劇団「地蔵中毒」の無教訓意味なし演
劇 vol.8『つちふまず返却観音』稽
古場潜入レポート~待望の本公演、迫
る!【動画あり】

大谷皿屋敷が主宰する劇団「地蔵中毒」の「無教訓意味なし演劇 vol.8『つちふまず返却観音』」(作・演出:大谷皿屋敷)が、高田馬場ラビネストで、2018年9月1日(土)に幕を開ける。9月1日と2日の2日間で全4回の公演を予定。開幕に先立ち、8月某日、SPICEは稽古を取材した。
【動画】劇団「地蔵中毒」『つちふまず返却観音』稽古場より
<あらすじ>(公式サイトより)
終電で寝てしまい、新逗子に着いてしまった大きめの犬、ラブラドルレトリバー。あてもなく、見知らぬ街を彷徨うラブラドルレトリバーが出会ったのは、丸メガネの男だった!荒城の月を作曲し始める、丸メガネの男の正体は一体!?そして、部屋に引きこもってるだけの 30 男が、 ホルン奏者に肺活量で勝つ方法とは!?主義ではなく、純粋な金欠でワクチンを接種しない劇団「地蔵中毒」がお届けする、ナシゴレン賞賛演劇!見逃したら、お尻ペンペン(高級和紙で)だ!
かませけんた、東野良平
(中央手前)屋代秀樹
『つちふまず返却観音』出演者
稽古場には、本公演の全出演者が顔をそろえていた。
大谷が「最強メンバー」と紹介するは、地蔵中毒によく出るメンバー※と、客演の小野カズマ(排気口)、大宮二郎(コンプソンズ)、本田晴子(コンプソンズ)、屋代秀樹(「日本のラジオ」主宰)に、オーディションで選ばれたイイノヒナタ、シオザキ、中村ナツ子を加えた15名。オーディションの際は、「中尾彬目線で作ってもらった、池波志乃へのラブソングの出来が良かった」ことを決め手に3名を選出したという。
※今回の"よく出るメンバー"は、関口オーディンまさお、かませけんた、東野良平、フルサワミオ、武内慧、hocoten、立川がじら(落語立川流)、礒村夬 (グッドラックカンパニー)。2018年8月現在、地蔵中毒は自己申告制で、正式なメンバーを定めていないそう。
イイノヒナタ、小野カズマ
フルサワミオ、大宮二郎、シオザキ
酷くて可笑しい、大谷皿屋敷の世界
稽古は、礒村(礒村夬)と、本田(本田晴子)の回想シーンから始まった。大宮(大宮二郎)のナレーションによれば、2人が小学生の頃という設定で、2人とも修学旅行には参加せず、草が生えている場所にいる。
——淋病。不倫。サボテンをモチーフとしたセックス。
はじまってものの数分で、穏やかではない単語が次々と飛び出す。前触れなく、ショッキングな展開が訪れる。しかしどんなことが起ころうとも、登場人物たちの笑顔とテンポのよい台詞回しにのせられて、つい笑いとともに飲みこんでしまう。
本田晴子
礒村夬(立っている男)
劇中では、海の家や動物園、イオンの駐車場などを舞台に、複数のエピソードが同時進行で語られていく。取材の段階で、台本は完成していなかったけれども、一見するとバラバラの物語、それぞれの個性的なキャラクターたちが、後半へ向けて絡み合っていくものと思われる。尚、スマホ片手に演技をしているキャストが多いのは、演出ではなく、台本をデータでみているため。
hocoten、関口オーディンまさお
手前から、屋代秀樹、中村ナツ子、立川がじら、かませけんた、東野良平
作品づくりへの真摯な姿勢
稽古場で印象的だったのは、尖がった作風とは裏腹の、和気あいあいとした雰囲気。笑いの絶えないカンパニーだったが、真剣な表情で議論を尽くす姿も見られた。それは、かませけんたと東野良平が登場する場面でのことだった。
かませけんた
かませの表情の作り方に、フルサワミオ、hocotenらが疑問の声をあげたのだ。関口オーディンまさおも駆け寄ってくると、皆でかませの顔を検証し、アイデアを出しはじめた。かませも皆の声に熱心に耳を傾けていた。地蔵中毒の、舞台に対する真摯な姿勢を垣間見た一幕だった。
かませの表情を検討する役者たち
音でとる、大谷皿屋敷の演出とは?
主宰の大谷は、終始穏やかな表情で稽古を見守っていた。しかし、その演出方法には、独特のものがあった。
大谷皿屋敷(しゃがんでいる男)
その特徴を屋代秀樹に訊ねると、「大谷さんは『音』でとる演出です。音に細かく、すごくこだわっているのを感じます。そんなやり方があるのかと刺激を受けています」と答えた。
たしかに大谷は、メンバーの演技をみて、時折「なんだろう」「聞こえ方が違う」とつぶやいていた。そして「XXXのところを、少し強く言ってもらえますか?」「〇〇〇の後は、切らずに続けてください」等の演出をする。
東野良平と立川がじらは、大谷の演出が演劇よりも落語の感覚に近い(地蔵中毒のメンバーには大学の落研出身者が多い。大谷、関口、かませ、東野、がじら)ことに触れた上で、次のように話す。
「リズムとテンポを大事にしています。歌を歌うように、このフレーズに力を入れてメロディのように、といったやり方です。そうすれば、お客さんにはよく伝わるものなんです」(がじら)
「台詞って、意味よりも先に音として鼓膜に届き、脳内に入りますよね。音で嫌われないように、メロディで心地よく聴かせるイメージです。大谷の脚本は言葉が強く、面白いワードも並んでいますから、お客さんの脳内に入ることができれば勝ちなんです」(東野)
立川がじら、大谷皿屋敷
左から、かませけんた、東野良平
「老若男女に地蔵中毒」は本当か
稽古後のインタビューで、かませけんたは「『つちふまず返却観音』は、ご家族、カップル、おじいちゃん、おばあちゃんまで、老若男女楽しんでいただけます」と自信を見せていたが、<あらすじ>からも推察できるとおり、決してそのような作品ではない。気軽に暴力が振るわれるし、子どもへの説明に困るキーワードも頻発する。少年っぽい雰囲気をまとう武内慧の無感情なセックスシーンが、一瞬「これなら子供もOK?」と見えたなら、それはきっと感覚が麻痺しているだけ。決して万人受けする作品ではない。
左から、関口オーディンまさお、hocoten、武内慧
しかし、もし少しでも地蔵中毒に興味があるなら、数々の外部公演以上に、まず大谷が本領を発揮する本公演をみてほしい。
関口オーディンまさおによれば「今回は、今までの地蔵中毒では見たことがないようなシーンもある」というから、すでにファンの方々も見逃せない。大谷が執筆中の台本が、本番に向けてどのように進化していくのか。無意味の先にあるカタルシスに期待をよせ、9月1日の開幕を待ちたい。
立川がじら、中村ナツ子
hocoten
取材・文・撮影=塚田史香  動画撮影・編集=安藤光夫

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