[Alexandros]川上洋平、ニューシング
ル『Beast』×映画『ドクター・デス
の遺産-BLACK FILE-』徹底解明イン
タビュー・前編

[Alexandros]、2年4ヵ月ぶりのフィジカルシングル『Beast』。痺れるような痛快なリフが轟くイントロから、ゴリゴリのロックを軸に、時にファンキーに、時にパンキッシュに、時にジャジーに──4分弱の中でボーダーレスなロックバンド、[Alexandros]ならではのスリリングな展開が詰まった会心の1曲だ。[Alexandros]とかねてから親交のある綾野剛主演の映画『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』の主題歌として、映画で描かれる「安楽死の是非」というシリアスなテーマと真っ向から向き合いながら、人が生きる上でつきまとう難題がいくつも盛り込まれた歌詞は、ボーカル&ギター川上洋平が常日頃から意識的に向き合ってきた事柄だという。

久々のシングル『Beast』のリリースと映画『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』の公開を記念し、SPICEでの川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」番外編として、川上のインタビューを前後編に分けて掲載!
――「Beast」は、今年のゴールデンウィーク頃に映画『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』サイドから主題歌のオファーがあったそうですが、率直な印象はどうでしたか?
原作の中山七里さんの小説は読んでたので、まずそこで「おもしろそう」って思いましたね。しかも主演が綾野剛くんで。綾野剛くんとはCM で共演してから仲良くさせてもらってるんですけど、作品としての関わりは今回が初めてだったので、すごく嬉しかったですね。それで試写会もなかなか難しい時期だったので、送ってもらった本編のDVDを観て。僕が好きなタイプのサスペンスの要素もある映画だし、すごくおもしろくて、仕事だってことを忘れて楽しんでしまいましたね(笑)。
映画を観てる時にイントロのリフがドカンと浮かんで。最初映画サイドからは「なんとなくバラードですかね」とか言われてたので、そっちのパターンの曲も作って2つとも渡したんですね。どっちも気に入ってくれたんですけど、最終的に自分が押したのは「Beast」で。結局こっちになって良かったなって思ってます。
――ゴリゴリのロックではあるんですが、2Aにジャズぽい要素が入っていたり、アウトロのテンポが早まったり、特定のアプローチで押し通すんじゃなくて、緩急や抑揚がすごくきいてますよね。
これがレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンだったら最後までこの感じでいくのかもしれないけど(笑)、うちらだったらどうなるのかなってなった時に、2Aとか間奏ではこういう展開をすることなのかなって思ってて。でもやっぱり、ロックっていう音楽は怒りをぶつけやすい音楽であるし、発散しやすい音楽であるべきだと思うので、そういう意識でアレンジしていきましたね。その上で、いろんな音楽を改めて聴きましたし。もやもやとした感情だったり、言いたいけど言えないっていう感情は、それこそ音に例えられるものだと思ってて。それをいくら言葉に起こしても、表現として音にはかなわないと僕は思ってるんです。それで、コロナ禍っていうのもあったのかもしれないですけど、鬱憤がひとつひとつの楽器のアレンジに出てるかなって。最後アウトロであれだけ爆発するのも珍しいのかなって思うし。自分たちの曲だと「Mosquito Bite」に近いところではあるけど。あと、最初はもうちょっと重くて遅かったんだけど、作ってる最中にやっぱりこの曲はガツンといきたいなって思って、もっと早くして、パンキッシュになりましたね。
■「Beast」で書かれてることは、ずっと書きたかったテーマでもある
――映画『ドクター・デスの遺産~』の内容としては、安楽死の被害者の家族の証言によって、処置を施したドクター・デスという謎の存在が明らかになって、どんどん検証が進められていきます。どこに一番共感しましたか?
