BUMP、冨田勲、渋谷慶一郎……初音ミ
クと大物アーティストがコラボする意
義とは?

 この曲は、ニューアルバム『RAY』の収録曲「ray」の別バージョン。初音ミクの歌声プログラミングはkzlivetune)が、ミュージックビデオの監督は東市篤憲(A4A)が担当し、リアルタイムでバンドと初音ミクの共演が実現した。
 両者のファンは勿論、広く音楽ファンにも衝撃を持って受け止められたこのコラボレーション。YouTubeのコメント欄やツイッターの反響を見る限りでは、かなり賛否両論の反応も巻き起こしてもいるようだ。そこで、この原稿では、BUMP OF CHICKENと初音ミク、その両方の流れを追ってきた人間として、この「異色のコラボ」が、いかに必然的な結びつきだったのかを解説したい。
 まずはBUMP OF CHICKENの側から見た初音ミクについて。バンドはこれまでボーカロイドのシーンとは直接関わってきてはいない。しかし、そもそも彼らがアニメやゲーム的な想像力、バーチャルなキャラクターに対する愛情と相通じる感性を持つバンドであることは間違いない。たとえば初期の名曲「アルエ」が『新世紀エヴァンゲリオン』のキャラクター・綾波レイにインスパイアされた曲だというのは、ファンの間では有名な話だ。またアルバム『RAY』収録曲の「ゼロ」でゲーム『FINAL FANTASY 零式』主題歌をつとめたときも、単なるタイアップだけに留まらないファイナルファンタジーシリーズへの強い思い入れを明らかにしている。
 筆者が担当した特設サイトのインタヴューでも、「僕は実は、こういうコラボレーションが夢だったんです」(直井由文)、「敬意を感じずにはいられなかったし、とても素敵なことだと思いました」(藤原基央)など、今回のコラボにかける意気込みを語っている。
 一方、初音ミクの発売元であるクリプトン・フューチャー・メディアにとっても、今回のコラボは大きな意味を持つものだった。撮影にあたっては、クリプトン社が「14(イチヨン)モデル」という新たな3DCGモデルの初音ミクを制作。ミュージックビデオには企画段階から関わり、リアルタイムで初音ミクの動きを制御するプログラムを開発し、撮影・収録にあたっても全面的に協力したという。初音ミクのオフィシャルYouTubeチャンネル「39ch」では、制作の背景を追うドキュメンタリービデオも公開されている。

 実は、初音ミクと第一線のプロミュージシャンのコラボは、2010年代に入ってきてから行われるようになった新しい動きだ。00年代後半のボーカロイドのシーンはあくまでアマチュアミュージシャンたちが中心になって作り上げたものだった。ボカロPがメジャーデビューすることはあれど、メジャーな領域で活動してきたアーティストが初音ミクとコラボすることは、なかなか無かったわけである。
 その先陣を切る大きな動きとなったのが、2012年11月に世界初演された冨田勲による『イーハトーヴ交響曲』だった。

 宮沢賢治の物語世界をモチーフに、総勢300人におよぶオーケストラ・合唱団と初音ミクが共演したことで話題を呼んだこの作品。日本が世界に誇るシンセサイザー音楽のパイオニアと初音ミクとのコラボにあたっては、クリプトン社が全面的に技術開発に協力している。実は、この時にクリプトン社が独自開発したスクリーンを元にした「イーハトーヴ仕様スクリーン円筒版」が、今回の「ray」のミュージックビデオ撮影にも用いられている。
 そして、続いて初音ミクにとって大きなコラボとなったのが、ルイ・ヴィトンの衣装提供も注目を集めた、渋谷慶一郎+初音ミクによるボーカロイドオペラ『THE END』だった。
 2012年の年末に山口情報芸術センター「YCAM」で初演された同作は、2013年5月にはBunkamuraオーチャードホールにて上演。11月にはフランス・パリのシャトレ座で上演され、世界的な評価を獲得している。この『THE END』のプロジェクトにプロデューサーとして携わったのが、クリエイティブカンパニーA4Aの東市篤憲氏。今回のミュージックビデオ「ray」の監督だ。

 つまり、初音ミクの側にとっても、今回の「ray」は、『イーハトーヴ交響曲』『THE END』と積み重ねてきた“本気”のコラボレーションの流れに繋がるものだったわけである。

 今回、初音ミクの歌声のプログラミングを手掛けたkz(livetune)は、「Tell Your World」などボーカロイド楽曲の数々を手掛けてきたシーンの代表的なクリエイターの一人。今回のコラボにあたっては「誠心誠意、一ファンとして尽力しました」と、ツイッターにてコメントを発表している。彼と同じく、20代の音楽リスナーの中には、中学生や高校生の頃にBUMP OF CHICKENにハマり、大学に入ってから初音ミクに出会ったという世代の人も多いだろう。

 また、近年では初音ミクのファン層が低年齢化し、リスナーは女子中高生や小学生にまで裾野が広がっている。そういった人たちの中には、今回のコラボがBUMP OF CHICKENというバンドに触れる初めてのきっかけになる人も多いはずだ。これを機会に、バンドの持つ思春期性が新しいリスナー層に改めて大きな魅力となって伝わることも予想される。

 今回のBUMP OF CHICKEN×初音ミクのコラボが、お互いにとって、そして今後の音楽シーンにとって、大きな布石となることは間違いなさそうだ。(柴那典)

リアルサウンド

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