sleepyheadインタビュー 「音楽にま
つわることが嫌いになっていた」とい
う武瑠はソロ始動までに逆境とどう向
き合い、傷つき、立ち上がったのか

2017年9月2日、日本武道館のライブをもって10年間の活動にピリオドを打ったSuG。そのフロントマンである武瑠が、2018年1月31日からソロプロジェクト、sleepyheadを始動。3月17日、東京・渋谷TSUTAYA O-EASTにて初ライブ『透明新月』を行ない、ついに1stアルバム『DRIPPING』を6月20日にリリースした。あの日ステージで「俺が10年かけて教わったのは、恐れずに全身で傷ついて、それを糧に前に進むことです」と涙ながらに語っていた武瑠。いったい彼はその逆境とどう向き合い、傷つき、ここまで立ち上がってきたのか。アルバムを通して武瑠に話を訊いた。
――とりあえず、お帰りなさい。
ただいまです(笑顔)。
――sleepyheadのアルバム収録曲「結局」じゃないですけど、再び音楽に戻ってきてみてどんな心境ですか?
いま、やっと楽しくなってきました。いろいろわかってきて。5月12日の誕生日ライブでやっと、音楽は楽しいと思えた。前よりも思い通りに歌えたら音楽も楽しくなってきましたね。でも、そこに至るまでには想像を絶する雑務があって。個人でファンクラブを作るのって恐ろしく大変だったし、制作チームなしで今回のアルバムを出すのもそう。バンドじゃないから、すべて一人でやるので。別に大変なことは伝わらなくていいんですけど、こういうことができてることは「マジ奇跡だよ」というのは伝えたいかな。
――なんで一人で全部やっているんですか?
一人でやろうというよりも、いまは誰かとやりたくないっていうこと。ちょっと人間不信になったところがあったので、自分のものを誰かに預けるとうのが怖くてできない。“sleepyheadが自分のものじゃなくなったらどうしよう”っていう怖さはいまでもありますから。まずは自分でやって、その上で、手伝ってもらう人を探さなきゃなとは思ってます。物理的に無理なんで、1人では。クリエイティブも下がっちゃうし。
――こういう取材も、武瑠さんが自らプロモーションして決めたんですか?
そう。全部自分でやりました。メールのやりとりをしながら。でも、周りは信じてないです。「絶対誰かにやってもらってるでしょ?」って。自分でいうのもあれですけど、今の俺じゃなきゃ無理だと思います。音楽、映像、デザインとかクリエイティブをあそこまでやって、裏方もやるというのは。昔から普通のミュージシャンよりもやることが多かったから。SuGでスパルタで鍛えられたからこそ、できてるだけ。
sleepyhead/武瑠 撮影=大塚秀美
本当に音楽にまつわることが嫌いになっていたので。10年、一生懸命やってきた分その反動もデカかったから、すぐに何かをやろうとは思えなかった。
――武瑠さんはSuG解散後、音楽に戻ってくるかどうかまったく決めてないとおっしゃってましたよね?
そうですね。嫌になって“辞めちゃおうか”っていうところまでいってましたからね。本当に音楽にまつわることが嫌いになっていたので。それまで自分たちが10年信じてやってきたものを、自分たちが思う形で終われないという。そのことに対する憤りがデカすぎて、虚しくなっちゃったんですよ。一番頑張った人がバカを見る、じゃないけど。自分たちの都合だけでは辞められないのはプロの証だろうともいわれたりしたけど、俺にとっては都合のいい言葉だなとしか思えなくて。10年、一生懸命自分がやってきた分、その反動もデカかったです。だから、すぐに何かをやろうとは思えなかったですよ。
――そうでしたか。あの日のライブでもステージ上で、自分たちで責任を持ってバンドを終わらせられないことほど悔しいことはないっておっしゃってましたもんね。
うん。それが一番悔しかったです。結局10年間続けてSuGをやってきたのはメンバーしかいないんですよ。なのに、そのメンバーの思い通りにならないって。人生にそんなことあっちゃいけないんじゃないかって思いましたね。
――そういうネガティブな気持ちがマックスになって、一番どん底に自分が追いやられたとき、書いた曲はどれになるんですか?
