宮沢氷魚×大鶴佐助が「見えない敵」
に挑む ノゾエ征爾演出舞台『ボクの
穴、彼の穴。』ゲネプロ&取材会レポ
ート

2020年9月17日(木)~9月23日(水)東京芸術劇場 プレイハウスにて、宮沢氷魚と大鶴佐助による二人芝居『ボクの穴、彼の穴。』​が上演される。
デビッド・カリ(原作)、セルジュ・ブロック(イラスト)、松尾スズキ(翻訳)による、絵本『ボクの穴、彼の穴。』(千倉書房/2008年12月10日発行)をもとに、ノゾエ征爾が翻案・脚本・演出を手掛けた舞台で、初演以来4年ぶりの再演となる今回は、ノゾエ演出の下で宮沢と大鶴がお互いを「敵」であり「モンスター」であると信じている2人の兵士役に挑む。
初日に先立ち行われたゲネプロと、その後に行われた取材会の様子をお伝えする。
『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』舞台写真 撮影:阿部章仁(Akihito Abe)
舞台は戦場。2つの塹壕にはそれぞれ一人ずつ取り残された兵士がいて、もう一つの塹壕にいる「敵」を「モンスター」だとお互いに思っている。「戦争マニュアル」を自分の「正しさ」と信じ、「殺さなければ殺される」と見えない敵と戦う毎日を送る中、まだ見ぬ「敵」への妄想はどんどん膨らみ、死の恐怖と孤独に追い詰められていく彼らが最後に選んだ道とは……。
『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』舞台写真 撮影:阿部章仁(Akihito Abe)
ボクA(大鶴佐助)とボクB(宮沢氷魚)が、それぞれの穴の中からモノローグで心情を語る形で物語は進む。二人芝居だが、大半のシーンは「一人芝居✕一人芝居」だ。違う空間にいるという設定で、直接セリフを交わさずに一つの舞台を構築していくのは、決して簡単なことではないだろう。
『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』舞台写真 撮影:阿部章仁(Akihito Abe)
『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』舞台写真 撮影:阿部章仁(Akihito Abe)
シンプルでありながらメリハリの利いたノゾエの演出が冴え渡っている。大きな穴が1つ開いた布の使い方が巧みで、舞台上の風景が表情豊かに変化するのが楽しい。原作が絵本であることも影響しているのか、遊び心が見え隠れして、これが戦争の話だというのを忘れて思わずクスリと笑ってしまう場面も散りばめられている。
『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』舞台写真 撮影:阿部章仁(Akihito Abe)
『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』舞台写真 撮影:阿部章仁(Akihito Abe)
宮沢と大鶴が演じる、等身大の青年の姿も魅力的だ。「独り」だからこそ彼らはそれぞれに本音を漏らす。ここは戦場だというのに、コンビニがないとぼやいてみたり、恋がしたいと妄想してみたり、そんな彼らの姿には「人を殺す」ということがまったく似つかわしくない。本来「モンスター」でも「殺人鬼」でもない青年が、戦争という異常事態に置かれ疑心暗鬼に取りつかれていく様に、もし自分が「彼」の立場になったとして、やはり同じ状態になってしまうのだろうか、と少しぞっとする。

