作品が展示されているが、ポール・スミス氏が所有する作品も来日している。蚤の市で売られていた無名の画家の油絵に、料金の徴収で車の渋滞の解消をめざす「コンジェスチョン・チャージ」の標識をバンクシーが描き加えた。既存作品に描き足すことで意味を変える「デトーナメント(転用)」を、バンクシーは得意とした。
野外展覧会『Better Out Than In』の活動マップ
2013年10月、バンクシーはニューヨークに1ヶ月間滞在して、野外展覧会『Better Out Than In』を行った。これは、ニューヨークのストリートに毎日作品を「Bomb(投下)」し、その様子を専用のウェブサイトとSNSで記録したというもの。予測不可能な彼の活動はニューヨークのバンクシーファンを熱狂させたが、やはり政治的なメッセージが込められていたことから、同時に様々な議論を巻き起こした。同展では、実際にバンクシーが投稿したインスタグラムの画像とともに『Better Out Than In』の活動マップを展示している。

バンクシー「Giant Kitten」2015 パレスチナ ガザ地区(再現展示)

中東エリアでひときわ存在感を放つのは、激しい空爆で破壊されたガザ地区の廃墟に描かれた「Giant Kitten」。SNSでは可愛い子猫の写真や動画はとにかくよく見られる。「バンクシーもそれに気がついた。世界情勢が変わる中で悲惨な状況におかれた人がいて、光が当たらない部分はたくさんあるんだけれども、どういうふうにしたらもっと分かってもらえるかを考えた。ここに来た人たちは、猫が可愛いので写真を撮るわけなんですけども、その周りに写る廃墟には子どもたちがうずくまって遊んでいたり、洗濯物が干されていたり、非常に心配になる風景が広がっています。それも含めてSNSで情報発信される。伝えたかったメッセージと惨状を、子猫を使ってうまく伝えている。実際にこの絵が描かれた後に、この状況を改善しようと国際的な支援団体が動き出しました。平和的なアートという手法で、世の中を良い方に変えようとする、そういう強い想いを持った人がバンクシーなんじゃないかなと思います」と語った。
The Walled Off Hotel 2017 パレスチナ自治区 ベツレヘムの環境展示(再現展示)
2017年にバンクシーがパレスチナ自治区ベツレヘム市内にオープンした「世界一眺めの悪いホテル」ことザ・ウォールド・オフ・ホテルでは、ホテル内部から見た景色をさながら体感できる展示が行われている。テーブルの上の細かな小物にも注目してほしい。
左:バンクシー「風船と少女」Girl with Balloon 2004年 個人蔵 右:バンクシー「風船と少女(diptych)」Girl with Balloon 2006年 個人蔵
展覧会の最後を飾るのは「風船と少女」。2002年、ロンドンに初めて描かれた本作品はすぐに上書きされ、2004年にテムズ川付近に再び登場。「There is always hope(いつだって希望はある)」というフレーズを第三者が書き足したことで、より作品の意味合いを強めることになった。なお、2005年にはパレスチナとイスラエルの分離壁にも危険を冒して新たな「風船と少女」を制作した。同展では、今は現存しない2004年の「風船と少女」の再現展示と、プリント作品の「風船と少女」を展示している。
ギフトショップでは展覧会オリジナルグッズを販売
ギフトショップでは、図録をはじめTシャツやタオル、スプレー缶の形をしたフレッシュナーなど、展覧会オリジナルグッズを多数販売中。
日本テレビの特番で中村倫也が制作したステンシル作品2点も展示
また、展覧会特別番組『バンクシーと中村倫也と壁と。』(2021年9月4日(土)日本テレビにて放送)で、同展の音声ガイドとアンバサダーをつとめる中村倫也が制作したオリジナル作品も展示している。
グランフロント大阪 北館1階カフェではコラボメニューが登場
グランフロント大阪 北館1階の「カフェラボ」では、同展とのコラボメニューが期間限定で登場。
真珠の耳飾りのライチレモネード
見た目も爽やかな「真珠の耳飾りのライチレモネード」は、「Girl with a Pierced Eardrum(鼓膜が破れた少女)」をモチーフにしたライチ風味のさわやかなレモネード。ホイップとラムネ、パチパチアメ、耳飾りに見立てたマスカットのシャーベットが載っている。見た目ほど甘くなく、さっぱりと飲むことができる。口に入れると弾けるアメやラムネの食感も楽しもう。
ハンマーボーイの 100%ソルティスイカジュース
真っ赤な消火栓にハンマーを振り下ろす「Hammer Boy」にちなんだ「ハンマーボーイの 100%ソルティスイカジュース」は、高糖度の「黒美人」を使った果汁100%のスイカジュース。ごろっとしたスイカのシャーベットが入っていて、ライチを絞ると味が変化するのも嬉しい。仕上げの岩塩がスイカの甘さを引き立てる。夏の水分補給にもってこいの1杯だ。他にもガレットやパンケーキ、パスタなどオリジナルメニュー6品(全7種)が登場する。
グランフロント大阪 北館1階のメルセデスベンツもコラボレーション
また、グランフロント大阪 北館1階のメルセデスミー 大阪でも、同展仕様にカーラッピングされたメルセデスベンツを展示。DOWNSTAIRS COFFEE店内や壁面はバンクシー作品で装飾されている。
『バンクシーって誰?展』 展示風景
どっぷりとバンクシーの作品の世界観に浸れる『バンクシーって誰?展』は、グランフロント大阪北館 ナレッジキャピタル イベントラボにて、6月12日(日)まで開催。ファンはもちろん、バンクシーのことをよく知らないという人にも楽しめる展覧会になっているので、ぜひ訪れてほしい。
取材・文・撮影=ERI KUBOTA

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