NBAバレエ団『海賊』~若き振付家と
西洋剣術師範の才が新たな冒険に彩を
加える! 宝満直也&新美智士インタ
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3月17日(土)・18日(日)に世界初上演となるNBAバレエ団、久保綋一版『海賊』。

意欲に満ちたこの作品は、振付助手に新国立劇場バレエ団より移籍し、振付作品に定評のある若き才能・宝満直也、剣術指導に日本唯一の西洋剣術インストラクターにして、宝塚歌劇団『All for One』でも剣術パートの振付を行った新美智士を迎え、さらに新垣隆に新たな音楽を依頼するなど、製作スタッフ陣も一味違う。「一人の男を巡る女二人の結末」というキャッチコピーとともに、既存の『海賊』とは一線を画した新たな冒険世界が展開される予感だ。
公演を前に、宝満直也、新美智士に話を聞き、稽古場を覗いた。
◆宝満直也「濃厚なキャラクターに素晴らしい音楽。ぜひ見ていただきたい作品」
■「物語を紡ぐガイドのように」。主要なパ・ド・ドゥに振り付け
――今回の久保綋一版『海賊』、いわゆる古典の『海賊』とは違った全く新しいものになりそうな印象ですが、その辺りはいかがでしょう。
宝満 すべては言えないのですが、バイロンの原作『海賊』の要素を取りながら、古典のエッセンスを加えた冒険ストーリー、という感じでしょうか。海賊のコンラッドにオスマン軍側のギュルナーレが思いを寄せ、しかしコンラッドにはメドーラという恋人がいる。想いの叶わないギュルナーレに、オスマン軍のザイード・パシャなどが絡み、物語が展開するという感じです。
――なるほど。新国立劇場バレエ団からNBAバレエ団に移籍し、振り付け助手として作品に携わっていらっしゃるということですが、どのように作業を進めているのでしょう。
宝満 久保監督の主旨に沿いつつ、「いい作品にしたい」という思いのもと、スタッフがそれぞれ意見を出し合いながら進めています。久保監督の考えに「極力無駄なシーンを省略しコンパクトに」というものがあり、でも場面と場面を繋いでいくと、例えばビルバント役の大森さんから「なぜここでこう動くの?」という疑問が出たりする。そういった流れを自然にするために、その間の動きや振りを加え、僕の方から「こうした方が物語や気持ちが伝わるのでは」と提案し、任せていただくこともあります。
――自由闊達に意見を出し合える場があるわけですね。宝満さんは具体的にどのパートを振り付けされているのでしょう。今までのお話では振り付けパートも増えたのでは。
宝満 最初の予定からだいぶ増えました(笑) 僕が担当したのは幕開きのメドーラのソロ、コンラッドが登場してきてからのパ・ド・ドゥ、パシャの登場のハーレムの女性たちの踊り、奴隷のパ・ド・ドゥが終わってからコンラッドが押しかけてきて女奴隷たちを解放するまでの流れ、海賊たちの踊り、ギュルナールとコンラッドのパ・ド・ドゥ、オダリスクのアントレ、パシャとメドーラのパ・ド・ドゥ、花園のコーダ、クライマックス等々……です。新垣さんが新たに書いてくださった音楽がとても素晴らしくて、その音楽部分のパートはほとんど振り付けしました。
――主要なパートはほとんど宝満さんが振り付けているんですね。宝満さんはかつて小作品などもたくさん作られましたが、こうした全幕物と小作品の振り付けはやはり違いますか?
