放送禁止歌はただの自粛

 その後1960年代後半から1970年代にかけて起こったフォークソングブームが、放送禁止歌の流れに拍車をかけることになる。
 高田渡の『自衛隊に入ろう』(1969年)、岡林信康の『くそくらえ節』(1969年)、赤い鳥の『竹田の子守唄』(1969年)等、権力に抗う姿勢が大いに受け、時代の流れにも乗って若者たちの支持を集めていった。
 しかし、抗議や苦情を恐れた放送局は、事態が発生する前に転ばぬ先の杖的な対応として、問題が起こりそうな楽曲は全て自主規制してしまった。現に、前述の3曲も放送禁止歌として有名だが、実は「要注意歌謡曲一覧表」には入っていないのである。典型的な自主規制の例だ。
 まだ何もトラブルが発生していないのに自主規制をしてしまう習慣だが、当時を知る人物によると、「スポンサーからの抗議」と「放送事業が国からの許認可制であること」に原因があるという。

事なかれ主義のマスコミに問題

 1980年代以降になると、音楽シーンにはある変化が見られてくる。これまでのフォークソングに変わってニューミュージックやアイドルの曲が人気を獲得。ポップで聞きやすく、歌詞も親しみやすいものとなってきた。そんな中でも原由子の『I Love Youはひとりごと』(1981年)やおニャン子クラブの『セーラー服を脱がさないで』(1985年)など、一部で規制を受ける楽曲は後を絶たず、メッセージ性のある曲はますます鳴りを潜めてしまう。
 なぜならこの時代は、1970年代には現場で働いていたスタッフが、管理職になって権限を持っており、少しでも疑わしい曲は暗黙の了解で放送を自粛する、という空気が残っていたためとも言われている。クレームがなくても条件反射のように、「ヤバいからやめておくか」と自粛するのが現場では当たり前だったそうだ。

 放送禁止歌の構造を見てみると、摩擦を徹底的に避ける「事なかれ主義」、現場スタッフの「想像力の欠如」、単純な「決め付けと思い込み」という、どうにも体たらくなマスコミの姿勢が浮かび上がってきた。こんな理由で被害を受けた人がいると思うと、腹立たしさを通り越して呆れてしまう。まさに放送禁止歌問題には、現在マスコミが抱える諸問題が集約されているのだ。

(文・編集部)

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