矢井田瞳

矢井田瞳

【矢井田瞳 インタビュー】
ライヴをたくさん
やらせてもらっているからこそ
生まれた一枚

メロディーが天から降りて来たのは
8年に1回くらいです(笑)

了解です(笑)。3曲目は「Ring my bell」。これはアコースティックアレンジではあるものの、オリジナルとコーラスも大きく変わってないですし、比較的原曲に忠実なリアレンジなのかなと思って聴かせてもらいました。

「Ring my bell」はここ最近一番ライヴでやっている曲で、“このストロークが一番気持ち良い”とか、たくさんライヴを重ねて“これが答えなのかな”みたいなものが見えたところでのレコーディングだったので、それを無茶に変えることもなく、肩の力をストンと抜いてレコーディングできたところはあります。曲にとってはとてもいいことだったと思いますね。

これ、前作の「Life’s like a love song」に近いアレンジではないかと思ってまして。

あっ、そうかもしれません。

オリジナル「Ring my bell」って間奏がサイケデリックだったりするじゃないですか。で、今回のバージョンは逆回転が入っていたり、重めのストリングスが入っていたりするわけではないのに、アコギだけでもちゃんとサイケな感じがするという。その辺りが前作の「Life’s like love song」に近い感じで、面白い符号を感じました。

ちょっとアイリッシュな感じだったりとかね。でも、それは曲自体が持っているテンションかもしれないでね。これは全曲通してそうなんですけど、あえてコードを全部変えるとか、お洒落なコードにするとか、そういうことは全然なくて、守るところは守り、キープしたほうがいいところはキープして、そこでたくさんのライヴを経て、“こっちのほうが正解かも”というところはそちらへ変える…みたいな感じで、全曲すごく柔軟に、その曲にとっての今のベストといったところで取り組めた感じなんですね。

今言われた“守るべきもの”のラインといったものはどんなところに置かれたのですか?

なるべく自分が自分の曲のリスナーになって、すごく客観的に聴いてみて、“このリフは守ってほしい”とか“ここのベースは守ってほしい”とか…結局それは自分が好きなところに偏っちゃうかもしれないですけど、そういうところは変に天邪鬼にならずにキープして、また別のところから光を当てる感じですかね。

もともとヤイコさん自身が持っている原曲のイメージを損なうことなく…といったところでしょうか?

まぁ、まったく新曲になるくらいに変わってくれても良かったんですけど、曲の持っているポテンシャルみたいなものは変えたくないという感じですかね。

なるほど。話題を4曲目「Over The Distance」へ移しますが、この曲は今おっしゃられた“曲の持っているポテンシャル”と言いますか、個人的には今回の『Keep Going』の中ではもっともヤイコさんらしさを感じたところでして。ピアノ&チェロというシンプルなサウンドゆえに歌メロが際立っていて、ヤイコさんの歌の特徴がよく分かると思ったんです。高音に抜けていくメロディーラインが連なってさらに上へ昇っていく…そういうメロディーが実に矢井田瞳的であることを改めて気付かされたというか。

そう言っていただけてありがたいです。でも、この曲のレコーディングの時、私はそこまで余裕がなくて(苦笑)。グランドピアノでのレコーディングは初めてだったんです。家にはデジピしかないので、やっぱり全然別物で、ずっと冷や汗をかいてドキドキしながら録ってました。全世界のピアニストを尊敬しましたね、“こんな繊細なことを毎回やってるのか!?”って。サスティーンペダルの踏むタイミングだったり、息遣い、強さ…“こんなに!?”みたいな(笑)。

「Over The Distance」は客観的にご自身のアーティスト性を見つめたものではなかったかと想像していましたが、実はそこまで余裕がなかったんですね(笑)。

そうですね(苦笑)。客観性はあんまり持てなかったかもしれないですけど、この曲はクリックも使ってなくて、その中でテンポの揺れもあるし、だからこその人間っぽい感じとか、そのレコーディングの日にしか出せなかった「Over The Distance」の今の感じが一番色濃く収録されているとは思います。

