【編集Gのサブカル本棚】第11回 「
COCOLORS」作品世界の謎にせまる鑑賞
者向けの考察・トリビア

 「映画.com」が運営するネット上の映画館「シネマ映画.com」で神風動画の中編映画「COCOLORS(コカラス)」が、11月25日まで独占配信されている(https://cinema.eiga.com/titles/301/ )。縁あって制作中から個人的に取材し、そのさいに、木版画をモチーフにした同作のディテール参考のため制作スタッフに木版画家の父を紹介するなど、不思議な関わり方をさせてもらった同作について、シネマ映画.comの配信にあわせて特集ページと映画評の執筆を担当した。
【特集】「妥協は死」が社訓のアニメーションスタジオが思うままにつくった珠玉のディストピアSF
https://eiga.com/movie/88088/special/
【映画評】希望のない世界でネガティブを糧に前に進む“クズ主人公”の成長物語
https://eiga.com/movie/88088/critic/
 期間限定で販売されたブルーレイは現在入手できず、今回の配信は同作を鑑賞できる貴重な機会なので、未見の方にはぜひ見ていただきたい。シネマ映画.comでは初回の視聴開始後から48時間、作品を楽しむことができる。11月25日までに鑑賞料金1000円を決裁して25日に視聴を開始すれば、土曜日の27日まで見ることが可能だ。
 すでに「COCOLORS」をご覧になった方は、同作には明確に語られていない要素が多くあることに気づかれたと思う。取材や舞台挨拶での横嶋俊久監督の発言や、ブルーレイ同梱のブックレットなど関連冊子のテキストを参考に、同作に秘められた作品世界の謎や演出上のポイントを自分なりにまとめてみた。個人的にあまり使いたくない言葉だがいわゆる“ネタバレ”全開の内容で、すでに「COCOLORS」を見た方が再見するときに、より楽しめるような内容を想定している。また、この考察はあくまで解釈のひとつで、作品を読み解く“正解”などではまったくないことも付記しておく。見た人が感じたり想像したりしたことのほうが大事であるという前提で読んでいただければ幸いだ。
■アキたちは何者か~地下世界の存在理由
 スタッフクレジットとともに黒と黄のスタイリッシュな映像で描かれるオープニングタイトルで「COCOLORS」の世界観が駆け足で説明されている。富士山の噴火によって有害なバクテリアが地表を覆い、地上に住めなくなった人類は地下に新天地を求める。そこで新たなエネルギーを供給する存在として人工的につくられた培養人間がアキたちで、彼らは人間から「発電躰」と呼ばれている。アキたちが暮らす地下施設には「第15電殻」という名がつけられ、同じような施設が他にもあることが想像できる。
 ブルーレイ同梱のブックレットには「ギドクの日記」と題したテキストが掲載されており、前述の「発電躰」「第15電殻」といった用語と合わせて作品の裏設定がかなりの部分で明かされている。そこには「発電躰は電子バクテリアと反応することで体外にエネルギー溶液を排出する」とも書かれ、作中唯一の人間であるギドクは人間側の管理者としてアキら発電躰を研究していた。
 人間ではないアキたちは、生糸をとるため最後はゆでて殺される蚕(かいこ)のような存在で、存在理由自体が救いのないものとして設定されている。この設定は中編の尺では説明しきれないと判断され、オープニングはその雰囲気だけでも感じてほしいという意図で制作されたようだ。筆者自身、横嶋監督のティーチインを聞いてからオープニングタイトルを見直すことで描かれている意味を読み解くことができた。
■ギドクとフユの関係
 二度目の回収祭のとき、御神体の上で演説するギドクの隣にはフユが立ち、マスクを被った少年たちのなかで特別な存在であることが分かる。また、フユの体調が悪くなってからもギドクはフユを殊更気づかっているようだ。「ギドクの日記」には彼が12歳の子どもを亡くした過去がつづられ、その子どもの遺伝子を組みこんだ発電躰がフユであると告白している。
 自身の子を二度亡くそうとしているギドクが、アキにかつての自分を重ね、2人の脱走を静観することで、フユの最期をアキに託そうとしていることがうかがえる。
■失われていく色、取り戻される心
