大貫勇輔が語る、舞台『ねじまき鳥ク
ロニクル』の魅力とは? ー〈特に踊
る〉ダンサー8人たちを中心に紹介し
ます!
今回、綿谷ノボル役として〈演じる・歌う・踊る〉大貫勇輔に稽古場を案内してもらいつつ、特に本作の「踊り」の魅力を語ってもらった。
岡田トオルは妻のクミコとともに平穏な日々を過ごしていたが、猫の失踪や謎の女からの電話をきっかけに、奇妙な出来事に巻き込まれ、思いもよらない戦いの当事者となっていく。
インバル・ピント(左)とアミール・クリガー。二人で頻繁にディスカッションをする姿が見られた。
ちょうど、クレタとトオルが会話するシーンを稽古していた。クレタにダンサーたちがまとわりついている。一人一人が各々踊るのではなく、互いの動きを感じあいながら、一体となって動く。それは、クレタの内面を細やかに表現しているようにも見えるし、その場を支配する空気感そのものにも見える。絶えず呼吸を感じるように、身体を動かす。それをなんと言えばいいのだろう。「幻想的」といえばいいのだろうか、とにかくとても独特で、不思議な光景だった。
−−インバルの振付を実際に受けられて、どのような印象をお持ちですか。
インバルもアミールも藤田さんも、ダンサー、音楽家の方々、演者も、みんなで手探りの状態ですね。振付が多かった場合は削るし、何かが足りなかったら足すし。日々、台本にしてもムーブメントにしても変更の連続です。だから毎日その変化に対応していくのに必死ですね。
大貫:『100万回〜』の時は原作が短かった分、膨らませる部分が多かったんですね。元にあるストーリーをちゃんと追いながらも、お客さんが見ていて「あぁこんな風に膨らませたんだ」と感じるような、インバルの独特の世界観がより強調された印象だったんですけど、今回はその逆です。長いものを短くしなければいけないので、その難しさや大変さがありますね。
大貫:1幕の11場。稽古場での通称は「レイプシーン」となっているんですけど...クレタとノボルのダンスシーンがあります。昨年(2019年)10月のワークショップの段階から、徳永さん(※徳永えり)と色々ディスカッションさせてもらいました。振付自体は本稽古が始まってから3日で出来上がって。徳永さんは昔踊りをやっていたけど、そこまでやっていないと仰っていたのに、ものすごいレベルのコンタクトをされるので驚きましたね。すごいなぁと思いながら、一緒にやらせてもらっています。
あとは、1幕9場のオークションのシーンもダンサーと絡むので、一つの見せ場だと思いますね。
大貫:僕は二十歳の時に初めてニューヨーク行って、ダンススタジオで出会ったのが大ちゃんでした。一緒にニューヨークのクラブに行ったんですね。黒人の方たちがサークルを作って、ヒップホップを踊っているんです。大ちゃんは、その円の中に入っていって、コンテンポラリーダンスを踊った(笑)。いやぁ、ものすごい勇気だなと思いましたね。それが僕の第一印象です。
そこから彼はずっとニューヨークで活動していて、日本に帰ってきて。よく飲みにいったりはするんですけど、仕事を一緒にするのは初めてですね。今回の舞台では、オークションのシーンで少しだけ絡みます。
−−加賀谷一肇さんはいかがでしょう。
大貫:かー君は、僕が22歳の時に『GQ-紳士の品格- Chocolat ショコラ ヘンゼルとグレーテルより』(2011)というダンス公演に出演した時に、初共演させてもらいました。同い年なので、俺らの世代も頑張ろうね、なんて言って、一緒にやってきました。かー君は子役からずっとやってきているので、本当にいろいろなことが分かっていて。僕は23歳から『キャバレー』(2012)などお芝居の世界にやっと足を踏み入れた感じです。
本当に尊敬する俳優であり、ダンサーです。同世代なので、ライバルというか、同志というか、仲間として結構意識しています、いつも。
大貫:ロンさんは、小野寺修二さんの作品『シレンシオ』(2013)に、バレエの首藤康之さんと出られていた時に初めて見て、この人すごいなと思いました。動物のように野性的に踊られている、すごい魅力的なダンサーだなと。それから、友人の飲み会でたまたまお会いして、その時の感想をそのまま伝えました。その飲み会ぶりの今回の舞台です(笑)。共演は初めてですね。ロンさんの踊り、大好きです。
−−笹本龍史さん。
大貫:笹本さんもニューヨークに行かれていて、ブルックリンに住んでいたんですよ。二十歳の頃、僕も遊びに行かせてもらって、家に泊まらせてもらいました。僕の師匠の辻本知彦さんと笹本さんは仲良くしていて、何度か一緒に飲ませてもらったりもしましたね。いまは、山口県で、奥さんと一緒にダンススタジオをやられています。本当に優しくて、物腰柔らかな方で。大好きな人ですね。
大貫:東海林さんとの最初の出会いは、結構前なんですよ。確か、ダンスのイベントで初めてお会いして。東海林さんが一緒にお仕事している、ダンサーの平原慎太郎さんと僕が共演したことをきっかけに(平原さんと)すごく仲良くさせてもらっていて、その流れで知り合いました。
