PANCETTA 一宮周平、世田谷区芸術ア
ワード”飛翔”舞台芸術部門受賞記念
公演『un』を語る(聞き手:徳永京子

軽さにたどり着くまでの作業を、苦しくても俳優と自分で一致させたい。
快快、FUKAI PRODUCE羽衣、演劇ユニットてがみ座など、これまで数々の才能に光を当ててきたシアタートラム ネクスト・ジェネレーション。その第13回に選ばれたPANCETTA(パンチェッタ)の受賞記念公演が今週末に幕を開ける。
パンチェッタは、劇作家、演出家、俳優である一宮周平が作品ごとに出演者を集める個人ユニットとして2013年に活動をスタート。今回の選出で初めて名前を知った人も少なくないと思うが、’ 18年のせんがわ劇場演劇コンクールでグランプリと観客賞、俳優賞をトリプル受賞、同年の日本演出者協会主催の若手演出家コンクールでも最優秀賞と観客賞をダブル受賞、演劇人コンクール2020では奨励賞受賞と、目覚ましい活躍を続けている。“演劇とコントの間”と称される作風をもう少し詳しく例えるなら、口当たりも喉越しも軽やかなのに不思議なスパイスが舌に残る、といった感じか。
『un』は、人類が進化し、食事すら必要なくなった未来が舞台。とある場所で出会った人々が、そこに来た目的を明かさないまま、少しずつ距離を近づけていくが……。
注目の今作について、また、ここに至る経歴について、一宮に話を聞いた。
PANCETTA 過去公演写真

