大橋トリオ、『ohashiTrio HALL TOU
R 2020 ~This is music too~』ファ
イナル公演ーーどんな形であっても演
奏を届けたい音楽家としての強い決意

大橋トリオ『ohashiTrio HALL TOUR 2020 ~This is music too~』2021.1.29(FRI)NHK大阪ホール
スタンダードジャズが静かに流れる会場に、アーネ・ブラウンのパーカッシブな音が大きく鳴り響きく。それを合図に、ネオンライトのビル群と「TOO.」のロゴが輝くステージにバンドメンバーが現れた。続いて、大橋トリオこと大橋好規が、ダブルピースサインをしながら満面の笑みで登場すると、場内から一際大きな拍手が沸き起こる。ピアニストのイメージも強い彼だが、この日最初に手にしたのは、エレキギター。そのギターを肩にかけたままピアノに向かい、美しい調べを奏でていく。2020年に始まり、約1年に渡って開催された2公演だけの全国ツアー『ohashiTrio HALL TOUR 2020 ~This is music too~』ファイナル公演の始まりだ。
エレクトロな音がさりげなく攻撃する「LOTUS」、大橋トリオ流シティポップ「ポラリス」と、ツアータイトルにも掲げられているアルバム『This is music too』からのポップチューンを冒頭から連発し、場内の温度を一気に上げていく。バンドメンバーは、ステイホーム期間に動画公開された、テレワークによる「EMERALD」でも息の合った演奏を見せた最強の面々だ。同じく『This is music too』からのファンキーな「Let us go」を演奏後、大橋が客席に話しかける。
「なんとかやって参りました、大阪に。いろんな葛藤がありつつ、やるなら万全の対策をしてやらねばと。今回は(日程が)ぶっ飛んだツアーでもありますから、我々は精一杯楽しんでやれたらと思ってます。(歓声は禁止だけど)手拍子も、席から立つのもいいんですって。一緒に楽しみましょう」
大橋トリオ
アコギを抱えて歌った「LIFE」の後、『This is music too』からの1曲「青月浮く海」で大橋がピアノに向かって歌う。
<奪い合うより譲り合っていたい/今手を放せばいつか又出会うよ>
<世界はこんなに今日も煌めいて>
世界の今の状況にあまりにもシンクロして響く詞と、一瞬、いつになくエモーショナルになった歌声に心を強く掴まれた直後、歌い終わった大橋が後ろ向きでタオルで顔を覆った後、照れ臭そうに言う。
「さっきは失礼しました。感極まってしまって。なんで感極まったのか自分でもわからないですけど」
『ohashiTrio HALL TOUR 2020 ~This is music too~』は、北海道や九州なども巡る全11公演の全国ツアーとなる予定だった。中止となった公演を心待ちにしていた観客のこと。医療現場などの深刻な状況のこと。さまざまな葛藤はあるが、こうやって生の演奏を通して音楽を楽しむことの喜び。大橋トリオという、穏やかな情熱が渦巻く美しい刺激。少なくともそれは、この夜ここに集った人たちにとって、未来を生きるための小さな力になっていく。
感染予防対策で20時終演厳守という時間制約がある中、「どうしても伝えたいことがある」とMCを続ける大橋。どんな重要なことが?と思いきや、「新大阪から乗ったタクシーの運転手さんが、つけ忘れていたマスクをこっそり付けた」という逸話を披露し、場内の笑いを誘う。ツアー恒例のカバータイムでは、ビリー・アイリッシュ「Bad Guy」を、コーラス+ウッドベース+アコーディオン+パーカッションという編成で、シティポップ風味の斬新なアコースティックバージョンで披露。当然、場内から割れんばかりの拍手が沸き起こる。
大橋トリオ
バンドメンバーだけによるクィンシー・ジョーンズ「Soul Bossa Nova」のカバーを挟んだ後は、大橋がピアノの椅子に腰掛けながらサンバホイッスルを吹いてバンドを煽って始まった「赤いフィグ」、ホンキートンク風味の「Parody」などを披露し、会場の熱気を再び上昇させる。そして一条の光の中、鍵盤に顔を埋めて祈るように白いロングコート姿の大橋がピアノを奏でた「Aliens On Earth」で本編が終了。再びダブルピースをした大橋が、満面の笑みを浮かべながらステージを後にする。
「今回は『This is music too』のアルバムツアーですが、もう次のアルバムが出来ました。そのアルバムのツアーはないんですが、3月3日にニューアルバムを発売します。アルバム制作中にスタジオに来てくれたバンドメンバーの神谷くんとTHE CHARM PARKくんが、「新世界ですね」って。で、以前出した『NEWOLD』というアルバムをパロって、新作は『NEW WORLD』というタイトルにしました」
アンコールに応えて再びステージに登場した大橋が笑顔でそう話す。続けて、「2月5日(金)、夜9時より、今日のライブが配信されるそうです。(ライブは)会場に来てもらって、生で聴いてもらってなんぼかなとは思ってますが、こういう状況であれば良しとしようと思うことにしました。今日来てくれた方もまた観てください」と、この夜の公演をライブ配信することを告げた。
大橋トリオ
この日も大橋は、ボーカルとピアノ、ギターだけでなく、オルガン、フルート、ピアニカ、サンバホイッスル、トーキング・モジュレーター、パーカッションなど、バンドメンバーと共にさまざまな楽器を自らも演奏してみせた。ライブはそんな彼のマルチ演奏家としての姿を目の当たりにし、音に対する繊細なこだわりを持つその世界観を体感出来る好機会でもある。それでも、「こういう状況であれば」と、先へ進むことを選んだその言葉の奥にあるのは、どんな形であっても演奏を届けたい、という音楽家としての強い決意だ。
心地よいリズムに身体を揺らして手拍子を叩く観客の笑顔があふれた「HONEY」の後、今回のツアーの最後を飾る1曲として大橋が1人ピアノに向かい演奏したのは、新曲「何処かの街の君へ」だった。星空のような美しい照明のもと、大橋トリオらしい優しい応援歌が場内に響きわたる。今はまだ夜のままかもしれない。けれど、多分大丈夫、音楽があれば必ず心に光は灯る。
大橋トリオ
※終演した20時過ぎには会場から全観客が退場するなど、ガイドラインを遵守し、感染拡大防止策も万全の中で公演は行われた。
取材・文=早川加奈子 撮影=渡邉一生

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