石崎ひゅーいと銀河の旅へ、眠れない
夜に『銀河鉄道の夜』をーーおやすみ
前の大人向け・朗読放送『深夜文学』
第一夜レポート

「ネオワイズ彗星(ほうき星)が北西の空に姿をあらわすかも」というニュースが天体好きの心を躍らせた7月19日(日)、夜22時。『深夜文学』第一夜がStreaming+で配信スタートした。これはキョードー大阪が企画した、おやすみ前の大人向け・朗読放送。
新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言以降、ライブに行けなくなり、会いたい人に自由に会えなくなり、買い物や食事も密を避けて、制限をしなければいけなくなった。感染者数の増減をハラハラしながら見守る日々。加えて飛び込んでくる、辛く悲しいニュース。生活ががらりと変わり、先の見えない情勢のなか、「これからどうなっていくのだろう」と、不安や孤独がじわじわと心に影を落とす。
眠れない、体に不調を感じる、何をするにも落ち込んでしまう……心と体に影響を受けてしまう人も増えている。一人暮らしの人は特に、なにか心を軽くしてくれるものがないとつらいだろう。キョードー大阪は、「このような気持ちに寄り添い、解消させるのはやはりエンターテイメントだ」として、あらゆるジャンルで活躍する出演者が名作文学作品を朗読する、新感覚の配信企画『深夜文学』を打ち出した。
第1弾は石崎ひゅーい。3夜にわたり、不朽の名作・宮沢賢治『銀河鉄道の夜』をオンラインで読み進めてゆく。眠れない、孤独な夜をやわらげるために。『深夜文学』スタート。
●コンセプトは「あなただけの夜によりそう「あの人」と「ことば」」●
PCの前に座り、手元に淹れたての紅茶を置いた。見えるかなと期待した彗星は曇っていて関西では見えず、やや落胆する。配信の時間になり、その想いをぬぐうように再生ボタンを押した。ジングルと映像が流れ、石崎の声で「深夜文学・『銀河鉄道の夜』」とナレーションが入る。
ネオワイズ彗星は2020年3月、コロナ禍真っ只中に発見された。7月にかけて1等級(肉眼で見える中で1番の明るさ)まで明るくなり、7月4日に太陽に最も接近。その後も消滅せずに飛行を続け、『深夜文学』第一夜のこの日も、各地で立派な尾をひいた姿が観測された。次に太陽の近くを通るのは5000年以上先らしい。軌道で飛行を続ける彗星に、思わず銀河を走る鉄道を重ねる。『深夜文学』第一夜が行われる日に彗星が太陽系を通り過ぎるだなんて、ロマンチックとしか言いようがない。
画面には石崎の姿が映る。レトロなエジソン電球のあたたかい光が満ちる部屋の中、背景には一面にレコードが並べられた木製の棚。
石崎は「不安な夜が続いていますが、いかがお過ごしですか。最近の僕はゆっくりですがレコーディングなどが始まっています」と、自身の近況を報告。「今夜は多くの人に愛される宮沢賢治の童話『銀河鉄道の夜』を朗読したいと思います。今夜から3日間、僕と銀河の旅をしながら一緒に夜を過ごしましょう」。そう言って、物語を読み始める。
『銀河鉄道の夜』の主人公ジョバンニは、漁に出たまま帰らない父親と、病気の母をもつ。家計を助けるため、朝も放課後も活版所でアルバイトに勤しんでいることから、眠くて学校の授業に集中できない。クラスメイトの多くはそんなジョバンニを馬鹿にしてからかうが、友人のカムパネルラだけは彼をからかったりしなかった。学校が終わり、クラスメイトたちが銀河のお祭りに出掛けるのを横目に、ジョバンニはいつものように活版所へ向かう。その後、母親のために牛乳を受け取りにいき、牧場の裏の丘で寝転んでいるうちに、気がつくと小さな列車の座席にカムパネルラとともに座っている。そして2人の銀河鉄道の旅は始まったーー。

本人が公式ツイッターで述べていたように、朗読が初めてだという石崎は、椅子に座り、やや緊張した面持ちながらも、ゆっくりと落ち着いたトーンで丁寧に言葉を発してゆく。高すぎず、低すぎない、あたたかい声が心地良い。
本を見つめる真剣な眼差しから、石崎が集中しているのが画面越しからも伝わってくる。母の声は優しく、先生の声は厳しく、いじめっこのザネリの声はざらりとした感触で、登場人物によって声のトーンを変えている。朗読初挑戦ということもあって、少したどたどしさを感じる部分もあったが、石崎の実直さが感じられるようで聞き入ってしまった。
第一夜では、「一午後の授業」から「六銀河ステーション」までが朗読された。ジョバンニが孤独を振り払い、自身を奮い立たせるように、口笛を吹いたり走り出す様子が印象的だった。強く生きようとしている彼の姿が、コロナ禍を生き抜く我々に何かを訴えているようで、思わずじんとした。そんなふうに思わせる石崎の声の魅力はさすがと言えよう。
このあと物語は、死者を乗せる銀河鉄道の中で出会う人々との交流を通して、本当の幸せとは何か、ということを追い求めてゆく。第二夜、第三夜では、冒頭であらすじを簡単に紹介するそうだが、見逃してしまった人にはアーカイブ視聴をオススメする(アーカイブ視聴は8月9日(日)22時まで)。
個人的には、イヤホンをつけて、パジャマで、歯磨きも済ませて、そのまま寝れるような状態での視聴を強く勧める。穏やかで落ち着いた石崎の声とともに眠りにつくのもきっと素敵だ(寝落ちしたらアーカイブ視聴!)。また、石崎の直筆文字を入れ込んだオリジナルの『銀河鉄道の夜』ブックカバーとしおりが付く、グッズ付き視聴券も販売中(販売は8月2日(日)22時まで)。
是非、石崎ひゅーいとの銀河の旅を第二夜、第三夜と最後まで続けてみてほしい。
なお、『深夜文学』は今後も継続してあらゆるジャンルの出演者によるオンライン朗読を行なっていく予定。

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