中山優馬「心が折れてもまた立ち上が
っていきたい」と役作りに覚悟『The
Silver Tassie 銀杯』制作発表会

中山優馬出演、森新太郎演出の舞台『The Silver Tassie 銀杯』が、2018年11月9日(金)から25日(日)まで東京・世田谷パブリックシアターにて上演される。これに先駆けて本作の製作発表会見が同劇場内で行われ、出演者を代表して中山と矢田悠祐、横田栄司、浦浜アリサ、安田聖愛、三田和代、そして演出の森が登壇した。
森新太郎
本作を生み出した劇作家ショーン・オケイシーは地元アイルランドでは著名だが、日本ではほとんど知られていない人物。そんなオケイシーの作品と森が出会ったのは翻訳を担当したフジノサツコの薦めによるもの。「日本でできるのか、と思い粗訳を読んだら非常にパワーのある作品で圧倒されました。アイリッシュ作品に多い剥き出しの感情や人間のエネルギーが凝縮されており、またアイリッシュならではの痛烈な皮肉(アイロニー)に満ちていました」と作品から受けた強烈な印象を説明する。また、そのような作品を今この時代に上演しようと考えた理由について「我々は日常的に『人を叩きのめそう』『人を支配しよう』『人を排除しよう』といった野蛮な状況を目にしますが、それは戦争の野蛮な状況と地続きであり、ものすごく関係性がある我々が日常的に行っていることが戦争として露出しているだけなので、そこから考え直さなければいくら『戦争反対』と言ったところで『じゃあてめえを見てみろよ』とオケイシーに言われているような気がします。痛烈なメッセージを込められた実に挑発的な作品だと感じました。今やるべき作品」と一気に語った。
中山優馬
本作の稽古は5日前に始まったとのこと。主人公ハリー役の中山は、将来を嘱望されていたフットボール選手役。皆に送り出されて戦場に行ったが、戦争で負傷し車いす姿で帰ってきたら自分の居場所がなくなっており、疎外感を感じてしまうという役どころ。
中山は「若さ溢れる役だと思いエネルギーを感じる役だと思っています。口も達者ですが戦争によってネガティブになってしまう。そんな中でも洒落のきいた皮肉を言うところがハリーという役の魅力だと思っています。また音楽劇とありますが僕は本作でウクレレに初挑戦します。簡単にはいきませんがしっかり届けられるよう一生懸命にやります」と意気込みを見せる。稽古場の雰囲気については「緊張感に溢れています。背筋がぴんと伸びるような感覚です」と語っていた。
なお、中山がこの役に決まったきっかけについて森は、中山と同じジャニーズ事務所に所属する岡本健一と仕事をした際、スタッフ経由で中山の存在を教えられ、かつて中山が主演した連続ドラマW『北斗 -ある殺人者の回心-』(WOWOW)の演技を観てハリー役に決めたと説明した。「中山くんは、ドラマの中でピュアな心も荒んだ心も表現しており、ハリーの清濁あわせ持つ雰囲気と同じだと思ったんです」
矢田悠祐
バーニー役の矢田は、「自分の役はハリーの戦友というか、戦地では信頼関係を築くんですが戦争から帰ってからはハリーがいちばんやって欲しくない事……自分の恋人を僕が奪うという嫌な奴。ハリーから見たら嫌な奴ですが、バーニーとしてはハリーの恋人と幸せになることが喜び。他人から見た事と自分が思う事の食い違いが面白い作品です。真摯にこの芝居に向き合っていきたいと思います」と口にした。矢田はこれまでに何作もミュージカルに出演しているが、森からは「これまでに矢田くんがやった事のない、喉から血を吐くような芝居を味あわせたい」と声をかけられると、矢田も「森さんに身を委ねて、めちゃくちゃにしていただきたい」と笑顔。
横田栄司
ハリー、バーニーと共に戦地を体験したテディ役の横田は「相当エネルギーを要する芝居で、日本人にはちょっとない言葉の分量だったり、喜び、哀しみ、苦悩といった感情の分量が必要とされる作品です。若い人が多い現場ですがその中でも三田和代さんがいちばんお元気なので」と言うと隣で三田が大笑いしていた。
浦浜アリサ
