加藤清史郎「コナンの生き方にはすで
に僕も影響を受けています」 舞台『
未来少年コナン』インタビュー

2023年に放送45周年を迎えた宮崎駿の初監督アニメーション『未来少年コナン』の初の舞台化が実現した。主人公の野生児・コナンを演じるのは、幼少期から芸能活動を始め今も日々エンタメの世界で研鑽を積んでいる加藤清史郎。「いつかは演じてみたかった」という宮崎作品への参加と、その芸術性をリスペクトしていた演出家・インバル・ピントとの出会い。自身にとって嬉しいことだらけの大きな挑戦を前に、その高鳴る心の内を語ってくれた。
──長年多くのファンに愛されてきた「未来少年コナン」の舞台化はまさに大きな大きなニュースでした。まずはコナン役に決まった際のお気持ちからお聞かせください。
喜びはあったんですけど、それはもう何段階も後に湧いてきた思いで、最初はほんっとに衝撃を受けました。
まず作品が『未来少年コナン』である。タイトルしか存じ上げなかったんですけど、聞いた時すぐに「あ、あれだよね!」ってコナンたちの顔が浮かぶくらいの伝説的作品であること。そして演出をインバル・ピントさんが手がけること、さらに劇場は観客として何度も足を運んでいる大好きな劇場、東京芸術劇場のプレイハウスであること──とにかく自分が知っている非常に大きな名前がずらりと並んでいて、このタイミングで自分がいつかはご一緒してみたいと思っていた人や場所全てが集結していたんです。本当に「出会いって…すげーっ!!」と、かなり強く思いました。しかも主役のコナンとしてなんて、「う〜わ〜まじか〜」って(笑)。
企画書に“奇跡の舞台”と書かれているこの作品でまさに僕にとってのひとつの奇跡がったことは本当に身に余る光栄で、だから「喜び」とか「誇り」とか「嬉しい」とかっていう僕自身の感情はたくさんあるんですけど、それよりも先に、楽しみにしていらっしゃる方がこれでもかっていうくらいにいるところに足を踏み入れさせていただくことに、「やばいぞ。その突っ込んだ足、掬われるなよ」と。(足を)突っ込むからには、ひたすら力強く一歩一歩踏み込んでいかないとっていうのが、最初の気持ちですね。
──原作アニメもご覧になったかと思います。近未来、最終戦争後の荒廃した地球を舞台に繰り広げられる冒険活劇。この物語の印象は?
まずは「本当に何十年も前の作品なの??」と。絵のタッチももちろん素晴らしいんですけど、何十年も前に書かれた未来のお話なのに本当に今現代の事柄が描かれているというか、「ここで表現されている状況や問題って現代社会で議論されていること…じゃん? うん、まんまこれだよ!」って思いましたし、だからこそこのタイミングで実現した“奇跡の舞台化”なんだろうなぁって思いました。
『未来少年コナン』って、コナン少年が偶然出会った一人の少女・ラナのことを思って駆け巡る冒険活劇な面もありますが、その裏に隠されたことのほうが実は表というか、ものすごい表裏一体があるように思います。人と、環境と、時代とっていう三点が密接に関わり合って物語として紡がれているすべてが、全然回りくどくなく真っ直ぐにこちらに伝わってくる。
コナンもまたものすごく真っ直ぐで、心の熱い少年で、ザ・主人公ではあるんです。でも、相手に「こうだろ!」ってストレートに殴りかかってわからせるってタイプじゃなくて、自分から吸い付いていってしまうというか、そこが他の主人公たちと違いますね。
──戦う姿勢が前提のヒーロー像とは違う存在。
……なんでしょうね。「熱く語って説得する」っていうのでもないんですよ。コナンは別に自分がこう思うということに徹しているわけでもないし、だから相手にも何かメッセージを投げかけようということもないんだけれど、コナンの言動を見ている周りの大人たちが勝手に彼に感化されて変わっていって、大人が変わることで、環境も、時代も、変わっていく。コナンが詳細に未来のことを考えているかっていうと、そうでもないでしょう? 自然児なので。そこでラオ博士がコナンとコナンの友人のジムシーに言うんです。「本物の太陽で育ったお前たちに今後の未来を託す」みたいなことをね。そんなことを博士に「言わせる」少年なんですよね。それがこの作品の、このコナン自身の魅力だなぁって思います。
──ナチュラルボーンなありのままの人間力。演じる上でも芯になってくる部分ですね。
もちろん。でもそれは役者としてコナンを演じるからというだけじゃなく、加藤清史郎としてもそこにはホントに何か動かされるものがあるので……コナンにはもうすでに俺も影響されてるじゃん!って感覚が凄いです(笑)。なんかもう「なんでもっと早く観てなかったんだろう」って思いました。将来、自分の子供にも『未来少年コナン』のアニメは絶対観せたいなって決めています。
──この舞台が『未来少年コナン』との出会いとなるお客様、お子さんもいらっしゃるでしょうし。
ああ、それは……どんな人に育っていくんだろう! アニメとの出会いも素敵だけれど、“インバル・ピントさん演出の舞台『未来少年コナン』を観る”っていう体験はまた、相当特別ですよね。インバルさんの“シンプルな方向を選ぶからこそ複雑なアートとしての表現”、そこに違和感なくコナンの世界が存在するっていうことを同じ空間で体験した子どもはどう育っていくのか。それ、すごく楽しみですね。うん、ぜひこの観劇が初めての『未来少年コナン』体験という方たちがたくさんいてくださったら楽しいな。
──すでにワークショップも始まっているとお聞きしました。
