LEGO BIG MORLが明かすバンドの転機
「これまでやったことのない領域に挑
戦した」

(参考:LEGO BIG MORLの独自性は”1フレーズの強さ” ダンスミュージックに接近した新曲を分析)

・「神様がこうやって、僕らのために時間を作ってくれた」(カナタ)

――昨年2月のタナカさんの事故に関しては、バンドにとって大きな困難となった一方で、バンドの音楽を振り返る一つのきっかけになったように推測しています。この1年間はどうでしたか?

タナカヒロキ(G):僕は「その時間が有意義だった」とか、「あってよかった」とかは正直言えない立場なんで……結果的にそうなったら嬉しいですけど。この出来事を有効的に受け止めて、LEGO BIG MORLを止めないようにしようと動かし続けてくれたメンバーには感謝してます。そのためにリハビリも頑張れたし。楽器に触れなくても、歌詞を書いたり、色んな音楽を聴いたりと自分に出来ることをやってました。

――手を怪我してから、楽器に触ることが出来るようになったのはいつぐらいから?

タナカ:だんだんピックを持ってる感覚を取り戻して、やっとちゃんと弾けたと思えたのは去年の秋ぐらいですね。骨折とは別の症状で右手の感覚を失っていたので、その手術もして、リハビリをしてという感じでした。

カナタタケヒロ(Vo/G):僕は今まで毎日曲を作ってたようなものだったので、しんどい感じはしていたんです。でもそんな中で、これだけ時間がたっぷりできて、「一回何も考えんとこかな」って時期になったんです。「自分が音楽でどういうことをやりたいんやろうな」って考えたりもしましたね。あとはヒロキに「こんな曲出来てるから、歌詞書きや」って持って行ったりとか。音楽からは離れないようにはしてましたね。

――バンドを少し客観的に見た期間があった。

カナタ:そうですね。そのおかげで「アレコレせなあかん」っていう考え方から解放されて。まあ、これをヒロキのお蔭という話ではないですけど、神様がこうやって、僕らのために時間を作ってくれたって思える部分はあります。

――そうやって息抜きをした先に見えてきた音楽的な方向性とは?

カナタ:今までよりも「もっとのびのび音楽をやりたいな」と、シンプルさを欲するようになりました。今までのLEGO BIG MORLは「息付く暇もない、誰一人として欠けてはいけないようなサウンドメイク」をすることに長けてたと思うんですけど、何か「そこだけじゃないよな」って思って。そんな中で、“4人で一緒にスタジオに入れない”っていうのがプラスに転んだんです。

――“4人で作る”という一旦出来上がってた流れを壊す中で、これまでのLEGO BIG MORLサウンドの複雑さを、どのようにシンプルにしていったのでしょうか。

カナタ:シンタロウがPro Toolsを使えるっていうのが大きくて。音を1本1本重ねて作るしかなかったので、「あ、これいらんかったんや」とか「これで充分なんや」っていうものが見えてきたりしたんです。

アサカワダイ(Dr):音に空間が出来たからね。必要な部分が見えやすくなって。

ヤマモトシンタロウ(Ba):Pro Toolsはデモを作る際に、客観的にメンバーとかスタッフにそれなりのクオリティで聴かせることが出来るので元々使ってたんです。けど、曲作りの段階で本格的に使うのは初めてで。どこでも曲作りが出来るので、使い方次第で便利になるものだなと思いました。

――アサカワさんはドラマーとして今までアンサンブルを牽引するような演奏をされてましたが、「RAINBOW」ではまた違う「曲を活かす」リズムアプローチになっていますよね。

アサカワ:そうですね。今までは8ビートと16ビートに加えて、変拍子でキメが多くて……と盛りだくさんな感じだったんですけど、「RAINBOW」の打ち込みデモを聴いた時に、四つ打ちの打ち込み音にギターリフやベースがずっとループしていて。すごく新鮮に聴こえて全然飽きなかったんですよ。レコーディングでもスネアの鳴りを調整したり、ハイハットのじゃりじゃりした上音を排除してミュートしたりとか、新しいことを積極的に取り入れました。最終的にメロディや歌が入った時、以前よりも「自分の叩いているビートの中で、歌や歌詞が活きているな」という印象を受けるほど、聴きやすくてわかりやすかった。そういう意味で去年は自分の中で得るものが多かった1年やと思います。

――タナカさんはバンドが次のステップに行ったことに対し、何を感じました?

タナカ:精神的に落ちまくっていたので、その中でデモが届くというだけでも一つのトピックスやったし、曲を持ってくるピッチの速さにも驚いたんです。しかも早いだけじゃなくて、Pro Toolsを使ったことでデモのクオリティが上がってて。僕はそれを聴いて「うわ、すごいもん出来てるやん」っていう、いちリスナーとしての感想しか上げられへんかったんですけど。それが別に打ち込みであろうが、Pro Toolsを使ったものであろうが、LEGO BIG MORLの色がちゃんと出てるし、Pro Toolsだから出来るような大胆なアレンジをデモの段階でしてて。だから僕もすんなり乗せる言葉をイメージしやすかったんやと思います。

――そういう意味では「RAINBOW」の歌詞はスムーズにできた?

