【インタビュー】VALSHE、3rdアルバ
ム完成「忘れるって何だっけ? 忘却
曲線をなだらかに」

VALSHEが8月23日、構想に1年以上をかけた3年ぶりのフルアルバム『WONDERFUL CURVE』をリリースする。深読みができるコンセプチュアルな作品を作り続けてきたVALSHEだが、“記憶”をモチーフにした本作は“VALSHEはこうでなければならない”というリミッターを外して自由度が高い。ジャンルという枠組みをとっぱらい、ボーカルスタイルも柔軟に変化していく楽曲の数々が今まで見せていなかった扉を開けることに繋がった。
とはいえ、『WONDERFUL CURVE』にはVALSHEらしい謎も隠されている。「今回はCDと“WONDERFUL CURVE”という物語を別々に捉えて制作していった」というが、未来の世界を舞台に記憶が描き出すストーリーのヒントが表題曲やそのミュージックビデオなどあちこちに散りばめられた。謎は全国ツアーで解き明かされることになり、VALSHEが提示したアルバムの記憶がライヴを見ることによって鮮明に蘇り、新たな景色を描き出す。これもまたワンダフルカーヴ=素敵な曲線。楽しむための手がかりは聴き手次第でいくらでも見つけ出すことができる作品の完成だ。
   ◆   ◆   ◆
■なぜ記憶をテーマにしたか

■忘れられるほど悲しいことはない
──3年ぶりのフルアルバム『WONDERFUL CURVE』はバリエーションに富んだ作品になりましたね。記憶をコンセプトに作ったということですが。
VALSHE:昨年リリースした『RIOT』を制作する前から“記憶”をコンセプトにした作品を作りたいと思っていたんです。ただ、自分の中でイメージしたボリュームがミニアルバムでは収まりきらないと思ったので、しばらく自分の頭の中だったりPC上で構想を練っていたんです。
──少しずつ曲も作っていたんですか?
VALSHE:いえ、スタッフとテーマを共有したのが今年の頭で、ほとんどの曲は4月以降から作り始めました。
──ちなみに記憶をテーマにしようと思ったのはなぜなんですか?
VALSHE:ViCTiMの活動を経て、再びVALSHEとして『RIOT』を作るにあたっていろんなことを思い返していた時に “人ってなんで忘れていくんだろう”と思ったのが始まりですね。“あんなに悲しかったのによく覚えてない”とか、ライブも“あの瞬間、めっちゃ楽しかった”って思い出すのに“ところで、その次の曲は何だっけ?”って断片的に記憶が薄れていく。そんなことを考えているうちに“そもそも忘れるって何だっけ?”って疑問に思って、エビングハウス(※ドイツの心理学者)の忘却曲線という実験結果に辿り着いたんです。人はものごとを一定の速度で曲線を描いて忘れていくらしく、だったら、どんなに良い作品を作っても良いライブをしても最終的には忘れられてしまうと思ったら、すごく悔しくて。忘れるカーブはなだらかにならないのかな?って。そのうちに学校の勉強でいうところの“復習”を一定のタイミングですればいい、ということを活用できないかな?と思って。じゃあ、それを念頭に入れて自分が納得したカーブを描くアルバムにしようと。