彼は北海道に住んでいるので、なかなか会えないのですが、彼が踊る作品は結構見させていただいています。独特の空気感が魅力的な方だなと思います。
−−鈴木美奈子さんはどうでしょう。
大貫:美奈子さんは『100万回生きたねこ』の時に初めて共演させていただきました。なんだろう、変わらないですね。美奈子さんと、まゆむ(※皆川まゆむ)と、銀粉蝶さんの3人だけが、『100万回生きたねこ』から、ほぼ皆勤賞で出演されているんじゃないかな。だから本当にいろいろな部分で助けてもらっています。
大貫:西山さんは、ダンサーの平山素子さんの作品によく出られていて。僕は平山さんの作品に出させていただいたことがあるのですが、別の作品で西山さんが出られていて、それを見に行った時に、ものすごい強靭な体を持っていて、本当にすごいなぁと、ずっと思っていました。今回初共演で、嬉しいですね。
−−最後に、皆川まゆむさんはいかがでしょう。
大貫:まゆむは19歳の時に初めて会いました。DDDという雑誌のイベントで一緒に踊らせてもらって。それからの仲で、いろいろ喧嘩をしたこともありましたが(笑)、本当に尊敬する親友ですね。
大貫:本当にその通りです。コンテンポラリーダンスと言ってもさまざまで、本当にいろいろなスタイルがあります。特にこの8人はみんな違うスタイルなんですよ。なので見ていて面白い。僕、日本のコンテンポラリー界ってものすごくレベルが高いと思うんです。その中でも素晴らしいダンサーたち、僕も舞台で素敵だなと思うダンサーたちが集結したなという印象です。
大貫:まゆむが振付助手として入っています。彼女はイスラエルでも踊っているし、インバルと長くやっている。国によっても人によっても作り方が全然違うなか、初めて関わる人との間に入って、つなぎとしての役割をしてくれています。まぁみんな結構海外の人とクリエイションしてきているので、スムーズではあります。自分たちで「ああいうのどうだろう?」「こういうのどうだろう?」とディスカッションしながら作っている感じはすごく楽しそうですね。
ダンサーたちは出番がかなり多い。(〈演じる・歌う・踊る〉の)僕らは稽古時間がぎゅっと詰められている感じなんですけど、ほぼ毎日稽古場に来ています。大変だろうなぁ、と思いながら見ていますよ(笑)。
−−今回の『ねじまき鳥クロニクル』はミュージカルではないですよね。ご覧になるお客様はどう見たらいいのか、何かアドバイスをいただけますか。
そのミックスしている状態をうまくお客さんに届けて、「新しくて今まで見たことのないものを見られたね」と言っていただけたら、成功なんだろうな。そう思いながら、みんなで稽古をしています。
大貫が見どころの一つとして挙げた、オークションの場面。大貫の後ろで、ダンサーたちが忙しなく、機械的だけれど、ドラマを物語ながら動く。
−−なるほど、では、他の舞台と違う点を挙げるとすれば、新しい「融合」ということでしょうか。
大貫:そうだと思います。『ねじまき鳥クロニクル』は深いところで融合しているような気がします。
小説は本当に有名な小説なので、読まれている方はたくさんいると思うんですよね。なので読まれた方が舞台を見たら「なるほどこういう風にしたのか」と思うだろうし、読んでいない方が見たら、分かるところと、分からないけど、「この分からなさがなんだか心地いいな」と感じていただけるようなところを目指しています。
舞台をやりながら難しさを感じるのは、村上春樹さんの本って、多分、読者によってイメージする絵が違うんですよね。最初に大変だったことは、そのイメージを共有することでした。インバルやアミール、藤田さんが思っている世界観と、僕が読んで感じた世界観の「ギャップ」のようなものがあった。例えば、僕が演じる綿谷ノボル。絵コンテを見ると、ヒゲをつけて、思ったよりも老けているイメージでした。
大貫:本当にいい意味で不安です(笑)。これは日々ずっと変わっていくだろうなという予感がしています。インバルもアミールも「これってもっと良くなるよね?」という話しかしない。だから、いろいろと変えようとするんですよ。どんどん破壊と再生というか、クリエイションを続けている。これは僕ら演者にとっては不安ですよね。固めたいのに固めさせてくれないから。でもそれが日々良くなっていく方に更新されていくので、いい意味の不安として捉えています。
−−初日と千秋楽は全く違うものになっているのかもしれませんね?
大貫:それが本番中も変わるのかどうかはまだ分かりません。ただ、お客さんによって反応は違うと思います。お客さんの心のポジションや波によって、印象に残るシーンは大きく変わると思うので。そういう意味だと日々変化していくのではないかなと思いますね。
大貫:心地よい“分からない”を届けられたらいいなと思いながら日々稽古をしています。ダンスと歌とお芝居の融合の心地よいところを全力でみんなで模索しているので、ぜひ、今まで見たことのない舞台というものを体感しに来てもらえたらうれしいなと思っています。
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