タナカ:はい。僕は去年1年間で闇を経験させてもらったので、その間に浮かんだ言葉に関しては説得力もあるだろうと勝手に思ってて。実際そこで出てきて、メモ帳に書いた言葉をなるべく使ったりとか。しかも「RAINBOW」に関してはデモの段階からピカイチで光っていたので、僕もピカイチなメモ帳のページを選んだりして。なるべく光が見えるようにというか、「暗いところに一筋の光」というのはいままであったんですけど、「晴れ渡る感じ」、「晴れ渡るであろう」心情を描きたいなと思って。自ずとそこに僕らしさは出るやろうと。

――実際の体験もそこに重なって?

タナカ:そうですね。そこは絶対やと思ったんで。

――「RAINBOW」は音の隙間をうまく活かしたアレンジで、それがメロディの印象も変えていますよね。

カナタ:そうですね、やっぱり隙間が生まれたぶん、ゆったりとした感じをLEGO BIG MORLに注入したかったんですよね。それで僕が空間系のエフェクターを使ったりするという、バンドとしてはやったことのない領域に挑戦した。結果として、こんなにも曲って変わるんやって思ったんですよね。「RAINBOW」は全部ファーストインプレッションで作った曲なんですよ。3コードやし、そこで一発目に歌メロが入って、何の迷いもないんですよね。その中で自分が段々とトランスしていってハイになっていくという構成がデモの段階であったんで。多幸感だったり、広い世界感がすごく詰まった曲が出来たんで、これは今までの僕らには無いなと思いましたね。同時に、「これだけシンプルな曲が俺らでも出来るんや」という達成感も感じました。

・「『RAINBOW』は、自然と皆を連れて行けるような音になっている」(ヤマモト)

――今までのLEGO BIG MORLは、良い意味でリスナーを緊張させるような音の密度が特徴だったと思いますが、今作はダンスミュージック的な多幸感も出てきています。

ヤマモト:この作品が今までと違う部分として、自分たちが気持ちよくなれる音を作っていって、シンプルな音でどれだけリスナーを乗せられるかという意図がありました。いざやってみると今までと難しさのベクトルが違うというか、思った以上に難しいなと。今までは内なる狂気をぶつけるみたいなライブを沢山してきたんですけど、この曲や新しいモードに関しては、ドシっと構えて中からグルーヴを出していくみたいな感じで、自然と皆を連れて行けるような音になっているんです。

アサカワ:「Wait?」は昔の面も残ってるんですけど、「RAINBOW」に関しては、四つ打ちが軸にある分、”どうやってお客さんと楽しめるか”という部分がしっかりしないと曲自体がズレるんです。昔は力ずくで「ワァー!」っていう感じだったんですけど、新曲は強弱がしっかりしてて。それがわかりやすくなる分、ドラムを叩くときの意識も変わりました。

ヤマモト:リズム隊が強靭で、リバーヴィーなギターが空間を埋めていて、歌はポップなものがストレートに乗っているという意味では、僕とアサカワが好きなミュートマスの影響があるかもしれないです。

――なるほど。今回のシングルに収録されている3曲のうち、2曲目の「絶望は希望よりも美しい」は、その言葉自体が尖ったものなんですけど、LEGO BIG MORLの元々持っているシャープな世界は健在なんだとも感じます。

タナカ:自分たちの中にあるシャープな部分に関しては、別に捨てたわけでもなんでもなくて、”引き出しが増えた”と捉えてます。今は「RAINBOW」を名刺代わりに出してますが、2曲目で牙を見せてるんです(笑)。僕らが持ってるアイデンティティをこの3曲を聴いてもらえばわかってもらえるようにパッケージングしてあるし、昔からのファンであろうが『Rainbow』から聴いてくれる方であろうが、その多幸感や見え隠れする牙を味わってもらえると思います。僕らは、みんなを連れて行くような音も、ハッピー感がある一面も手に入れたんです。

――上京してきた当初と、少し休みを入れた今では、音楽に対する向き合い方は変わりましたか。

カナタ:全然違いますね。音楽に対する基本的なソウルの部分は変わってないんですけど、聴かせ方は「ごちゃごちゃしたくない」という方向に変わったのかもしれないです。だからもっと一人一人のキャラが見えるサウンドを作りたいなと思って。

――キャラは全員濃いから伝わってた気もするけど。

カナタ:そう言われればそうなんですけど(笑)。

ヤマモト:立ち位置なんじゃないですかね。

カナタ:そうかも。どっちもリズムギターという意味では(タナカと)ギターの在り方が似通っていたので、リードギターにしっかりメロディを引いてもらうという構成に変えたんです。ちゃんと分離出来るようにして、僕がそれを支える大黒柱になりました(笑)。

ヤマモト:結成当初はみんなの“初期衝動”みたいなものを詰め込んでいて。今回こういう形で時間が出来たときには、それまで培ってきたものなんかを削ぎ落としたというか。その状況によって僕もトラックを持っていくようになったし、“4人でスタジオに入らない”っていうスタイルになったこともそうなんですけど、ヒロキ自身もそれに身をゆだねてくれました。俺らも「ヒロキはまずは歌詞に専念してくれればいい」という風に、バンドの各メンバーとしてやるべきことが明確になってきた。それを音として表現できている部分もあると思います。

――根本にある初期衝動は変わっていないと? 