ストーリーとしては、もう助かる見込みのない余命いくばくかの人たちが、苦しみながら最後を迎えるよりも、良い思い出の中で人生を終えたいという気持ちを尊重して安楽死を選ぶっていう。そのほう助をする連続殺人犯の物語で。安楽死の是非を問う、正しいことなのか間違ってることなのかっていうのを突きつけられるわけなんですけど。僕は最初、綾野さんが演じる犬養刑事の意見に共感してたんですけど、物語が進むにつれて、「同じようなことが自分にも降りかかってしまったら一体どうするんだろう」ってことを考えざるを得なくなってくる。途中から、単純に悪いことをしてる犯人を追い詰めようってことじゃなくなっていくんですよね。そうなった時の自分の選択がどうするか、ってことの揺れに対する答え探しみたいなことになっていく。そういう風にどんどん自問自答する感覚になるんですけど。もちろん日本の法律では安楽死は違法なので、間違ってるか間違ってないかで言ったら間違ってるんですけど、正義か悪かで言ったらどっちだとも言えない。じゃあどういうテーマで楽曲を書くかっていうことを考えると、世の中には安楽死だけじゃなくて、正しいか正しくないか、正義か正義じゃないか、っていうことっていっぱいあって、それに対しての議論も膨大に存在する。
それでいて、自分のはっきりとした答えを言いにくい世の中だと思うんですよね。世間の風潮によって左右されがちだし。ネット社会で、SNSの普及によって自分の意見を発信できる環境は整ってるんだけど、バッシングが起きたりするから、逆に言いにくくなってる。例えばこの映画を観て、「私は安楽死に賛成します」とは簡単に言えない。どっちの意見もいろんな立場もあるわけだから。そこで、人間の持ってるけだもの的な部分との共存を書こうと思ったんです。誰かを見た時に、「あ、この人けだものだな」「なんてひどいことするんだろう」って思ったとしても、その人にとっては自分の行いは正義だったり善だったりすることもある。善と悪の共存をバランスよく考えることも必要だよなって、僕は結論づけたんです。そういう考え方って、昔からの僕のベーシックなテーマでもあるんですよね。意見の違いや考え方の違いによって争いごとやぶつかり合いは起こってしまうんだけど、どの意見も残したまま共存していこうよっていう。
――川上さんのその基本的な思想はこれまでの[Alexandros]の楽曲にも反映されてきていますが、「Beast」はよりシンプルな言葉ではっきりと描かれてますよね。
そうなんですよね。幼少期に僕が住んでいた中東の国は、特に宗教観の問題があって。キリスト教、ユダヤ教、イスラム教があって、無宗教の人もいる中で、それぞれがどうやって生きていくかっていうことを考えざるを得ない状況で生活してたわけです。その経験も活きてるのかなって思っているんです。
政治の話ひとつとっても、誰に投票するのかを表明するのも、僕はなかなか難しい問題だと思っていて。例えば自分がそれを表明しちゃうと、ファンの人に対しては扇動にもなってしまうし、違う意見の人を批判してるように聞こえてしまう可能性もありますよね。アーティストは意見を発信するべきだ、いやしないべきだっていう議論もありますけど、僕は発信しないようにしてるんです。なぜかというと、ファンが傷ついてほしくないから。「あ、洋平さんと私は意見が違う」ってなった時に、じゃあもうライブ行けないなとか、曲聴けないなとか、あの時の思い出が全部崩れちゃうな、とか思っちゃうのが、すごく嫌で。いろんな人に自分の音楽を好きでいてほしいし、好きでいてくれた人が傷ついてほしくない。だから俺としては、そういうことは余計な情報だと思ってるんです。もちろん「アーティストは自分の意志をしっかり発信するべきだ」っていう考え方も全く間違ってないと思う。要するに「共存しよう」って思ってるんですよね。だから、この「Beast」で書かれてることは、僕がずっと書きたかったテーマでもあって。安楽死っていうひとつのテーマから、似たような、必ずしも解決できない、善か悪かっていう分けられないようなテーマに対して人間がどうあるべきかっていうのを描いた曲ですね。
――「安楽死」というテーマから始まり、人と人との表層的な会話だったり、誰だって荒々しい本性=獣の部分があるってことだったり、手を取り合おうっていう調和だったり、人間が生きる上でつきまとう重要なテーマがいくつも凝縮されていて。
そうなんですよ。自分と意見の違う人がいるのが普通で。例えば、どこの野球のチームを応援するかにしても、「巨人ファンなんだ」とか「あ、阪神ファンなんだ」とか思うわけじゃないですか(笑)。世の中には相手がいるからこそ成り立っていることも多くあって。もちろん人を殺したり、傷つけたり、明らかに良くないことはある。それひとつとっても、例えば自分の身内が殺されたとしたら、「復讐してやりたい」って思ったりもするわけで。でも、それは駄目なことで。俺も、もし自分の大事な人が殺されたら、そう思うと思うし。心の中でそう思いながらも、「犯人には更生してほしいです」って言えないと思うし。あと、自分がもう治らない病気にかかってしまって、どんどん痛みや苦しみが増していく状況なんだとしたら、安楽死を望むんじゃないかとも思う。もちろんその時になってみないとわからないけど、今の気持ちはそうなんですよね。単純に、「もうそういう運命なのかな……だったら、今の意識があるうちに……」って思っちゃう気がする。安楽死や殺人事件に関係しなくても、そういう場面には向き合うわけで。だから、そういう時にどういう対応を我々は取るべきなのかなっていうことは常に考えておきたいんですよね。
■初めて自分たちのことしか考えずに作った音が今に繋がってる
――「Beast」には「何回人生試したって 何が正解かわからないよ」「今ももがいてるよ」という歌詞もありますが、川上さんにとってミュージシャンとしての「正解」はどう変化していますか?
