L→R 鈴木慶一、KERA

L→R 鈴木慶一、KERA

【No Lie-Sense インタビュー】
3rdアルバムで素晴らしいものを
作らないと本物じゃない

一曲3~4分くらいで2時間分の
映画を見たようなものを作りたい

カバー曲以外についてもお伺いしたいのですが、先ほど三木鶏郎の作るメロディーがポップでキャッチーだと言いましたけど、今作のおふたりが作られた楽曲のメロディーは本当にキャッチーなものばかりで、キャッチーなメロディーしか並んでないと言ってもいいと思います。

鈴木
まぁ、場合によっちゃ別のユニットだったりすると、コードだけから作る場合もあるよね。メロディーはあと回しで浮かぶまで待つ。でも、このNo Lie-Senseはまずメロディーなんですよ。“ギターのイントロ部分が思いついたから録音させて”というようなこともあるし、メロディーが先で、そこに変なコードを付けていくとかね。もう1個の特徴としては、KERAが演出するので、私がいわゆるロックっぽいフレーズとか弾くと“それはロックっぽいからちょっと半音変えたらどうでしょう?”って絶対に言われる。
KERA
あははは。
鈴木
だから、ロック的なフレーズっていうのはどんどん排除されていく。3作目ともなればそれも分かっているけど、ついロックっぽいフレーズが出ちゃうんだよね。

楽曲についてもうひとつ言えば、リフレインがわりと多いことも特徴かなと。先ほど申したキャッチーなメロディーが2度3度繰り返されることによって、さらにポップに聴こえるというようなところがほぼ全曲にあると思うんですけど、その辺りは意図的ですか?

鈴木
単に繰り返すだけでなく、だんだん増えていったりね。あと、メロディーを逆に歌ったりもしてますね。
KERA
ありますね。その辺も意識してやっているというよりも、身体の中にあるものですね。
鈴木
たださ、よくあるサビを何度も何度も繰り返して合唱化していくようなものはあんまりないね。「我等が世は」はわりとそんな感じだけど。

かと思えば、こちらが予期せぬところで終わったりもして。

KERA
そうですね。作ってるほうの我々も驚いたりします(笑)。
鈴木
違うリフレインがどんどん連続して数珠つなぎみたいになっているようなところもあるしね。
KERA
「ah-老衰mambo」も軽快にせっかく始まるのに、だんだんそうじゃなくなっていくし。慶一さんが“これ、マンボに戻っちゃったらつまんないよな”って(笑)。
鈴木
マンボに戻っちゃわないで、そんなことはなかったかのようになっていく(笑)。
KERA
歌っている人間が“どんなふうに始まったかを忘れた”ってことを歌う(笑)。

「ah-老衰mambo」の展開に歌詞もぴったり合ってますよね。

KERA
そうなんですよ。慶一さんの珠玉の一曲ですね。この歌詞が送られてきた時は本当にぶっ飛びましたから。

そうでしたか。それでは、歌詞の話が出たので、歌詞についても伺いたいと思います。このユニットは“さほど意味のないことをしよう”と立ち上げられたものだと聞いておりますし、楽曲を聴く限りも…これは私の考えですので間違ってたら謝りますが、そこに強烈な意味が込められている感じはないと思うんです。ところがシングルにもなっている「我等が世は」が好例だとは思うんですけど、“これって「君が代」を逆にしたものだ”と考えた途端、その歌詞にものすごく意味が生じてくるようなところがありますよね。