ハリーに片思いしているが、後に看護師となるスージー役の浦浜は「経験なクリスチャンであり、信仰心が強すぎるが故に周りにうざったがられるくらい、エネルギッシュな役です。彼女も戦争を経て、変わってしまうのですが、スージーの根っこにある深い愛や優しさは節々に感じるので、丁寧にやっていきたい」とコメント。浦浜はこれまでモデルとして活動してきたため、言葉を使わずに感情を表現する事を生業としてきた。「今は台詞で感情を表現する難しさに直面し悩んでいます。でもキャスティングしてくれた森さんのギャンブラー精神に対し、求められたものに対して120%、150%パーセントで返して、いい意味で裏切られるように頑張ります」と笑っていた。
安田聖愛
ハリーの恋人ジェシー役の安田は、「最初はハリーの恋人役として登場しますが、その後ひどい女となります。でも自分にとても正直な女の子なのかなと思っているので、気持ちいいくらいひどい女を演じていきたいです」と静かに思いを語った。
三田和代
ハリーの母親を演じる三田はこの作品に携わることで「ラッキーが3つありました。一つ目、私は森さんと一緒にお仕事がしてみたいと思っていたんです。やりたいと思っていたところに森さんの演出のお話をいただいて、作品の内容も聞かないで『やります!』とお返事してしまいました」とコメントし、笑いを誘った。「二つ目(のラッキー)は、この作品が反戦劇と聞いていたので、暗くて重くて湿度の高い芝居かなと思って台本を一読したら、とにかく底抜けに明るくて、読みながら何度も吹いてしまいました。猥雑な中で笑いに満ち溢れた作品だったんです」そして三つ目のラッキーについては「ベテランチームの顔ぶれがものすごくエネルギッシュ。それでいて普通の人を演じるのが難しくて。麻薬中毒とか記憶喪失とかいう役はやりやすいんですけどね。この歳で普通のおばさん役にトライできることがものすごいラッキーです。最後まで元気で普通のおばさんを演じ、お客様を楽しませられるよう頑張ります」と笑顔を見せた。
製作発表の後、中山、矢田、横田、森で行われた囲み会見で、中山は「日々要求されている事の意味が理解できてくると『こういうことか!』と発見する日々です。稽古初日よりは感情の振り幅が明らかに増えたと思います。でもまだこれから。本当に背筋が伸びます。今もずっと伸びたままです」と緊張を見せていた。
そんな中山の緊張をほぐすかのように「3人(中山、矢田、横田)の顔が濃い」と言う話を振られると、矢田が「決して塩顔じゃないですよね」とお互いの顔を見比べ笑う。続けて矢田は「緊張感があって良い稽古場やなぁと思います。まだ本読みですけど僕もまだまだできないことばかりなので、いろんな引き出しにいろんなものを詰め込みまくっていきたいと思います」と関西弁を交えつつ、コメント。
横田に関しては、文学座に所属しつつも長きに渡り蜷川幸雄の薫陶を受けてきた骨太の舞台俳優。稽古初日を振り返り、森が「本読みの時、すごかったよね。声のレベルが一人だけ違っていた。他の人の5倍か6倍くらい。ただ僕が考えるテディとは違っていたんだけどね」と言うと表情をクシャクシャにして笑う横田。「でも横田さんのエネルギーはこの二人に伝えて欲しかったので、感謝しています。目の前で舞台俳優の声を聞いてもらいたかったから」と話を続ける森に「爆音でした(笑)」と中山が相槌を打っていた。
「阪神が勝った時の大阪の人」を再現する中山
中山と矢田は同じ大阪出身という事で二人で喋るときはつい関西弁が強く出てしまいがち。それを指摘されると「やばいね。ひきしめないと」と矢田。その話から思い出したのか森は「昨日稽古で『勝った勝った勝ったー』という芝居の第一声を中山くんに出してもらったんですが、まだかしこまっているから『大阪の人が阪神が勝った時、どのくらいの声を出すの?』と振ってみたら……」中山がその場で「勝ったー↑↑↑」とテンションをあげて再現し一同大笑い。「でも僕、巨人ファンなんですけど……」とぼやいていた。
中山と矢田というイケメン男子を見ながら、横田はしみじみと「美しいって正義だな。この前吉田鋼太郎さんの舞台に客演していたんだけど、今回改めて美しい若者っていいなって。いや、向こうの批判じゃなくて純粋にね」と口にし、さらに笑いを大きくしていた。
最後にこの芝居に向けてどんな準備をしていきたいか、という問いに、中山は「準備は覚悟。心が折れても折れてもまた立ち上がって行こうと思ってます」と改めて気合いを入れていた。
取材・文・撮影=こむらさき

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