カナタ:音楽に対する気持ちは変わってない。表現の仕方が変化しているだけであって、“初期衝動”って「気持ちいい!」ってことやと思うんです。それがないと曲にはしないし、人前ではやらんし。僕たちに捨て曲はないですから。

タナカ:嘘ついてる人が他に居るかどうかは知らないですけど、嘘に聴こえる曲もあったりしてるんで。僕らは今まで一貫して「捨て曲なんて無い」って言える自信はあります。みんなそうやって言うんやろうけど(笑)。

カナタ:そうやって言ったものの、フザけた曲も作ってみたいですけどね。

――今は真剣に遊んでみるっていう試みがこのバンドでも出来る気がする。

カナタ:その片鱗が出てる気はします。

タナカ:でも僕らももう大人なんでね(笑)。今年30歳なんですよ。だからその余裕も見せつつ、真剣にフザけたいなと。初期衝動で汗をかいて「オリャー!」っていう狂気は若いバンドに任せて、今の自分たちがやりたい音、似合う音をやっていこうと思います。まあワンマンなら昔の曲とかもやるんですけど。

・「これまでの立ち位置で満足しているわけではない」(ヤマモト)

――最近のバンドシーンといえば速いテンポの曲も多いですよね。

カナタ:そういうカテゴリみたいなものも出来てるんですかね。でも僕らはそこの世界に対しては答えを出したので…変拍子だったり速いテンポの曲に関しては、今までのアルバムを通して研究し尽くした部分もあるし。

――活動休止から復活したLEGO BIG MORLは、各地で若い世代のバンドとこれから共演する機会も増えると思うんだけど、キャリアを積み重ねたLEGOとしてはどんな気持ちで臨みますか。

タナカ:若い世代のバンドをライブやサーキットで見るんですけど、どのバンドも盛り上がってるし上手だし、「そら人気出るわな」って思うんですけど、僕らもこの『RAINBOW』やったり他の曲を引っ提げてこれから色んなイベントに出て、勝負できるなっていう確信はめっちゃ持てたので。勝負できるってことは勝てるってことやから。勝てない勝負はしないので。だから早く「RAINBOW」を鳴らしたいなって思います。

――演奏力も高いですし、ライブで負けることはなさそうですね。ただ一方で、コンビニなどでも流れる音楽、バンドでいうところのミスチルなどのようなポップミュージックとしてはまだ十分に機能していないと思うのですが、今回の「RAINBOW」にはそういった音楽になり得る可能性を感じました。

カナタ:リスナーへの広がりも凄く意識できるし、狭い空間で鳴ってないなとは思いますね。

タナカ:間口は広いと思います。『ブレイドアンドソウル』というテレビアニメのエンディングテーマとして使用して頂いてますし、今まで僕らを知らん人が聴いてるって思ったらワクワクしますね。たまたま俺らの音に触れるという環境にワクワクします。

――音源として色々なところで聴かれている図は想像できますか。

タナカ:触れてくれさえすればと思ってるので、「ライブ来てください」とか「音源聴いてください」って言いたいんですけどね。

カナタ:届けに行きたいですね。

――デビュー最初はルックスもいいし、すぐにテレビに出てブレイクするだろうなって思ってたんですけど……。

カナタ:すいません売れ残りで(笑)。

――いやいや、みなさんには音楽主義的で探究者っぽい部分があって、シリアスに音楽を突き詰めていったからだと思ってるんですけど。

ヤマモト:それこそこの1年間考えてきたことでもありますし、これまでの立ち位置で満足しているわけではないので。レーベル移籍をして、やっぱり少しでも耳に引っかかってもらえるようなチャンスを貰ったんで、そのチャンスを生かす楽曲として「RAINBOW」があると思っています。あとはそれに少しでも引っかかってくれた人たちに対して全力のライブを見せることが出来れば大丈夫かなって思いますね。

タナカ:ライブは復帰後に全国で何本かやったんですけど、正直手応えがありました。「RAINBOW」を大体最後の方にやってるんですけど、誰も知らんはずの曲やのに歌ってくれたり、体を動かしてくれたりしたんです。それをみて僕らもテンションが上がりました!
(取材・文=神谷弘一)

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