── 演劇を始めたきっかけから教えてください。
一宮 まだちゃんと演劇に行き着いてはいないんですけど(笑)、関わり始めたのは大学を出てからです。学校の先生になろうと思って横浜国大の教育人間学部にいました。振り返るとですけど、ダンス教育で名を馳せている高橋和子さんが同じ大学出身で授業を持っていらして、近藤良平さん(ダンサー、振付家、俳優。コンドルズ主宰)をゼミ講師に呼ばれた時はすごくおもしろかった。でもそれがきっかけではなくて(笑)、大学を出る時に「これから先生を40年か。本当にそれでいいのかな」と思って。教員は免許あれば──もちろん努力は必要ですが──いつでもなれるので「その前に、ちょっと俳優やるわ」と。
── いきなりですね(笑)。
一宮 目立ちたがりというか、輪の中心にいるのは昔からわりと好きだったので、最初はノリみたいな感じです。映画とドラマは人並みに見るぐらい、舞台なんか観たことない、というところからの出発でした。手始めに入った養成所が、いろんな芸能事務所の人を呼んで公開オーディションみたいなことをよくやっていたんです。1分与えられて、その1分で何をやるかをトレーニングする。1年後に小さい事務所に入りましたけど、俳優として何ができるわけでもないし、当然仕事は来ない。僕、機会を待って地道に努力するより、自分から動きたい性分で、小さい舞台に応募してとにかく経験を積むようにしたんです。映像の仕事に呼んでもらって、自分の短い出番を別室で延々と待っているより、確実に何かが身に着くだろうと。でも何本か出ると、自分のせいでもあるんですけど、ちょっとつらくなってきたんです。友達に素直に「おもしろいから観に来てよ」と言えなくて。それで「自分がおもしろいと思える作品にお客さんを呼びたい。じゃあ書いてみるか」となりました。
── そしてパンチェッタ旗揚げですね。軽い動機とは裏腹に、建設的に動かれたように感じます。
一宮 2011年3月に大学を卒業して、パンチェッタをやろうと思ったのが2013年5月ぐらい。その時はどこまで何が見えていたかわかりませんけど、とりあえずひとつずつ前にと進めた結果ですね。
── 作風は最初から今と近かったんでしょうか?
一宮 似たようなことやっていたと思います。僕、小林賢太郎さんがすごく好きで。
── ああ……。
一宮 「ああ……」ってなりますよね(笑)。最初の頃はもうちょっと寄っていたと思います。好きなゆえに、真似していると思われるのは悔しくて、だんだん自分なりのやり方を探していった感じで、今はあまり意識はしなくなってきました。それとモンティ・パイソンも好きです。映画だと石井裕也監督の『川の底からこんにちは』 がめちゃくちゃおもしろい。それと、若手演出家コンクールに出場したいと思ったきっかけでもあるんですが、スズキ拓朗さん(振付家、演出家、ダンサー。CHAiroiPLIN主宰)が安部公房の『友達』を演出したのをコンクールでたまたま拝見して感動して、そこから安部公房好きになりました。ベタですけど『砂の女』で、文章を読んでいてどうして口の中がジャリッとしたんだろうっていうぐらい表現力に衝撃を受けました。
── これまで拝見した作品全体に、小説のショートショートに通じる展開の巧みさ、語り口の軽やかさを感じていたので、星新一さんがお好きかと思っていました。
一宮 逆に星新一はほとんど読んだことがありません(笑)。
── 『un』の戯曲は、星さんに加えて、会話の転がし方に別役実さんを感じました。
一宮 そうですね、今回かなり別役さんを意識して書きました。『壊れた風景』がとてもおもしろかったので、ああいう書き方を1回やってみようと。
── 過去の何作かを通して私が持っている一宮作品の印象は、シンプルなワンアイディアからスタートして、さまざまな角度にそれを転がしながらエンディングに持って行くけれど、転がす角度の中に笑いとシリアスの両方がある。しかも、どちらにも受け取れるヤジロベエのようなバランスでお客さんを翻弄して、最後にまたワンアイディアに戻っていく、というものです。先ほど『un』の稽古を見せていただいて、そのバランスの取り方がこれまでで最も攻めているように感じました。『un』はどう創作していったんでしょう?
一宮 おっしゃっていただいた「ワンアイディアをヤジロベエのように」じゃないですけど、お客さんの理解がひとつに固定しないように、というのは狙いとしてあります。いつもはひとつテーマを決めて、そこからいろんな要素を引っ張り出して、それぞれに「これは笑いっぽい要素」とか設定して、最後にトータルでひとつの作品になるようにしているんですね。
── 『un』というタイトルは意味深ですが。
一宮 実はこの脚本、最初は外部に向けて書いたものなんです。演劇集団円の今村祥佳(いまむらよしか)さんという俳優さんが知り合いで「何か書いて」と依頼されて。円だからタイトルは「うん」にしとこうかなというかなり単純なネーミングです(笑)。そこから「うん」と言えば、とアイデアを広げていきました。
── アイデアを広げていく過程は、言葉ですか、図ですか?
一宮 最初は図を描いていたんですけど、今は関連する言葉を思いつくままバーッと書いていきます。その作業に2ヵ月ぐらい費やして、2週間ぐらいでそれをどう構成するか決めて、最後に文字にするというのが大体の手順です。
── ネタバレになってしまうので具体的なことは避けますが、小学生の男子のネタレベルで単純に笑ってしまうことが、ふと、いくらでも哲学的に考えられるなと思えるシーンがいくつかあります。一宮さんはどの程度、そこを意識して書いて、あるいは演出していらっしゃるんでしょう?
一宮 よく「この作品で何を伝えたいの?」と聞かれるんですけど、特にないんです。ただ、「僕はこれについていろいろ考察をしてみました」というだけで。今回も、観てくれた人が次にトイレに入った時に、登場人物達のことを思い出してくれればいいんですよ。「生活が便利になっていくってどういうことなのか考えてくれ」とかじゃなくて。どこかに引っかかればよくて「あの言葉がちゃんと刺さってほしい」といった願望はあまりないです。
── 深読みしようと思えばいくらでもできますよ、という狙いもない?
一宮 そこ(舞台)に、その人なりに必死に生きている人がちゃんといれば、観ている人は笑えたり何かを感じられたりすると思うんですね。そのどこかに、つくっている側の「笑わせたい」とか「考えてほしい」みたいなポイントが見えてきちゃうと、数人であってもお客さんの中には「あーハイハイ、そういう意図でこういうことを伝えたいのね」となってしまう人が出てくる。それがいやなんです。だから俳優さんにも「もうちょっとそこ軽くやってもらっていいですか」と言うのは簡単なんですけど、その軽さにたどり着くまでの作業を、苦しくてもその人と僕で一致できなかったら、僕としてはつくる意味がないというか。だから稽古は結構時間かかります。
── 観客が「あんな人いないよ。……でももしかしたら本当にいるかも」と思う「本当」の部分を、俳優の生理とちゃんとくっつけておきたいということですね。
一宮 そうです。そこは妥協したくない。
── 今回のシアタートラムはこれまでやってきた中で最も大きい劇場ですが、何か作戦は?
一宮 外部でやった『un』の時の美術が根来美咲さんで、それがとても素敵だったので、今回初めて外部に美術をお願いしました。トラムはレンガの壁とか空間が特徴的で、それを活かすように遺跡風にしてもらって、かなり良い美術が組めると思います。
── ネクスト ジェネレーションもそうですが、一宮さんは精力的にコンペティションに参加されています。その理由は?
一宮 気持ちの部分で言うと、僕、大学までバリバリの体育会系で、陸上部のキャプテンとかだったんで、目標を立ててそこに向かっていくのが当たり前なんです。他の団体をそういうふうに思ったことはないですけど、自分の中では目標がないと進めない。ただ、勝ち負けにこだわるのは若干で、自分がこのフィールド(演劇)に入ってきたのが遅くてよそとの繋がりがあまりないので、そういうのが欲しくて応募しているところがあります。それと、自分達を知らない人が観てくれるという期待ですね。今回も新しいお客さんにたくさん来ていただきたいです。
インタビュー取材・文=徳永京子

アーティスト

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着