松下洸平、白洲迅、木下晴香らが、音
楽を通して心を通わせ、希望を掴もう
とする人々を熱演 音楽劇『夜来香ラ
プソディ』ゲネプロレポート

個性豊かな俳優やアーティスト、クリエイターが所属する株式会社キューブの25周年記念作品『夜来香ラプソディ』。物語の舞台は、租界という治外法権が存在し、“魔都”とも称された第二次世界大戦末期の上海。「蘇州夜曲」や「別れのブルース」といったヒット曲を数多く手がけた作曲家・服部良一や「夜来香」の作曲家・黎錦光、日本でも中国でも愛された歌姫・李香蘭といった人々が、様々な困難を乗り越えてコンサートを開催しようとしたドラマティックな群像劇だ。本作と同じく上海を舞台に描いたcube 20th presents『魔都夜曲』(2017年)に引き続き、演出・河原雅彦✕音楽・本間昭光がタッグを組んだ本作。松下洸平、白洲迅、木下晴香、山西惇、山内圭哉、壮一帆、上山竜治、夢咲ねね、仙名彩世といったキャストが集結している。初日に先駆け行われたゲネプロの模様と、松下・白洲・木下からコメントを紹介しよう。
木下晴香、松下洸平、白洲迅
服部良一役:松下洸平
まずは、こうして無事に初日を迎えられることが、今のこのご時世にありがたいことです。我々はしっかり感染予防対策をして、お客様に楽しんでご来場頂けたるよう、最善を尽くしていきたいとおもいます。1945年6月の物語ですが、輝かしい経歴をお持ちの音楽家で指揮者の服部良一さんが、上海で音楽の可能性を求めて、黎錦光や李香蘭など支えてくれる人々と共に、時世と戦い駆け抜けていく物語です。我々自身も色々なものと戦いながら演劇を続けている最中、今のご時世と非常にリンクする部分も多いので、初日を迎えた時に、お客様そして我々がどう感じるのか非常に楽しみです。沢山の登場人物の中に、それぞれにすごく濃い物語が詰まっています。そして生バンドで素晴らしい演奏が聴けます。ジャズや皆さんも良くご存知の歌謡曲も沢山出てきますので、笑って泣いて、芝居と音楽を楽しんで頂けたら嬉しいです。
黎錦光役:白洲迅
舞台の中のセリフにもあるのですが「いよいよ始まるな」という気持ちです。この“有事”に行われる舞台ということで、どうしても今と重ねてしまう部分もあるのですが、そこはしっかりプラスに捉えて作品にも良い作用をもたらせるように、そういう気持ちで臨んで、お客様にも楽しんで頂けたらと思います。僕自身は作品のタイトルにもある黎さんが作曲した「夜来香」を頼りに、稽古場でも黎錦光という人物像を創っていきました。「夜来香」はとても繊細で儚くて懐かしさがあって、あの繊細さはやはり黎さんの人となりが創ったのかなと思います。稽古場で、服部、黎、李香蘭3人が、屋台で飲むシーンの稽古の時に、休憩に入ってもそのままそこで話し続けていたあの瞬間が、すごく心地よくて楽しくて、僕らと役が一気にリンクした瞬間だったなと思い出します。ものすごく大変な時代に生きていたことを、いかに僕らが熱量高く演じられるか、それを大事に思って演じていきたいと思います。
李香蘭役:木下晴香
李香蘭さんは映像や音源が多く残っている方ですが、今回の舞台では表に立っていないオフの彼女の姿を描く部分も多いので、あまりイメージにとらわれすぎず、この舞台ならではの李香蘭を創っていけたらと思っています。台本を読み進めていくうちに、彼女の核になっているものは本当に「歌」なんだと強く感じ、彼女にとって歌うこととはどんなことなのか、それを大切に演じていきたいと思っています。お稽古はマスクをしている状況でしたが、劇場稽古に入って初めてキャスト皆さんのお顔を全部見ることができましたので、本番に向けて更に深めて行けたら良いなと思います。千穐楽までより良い舞台を日々お届けできるように精一杯頑張ろうと気合を入れ直しているところです。それぞれの登場人物の生き様が濃く深く描かれ、それが融合して今の時代の皆さんにも響く作品となっています。是非ご期待ください。

続いて、ゲネプロの様子をお届けする。
以下、舞台写真とネタバレあり。

<あらすじ>
軍から召集を受けて上海に渡った、日本の人気作曲家・服部良一(松下洸平)。そこで出会った中国人作曲家・黎錦光(白洲迅)、人気女優で歌手の李香蘭(木下晴香)らと音楽を通して交流を深める。なぜ自分が召集されたのかいぶかしむ服部が依頼されたのは、人種や思想を超えた多くの人々が集まる西洋式コンサートの指揮をとること。しかし、音楽への純粋な思いでコンサートを開催しようとする彼らとは対照的に、裏では日本軍・中国国内の政治勢力や上海の裏社会の思惑が絡み合っており――。

