建築模型は、美学と哲学と思いやりの
結晶なのです 建築倉庫プロジェクト
はYouTubeも格好いい【ネット DE ア
ート 第19館】

インターネットで楽しむことのできるアートのコンテンツを紹介するこのコラム。今回紹介するのは、天王洲アイルにあるミュージアム『WHAT』の建築倉庫プロジェクトが企画するオンラインコンテンツです。“建築”と聞くと、そこはかとなく漂う理論や学術の香り……。なんとなく「すごい!」や「かっこいい!」だけではついて行けないのでは、と不安になるでしょうか? だけど答えはノーです。オンラインの新たなアプローチによって、建築の魅力はより身近になるはず。きっと、日々の街歩きや建築ハントがさらに楽しくなりますよ。
建築倉庫プロジェクトホームページより
建築倉庫プロジェクトと『WHAT』
2016年のオープン以来、日本唯一の建築模型に特化した美術館として親しまれてきた建築倉庫ミュージアム。同館は2020年12月に『WHAT』という現代アート全般を扱うミュージアムへ進化を遂げました。名前が変わり、よりジャンルレスなアートへの取り組みが期待されますが、もちろん建築模型を保管・展示するという従来の企画も『WHAT』の中の“建築倉庫プロジェクト”として続いていきます。
「建築倉庫 ARCHI-DEPOT」YouTubeトップページ
オンラインコンテンツは大きく3つに分類され、ひとつめはYouTubeで見られるインタビューや展覧会関連動画。ふたつめはInstagramで公開されているミュージアムツアー動画。3つめは「ARCHI-DEPOT ONLINE(アーキデポ オンライン)」という模型の展示・販売サービスです。この記事では主に、YouTube動画の充実ぶりについて紹介します。
1. YouTubeでふれる建築哲学
1-1. インタビュー大放出!
KOZO 26人の構造家 インタビュー#digest
真っ先にオススメしたいのは、「構造家インタビュー」のまとめ動画です。構造家とは、建築デザインを実現するにあたって非常に重要な、構造計算を担う専門家のこと。この動画は2019年に開催された『構造展 -構造家のデザインと思考-』時のインタビュー映像を編集したものとなっています。とにかくこれが、非常に具体的かつ哲学的でカッコいいんです!
KOZO 26人の構造家インタビュー #PHILOSOPHY
まとめ動画は「PHILOSOPHY」「DESIGN」「PRACTICE」の3本があり、それぞれのテーマに沿って編集されています(最初に「PHILOSOPHY」編を見たのですが、面白くてそのままもう一周リピートしてしまうほどでした)。
「正解は真理そのものであるって言われちゃうと、真理を射抜く人間が1人いたら『以上、終わり』なんで」(YouTubeより)
「時々アクロバティックなことをやりますけど……できれば、普通に柱をたてたい(笑)」(YouTubeより)
日頃あまりその存在を意識することのない、構造家というプロフェッショナルたちはどんな思いで建築に向き合っているのか? それをこのインタビューは丁寧にすくい上げていきます。構造家の先生方がみなさん個性豊かで、ときには考え方がバラバラだったり、一方では深い部分で響き合っていたり。個性と共通点を浮き彫りにする編集テクによって、ドキュメンタリー番組のような見応えのある20分となっています。
インタビュー動画としては、さらに建築家の思考に迫るこんなコンテンツも見逃せません。
隈研吾・西澤明洋が語る「アフターコロナの建築とデザイン」
『隈研吾・西澤明洋が語る「アフターコロナの建築とデザイン」』は、社会情勢の変化によって仕事にしんどい影響があったときにこそ見てほしい、希望あるコンテンツです。日本を代表する建築家である隈氏であっても、バブル崩壊後には仕事が無くなってしまう憂き目を見たこと。そして「ひどい目に遭ったときこそ、人は変わることができる」と力強く語る氏の姿を見ていると、モチベーションがぐいぐい上がるのを感じます。
「隈研吾氏の思う、建築家とは?」「捻くれてなきゃいけない!」(YouTubeより)
隈氏は仕事が無くなって持て余すほど時間ができたとき、とにかくいろんな場所へ行き、いろんな人の話を聞いたそう。火を絶やさぬようなそんな努力を新しい生活様式に置き換えるなら、それは数多あるオンラインコンテンツへと精一杯手を伸ばし続けることなのではないでしょうか。
建築家・山本理顕 と「建築模型」
建築家・山本理顕氏のインタビューでは建築模型の重要性のほか、氏が審査委員長を務める「LOCAL REPUBLIC AWARD」という建築賞へ寄せる思いも聞くことができます。
豊かなトークの中でも、都市に林立するタワーマンションへ注意を促すくだりにはハッとさせられる(YouTubeより)
“1住宅イコール1家族” という現代の常識を超え、建築家は地域とつながる新しいコミュニティ作りを担うべきではないか? と語る山本氏。建築家という存在の抱える、社会への責任感と思いやりに触れたようで胸が熱くなります。
1-2. 特別企画や展覧会用映像も大サービス
「Steven Holl来日特別講演会-日本語Special Edition-」