「HOPELESS」とか、「ALIVE」ですね。「ALIVE」が一番どん底かな。もう(楽曲を作った頃はまだ)発表する気もなく、自分と対話するように作っていったんです。いろんな理由があるんですけど、結果的にもう1回自分が“音楽をやろう”って思ったのは、こうして対話で作った曲がいままでよりも“いい曲”だと思えるものができたからです。43曲書いたんですよ。
――曲を?
はい。40曲書かないと復活しないって決めていたんです。願掛けて39(SuG)+1で。それまでに20曲ぐらい溜まってた曲があって。“ああー、いい曲だな”と普通に思っていたんですよ。それで、去年の秋頃から年内に40曲書こうと決めて。そうしたら43曲できたんです。今回のアルバムの曲は、そのなかから13曲を選んだものです。

――制作はどんな感じで進めていったんですか?
サウンドプロデューサーもいない、セルフプロデュースということになるんですけど。なので、制作はひたすらエンジニアさんと2人でやってました。すっごく大変でしたね。アレンジャーを6人入れたんですけど。6人各々と話し合って作っていくのも超大変でした。とくに「闇雲」は1発目だったから難航して、ありがたいことにアレンジを15回ぐらいやり直してもらいました。だから、いまの形になるまでに3カ月ぐらいかかりましたね。
――なにがそんなに難しかったんですか?
単純にバンドになってもいけないし、EDMになってもつまんないし、自分のバックボーンを出せるアルバムにしないといけないなと思ったんですよ。
――SuG時代にやっていた武瑠さんのソロプロジェクト、浮気者とのサウンドの差別化はどう考えていたんですか?
浮気者自体、差別化から発生したものですから。SuGがあったからこそあれはEDMに振ってて。EDMは確かに好きだけど、浮気者は僕の本線ではなかったんです。あれはSuGと差別化したいからああしていただけで。だから、SuGと浮気者の間が自分の本線なんですよね。なので、このアルバムの音像はSuGと浮気者の間ぐらい、「闇雲」を筆頭にその中間地点の音が多いと思います。
――SuGのサウンドも武瑠さんの本線ではなかったんですか?
メンバーがいましたからね。5人でやる意味があることをやろう、というのが根本にあった。あのサウンドは好きだけど、歌うという意味だけでは歌い辛かった部分はありました。音域も広いし、リズムもムズいし。コードに対しての歌メロの当て方とか、難しかったんですね、単純に。だから、ライブでも音が取り辛いこともありました。それも含めて自分の力不足ですが。
――なるほど。sleepyheadではどうだったんですか?
アルバムは、自分が得意なブレスっぽい歌い方とか、「酩酊」とかのかなり低い声もいっぱい使えましたね。バンド時代は同期もいっぱい入ってましたし、ギターも2本だったからあまりそういう声は使えなかったんですよね。でも、今回はそこも含めて、ある意味最高に自由だったんですよ。入れなきゃいけない楽器もないし。だから、思ったままに作った感じですね。ただ、自分のなかに一番入ってるのが90年代から2000年代のコード感とメロディなので、それを生かそうとは思いました。例えば「HOPELESS」のBメロとかは浜崎あゆみさんがやりまくってた転調だし。だから、少し懐かしいメロディがいっぱい入ってるかな。
――そういうメロディックなものがありつつ、「退行的進化」は、コード感も独特でした。
ふふっ(微笑)。これはもう分かる人にだけ分かればいいやと思って作った曲ですね。そういう立ち位置の曲があっていいかなと。“頑張らない方が傷つかない”というやり方、鈍くなることによって傷つかないようにしようという、いまの日本人の適応能力を言葉で表現したら、退行的進化だなと思って。
――トラックはどんなイメージだったんですか?