──いつもと違う作り方をしたということですか?
VALSHE:そうですね。楽曲制作という点では3枚目のフルアルバムだからこそ出来ることをやろうと思ったので自由度を上げて、新しい方たちに参加していただいたり、曲もボーカルもいろいろなアプローチをしています。今回は『WONDERFUL CURVE』という音作品と“WONDERFUL CURVE”という物語を別々に捉えて制作したんです。いつものごとくコンセプトはあるんですけど、物語を知らないと楽しめないアルバムにはしたくなかった、というのがこれまでとは違う点ですね。VALSHEは“顔出し”をして3年半になるんですけど、イラストで活動していた時期も3年半なので、ちょうど“真ん中イヤー”なんです。なので、VALSHEが得意としていた物語性のある世界観が強い曲も作りつつ、そこは考察や深読みが好きな人たちに楽しんでいただいて、コンセプトを気にしなくても楽しめるように。あくまで音楽作品であることを念頭に置いて作りました。
──なるほど。物語性というところでは、リード曲「WONDERFUL CURVE」は重要なポジションではないかと思ったのですが。
VALSHE:アルバムの中ではこの曲と「embrace」が物語の世界観を特に重視した楽曲になっています。「WONDERFUL CURVE」はアルバムのイントロダクションになるイメージで、自分自身はキャッチーじゃないものを作りたかったんです。その一方で表題曲はキャッチーでありたいという想いもあったので、対極にあるものをどうやってひとつにするか、今までにない課題を前に試行錯誤しながら作った曲ですね。自分がなぜ記憶をテーマにしたかの理由も描かれています。忘れられるほど悲しいことはないと思いながら。
──“失うことなんて怖くない 忘れられるほうが怖いよ”と歌っていますね。
VALSHE:忘れないために/忘れられないために必死になることはすごくパワーが要ることでもあるけれど、何よりもそれが恐ろしいと思っている自分の心と物語の真意をこの曲に乗せて歌っています。
──先ほど忘却曲線の話をしてくれましたが、“CURVE”の前に“WONDERFUL”という言葉をつけたことは、どう解釈したらいいですか?
VALSHE:そのまま“素晴らしい曲線”です。誰かに決められたり、何かにひっぱられるんじゃなく、人によって曲線の形は違うけれど、自分自身が納得して描けたら、それは素晴らしいカーブと言えるのではないかと。アルバムにもいろいろな曲があってそれぞれカーブの形は違うけれど、自分がこれでいいんだと思える結末であったらいいなと。聴く人の人生もそうであったらいいなって。
──忘れることは決して罪ではないということですよね?
VALSHE:そうです。忘れていくけれど、そのことを当たり前にしないで1秒でも長く覚えていたいなと思うし。同時に覚えていてほしいから、忘れられないようなことをやっていきたいというシンプルなことでもあります。
■今までと違うのはリミッターを外したところ

