中村芝翫、主演舞台『オセロー』に向
けて語る~「僕は神山智洋くんに嫉妬
しています(笑)」

ウィリアム・シェイクスピアの四大悲劇の最高傑作『オセロー』が、2018年秋、新橋演舞場に登場する。1604年の初演から、実に400年以上経った今でも世界のどこかの劇場で上演されている人気作だ。本作のタイトルロールに挑むのは八代目 中村芝翫。歌舞伎役者が外部舞台に出演する機会が特に多い昨今だが、この松竹『オセロー』に関しては、1914年(大正3年)に七代目 松本幸四郎がオセロー役を演じて以来、歌舞伎役者や近しい人物が演じてきた所縁のある作品だ。その作品の上演史に名を連ねる事となった芝翫に、今の想いを聞いた。
――過去、上演されてきた『オセロー』で、芝翫さんが印象に残っているのはどの時の公演ですか?
(二代目 尾上)松緑のおじさまがオセロー役を演じた時、1977年の公演ですね。あの時は公演中におじさまが体調を崩されて(三代目 河原崎)権十郎のおじさまが代役をされたんです。今回、改めて本作の台本を拝見したら、この役の代役なんて、本当によくなさったなあと思いますね。台詞量が膨大なだけではなく、現代の人間が発する言葉ではないですからね。
演出の(井上)尊晶さんたちがより分かりやすくなるよう台本を手直ししていますが、それにしても、現代の人間の肉体や精神から発する言葉ではないですから、これをオセローが僕の身体を通してあたかも本人が喋っているようにやるのは本当に難しいでしょうね。
――芝翫さんが歌舞伎以外の舞台、それも翻訳劇に立たれるのは……。
初めてなんです。シェイクスピア作品は、役者である以上一度はやりたい作品……と思いつつも、なかなか手を出せないものでもあります。ましてや『オセロー』は代表的な作品ですから。出演のお話をいただいた時、「芝翫」を襲名した今こそ、新しい一歩を踏み出し、新しいページをめくるべき時かなと思ったんです。6月に歌舞伎座で初めてやった『巷談宵宮雨』(こうだんよみやのあめ)とこの『オセロー』がそれに当たる作品ですね。
――『オセロー』という作品は、読み進めていくと、歌舞伎の様々な演目とどこか重なる場面や人間関係が見えてくるように思いました。
そう、歌舞伎だけじゃなく、今現代の人間生活にも重なってくる作品なんです。どの時代のどの国の人であっても、この作品に共感し上演している。自分より位や才能、愛を持つ人を嫉妬して引きずりおろそうとする事は、今の世の中でもたくさんありますから。そう思うとこの作品を作ったシェイクスピアって本当にすごい人ですよね。
――そんな名作を前にして、芝翫さんはどのようなオセローという人物を作り上げようとしているのでしょうか?
もちろん8月に入ってからの稽古で本格的に作っていきますが、今年の3月末に、音楽を手掛ける松任谷正隆さんが「作曲の方向性を知りたい」という事で、急遽、本読みだけ先にやったんです。それをしたことで「そうか、こういう物語の流れなんだな」とおおよその姿はつかめたと思います。先ほども言いましたが、僕はシェイクスピア作品が初めてなので、シェイクスピアに精通していらっしゃる方、また僕自身を良くご存知の方にお力をお借りしたいと考えまして、2011年の『たいこどんどん』でお世話になった井上尊晶さんに演出をお願いしたんです。キャストやスタッフ選びも今回はすべて井上さんに一任しました。
――キャストの顔ぶれを見るとこれまでの上演よりぐっと若返ったように思います。
それは僕も含めてって思っていい(笑)? このなかでも特にプレッシャーを感じているのはイアーゴー役の神山智洋くんでしょうね。神山くんは、先日僕の歌舞伎を観に来てくれて、終わってから一緒にご飯を食べに行き、いろいろお話ししたんですよ。歌舞伎にしてもシェイクスピアにしても、「これはこうじゃなきゃいけない」ととかく型にはめたくなるものですが、今回上演する『オセロー』は、僕がオセロー役ですから(笑)、神山くんは神山くんのイアーゴーをやっていけばいいと思うんです。不安を感じたときは稽古が足りないと思って、どんどん稽古をするしかないよね、って話しました。神山くんのイアーゴー、そして前田亜季ちゃんのエミーリアという若い二人が、どのような物語を綴るのか。きっと、最後まで観たら切なくなると思いますよ。
ただ、僕がもし神山くんの年齢の時にイアーゴーに巡り合っていたら、役者人生がもっと変わっていただろうなあ。そんな事を思うくらい神山くんが羨ましいです。神山くんは僕の息子(長男の橋之助)と2歳違いですからね。イアーゴーがオセローに嫉妬を感じるのとは逆に、今は僕が神山くんに嫉妬しています(笑)。
――そんな裏『オセロー』も見たくなりますね(笑)。井上さんの演出はどのようになりそうですか?
実は、先日の製作発表会見で尊晶さんが説明した内容が、僕らも初めて伺う『オセロー』の世界だったんです。だから、この『オセロー』という船がどこに向かってどう舵を切って進んでいくのか。ここは風を受けて速く走ろうとか、この港で一度休憩しよう、などという事はすべて稽古が始まってから分かることになりそうです。尊晶さん自身、新橋演舞場を使うのが今回初めて、ということですが、すでに何度か演舞場に通っては研究しているようです。
――スタッフの中に日本舞踊の花柳寿楽さんのお名前があるのも気になります。
そうなんです。僕も驚きまして。先日、寿楽くんから「今度『オセロー』のスタッフに入るんですよ」って連絡をいただいた時は「じゃあ僕はオセローの姿で(日本舞踊を)踊るのかな?」なんて冗談を言っていたんですよ(笑)。実は寿楽くんは、これまでに蜷川幸雄さんの舞台のお手伝いを何度かされているんです。彼は群衆の動きをまとめるのが上手なので、新橋演舞場という場所で作品のスケール感を出すために、今回寿楽さんの力が発揮されるんじゃないかなと想像しています。楽しみですね。
――最後に、『オセロー』を楽しみにしているお客様に向けて、意気込みをお願いします。
この作品は、オセロー含めて皆の“ボタンの掛け違い”が悲劇をもたらす物語です。誰か一人でも相手を信じる事ができていれば、こんな悲劇は起きなかったと思いますね。僕としては『オセロー』が僕の初舞台だと思うくらいに8月、9月と取り組み、新しい自分を発見したいです。これまでの『オセロー』とは違う新しい『オセロー』を作っていきたいですね。
取材・文=こむらさき  撮影=中田智章

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