安福毅 feat.伊礼彼方 アンサンブル
の魅力を語る~『フィスト・オブ・ノ
ーススター 北斗の拳』×『ミュージ
カル・リレイヤーズ』〈コラボSP〉 

「人」にフォーカスし、ミュージカル界の名バイプレイヤーや未来のスター(Star-To-Be)たち、一人ひとりの素顔の魅力に迫るSPICEの連載企画『ミュージカル・リレイヤーズ』(Musical Relayers)。「ミュージカルを継ぎ、繋ぐ者たち」という意を冠する本シリーズでは、各回、最後に「注目の人」を紹介いただきバトンを繋いでいきます。4月より始まった本連載。今回は、初の【コラボSP】! 前回登場の後藤晋彦さんも出演する、12月開幕のミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター 北斗の拳』から、安福毅さん(ミスミ役他)、そして伊礼彼方さん(レイ/ジュウザ役)にも加わっていただき、「人」から「作品」に視点を移してお届け。「作品におけるアンサンブルの力」をテーマに語っていただきました。(編集部)

「プリンシパルはドラマを紡ぐ存在で、アンサンブルは世界を作る存在だ」
2021年12月に開幕する新作ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター 北斗の拳』に出演する安福毅(ミスミ役、他)と伊礼彼方(レイ役、ジュウザ役)の二人に、稽古の合間を縫って話を聞くことができた。
今回が初共演となるベテランアンサンブルの安福とプリンシパルの経験豊富な伊礼。それぞれの立場から考える、ミュージカル作品におけるアンサンブルの奥深い魅力、そしてこれからの課題を語ってもらった。
安福「ダンサーより歌えてシンガーより踊れる普通の人です」
――絶賛お稽古中の『フィスト・オブ・ノーススター 北斗の拳』ですが、伊礼さんが安福さんのお芝居に感動して泣いてしまったことがあったと伺いました。
伊礼:8月にワークショップをしたんですけど、安福さん演じるミスミじいが非常に感動的だったんです。本読みの段階なのに、しっかりとキャラクターが想像できたんですよ。僕、頑固なおじさんが心を開く様とか、父と息子の親子物とか、そういうおじさんモノに弱いんです(笑)。安福さんは生きたセリフを発するので、自然と心に響くお芝居をされる方なんだなと思いました。しかもそれがセリフだけじゃなく、歌にも反映されているのが素晴らしいんです。

安福毅、伊礼彼方

安福:ミュージカルでは、原作とは異なるキャラクターになっている部分もあるので、その匙加減は役者に任されているところだと思ってやらせていただいています。そこを膨らませるのが我々の仕事なのかなと。原作通りやるところはやるし、原作にないオリジナルの部分は想像力を膨らませてお届けできたらなと思って取り組んでいます。
――ここで安福さん自身のことを聞かせてください。
安福:はい、独身です!
伊礼:気合い入ってるなあ(笑)。
安福:(笑)。小学校5、6年くらいからエキストラをし始めて、ちょこちょこお芝居をしていたんです。今は48歳なので、演じることを始めてから35年くらいになりますね。大学を卒業する頃に劇団四季に入って、そこからぼちぼち続けさせてもらっています。でも、普通の人ですよ。ダンサーより歌えてシンガーより踊れる“普通の人”です。
伊礼:すごいなそれ!(笑)
安福:『フィスト・オブ・ノーススター 北斗の拳』でもアンサンブルが群舞をするシーンがあるのですが、そこでキレッキレのダンサーたちに紛れて一緒に踊っているんですよ。悪目立ちしつつ頑張っております!

安福毅、伊礼彼方

アンサンブルの魅力と役割を考える~「同じ板に立つ上では対等でなければ」(伊礼)
――ご自身が演じるとき、もしくは観るときに感じるアンサンブルの魅力を教えてください。
安福:僕自身が演じていて「してやったり!」と思うのは、「こんな人数しかいないんだ!」という評価を受けたとき。アンサンブルはたくさんの衣装があるので必死に早替えすることが多いんです。なので実際の人数よりもたくさんのキャラクターがいるように感じてもらえると、それぞれの役として生きることができたんだなと嬉しく思いますね。
伊礼:僕は元々主役ではなく脇役を見る癖があるんです。そこが埋まっていて初めて主役が活きると思うので。たとえ主役が芝居をできなかったとしても……あくまで、たとえ話ですよ。周りが上手ければ作品って成立するんですよ。逆に言うと、そのくらい周りが支えないと成立しないんです。だから僕はずっと前から「このポジションにいきたい」と思ってそのための勉強ばかりしてきました。「あれ? 誰が主役だっけ?」と、主役と周りの差がわからなくなるような瞬間が一番美しいと思うんですよね。それをしっかりと作ってくださるのが、安福さんなんです。めちゃめちゃハードル上げているんで、ここぜひ書いてくださいね(笑)。
安福:それはもう、存分にお応えできるだけのことをやらせていただきますので、楽しみにしていてください!(笑)
伊礼:素晴らしい!(笑)