■いろいろなものを許したという感じです
──ミュージックビデオはまるで映画のような作りでゴシックホラーのような世界観だなと思いました。楽曲と映像のアイディアは同時進行だったんですか?
VALSHE:ミュージックビデオは自分が考えた起承転結の物語の真ん中、“承”と“転”だけをくりぬいているんです。“起”と“結”に関しては今後わかっていくと思います。後からもう一度見ていただくと、映像の中に出てくる子供たちが何をしているのかわかった状態で楽しんでもらえると思います。VALSHEが持っている天秤の動きであったりも。
──ミュージックビデオShort ver.だと子供たちが禁じられた場所の中に入ってしまい、VALSHEさんが天秤に石を乗せている場面が映し出される。
VALSHE:いつも「あなたの解釈にお任せします」と言っていたのですが、今回は種明かしをライブツアーや今後出てくる作品で見せたいと思ってるんです。ミュージックビデオもヒントのひとつです。
──なるほど。いつの時代なんだろうというのも気になります。
VALSHE:時代設定的には未来です。1曲目の「エビングハウスの忘却曲」に出てくる語りにもヒントになるワードがたくさん散りばめられているんです。“3116年”という言葉が出てくるのですが、後になって「あの数字はこういうことだったのか」とか「あの言葉はこういう意味なんだ」ってわかると思います。でも、さっきお話したように物語のことを考えなくても、単純にカッコいいインストゥルメンタルとしても楽しんでいただけるんじゃないかと。
──確かに。やっぱりVALSHEさんの作品は凝っていますね。
VALSHE:ふふふ(微笑)。
──コンセプトを考えなくても聴けるものにしたかったということですが、個人的にはこのアルバムって聴き進めると曲がどんどん明るくなっていって、自分で決めて自分の生きたいように生きればいいんじゃない?というメッセージが浮かび上がってくる気がしたんです。
VALSHE:おっしゃる通り。物語を抜きにした自分の気持ち、発したいメッセージは1曲1曲に込めています。今までと違うのは自分のリミッターを外したところなんですね。例えば「ガランド」のようなピアノ1本で歌い上げる曲は今までやってこなかったし、「ツリーダイアグラム」は過去最も高いキーを使って歌っているんです。これまではその2音下がセーフラインだと自分で決めて曲を作っていたんですけど、枠組みをとっぱらったことが制作過程の中にたくさんあったんです。もともと友人だったdorikoさんに歌詞を2曲書いてもらったのもそのひとつ。彼の詞はもともと好きだったんですが、今までなら全曲自分で書いていたと思うんです。今回は誰かに託してどうなるかわからないことを楽しむというか。
──これまでの方法論を壊したアルバムでもあるんですね。
VALSHE:そうですね。この表現が合っているかわからないですけど、いろいろなものを許したという感じです。壊したり、新しいものを受け入れることが良い結果を生むかもしれないと思える=余裕が生まれたんだと思います。
──ジャンル的にもヴァリエーションに富んでいて、ビッグバンド風の「Chain Smoke」もあるし、ヒップホップテイストの「Show Me What You Got」にも驚きました。
VALSHE:「Show Me What You Got」は過去にリリースしたダンスナンバーとは一線を画す振り切った曲です。主にライブで得たことが反映されているんですけど、フルアルバムだから力を抜いて聴ける曲も作りたかったんですね。VALSHEのことだから、この曲にも重要で難解なメッセージが隠されていると思う人もいるかもしれないけど、これに限っては特にないんです(笑)。音と言葉を楽しんでほしい曲で“終電かも? まあいっか”っていう歌詞も実際にこの曲のプリプロをしている時に終電を逃したり……。
──“財布を失くす”っていうのは?
VALSHE:失くしたり、“スマホを壊す”っていうのも全部自分のことなんです(笑)。良いことも悪いことも全部さらけ出して、全員で騒ごうぜって感じの曲ですね。全部が全部難解すぎたら疲れるし、“これ、ノリがよくて好きなんだよね”っていう曲もあっていいんじゃないかと。
──VALSHEさんは構築型ですからね。
VALSHE:そうですね。あとは「ツリーダイアグラム」が最高キーなら「a light」という曲のAメロでは過去最も低い音で歌っています。ハモりやコーラスにすごくこだわった曲で、歌う心持ちや見える景色が違った曲ですね。これも重要な曲になったと思います。
──「a light」は歌詞も含めてとても癒される曲です。
VALSHE:本当は何の根拠もなく明るい曲も書いてみたいんですよ。何の棘もない“みんな幸せ”みたいなことも歌ってみたいけど、“みんな幸せ? んなわけない”って考えちゃって書けないんです。だけど、ファンだったり身近な人が弱っていたら“絶対、大丈夫”って根拠のないことを言ってあげたいって気持ちも本当で。ストレートに背中を押してあげられることが歌えないんだったら、何ができるんだろう?と思った時にせめて同じ場所で隣にいたい。そういう気持ちを託した曲なのでライブで想いが伝えられたらいいですね。
──そこから軽快な「コドモハザード」、「GREAT JOURNEY」に移行する流れも好きなんです。最後は民族音楽のテイストもある温かい曲で終わる。子供の時に描いていた夢、こうなっていきたいと思った記憶を忘れたくないという想いが感じられる。
VALSHE:そうですね。「コドモハザード」は“みんな子供に戻ろうぜ”っていう歌だったりするんですけど、“自分は昔、どういう大人になりたかったんだろう?”って、大人になった今、思い出せなかったり。でも、その頃の記憶をさかのぼってみるとまた違う景色が見えたり、気づけることがあって。外側を探したりしなくても自分の中にちゃんとあるはずなので、そういうことを伝えられたらいいなと思って書きました。
■3年半の真ん中イヤー