たしかこのときはThe xxを聴いてて。ああいう暗いベースラインが続く曲がいいなと思って。それがTeddy Loid アレンジでこんな風になりました。コード感は川本真琴さんの「1/2」を元にして。
――この曲、ライブでは武瑠さんがDJのような感じで。
音遊びをしながら歌って。一番最後にバンドインしていくやり方で見せました。ソロならではの遊びですよね。
――ライブで初聴きなのに、お客さんが盛り上がっていった「熱帯夜」。こちらは今作のなかでもアップテンポで、唯一抜け感がある曲でしたね。
一番明るい曲ですね。だから悩みました。アルバムに入れるかどうか。このアルバムは音楽性でなにか一つに縛るんじゃなく、ストーリーとか歌詞でバランスをとってまとめるアルバムにしようと決めたんですね。そこで出てきたのが、世界観や言葉が“夜縛り”っていうこと。そうやって考えると、この曲は“激しい夜”になるのでOKにしました。レコーディングまでしたんだけど、ポップすぎて(アルバムからは)外した曲も1曲あるんですよ。
――「熱帯夜」はステージでギターを弾きながら歌われていましたけど、最初からそういうイメージがあったんですか?
はい。この曲はギターでコードを鳴らしながら作りました。アルバムで唯一かな、ギターで作ったのは。
――これは最近作った曲なのかなという気がしましたが。
そうですね。一番最近作ったのは「LAIDBACK」です。1月末とか。めっちゃ最近ですね。
sleepyhead/武瑠 撮影=大塚秀美
人間に置き換えると、“嫌なところまでちゃんと愛してね”ってなるのかなというので、結果ラブソングになったけど。スタートはもつ鍋です(笑)。
――こういうラップものの他に「灰汁まで愛して」のような歌とラップの中間みたいな感じでソフトに歌っていく感じは新しいトライですよね。
そうですね。こんなに音数が少なくて声がメインというサウンド感も初めてです。
――これはラブソングとしてとらえればいいんですか?
ラブソングっぽく聴こえますよね? これは、もつ鍋を食べてるときに灰汁をとるじゃないですか? でも、もつからしたらそこまで食べて欲しいと思ってるんだろうなと思って書きました(笑)。人間に置き換えると、嫌なところまでちゃんと愛してねってなるのかなというので、結果ラブソングになったけど。スタートはもつ鍋です(笑)。灰汁という言葉がだんだん変わっていくところが面白いなと思いながら書いていきましたね。
――そこの言葉遊びがね。「灰汁まで愛して」、「退行的進化」、「LAIDBACK」などはバンドでは見せられなかった新しい武瑠さんが出ている部分だと思いました。
音像は特にそうかもしれないですね。メロディはこれまでやってきたものですけど。
――そうしてアルバムの真ん中に置いてある「HOPELESS」、「HURT OF DELAY」。ここはライブでも2曲続けて演奏されていましたが、ここは楽曲に引き込まれるところですね。
「HOPELESS」はとくに、逃げないで勉強をやり続けないと書けなかったクオリティーの曲だと思います。単純に“いい曲”だから。名曲感がありましたね。これは。
――ライブで初聴きしたとき、ダントツでそれを感じた曲でした。
純粋に“いい曲できた”と思ったので、MVを追加で撮りました。撮らない予定だったのに。
――作ったときから名曲ができたという手応えがあったんですか?