鈴木
「君が代」を逆回転にしたような…ね(笑)。

そうしますと、意味がないとは言いつつ、アイロニカルであったり、シニカルであったりはするというか。

鈴木
うん。意味はないんだけど、それが意味を成したら面白いと考えますね。歌詞を書く時は本当に思いついたままであったり、類語を調べたり、反対の言葉を調べたりして作っているわけだけど、要するに“ものすごく飛び回ればいいや”と。ひとつの情景じゃなくて、ものすごくいろんなことが一曲の中に取り込まれればいいなと思ってて。だから、すごく感覚的に作ってるよね。たぶんに思いつきではある。でも、そんな中にいろんな何かが刷り込まれてて…それをメッセージと言うとちょっとカッコ悪いしさ、きっと“そんなものはないんだよ”ってことなんだろうけど、人によっては感じるものもあるかもしれない。あと、今回、私の場合はKERAが作って来たラジオ番組の緒川たまきさんが読んでるナレーションを何度も何度も聴いて歌詞を作ってたね。「ah-老衰mambo」は雑談の中から“老衰”って言葉が出てきて、どなたかが亡くなって、死因が老衰だったと。で、“老衰って何だろうな?”って考えて、“心不全とかじゃなくて老衰ってどこか憧れる死に方でもあるな”とか。それで「ah-老衰mambo」っていうのを作ってみようと思って作って、KERAを“あっ、これは面白い”と驚かそうと(笑)。何しろKERAは世界を代表する劇作家で演出家だからね。歌詞ってのは一枚で終わるけど、KERAは分厚い本を書いてるわけですから、そこでKERAを驚かすことができたら、私はとっても満足なんですよ(笑)。ヴォーカルを入れる前の日、もしくはその日の朝に歌詞が出来上がってKERAに送るわけだけど、そこで驚いてくれりゃあ、もうしめたもんでね。KERAを相手に文字を書くのはそれとなくやっているようで、結構気合いがいりますよ。
KERA
前作でも一曲、ぶっ飛んだんだよなぁ。
鈴木
「ミュータント集団就職(突然変異でこの世は一回り)」?
KERA
それそれ! 曲はリフなんだけど、歌詞は一個も同じものが出てこない。まぁ、“意味のないものをやろう”と言ったのは1stアルバムの最初のとっかかりのキーワードですけど、意味のない言葉がメロディーに乗って楽器の音色と一緒に届くわけじゃないですか。例えば、「フニクリ・フニクラ」なんて意味が分かんないけど、♪ラララ〜ってハミングで聴くのと、《フニクリ〜》って歌詞が乗ったものを聴くのとでは受ける印象ってまったく違うでしょう? 歌詞がもたらすものって大きいんですよ。受け手ひとりひとりのイメージというか。理路整然とした“今日はこんなことがあって悲しかったので、明日からこうしたいと感じている”みたいな歌詞は心情や物語は見えるんだけど、「フニクリ・フニクラ」みたいな強さはない。演劇って基本的には理路整然としてるんですよ。歌はそうじゃないところで勝負できるところが面白い。戯曲を書いているのとは全然違うんですよね。そこで言うと、歌詞を音として届ける技が、慶一さんは本当に巧みだと思う。
鈴木
いやいや(苦笑)。でも、一曲3~4分くらいで2時間分の映画を観たようなものを作りたいと、いつも思ってはいます。

今、慶一さんのお話をうかがっていて思ったんですけど、もちろんあまねく多くの方に楽しんでもらいたいという気持ちはおありなんでしょうが、まずKERAさんに驚いてもらいたいという気持ちから歌詞を書くわけですよね? 実はそれこそがもっとも素晴らしいことなのではないでしょうか?

全員
あははは。
鈴木
まずはKERAが見るための歌詞を作ってますね(笑)。演劇は役者さんが演出家に観てもらい、その彼方にお客さんがいる。私の考えだけど。たぶん、このCDを聴く人に向けて歌詞を書いているところはないんじゃないかな? でも、物事の始まりはそういうところだと思う。だから、“元気出せよ”みたいな歌詞はないんだよ。

なるほど。おふたりともNo Lie-Sense以外にもさまざまな表現活動をされていますけど、その表現が周りからどう思われるかとか気にしないスタンスではありますよね?

KERA
そういうふたりだから衝突することがないんですよ。その分、さっき慶一さんも言っていたけど、僕は僕で自戒とか多いし(苦笑)。“あぁ、こんなんじゃダメだ! もっと深いところへ行かないと”って。深いところへ持って行くものは、くっだらないものだったりするんですけど(笑)。でも、くだらなかろうが力がないといけないとは考えますね。そういう念のようなものがパワーになっていくんだと思います。
鈴木
自分も“なるべくくだらくしなくちゃ”って思う(笑)。KERAの歌詞は繰り返しが多いけど、時々“おおっ!”というものがあって、ものすごく吹っ飛ばされることがある。

油断してるとものすごいフレーズが耳に飛び込んで来るような?

鈴木
そうそう! それがねぇ…私をずっこけさせる(笑)。そういう時に“これは練ったなぁ”って思いますよ。

なるほど。そんなおふたりのやりとりの末に産み出されたアルバムが『駄々録〜Dadalogue』ということなんですね。

KERA
うん、そうなんです。

取材:帆苅智之

アルバム『駄々録 〜 Dadalogue』2020年7月29日発売 日本コロムビア/BETTER DAYS/ナゴムレコード
    • 【CD】
    • COCB-54298
    • ¥3,300(税抜)
    • 【LP】
    • COJA-9386〜7
    • ¥5,500(税抜)
No Lie-Sense プロフィール

ノーライセンス:鈴木慶一(ムーンライダーズ)とKERA(ケラ&ザ・シンセサイザーズ、有頂天)によるユニット。1988年に“秩父山バンド”名義でシングルリリースしていたふたりだが、13年2月に“さほど意味のない音楽”をやろうと結成を約束し、アルバム制作が行なわれた。バンド名の由来はふたりとも運転免許が持っていないことからでもあるが、“LICENSE”という表記ではなく、“Lie-Sense”という表記を使うことでダブルミーニングにもなっている。13年9月に『したまちコメディ映画祭』のクロージングイベントにてお披露目ライヴを敢行し、同年11月にかつてKERAが主催していたインディーズレーベルであるナゴムレコード名義にて1stアルバム『First Suicide Note』を発表。16年には同レーベルより2ndアルバム『JAPAN'S PERIOD』を、20年7月には日本コロムビア/BETTER DAYSより3rdアルバム『駄々録 〜 Dadalogue』リリース。No Lie-Sense オフィシャルHP

OKMusic編集部

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