【観劇レビュー】劇団四季新作ファミ
リーミュージカル『はじまりの樹の神
話』大人も”やられる”真剣勝負のメ
ッセージ

劇団四季の新作ファミリーミュージカル『はじまりの樹の神話~こそあどの森の物語~』が2021年8月15日(日)に、東京・自由劇場にて開幕した。四季がファミリーミュージカルの新作を上演するのは『カモメに飛ぶことを教えた猫』以来2年ぶりとなる。
『はじまりの樹の神話』は日本児童文学界を代表する作家・岡田淳氏の同名ファンタジーを原作に、オリジナル創作を劇団内で専門的にプロデュースする部門「企画開発室」が中心となり生み出した作品。”こそあどの森”に暮らす住人たちと、太古の昔からタイムリープしてきた少女・ハシバミとの交流を描くオリジナルミュージカルだ(なお、ここから先の文章では、一部作品の内容に触れている点をご留意いただきたい)。
舞台は緑の木々が生い茂る森。そこで暮らす少年・スキッパーは、いつも1人で本の世界を楽しんでいる。ある夜、スキッパーのもとにしっぽが光る不思議なきつね=ホタルギツネが現れ、森の大樹に縛られている少女の命を救ってほしいと彼に頼む。少女の縄を解き、家に連れ帰るスキッパー。少女はハシバミと名乗り、大昔からやってきたと語る。ハシバミの話では、村を襲うリュウの怒りを鎮めるために自らがいけにえとなって大樹に縛られていたものの、あまりの恐ろしさに「心の声」で樹に助けを求めたら、この時代に飛ばされてきたとのこと。
森の住人たちはハシバミの前向きな姿に触れて彼女を受け容れ、家にこもりがちだったスキッパーも、ホタルギツネやハシバミたちと楽しい時間を過ごすようになる。が、ある時、ハシバミは自分がいた時代に帰らなければいけないと皆に語る。弟や妹を村に残したまま、自分だけがこの時代で幸福になるわけにはいかないと。
ハシバミが元の時代に帰っても生きられるよう、住人たちはリュウを退治する方法を考える。そしてやってきた満月の夜。熱を出して寝込んだスキッパーを残し、ハシバミ、ホタルギツネ、住人たちは森の奥にある樹のもとへと向かうのだがーー。

劇団四季『はじまりの樹の神話』(撮影:樋口隆宏)

まず、冒頭で太古の人々が歌い踊るさまが圧巻だった。久居史子演じる巫女がリードを取って歌う壮大なナンバーと祈りを表現したアンサンブルのダンス。ここからどんなストーリーが展開するのかと気持ちが高まったところで、舞台は穏やかな森の中、スキッパーの自宅へ飛ぶ。最初のシーンはスキッパーが読んでいた本に書かれている神話の世界の話だったのだ。やられた。
この”やられた”感覚は観劇中、ずっと続くことになる。
計算し尽くされた舞台装置となめらかな転換、播州織メーカーとコラボした衣裳、舞台を観た子どもたちが一緒に踊れそうな(だがじつは高度な)松島勇気の振付、耳に残るオリジナル楽曲とこう来たか!と驚かされるリュウの仕様、そして若い俳優とベテラン陣との化学反応。
スキッパー役の寺元健一郎は、普通の少年がハシバミやホタルギツネとの出会いによって成長する様をストレートに演じる。秀でた能力があるわけでも個性が強いわけでもなく、ただ本が好きで優しい少年が恐れながらも1歩ずつ前に進むさまは、今の時代を生きる子どもたちの姿とリンクしているようにも見えた。
ハシバミを演じた小坂華加は歌に感情を乗せるのが上手い。森の住人たちとは違う世界で生きてきた空気感をまといながら、1人の人間として悩み、自分の行動に結論を出す姿には説得力があった。
今作でもっとも儲け役といえるホタルギツネのホタル。田中宣宗は明るく関西の言葉を操りながら、スキッパーを導き、兄貴分的な親友となるキャラクターを魅力的に演じる。

『はじまりの樹の神話』初日・自由劇場1階ホワイエの様子

本作『はじまりの樹の神話』には、「他者とのつながり」や「生命の尊重」「行動することの大切さ」等、さまざまなメッセージが織り込まれているのだが、個人的にもっとも”やられた”と感じたのは、「状況によって考え方を変えることは間違っていない」という視座だ。
自らがいけにえになることを望みながら、恐怖のあまりタイムリープしてしまい、森の人々との穏やかで楽しい日々に次第に罪悪感を覚えるハシバミ。そんな彼女に対し、スミレ(佐和由梨)は「時には(つらい状況=リュウにおびえる時代から)逃げてもいのよ」と優しく伝える。その言葉を受け止め、しばらく森にとどまるハシバミだったが、次に「自分がいた時代に戻る」と新たな決意をし、ふたたび恐怖の対象であったリュウと対峙した時には、それが戦う存在ではなかったと気づき、必死にリュウに語りかける。
そこには”過程”がある。1度出した結論を状況に応じて変える成長と勇気がハシバミから見える。これは刻一刻と情報がアップデートされ、ほんの少し前と正解が変わっていく日常に放り込まれた今のわたしたちに強く刺さるメッセージだった。
また、リュウの存在からは、昨今起きたさまざまな痛ましい事件を想起させられる。もし、彼らのすぐそばにハシバミやスキッパー、ホタルギツネのような存在がいれば……と考えずにはいられない。
本作『はじまりの樹の神話』の脚本と歌詞を担当したのは南圭一郎。演出は山下純輝が担う。ふたりとも元は俳優として四季の舞台に立ち、現在はそれぞれ「企画開発室」「演出部」に所属。俳優の生理を身をもって知る人材がオリジナル作品のクリエイションに関わることで新たな扉が開かれることも多いだろう。今後の活躍にも期待が高まる。
ファミリーミュージカル=メインの観客は子どもたちだが、じつは彼らが1番シビアな観劇者であることは間違いない。「子ども相手だから」と手を抜いたり、ストーリーが教科書的な押し付けばかりになれば、小さな観客たちは舞台に対して心を閉ざしてしまう。四季のファミリーミュージカルは本作を含め、彼らに対してつねに真剣勝負の仕事を見せる。それはその日のポジティブな観劇体験に加え、未来のシアターゴアーの芽を育てる大切な種まきになっているとも感じる。
『はじまりの樹の神話~こそあどの森の物語~』は、自由劇場での公演後、全国を巡演予定だ(8月21日と25日には計4回のライブ配信も決定)。本作が小さな観劇者たちと日々の選択に迷い疲れた大人たちの心に優しい風を吹かせることを信じつつ、この文章を閉じたい。
※文中の出演者は筆者観劇時のもの
取材・文=上村由紀子(演劇ライター)

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