 本作では物語が進むごとに作中から色が失われていく試みがなされている。一度目の回収祭の色鮮やかな様子から徐々に色が失われていき、最後はほぼモノクロだけの世界となってエンディングをむかえる。
 世界から色が失われていく一方、惰性的に生きてきたアキは、フユと行動することで自分の心を取り戻していく。苦労してたどりついた地上で見た空は何もない灰色だったが、それを見たフユの微笑のような表情を見ることでアキは自分の感情を一気に爆発させる。それをアキの成長ととらえると本作はバッドエンドではなく、絶望のなかに一筋の希望が見えるグッドエンドに見えてくる。
■人体を模した有機的な地下世界と「胎内めぐり」
 アキたちが暮らす地下世界は、地下をはいめぐるパイプが血管、中央部の大きく膨らんだ箇所が心臓といった感じに、人体の内臓を模した有機的なイメージで描かれている。これは地下の住人たちが肉体を感じられないからという狙いがあるそうだ。反対に、フユやシュウが収容されたギドクの研究室は白を基調とした無機質なイメージで描かれている。
 地下世界は人体を反転させたような構造で設計されており、シュウの遺体が葬られる地下最下層の葬儀場は、上下をさかさまにすると頭蓋骨と頸椎に見える。その発想を敷衍(ふえん)すると、アキとフユが地上に抜け出した経路は宮崎駿監督の「崖の上のポニョ」でも見られた「胎内めぐり」(霊場や洞窟など狭くて暗い場所をくぐりぬけることで新しく生まれ変わるという仏教の修行のひとつ)だったと考えることもできる。
上下反転させた、葬儀場広場の背景美術(「COCOLORS」美術画集、106頁より)■3つの指で押す「大丈夫」のメッセージ
 地表に到達する直前、フユはエスカレーターの途中で笛を落としてしまう。そこで前に進めなくなったアキを鼓舞するため、フユはアキの背中を3つの指でギュッと押さえる。オープニングタイトルの直後にアキのモノローグで説明があったとおり、3つの指で出す音の意味は「大丈夫」。さりげない仕草でメッセージを伝える演出で、言葉や音を介さずにフユとアキの心が通じあった瞬間が見事に描かれている。
 ……と偉そう(?)に書きながら、筆者がこの演出に気づいたのは鑑賞3回目ぐらいのときだった。最初にしっかりネタ振りされていて、このためにフユに笛を使わせているのではというぐらい作り手にとって渾身の描写だったはずなのに、しばらく気づけなかったので、もしかしたら同じ方がいるかもしれないと書いた次第。
■新御茶ノ水駅と西新宿の高層ビル
 アキたちが地上にでるために登るエスカレーターは、新御茶ノ水駅のエスカレーターが参考にされている。地下施設から脱走する様子が点描されるところで「新御茶ノ水」と書かれたプレートを見ることができる。
 また、オープニングタイトルの冒頭で見られる地表のシルエットと、アキとシュウの会話でインサートされる「空のオバケ」が地上を破壊するシーンには、湾曲したフォルムが印象的な高層ビル「モード学園コクーンタワー」らしき建物も確認でき、東京・西新宿付近も参考にされたことがうかがえる。
■「COCOLORS」の原点「アマナツ」
 神風動画と横嶋監督は2009年に約14分の短編「アマナツ」を発表し、現在は同社のYouTubeチャンネルで公開されている。こちらも自主製作のオリジナル作品で、近未来を舞台に“世界の終わり”を望む少女アマネとロボットの旅が描かれている。
 少女と物言わぬロボットの関係はアキとフユを思わせ、ところどころの描写や鑑賞後の印象も「COCOLORS」に近いものがある。横嶋監督自身もブルーレイのブックレットに、「内容的に『COCOLORS』のプロトタイプみたいな要素が多いことに気づきました…」と振り返っている。
参考文献
・公式Twitter主催の同時鑑賞会「おうちでコカラス」アーカイ
https://twitter.com/i/events/1460412633404751872
・「インタビューマガジンAniKo」下北沢トリウッド『COCOLORS』横嶋俊久監督ティーチイン採録
http://ani-ko.com/66-yokoshima
・「COCOLORS」ブルーレイ(販売終了)同梱ブックレット
・「COCOLORS」複製アフレコ台本(ライブ版パンフレット付録)
・「COCOLORS」美術画集(同人誌)
・「COCOLORS」背景原図大全(同人誌)

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