今のメインはやはり身体表現ですね。インバルさんの作品って、身体が100%あったら、120%まで全部を使ってやるような動きを駆使して作品を構成しているものが多くて、今回も超人的な体力とか(笑)、筋力とか、一見普通の男の子なのにそういう高いポテンシャルを持っているコナンという少年と、荒廃している社会。そういった『未来少年コナン』ならではの世界観を具現化するにおいて僕もそういう動きが必要だよねってことで、トレーニングを始めています。コンテンポラリーダンス的な表現も多いのでそのレッスンも受けて、まずは自分の持っている本質的な部分を磨くことから始めさせてもらっています。
初めにも少しお話ししましたが、インバルさんの作品はこれまで映像でですが何作も触れさせていただいてましたし、色々な諸先輩からもお話し聞いていたりする中、いつかはそのご縁を手繰り寄せたいと思っていたクリエイターのひとりです。そして、宮崎駿さんも小さい頃からぜひ監督の作品に参加させていただきたいと思いながらもなかなか……しかも、映画も「もうこれが最後の作品かも」ということも言われていたりしましたから、「ああこれはもうご一緒できるチャンスはないかもしれない」と思いつつ過ごしてきたので、まさかこんな形で関わることができるとは思わなくて。本当に夢みたいな状況です。少し前にドラマの現場で宮崎監督の『君たちはどう生きるか』の眞人役をやった山時聡真くんと一緒になったんです。そこでこの舞台のことを伝えたら「まじかっ!?」ってすごく喜んでくれて。「招待してね!」って言われたので、「いや、チケット買えよ」って言っておきましたけど(笑)、そういうのも嬉しいですよね。でもやっぱりただただ嬉しいって喜んでいる場合じゃないだろうなって……
──自分にとってでっかい山がそこに待ち構えている実感が。
もう初めて見たくらいにでっかいでっかい山だなって思います。でもこの山って越えようと思えば越えられるんだよなぁと。なんて言うんですかね、山って歩くことができれば絶対に越えられるものである。それに僕は歩ける。でも本当にこれを超える体力はあるだろうかと。
──自分で自分を測っている状態?
……まさに。だって本当にでかいですよ! でもその山を削り取って進みたくはない。小手先に頼ることなく、山の大きさそのものをそのままの状態でちゃんと登っていきたいので…だからこそきっと大変。そしてそれは自分の力だけじゃ絶対ダメ。モーゼみたいにぱ〜っと切り裂けちゃったらすごいんですけどね(笑)。あの山を登るにはやはりカンパニーのみなさんとも力を合わせていかなければ無理だし、そもそもそこで僕の力が不足していては登れないなぁと思うので、心身共にいかにその “体力”をつけるかが、僕の今の課題ですね。
──身ひとつで黙々と山を登っていく加藤さんのイメージと、裸足で大地を踏み締めて生きるコナンの姿が重なりました。
ハハハッ(笑)。でも本当にそう。コナン自体が身体表現の塊みたい。垂直でも登っちゃう、しかもラナを抱えてね。もう、なんなんだ!? 本当に身体の使ったことのない部分も使わないとやれないので、日々リハビリみたいな感じですよ。使わない筋肉、関節、線、をいかに引き出せるか。小手先で生きていないコナンだからこそ、体の柔軟性も大事ですし、自分のいろんなところと向き合ってコナンに近づいていかないと難しいよなぁ〜って思いますね。
──現実に現れたコナン、加藤さんにお似合いの役だと思います。
ありがとうございます! お似合いになれるよう頑張ります(照)。インバルさんの演出は身体表現のみならず、舞台のセットも照明も、舞台上のありとあらゆるものを使って……普通に椅子が宙に浮いていたりしますからね。そこで俳優が一回転したり、逆さにぶら下がっていたり。『100万回生きたねこ』の森山未來さんのようなことを、きっとコナンもやるはず。お芝居と共にテクニカルな部分も操らなくてはいけないので、なおのこと、まずは自分が自分の身体をちゃんと操れないと! とにかく本番へのイメージが広がれば広がるほど「ようし! 俺がコナンだ」と自分に強く言い聞かせていますし、自ずとそう言えるようにならないとこのステージには立てない、ので、そうなりますよ。「僕がコナンです!」。ハハハッ(笑)。
──“挑む心”が響いてきます。観客としてもますます本番への期待が膨らみますね。
この『未来少年コナン』は舞台の良さというものがより際立つ作品であり、スタッフ、キャスト陣だと思っていますし、そこに自分がいる現実をすごく実感しています。また、劇場に、本当に“そこ”に『未来少年コナン』の世界と空間があって、お客様も共にその世界に「入る」体験ができることを、すでに今、僕は確信しています。もう、すんっごいことになると思うし、すんっごいことにしなければいけないと思っています。……ほら、観たくなってきましたよね? フフッ(笑)。これをきっかけに、舞台と原作アニメ両方を行き来して楽しんでいただくのも面白いと思います。老若男女で楽しめる作品です。どうぞよろしくお願いいたします。5月なんて、もう、すぐです。(指折り数えつつ)……わ、本当にすぐじゃないですか!! ぜひ心の準備をしてお待ちくださいね。僕もめちゃめちゃしていますので(笑)。
<スタッフ>
スタイリスト:古舘謙介
ヘアメイク:Ken Nagasaka
<衣裳クレジット>
ブルゾン ¥41,800/Barbour
ジャケット ¥38,500、ネクタイ ¥8,580、パンツ 参考商品/ともにKent Ave.
シャツ ¥14,300/SENTINEL
靴 ¥44,000/42ND ROYAL HIGHLAND Navy Collection(42ND ROYAL HIGHLAND)
眼鏡 ¥48,400/金子眼鏡(オプティシァンロイド)
時計 ¥41,800/BRISTON(UNBY GENERAL GOODS STORE)
サスペンダー/スタイリスト私物
取材・文=横澤由香 撮影=岡崎雄昌

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