宝満 全然違います! もちろん「振り付け」という本質は変わりませんが、全幕物は長い物語と登場人物がある。小説を書いているような感覚に近いのですが、でも「NO」という仕草ひとつ取っても踊り手によりそれぞれ違い正解がない。物語を紡ぐガイドのような、そんなつもりで当たっています。
■パシャ・ザイード役も。様々な挑戦の日々
――今回は振り付けに加わるほか、17日にはパシャ・ザイード役を踊られます。このザイードも久保綋一版『海賊』では、古典の丸っこい、時にはファンキーなキャラクターのパシャとは違うのですね。
宝満 はい。久保版ではかなり重要な役です。コンラッドと敵対するオスマン軍の首領ですから。自分にとっては大きな挑戦で、これまで接した先輩方のイメージを頭に思い浮かべながら役作りをしています。コンラッドとザイードの最終決戦では海賊たちの大乱闘があり、そこで剣術指導の新美先生が関わってくださっています。剣術の型や動き方などを振り付けの中で教わっており、とても楽しいですし勉強になります。
――振り付けに加え、ダンサーとしても新たな境地を開いているわけですね。
宝満 いろいろ経験させていただいています。全幕物の作品がどうやってできるのか――セットや衣装の作成やスタッフの動きなど、NBAに移ってから学ぶことがとても多く、本当に勉強になるし、自分次第で様々なものを吸収できます。振り付けにしても動きや伝え方、身体や目線の角度など、今後に取り入れて使おう、と思うものもたくさんありますね。すごく鍛えられていると思います。
――今後はどういった挑戦を。
宝満 国内のバレエ団すべてに作品を振り付けてみたいです。そしていずれ海外にも打って出たいですね。
――期待しています。最後に作品の見どころを。
宝満 キャラクターがそれぞれ濃いですし、新垣さんの音楽が素晴らしいです。随所にスタッフの様々なこだわりが反映されていますので、ぜひ見てください。
◆新美智士「バレエのイメージを変える新たな作品」
■剣術の振り付けは「動きの提案」
引き続き、宝満とともに作品に新たな振りとエッセンスを加える西洋剣術インストラクターの新美氏にお話を伺った。
――新美さんはアメリカで剣術などを使ったステージ・コンバットを学び、2007年に日本人初のインストラクターとなられました。舞台のお仕事としては宝塚歌劇団の『All for One』、劇団四季『ノートルダムの鐘』などの剣術指導がありますが、今回バレエに携わってミュージカルとの違いなど、新たに感じられたことはありますか。
新美 バレエには以前首藤康之・中村恩恵『DEDICATED2016 “DEATH” HAMLET』で参加させていただき、今回の『海賊』で2作目です。NBAバレエ団からお話をいただき、まず『HIBARI』を拝見したのですが、自分がそれまで抱いていた「バレエ」のイメージを覆り、驚きました。一般的にもそうだと思うのですが、バレエは「とっつきにくい」「敷居が高い」というイメージがあったのですが、若者もすんなり入り込める新しい作品があったんだと。またダンサーの稽古場も見学し、身体能力も問題ないと判断しお受けしました。バレエは西洋の動きですし、私の西洋剣術とも合うはずだと。
――どちらも西洋のものなので融和性があるのですね。バレエの剣術の振り付けに苦労はあったのでしょうか。音源を聴きながら振り付けをしたのですか?
新美 いいえ、音源を聴くということはしません。バレエらしく、というよりもその場面の演技、感情の出し方のアクション――動きを私が提案し、その動きをダンサーが音楽に乗せながらバレエの形にしていきます。音楽のカウントに合わせるやり方も昔はやったことがありますが、それでは動きが限定され、表現の可動域が狭くなってしまうんです。
――可動域、ですか。
新美 はい。舞台――バレエは言葉のない芸術であるだけに、ダンサーの感情・演技ありきですよね。戦いの場の剣術は「声」でもあるわけです。ダンサー個々の自由裁量でそれぞれがより登場人物をより表現できるように、私は剣術アクションの流れをつくるんです。
■「安全」を最重要視。新しい作品は新規観客開拓の第一歩
――今回剣術指導をするにあたり、型の指導など特別なことはされたのでしょうか?