■“ということは?”って
──キャリアの中でも自分を解放できたアルバムですか?
VALSHE:そうですね。経験を積めば積むほど自分のことがわかっていくんだけど、無意識に作り上げていた壁や限界の中に収まるのではなく、あえて壊しました。音作りにしても物語も予定調和なものは作りたくなかったので、自分自身も何ができるんだろう? 何が飛び出すんだろう? とワクワクしながら。最後の曲「GREAT JOURNEY」は自分自身がこのアルバム制作を“冒険”のように感じたことも相まってふさわしい大団円を描けたと思います。すごく大きな意味を持つ3枚目のアルバムができました。
▲『WONDERFUL CURVE』初回限定盤
▲『WONDERFUL CURVE』通常盤
▲『WONDERFUL CURVE』Musing盤


──そういう新たなページを開くようなアルバムがVALSHEさんの白い髪、衣装のヴィジュアルともリンクしているんでしょうか?
VALSHE:アーティスト写真、ジャケット写真、ミュージックビデオは“WONDERFUL CURVE”の物語をイメージしているんです。逆にこのアートワークからアルバムの中身は想像できないと思うんですよ。「ガランド」のような美しい曲は想像できても「DOPE」のような曲が出てくるとは思わないんじゃないかと。
──はは。尖ってるアグレッシヴなロックチューンはね(笑)。
VALSHE:そうそう。だから、おもちゃ箱みたいな感覚で“次はどんな曲が出てくるんだろう?”と思ってもらえたらいいなと思います。
──では、最後に謎の物語が解き明かされることになるツアー<VALSHE LIVE TOUR 2017「WONDER BALANZA」>について予告をしていただきたいと思います。
VALSHE:今回は5都市を廻らせていただくんですが、それぞれの会場の特性を活かしたライブができたらと思っています。ショー的な演出のあるライブとバンドを従えてのライブを経験して、どちらの旨味も知ってしまった今、VALSHEはきっと両方やりたいんだろうなというところで楽しみにしていただきたいんですが、何といっても3年ぶりのフルアルバムを出来立ての内に届けられるのが嬉しいですね。誕生日(9月15日)スタートのツアーでもあり、ぜひ、遊びに来ていただけたら。
──楽しみですね。
VALSHE:そうですね。福岡は久しぶりで、仙台は初めて行く土地なので、初めてのお客さんもいらっしゃるんじゃないかな。今回は歌をしっかり聴いてもらったり、盛り上がったり、自由度の高いライブにしたいですね。
──ちなみに謎のほうは?
VALSHE:ファイナルの東京キネマ倶楽部は、物語を回収する手助けができるライブにしたいと思っています。3年半の真ん中イヤーという話もしましたが、“ということは?”って。
──初期のVALSHEさんも見られるかもってことですか?
VALSHE:そこと繋がって初めて回収されるかもしれないですね。まだ何か出てくると思うので、楽しみにしていてください。
取材・文◎山本弘子
■3rd Full Album『WONDERFUL CURVE』


2017年8月23日(水)発売

【初回限定盤 CD+DVD+豪華フォトブック】※三方背仕様 JBCZ-9057 ¥3,900+税

<特典DVD>

・「WONDERFUL CURVE」MUSIC VIDEO

・Making of「WONDERFUL CURVE」

【Musing盤 CD+DVD+白皙描き下ろしイラストポスター仕様ブックレット】JBCF-9009 ¥3,900+税

<特典DVD>

・VALSHEの記憶!徹底解剖バラエティ

※音楽ポータルサイト「Musing」のみでのお取り扱いとなります。

【通常盤 CD】JBCZ-9058 ¥3,000+税

▼全形態共通収録曲

01.エビングハウスの忘却曲

02.WONDERFUL CURVE

03.ツリーダイアグラム

04.shut out

05.MONTAGE

06.ガランド

07.embrace

08.DOPE

09.Chain Smoke

10.Show Me What You Got

11.CYCLE×CYCLONE

12.a light

13.コドモハザード

14.GREAT JOURNEY

■<VALSHE LIVE TOUR 2017 「WONDER BALANZA」>


9月15日(金) 福岡:DRUM Be-1

開場 18:30 / 開演 19:00

(問)キョードー西日本 092-714-0159

9月16日(土) 大阪:味園ユニバース

開場 16:15 / 開演 17:00

(問)サウンドクリエーター 06-6357-4400

9月18日(祝・月) 愛知:名古屋ReNY limited

開場 16:00 / 開演 17:00

(問)サンデーフォークプロモーション 052-320-9100

9月23日(土) 宮城:仙台 darwin

開場 16:30 / 開演 17:00

(問)キョードー東北 022-217-7788

9月29日(金) 東京:東京キネマ倶楽部

開場 18:00 / 開演 19:00

(問)ディスクガレージ 050-5533-0888

9月30日(土) 東京:東京キネマ倶楽部

開場 16:00 / 開演 17:00

(問)ディスクガレージ 050-5533-0888

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