冒頭、客席の通路を憲兵たちが歩く物々しい雰囲気の中、松下演じる服部が舞台に現れて堂々と指揮をし、客席に向かって語りかける。戦争の最中で行われるコンサートに入り込み、観客の一人になっているような気持ちになれる。どんな状況下でも音楽や演劇といった芸術の素晴らしさを信じ、希望を繋いできた先人たちに頭が下がる一方で、服部や黎が語る言葉は悲しいことに今現在の時世にも当てはまるものばかりだ。
生バンドの演奏に乗せた歌唱を楽しめるのに加え、開幕前には作中で歌われる曲のレコードが流れており、素晴らしい音楽にどっぷり浸かることができる贅沢さも大きな魅力。冒頭で歌われるオリジナル曲「希望の光」は、作品と作中で行われるコンサートの幕開けにふさわしいあたたかさと力強さがある。また、河原の演出や舞台美術により、戦時中の閉塞感や緊張感とその中で明るく生きようとする人々の輝きも見事に表現されている。
明るく勢いのある服部、穏やかで繊細な雰囲気の黎、可憐だが意志の強い李香蘭という、国籍も性格も違う3人が音楽を通して心を通わせ、お互いへのリスペクトと愛情を持って接している様子には胸が熱くなる。
松下は、音楽への愛と情熱に溢れたピュアで頑固な作曲家を好演。戦況が悪化し、軍人たちの中にピリピリしたムードが漂う中でも、服部はその空気に染まらない。音楽の可能性や素晴らしさを語る彼に“軍人”たちが苛立ちを募らせるのも理解できるが、彼のような人間がいなければ世の中はもっと暗く辛いものになってしまうと思わされる。純粋を通り越して駄々っ子のように見える場面もあるものの、そんなところも可愛らしく魅力的だ。
そんな彼を尊敬して友情を育む白洲は、穏やかで人懐っこく、少し気難しい服部の心を開かせていく。上海を取り巻く状況や自分達が置かれている立場を理解している故の思慮深さにも惹きつけられる。
李香蘭を演じる木下は、圧倒的な華やかさを持って登場。甘く澄んだ歌声や可憐な佇まい、多くの葛藤を抱えながらも凛として様々なことに立ち向かうしなやかな強さでスター性を見せつけている。
また、彼らを取り巻く個性的な人々も皆魅力的。李香蘭とはまた違う華やかさを持つダンサーのマヌエラ(夢咲ねね)は、強気で面倒見の良い姉御肌として作中に明るさをもたらしている。男装の麗人・川島芳子を演じるのは『魔都夜曲』に引き続き壮一帆。クールだが色気のある怪しい美しさに目を奪われる。『魔都夜曲』とはまた違う一面を見せているため、合わせて観ても楽しいだろう。仙名彩世は不穏な雰囲気をまとって物語を引き締める、気になる存在を演じている。
声楽家としてヨーロッパに留学していた経験がある陸軍報道班中尉・中川牧三(上山竜治)の明るく空回りしがちなキャラクターも楽しい。山家や服部に振り回されつつ、自分にできることを一生懸命探す姿に心が和む。
日本の陸軍の人間でありながら中国名をもち、今回のコンサートを企画した山家(山内圭哉)は、清濁併せ呑むしたたかさがある一見得体のしれない人物だが、心の内には服部たちにも劣らない情熱を秘めているのが魅力的だ。
そして、音楽を愛する人たちの中で異彩を放っているのが、山西惇演じる憲兵隊隊長・長谷部弘一。軍人と聞いてイメージする通りの厳しさを持ち、服部や山家とぶつかる彼の存在により、服部や黎が国を超えた友情を和やかに育んでいる間も戦争は続いているのだと認識させられる。
共感できる台詞だけではなく、ハッとさせられる台詞も多い。服部がコンサートの総指揮を引き受けるかどうかを保留していた理由は、音楽が力を持っているからこその危うさを改めて教えてくれる。その心に寄り添いながらも自らの思いを伝える黎の切実な言葉、山家が上海の地でコンサートを開きたいと思った理由などから、芸術のあり方や向き合い方を考えさせられた。
実在する人物を取り上げ、戦時中の上海を描いた作品ということでハードルが高く感じるかもしれないが、歴史背景などは作中で説明されるため、詳しくなくても心配なし。難しいことは考えずとも、上質な生演奏とキャストたちの熱演を楽しんでいるうちに、様々なメッセージを受け取ることができるはずだ。彼らが描いた夢のように、芸術を通して人々が心を通わせ、希望を手に入れられる世界を望んでやまない。
本作は2022年3月12日(土)にBunkamuraシアターコクーンで開幕。その後名古屋、大阪、長岡で公演が行われる。
取材・文・撮影(ゲネプロ)=吉田沙奈

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