ありましたね。バンド時代の曲で「桜雨」というのがあるんですけど。その直後に書いたんです。「桜雨」を書いて、あんないいバラードはしばらく書けないのかもな~と思いながら試しに書いてみたのがこれで。“なんだ、普通に超えられるんだ。すげぇな人間”と思いました(笑)。でも、途中で作るのをやめていて、暗いところまでしか書いてなかったんですよ。それで、復活しようと決めてから、最後のほうの明るい部分を書き足しましました。だから、復活前と復活しようという感情が唯一アルバムのなかでつながってる1曲です。

“夢から覚めない”という意味で、現実になってもまだ夢のなか。ずっと醒めきらない人でいたいから、この名前にしたんです。なので、終わらないです。
――「結局」の歌詞もグッときましたよ。とくに<夢見た故の後遺症>は震えました。
まんまですね。「闇雲」、「結局」、「ALIVE」は本当にまんま、休んでいたときの自分の気持ち。復活する気がなかったので、仕上げなかったんですよ。3曲同時にちょっとづつ行ったり来たりしながら書いてて。別に締め切りもないから書かなくていいんですよね。なので、この3曲は自分との対話でちょこちょこ書いていった感じですね。することがないから、心の整理、日記を書くみたいな感じで。
――武瑠さんがどん底にいた当時のリアルライフがこれらの曲には描かれている訳ですね。
そうですね。それで、アレンジャーと話したときに「酩酊」とか「HOPELESS」のほうが“いい曲”だから……“いい曲”というのは一般の人が聴いて一発で分かるという意味ですけど、そのどっちかを先に出したほうがいいんじゃないかとアドバイスをもらったんです。でも、俺としてはストーリーとして、先に「闇雲」、「結局」を出さないと前に進めないと思ったので「闇雲」にしました。
――このどん底を乗り越えたからこそ「HOPELESS」のワードが生まれた訳ですもんね。そういうストーリーも含めて、武瑠さんは“言葉”の人ですよね。
だから、言葉にメロディが追いついてきたっていう手応えを、「桜雨」辺りからやっと感じるようになりました。それまでは言葉のほうが強すぎて、メロディが入ってくるのはその後だったんですよ。でも、今回はそこが並列、追いついてきた気がします。
――同感です。どん底の逆境を乗り越えて、再び音楽に戻ってきて、自分自身、変わった部分はありますか?
人間力が上がったお陰で、歌のレベルが上がったなと思いました。自分のキャパシティーを遥かに超えるしんどい思いをして、いろんなことを達観できたところはあるかもしれないです。
――どんなとことが見えてきましたか?
そうですね。合わない人といる時間を減らして、いい人と一緒に過ごしたいと思いました。正義が合わない人と無理して一緒にいる必要はないんだと。昔は誰とでも心を通わせられると信じていたんですよ。どんなに嫌なことをされても、ちゃんと向き合って、いいところも悪いところも信じようと。でもそう信じ込みすぎて、その反動が自分に深くのしかかってきたので。いまは、それもときには必要だけど、分かり合えない人と分かり合おうとする熱量よりも、それをもっと自分にとって大切な人に使いたいなと思うようになりましたね。
――では、これから始まる『sleepyhead LIVE TOUR 2018「DRIPPING」』についてなんですが。初ライブのように、レーザーを入れたりダンサーを入れたり、作り込んだ世界を見せていくものになりそうですか?
このツアー自体は、曲を生身で届けるツアーにして。そこで育てたアルバムの曲を、ファイナルでショーアップして届けようと思います。だから、ファイナルだけタイトルを『sleepyhead LIVE TOUR 2018 FINAL「Hole」』に変えて。いままでやったことがないことをやろうと思っています。1回しかできないので、けっこうドキドキですね。成功するかどうか。
――おー、かなりドキドキですね。では、その後はどんな音楽活動を考えていますか?
まず、けじめとして全曲作詞・作曲を自分でやるというのが絶対的な条件だったんですね。俺がソロになって、最初から人に曲を書いてもらうのは絶対にやっちゃいけないことだと思っていたので。アーティストのストーリーとして、過去を持って、これから未来に行くという決意のときに、人にやってもらうんじゃあカッコ悪いじゃないですか。だから、今回は全曲作詞・作曲にこだわったんです。それを今回一つ作れたので、次はもっとコラボレーションして、お互いを高め合うものをやっていきたいです。その準備ももう始めてます。
――楽しみですね。sleepyheadをSuGよりも長く続けたいという気持ちはありますか?
続けたいというよりも、終わらないというイメージでsleepyheadという名前にしたところもあります。“夢から覚めない”という意味で、現実になってもまだ夢のなか。ずっと醒めきらない人でいたいから、この名前にしたんです。なので、終わらないです。
――音楽以外にもいろんな表現をやっていくつもりですか?
もちろんです。ツアーファイナルでまずそれを見せます、音楽以外のものを。だから俺は、よりただのミュージシャンじゃなくなっていくと思いますよ。
取材・文=東條祥恵 撮影=大塚秀美

sleepyhead/武瑠 撮影=大塚秀美

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