やっぱり、自分たちがその時に良いと思ってるものが正解なんですよね。もし失敗したとしても、音楽や芸事っていうのは、自分が作ってるものに対しての正解/不正解はないと思ってます。売上とかについては失敗/成功ってあるのかもしれないけど。そこは、もう後先考えない方が良いよねっていう境地に、どんどん至ってきてますね。もとを正せば、このバンドはデビューするまでに下積みが10年くらいあって。今の事務所に拾ってもらえたデモテープの音源って、初めて自分たちのことしか考えずに作った音だったんです。もうどこの事務所でもいいし、何なら自主レーベル作っちゃおうぜ、っていう勢いで作った作品が評価されたんですね。
それまでは、こういう音楽が今流行ってるからこういうのもありなんじゃないかって、なんとなく周りを意識してたし、レーベルに拾ってもらいやすい雰囲気のものを作ってた気がしてて。でも一切周りのことを無視して作ったものが、今に繋がってるんですよ。そうするとやっぱり自信になりますよね。自分が満足する音が一番なんだなって。もちろん、このバンドは全部が全部順風満帆なわけじゃないけど、その感覚にはその都度立ち返るし、それを持ったままずっと進んできてる。「もしかしたら」って迷うこともあるけど、やっぱりその時の自分をなじりたくないし。結局、その時に自分が「良いな」って思ったものが正解なんだって。こと音楽、芸事に関してはそう強く思います。
――売れることを正解としたとしても、そこは作ってる時はどうなるかわからなかったりしますからね。
そうなんですよね。「ワタリドリ」が広く売れたのもリリースから1年後ですからね。そのあたりはほんとどうなるか自分たちでは全くわからないですよね(笑)。
■日常のひとつひとつの要素が積もって、音が降ってくる
――音楽活動をする上で、不治の病とも思えるような致命的なことというとどういうものですか?
僕は、曲が作れないことですね。一番自信があって、大事にしてる肝の部分は作曲なんですよね。歌うことや作詞より。
――バンドでも最初ボーカルじゃなかったですしね。
そう。曲を作ることができない、させてもらえないっていうことが僕がこの世で一番辛いことだと思います。結局、曲を作ることが楽しくてやってるんですよね。提出期限があると、「ああ、作らなきゃ」って思うこともあるけど、降りてくるっていう感覚に近いので。だから、音が出てくる瞬間に対しての努力ってほとんどないんですよね。それまでの日常のひとつひとつの要素が積もって、その結果として音が降ってくるんだと思ってるので。だから、日常をどれだけ楽しく過ごすかっていうのが大事なんですよね。どれだけ真剣に遊ぶか、どうやって1日を過ごすかっていう。そういう日々を過ごすことによって、音が生まれるのが楽しみになるというか。
■最後のセリフですべてが救われた気がした
――映画自体はどういうところが見どころだと思いましたか?
すごく大きな難しいテーマを扱っている上で、エンターテインメントとしてもとても優れているんですよね。だから、シリーズ化してほしいなって思ってます。綾野剛さんと北川景子さんの刑事のバディ感も、ありそうでなかった感じなんですよね。なんとなく、どっちに対しても感情を授けることができるというか。どっちの意見も「わかるな」って思う時もあるし、どっちの意見も「ちょっとわかんねえな」って時もあるし。凸凹コンビというか……凸凸なのかな(笑)。でも凸凹の時もあるし。あのふたりの掛け合いは今回だけで終わってほしくないなって思います。ふたりがこのあとどうなっていくかも気になるし。
それに、最後にはあっと驚くような展開も待っていて、「……なるほどね!」っていう(笑)。そこはほんと単純に楽しかったし、「また別の物語で観たい」って思いました。僕が一番ぐっときたのは、最後の北川景子さんのセリフなんですよね。あの呟きというか問いかけというか。あの呟きですべてが救われた気がしたんですよね。
※インタビュー後編では、映画主題歌にかける思いや曲作りにおける根源、そして、デビュー10周年についてさらに語ります!
取材・文=小松香里
撮影=YAMA 山添雄彦 ヘア&メイク=坂手マキ(vicca)

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