新美 とくにはしていません。私はアメリカでステージ・コンバットを学びましたが、そもそもアメリカをはじめ海外ではこうした剣や武器を使った舞台なり映画に出演する際は、かならずブートキャンプのようなところに入って、一定期間殺陣の訓練するのが常識です。日本はそういうキャンプを経ず、役者あるいはダンサーとしていきなり殺陣を行うという時点で、ステージ・コンバット界の認識としてはまず前提そのものが違う。
――それだけ危険なものだということですね。
新美 はい。だから私が教える際に一番重要視しているのは、いかに安全に、ケガをせずに殺陣を行うか、ということに尽きます。それは大前提のうえで、さらに動きにリアリティを持たせ、感情を込められるか、が振り付けになります。剣のアクションだけに限らず、剣を持たずともただ転ぶシーン一つにしても、安全な転び方というのがあるわけです。そうしたところも指導することで、ダンサーもケガ無く長く活躍できる。
――なるほど。そのほかに重要視していることはなんでしょう。
新美 海外のお客様が見たらどう思うか、ということを常に意識しています。たとえば西洋人が日本の侍の真似をして刀をふるっても何か変だ、と思いますよね。そうならないよう、西洋の人が西洋の殺陣を見て「すごい!」と思える、リアリティのあるものを目指しています。今回海賊はキリジ刀、オスマン軍はカトラスと、その時代に応じた刀も特注しました(笑)。
――新美さんをはじめ、随所に様々な関係者の思いが反映された作品になりそうですね。
新美 バレエをはじめ舞台は人間だけの娯楽だと思います。だからこそ役者やダンサーはそこに魂を込めているし、私も真剣に向き合います。共同制作という思いで、踊り手の気づかないところに対し、私が意見を出すというような形で当たっています。
この『海賊』はこれまでバレエをあまり見たことのない人の、バレエのイメージを変える作品になると思います。新しい顧客を開拓するには、古いものばかりでは難しいと思うのです。とくに若い人は新しいものを見て「こんなものがあるんだ。もっと知りたい」と思ったうえで、古典を見るのではないでしょうか。
――演劇で言えば最初からシェイクスピアを見せるのではなく、親しみやすい劇団から、ということですね。貴重なご意見です。ありがとうございました。
◆男が童心に帰る、剣術リハーサル
インタビュー後、実際に剣術シーンの稽古場を見学した。この日行われていたのは、コンラッドとザイードとの決闘シーンだ。
まず音楽なしでリハーサルが行われ、新美氏は「コンラッドはそこで身体を反り返らせたほうが、リアリティが出る」など、動きやアクションの見栄えなどにアドバイス。剣のみならず、殴る、蹴るが加わっている。
動きの確認だけなら舞台の殺陣の稽古だが、いざ音楽とともにダンサーが動き始めると、それは途端、バレエとなる。またこの時2組のキャストがリハーサルに当たっていたが、確かに2人のコンラッド、2人のザイードはそれぞれに間や距離の取り方が微妙に違う。ダンサー自身が剣術の振りとともに個々の役作りに当たっている様子がうかがえ、新美氏の言う「可動域」「自由裁量」の意味を思い出した。
また宝満が「(剣術は)楽しい」と話した通り、剣を持ち打ち合うダンサーたちの目は真剣ながらも、やはり楽しそうで非常にいい空気が感じられる。
コンラッドとザイードが決闘のリハーサルを繰り返している間、新美氏は海賊たちのリハーサルにも当たる。説明を聴きながらポーズを取る鉄砲隊の目が、こちらもまた子供のようにキラキラとしていたのが実に印象的だった。
振り付けとともにザイード役にも意欲を燃やす若き振付家にしてダンサーの宝満と、バレエに新たな可能性を提示する新美の西洋剣術のエッセンス。様々な才と知恵が創り上げたNBAバレエ団『海賊』は、必見の舞台になる。ぜひバレエに縁のない知人も誘って、出かけてほしい。
※文章中一部敬称略
取材・文=西原朋未

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