伊礼彼方
安福毅、伊礼彼方

――アンサンブルの役割については、それぞれどう考えていらっしゃいますか?
伊礼:背景を作ることなんじゃないですかねえ。メインの役はキャラクターの個性は出せたとしても、色・空気・時代背景といったものは作れないんですよ。僕もアンサンブルの経験はありますが、そのときは一つのキャラクターの個性を出すより、みんなと同調し合って同じ空気を出していくということを学びました。でもこれはぜひ、安福さんにお聞きしたい。そこのところ、実際どうなんですか?
安福:とある演出家に言われた、すごく好きな言葉があります。「プリンシパルはドラマを紡ぐ存在で、アンサンブルは世界を作る存在だ」と。世界を作るために、アンサンブルは何でもできなきゃいけない。上手い人が目立つのも、下手な人が悪目立ちするのもダメ。だからと言ってアンサンブルは引くべきなのかというと、それは違うと言われたこともあります。僕自身は引くのではなく、一歩前に出るからこそプリンシパルにさらに前に出るよう促す存在でありたいなと思っています。
伊礼:安福さんのお芝居のスタンスを見ていると、非常に理想的だなと思うんです。昨今の問題なのか日本の文化なのかわからないですが、アンサンブルの方が一歩前に出れない何かがあるように感じます。安福さんはそこを恐れず自分の役を解釈した上で、前に出るときは出て、引くときは引く。だから一緒にやっていて非常にストレスがなくやりやすいんです。
安福毅、伊礼彼方
――正直、アンサンブルとプリンシパルの間に壁はあると感じますか?
伊礼:そうですねえ。僕も10年以上役者をやってきましたが、正直、はっきりと壁を感じます。実際、僕がアンサンブルを経験したときにもそれは感じました。この壁は業界の課題だと思っています。
安福:最近は減ってきたと思いますが、昔はアンサンブルが前に出ることを嫌う演出家もいたんです。主演俳優のために周りがお芝居をして舞台を作る。そういう文化が根強く残っている部分もあるのかもしれません。もしそうだとしたら、「アンサンブルは目立っちゃいけないんだ」と思い込んでいる役者がいてもおかしくないですよね。
伊礼:ということは、上の世代が変わっていかないとってことですね。僕はその垣根を壊していきたいと思うんです。アンサンブルとプリンシパルの役割はもちろん違いますが、同じ俳優として同じ板に立つ上では対等でなきゃいけない。それは役者に限らず、演出家やプロデューサーにも言えること。みんなが対等に話せる環境を作らなきゃいけないと思います。もし古い風習が変わらないのであれば、僕らが変えていくしかありません。でも、もちろん僕一人の力じゃ変えられません。みんながもっと発言してくれたら演劇業界もどんどん変わっていくだろうなと思います。
僕って少数派なんですよ。大抵の場合、世の中では多数派が正解になるじゃないですか。でも多数派が正解とは限りません。「居心地がいいから」「トラブルが起きないように」という理由で多数派にいることが、はたして未来に向かって発展していく選択なのかと考えたとき、それは違うんじゃないかなと。僕は間違っていると思ったことには、きちんと異を唱えていきたいですね。
安福毅
伊礼彼方
わからないことを「わからない」と言える雰囲気作り
――『フィスト・オブ・ノーススター 北斗の拳』の稽古場の雰囲気はいかがですか?
伊礼:正直、最初は探り探りなところがありました。みんながそれぞれわからないことを抱えたまま稽古が進んでいるように見えたので、僕、結構大きな声で「わからない」とアピールしたんですよ。そうしたら「あ、言っていいんだ」という空気が生まれたのか、みんなの意見や疑問がどんどん出てくるようになりました。
安福:カンパニーの歯車が、伊礼彼方という潤滑油によって徐々に回り始めたんです!
伊礼:いやいや、そこまで大したことしてないですよ(笑)。
安福:伊礼さんが発言することによって、みんなが徐々に「やらなきゃ」と一歩進めたんです。こういう方がカンパニーにいてくれると、すごく刺激になるし心強いんです。
安福毅、伊礼彼方
伊礼:僕、稽古場でも結構意見を言うんですよ。怖いこともありますけど、そのきっかけを出すことによってみんなが溜めていた何かが吐き出されたら良いなあと思うんですよね。
安福:現場によって本当に千差万別ですよね。時には演出家が言ったことを守るのが正義だったりするし、自由に自分を出すことが正義だったりします。何が正解というのではなくそれぞれの現場のスタイルがあるので、現場毎に柔軟に取り組む力も求められているのかなと思います。
――最後に、開幕を控える『フィスト・オブ・ノーススター北斗の拳』の見どころを教えてください。
伊礼:最初に台本を読んだときの印象から、フランク・ワイルドホーンの楽曲が加わったことで一気に世界観が膨らみました。ミュージカルはいろんなパズルが集まってはじめて完成するんだなと、改めて実感しています。原作がテーマとしている、愛と男気がふんだんに入っている作品です。一つの人生の物語という意味で、深い人間ドラマを味わっていただけるんじゃないかと思います。
安福:すごく凝縮したお話になっていますので、キャラクターも濃いです。原作通りではなくオリジナルの要素も加わっているため、原作ファンの方にとっては「違うじゃん!」ということも出てくるかもしれません。それでもこの話を伝えたい大人がいて、作ろうと思ったクレイジーな人間がいて、それに対していろんな人が賛同してこの場にいる。稽古場でも今いろんなことが起きていて、セリフを削って、また戻して、変更して、曲の長さを変えて……それだけのことを必死にやって、一つのミュージカル作品が出来上がります。12月には完成した作品をお見せできると思いますので、ぜひ劇場へお越しください。
安福毅、伊礼彼方
取材・文=松村 蘭(らんねえ) 撮影=ジョニー寺坂

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