こちらは建築家スティーブン・ホール氏の来日特別講演(2019年11月)の様子。英語版と日本語同時通訳版の2本が用意されています。後半の質疑応答コーナーでは、学生時代の自分を振り返るスティーブン・ホール氏のちょっとお茶目な一面も?
「私、ともかく……カーキチでした」とハンドルを回すジェスチャーをする車好きなS・ホール氏。同時通訳の妙技に拍手したい(YouTubeより)
ほかに、2019年に開催された『ガウディをはかる -GAUDI QUEST-』展で放映された展示解説映像も、YouTube用に再編集し公開されています。なんとも太っ腹! 展覧会に行っても、会場ですべての映像をじっくり鑑賞しきれないことは多々あるはず(連れがいたり、動画コーナーに多数の鑑賞者がいたり、どうしてもお腹が空いたりと様々な事情で……)。自宅で心ゆくまで復習できるのはとてもありがたいですよね。会場に足を運べなかった人はもちろん、運んだ人にとっても学びの多いコンテンツです。
「ガウディをはかる -GAUDI QUEST-」#展覧会解説映像シリーズ0
このようにYouTubeを活用して、展覧会やイベントの内容を惜しみなく開陳してくれる建築倉庫プロジェクト。録画をただ公開するのではなく、字幕や画像挿入など、伝わりやすくするための編集にも力が注がれているのを感じます。各動画の尺が短めで、気軽に見始めることができるのもうれしいポイントです。
1-3. トランスフォームする箱
廃棄物を出さない展覧会をめざして_ICC FUKUOKA
YouTubeの紹介の最後に……。個人的にいいなと思った1本を。「廃棄物を出さない展覧会をめざして_ICC FUKUOKA」という短いタイムラプス動画です。建築倉庫ミュージアム(現:ミュージアム『WHAT』)ではサスティナブルな取り組みとして、展覧会場まで建築模型を運ぶためのコンテナと、実際に展示するための台が融合した特殊な箱を新開発したのだそう。この動画では、コンテナがぐるっと裏返ってスマートな展示台に変形する様子を見ることができます。
設計は、藤井亮介建築研究所の藤井亮介氏(YouTubeより)
目立つところではありませんが素晴らしい取り組みですし、それをタイムラプスという無口な手法でさりげなく公開している塩梅にしびれます! レジ袋を一斉に有料化するのもきっと環境のために有効ですが、それとは別に、こうして美術館ならではの配慮の仕方を考える姿勢は素敵だなと思うのです。
2. 潜入! 模型保管庫
模型保管庫ツアー(IGTVより)
続いてこちらは、InstagramのIGTV(長尺の動画投稿機能)を活用したバーチャルツアー。600点以上にのぼる建築模型が収蔵されている保管倉庫を、建築倉庫ミュージアム副館長(現・建築倉庫ディレクター)・近藤以久恵氏が優しく案内してくれます。模型にズームアップする時間も長めに取られており、建築模型に馴染みがなくても「へ〜、こうなってるんだ〜」と興味が湧くことうけあいです!
木の部分が実はヘチマでできているなど、ちょっと見ただけではわからないポイントも教えてもらえるのが楽しい(IGTV「模型保管庫ツアー」より)
(IGTV「謳う建築」展覧会ツアーより)
IGTVでは、2021年5月30日まで開催していた『謳う建築』展のガイドツアー動画も公開したり、ギャラリーツアーを生配信したりも。今後も展覧会関連コンテンツの追加が楽しみな分野です。
3. しまい込むには勿体無いクリエイティビティ
最後に「ARCHI-DEPOT ONLINE」についても紹介しましょう。こちらは建築模型の保管サービスと閲覧・販売サービスを融合させたもの。建築家たちから預かった模型を保管するだけではなく、そのひとつひとつをオンライン上で公開し、同時に彼らのポートフォリオ(作例)として活用しようという試みです。
「ARCHI-DEPOT ONLINE」トップページより
建築模型のラインナップを眺めていると、丹念に作り込まれた模型はもはやアートです。鑑賞者は会員登録すれば気に入った模型を購入することも可能で、建築家にとっても模型好きにとってもWin-Winな企画となっています。
隈研吾建築都市設計事務所「JR高輪ゲートウェイ駅」
見れば見るほど行きたくなる
建築倉庫ミュージアム改め『WHAT』の多岐にわたるオンラインコンテンツを見渡してみて思うのは、建築という分野と動画の相性が抜群だということ。複雑な構造や仕組み、大きな意図を理解する上で、映像コンテンツはとてもわかりやすく親切です(しかも、理解できるまで何度だってリピート可能!)。それでいて、現地で体感する“空間の力”までは侵されることがないので、動画で完結することはなく実際にミュージアムを訪れたい気持ちは強くなるばかりです。
全体を予感させる魅力的な縮図……そういう意味において、このオンラインコンテンツそのものが『WHAT(建築倉庫プロジェクト)』の模型である、とも表現できるかもしれません。建築好きも、敷居の高さを感じている方も、ぜひ一度アクセスしてみることをオススメします!

文=小杉美香 画像=ホームページ引用

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