『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』舞台写真 撮影:阿部章仁(Akihito Abe)
『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』舞台写真 撮影:阿部章仁(Akihito Abe)
「見えない敵との戦い」「独りで穴の中でじっとしている」という状況から、現在世界的に流行している新型コロナウイルスのことがどうしても思い起こされる。ウイルスの脅威により、異常事態に置かれている現在、誰もが少なからず以前とは違う考え方や感じ方をするようになっており、そこから人間関係のひずみや他者に対する不寛容が露見する事態も多く起きている。ウイルスの脅威に脅えて疲れた精神状態では、自分は何を信じればいいのか見失ってしまうこともあるだろう。盲目的に「戦争マニュアル」を信じる彼らの姿は、現在を生きる私たちの危うさを映し出している。
『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』舞台写真 撮影:阿部章仁(Akihito Abe)
『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』舞台写真 撮影:阿部章仁(Akihito Abe)
戦争を終わりにしたい、家に帰りたい、死にたくない、と心から願う彼らの最後の選択を、観客はどう受け取るのだろうか。そして自分が「彼」だったらどういう選択をしただろうか。ラストを見届けた後も、余韻の強く残る作品だ。
ゲネプロ終了後の取材会には、宮沢、大鶴、演出のノゾエの3人が登壇した。
『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』取材会 左からノゾエ征爾、宮沢氷魚、大鶴佐助
まず今の心境を聞かれ、ノゾエは「僕の関わる演劇作品は公演中止が続いていたので、この公演が今年初めての、本番を迎える作品。ようやく人に観てもらうことができて感慨深いものがある」、宮沢は「こういうご時世なので、ちゃんと幕が開くかどうか不安もあったが、無事に初日を迎えられて嬉しく思っている」、大鶴は「ゲネプロを終えて思ったのは、やっぱり人がいるとエネルギーをもらえて全然違う」とそれぞれコメントした。
『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』取材会 ノゾエ征爾
このタイミングで今作を上演することについて聞かれると、ノゾエは「4年前にこの作品を上演したときは、どちらかというと普遍的なテーマという部分で共感していただけるのかなと思っていたが、4年経って今この時期に多くの方がこの人物たちと似たような感覚を抱いているのではないか」、宮沢は「この状況下、人とコミュニケーションを取ったり、人の人生に関わっていくということがおろそかになる可能性が高いと思う。そういうことと面と向かったこの作品に出演していることはすごく光栄だし、いろいろ考えるきっかけになった」、大鶴は「この作品の中でお客さんと共有できるのは「目に見えないモンスター」と戦うというところだと思う。現実とかなり地続きになってると思うので、だからこそお客さんが納得してくれるような実態をちゃんと持ってやろう、とずっと稽古してきた」と、コロナ禍での上演だからこその思いを述べた。
『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』取材会 大鶴佐助
「稽古大変でしたか?」という問いに対して大鶴は「大変でした!」と力を込めて答え、「でも、稽古の帰り道にクタクタに疲れていても、それさえもちょっと気持ちよく感じていて、ああ僕は演劇とか稽古とかがやっぱり好きなんだな、と再確認した」と笑顔を見せた。それを受けて宮沢も「今回で舞台は5作目だが、こんなに稽古で身体的にも精神的にも追い込まれたのは初めて。しんどいけれどもすごい楽しくて、やっぱり芝居が好きなんだな、と思った」と充実した様子を見せた。
『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』取材会 左から宮沢氷魚、大鶴佐助
今回が3回目の共演となる宮沢と大鶴だが、稽古で相手に対して改めて気づいた部分はあったか、という取材陣の質問に、大鶴は「氷魚ちゃんがこんなに打たれ強いというか、叩かれても叩かれても立ち上がってくる、という姿は初めて見た。でも逆に役者として信頼できると思った」と稽古場での様子を暴露すると、宮沢は「いやぁもう、悔しくてね」と照れ笑い。一方、宮沢は「これまで佐助の目を見て芝居をする機会があまりなくて、今回その表情とか心情の変化とかが佐助の目から感じられて、それは普段の会話の中では出ない色なので、すごく面白いなと思った」と、大鶴の目に映る表情について語った。
『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』取材会 宮沢氷魚
上演中、雨をシャワー代わりにするシーンで宮沢と大鶴は半裸になるのだが、それについて問われると宮沢は「これまで出演したPARCOの作品すべてで、上半身脱ぐシーンがあった。だからPARCOでは“上裸俳優”みたいになっていて、その記録は更新中です(笑)」と笑いを誘った。
最後に抱負とメッセージを求められると、大鶴は「その日に来てくれたお客さんと、その日の僕たちで創り上げる作品なので、毎回違ってくると思う。一回ずつの作品を大事にしたい」、宮沢は「僕と佐助とノゾエさんで創り上げた作品を、やっと人前で披露できることが心の底から嬉しい。皆さん色々気をつけて来てくれると思うし、僕たちも体調管理をしっかりして万全の状態で毎回新しく、そして楽しい公演をお届けしたい」、ノゾエは「一つの公演を立ち上げるときに、これだけ多くの人たちが本気になって、色々なことに気をつけながら模索していることを今回改めて肌で感じた。この2人の舞台上での生き様を、僕は稽古のときから毎回楽しみにしていたので、この劇場の空間でお客さんが入って、彼らがまたどう息づいていくのか、それを千秋楽まで見届けたい」と語り、取材会を締めくくった。
『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』取材会 左から宮沢氷魚、大鶴佐助
取材・文・撮影=久田絢子

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