確かにこれもまた生々しいですよね。で、メロディーの話だけに絞ると、ご本人を前にしてこんなことを言うのもどうかと思いますけど、“よくこんな抑揚を思い付くもんだな”って思ったんですよ。

ははは。「Over The Distance」を書いた時のことを一生懸命に思い出すと、曲の裏テーマとして、自分の声の張りのあるポイントをサビに持って来ようと思ったんですよね。声がひっくり返るのが私の特徴でもあるので、そこから作ったことを覚えています。

自身の声質、性質がもっとも発揮できるところをサビに持ってきたと?

そうですね。あとは…例えば、同じ“ミ”の音でも“い”と発音すると暗くなっちゃうんですけど、それを“た”にすると明るくなるとか、そういう細かいこともやりましたね。とはいえ、あんまり考えてばかりの曲も聴いていて息が詰まっちゃうんで、感覚的にやる時間と分析してやる時間を分けて、それを合体させるやり方が多いですかね。

よく“メロディーが降りて来る”というような言い方をされますけど、ヤイコさんの場合は?

それは8年に1回くらいです(笑)。

これまでに2、3回ですか(笑)。

8年に1回、夢に見たまま書いたらいい曲ができた…くらいの、書くべきして書いたというか、“(天が)私に順番をくれたんだな”みたいな曲があるんです。2ndアルバム『Candlize』(2001年発表)に入っている「手と涙」がそうなんですけど、歌詞もメロディも一気に降ってきて。次はそこから10年くらいあと(笑)。『TIME CLIP』(2010年発表)というアルバムの「MOON」もそうでした。月を見ていたら一気にメロディーもアレンジもサウンドもイメージが全部降ってきて。

逆に言うと、曲作りする時は曲を作ろうと思って臨むのでしょうか? ギターとか鍵盤でコード弾きながらメロディーを拾っていくような。

ほとんどギターです。ただ、ギターで作ることがあまりにも続くとメロディーが似てきちゃうんですよ(笑)。だから、“このBメロ、もしかして前に書いた曲と一緒?”みたいな状態になると、1回全部忘れる意味も込めて、あまり上手に弾けないピアノの前に座って。するとまた新しいメロディーが生まれてきたり…そういう作り方ですね。私、メロディーを作ることのほうが好きで、先にメロディーを作ることが多いんですけど、そうすると毎回“どんなメッセージにしようかな”って、あとになってものすごく苦しむんですね。なので、最近はメロディーが浮かんでいても、“どんなメッセージがいいかな”とか“今、自分はどんなことが言いたいのかな”とか自分自身の心と向き合うところから始めて、キーワードは何でもいいんですけど、それがひとつでも浮かんだところからギターを持つようにしています。

音符の連なりだけでなくて、そこにどんな世界観が必要なのかを考えてから作らないと曲にはならないという感じですか?

最近、その作り方ですね。デビューした頃は、それこそ「my sweet darlin'」(2000年10月発表の2ndシングル)とかもそうですけど、デタラメ英語をメロディーに乗せて、あとでそのデタラメ英語の耳障りと意味を合わせて歌詞を書いたりしていたんですけど、それがなかなか大変で。そうやって作ると自分で書いた曲なのに歌詞が覚えられないことも多くて(笑)。それも上手く行けば楽しいものになるんですけどね。逆に“メッセージがないものにしよう”となれば、耳障りのいい言葉をまず10個集めてからギターを持ったり。そういう感じでやっています。

初期の頃のポップ感からすると、そういう作曲方法であったことは納得ですね。

感覚的な部分と、活動を経て自分なりに分析して“この辺でこれを歌いたい”みたいなものが合わさったものが、この先の10年を考えるといいかなと思いますね。

OKMusic編集部

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