取材:田中 大
進化、過渡期、最高到達地点を示す傑作
アルバム
聴き応えのある曲揃いのアルバムになりましたね。
全体的に重厚で、ウェットで、しっとりした感じが出てるんですかね。今、すごく過渡期だと思うんです。前作で手にしたステージからさらに新しいステージへ行こうとしているんで、そこがそのまま出てる気がする。それが内省的でストイックな感じの音につながってるのかな。
「beautiful survivor」が今回収録されているシングル曲の中で最初にリリースされましたけど、この曲を作った辺りから新たなステージに向かう心境になってたってことですか?
まさにそうだと思いますよ。スキルフルなことではなく、“もっと自分の本質的なことが音に乗るためにはどうしたらいいのか?”って思いながら作ったから。それまでは手広くいろんなアレンジを自分のフィルターを通して出すっていうのが、僕やバンドの特技であり、DOPING PANDAらしさだと思ってたんですけど、もっと根本的な“らしさ”がある気がしだして。そこを…考えるチャンスを、この曲の時にもらったんです。それが、以降のモチベーションにつながったと思う。もっと広いところというか、深いところへ行きたいっていう。そういうところへ向かって行っているのが、前作からの大成長なんです。
行きたい“深いところ”を言葉にすると?
簡単に言うと単に“音楽を作る”ってことじゃなくて、クリエイターとして深いところへ行きたい。それはリリックにメッセージを乗せるとかいうことじゃない。音を作ることの意味とか、是非とかも考えてものを作るようなところへ行きたいっていうこと。音楽を続けるためには、そういう強さが必要なんだと思います。“売れる売れないじゃない”って、どのアーティストも昔から言うけど、今こそそういう時代になってるから。
今回のアルバムの中だと「gaze at me」に、すごく新しさを感じました。いろいろなサウンドがコラージュ的に重なり合って形成されているので。
この曲は僕も思い入れが強い。ミックスまで含めて全部自分でやったんです。ハリウッド映画の『Don’t Look Up』の主題歌のオファーがあって書いたんですけど、それ用は全部打ち込みのエレクトリックだったんで、アルバムに入れるから生にして。この曲には自分が出てますよ。スネアやバスドラの音ひとつとっても。もちろん、僕の頭の中で鳴っている音を完璧に形にできる域には全然達してないんだけど、“100% Yutaka Furukawa”って方向を見せた曲は、世の中に出した曲の中では今のところこの曲だけですね。
自分の頭の中にあるヴィジョンを徹底的に形にしたい人の多くは、DTMとかで全部自分で作ってやりたがると思うんですけど、バンドでやっている理由って何なのでしょうか?
全部自分でやるって発想があってもいいとは思うんだけど、それは別なんですよね。リミックスの仕事や『gaze at me』が最初にできた時は、僕個人のものだったし。でも、DOPING PANDAってバンドをやって、リリースもして、ライヴもやってる。それでDOPING PANDAってバンドで評価されたいと思っているんです。やっぱバンドってものが好きだし、DOPING PANDAが好きだから。“ものを創る”ってことに関しては、僕は以前にも増して独善的になってきてるけど、ライヴはメンバー3人で音を鳴らす。もちろん機械で鳴らすこともできるんだけど、やっぱり3人で音を鳴らすってことが全て。それがライヴやバンドの本質だから。クリエイターのYutaka Furukawaとしてはもしかしたら制作の方がライヴよりちょっと重いかもしれないけど、DOPING PANDAっていうバンドにとっては、どっちかと言うとライヴが全てなんじゃないかな。
「Lost & Found」でBEAT CRUSADERSのヒダカトオルさんが参加してますけど、これはどういう経緯で?
DVDの初回に付けてた曲をもう一度今回収録するにあたって、同じものだとお客さんに申し訳ない。だから、みんなが喜ぶようなものにしたくて、誰かに歌ってもらうことにしたんです。こういう楽曲だし、英語の歌詞だし、歌のスキルの点からしても、思い付いたのはヒダカさんしかいなかった。僕に知り合いが圧倒的に少ないっていうのもありますが(笑)
あと、「standin’ in the rain」が良いです。ストリングスが活きているし、アコースティックなテイストの曲ですね。
こういうウェッティーなストリングスを入れたのは初めてかもしれない。今回のアルバムの中で唯一と言っていいくらいバラード的な立ち位置の曲ですね。実はこの曲と『crazy one more time』は、“シングル的な曲を作る”っていうモチベーション…僕の言葉で言うと“共感速度が高い曲”ってことを考えて作ったんですよ。だから、この2曲はすごくメロディーが引き立っていると思います。実際この2曲は評判が良いですよ。でも、その奥にあるアレンジとかは、すごく音楽哲学が入ってるんですが。
では、最後に何かありましたら、おっしゃってください。
過去最高作品を作ったってことは紛れもない。クオリティーも音楽性もものすごく高いし、共感速度も高いアルバムだと思います。でも、さっき喋ったみたいに、過渡期であるのも事実。これからのDOPING PANDAも含めていろいろと見えると思うので、その辺も聴いてもらえたらと思います。
FURUKAWA(vo&g)、HOUJOU(b)、HAYATO(ds)からなる3ピース・ロック・バンド。クラブ・ミュージックの要素を大胆に導入したダンス・ロックが彼らの持ち味である。
97年の結成直後はメロディック・パンクなイメージが強かったが、ディズニーのカヴァー・コンピレーション・アルバム『DIVE INTO DISNEY』参加などの活動を経ていく中で、徐々にその雑食性を露にしていく。05年には『High Fidelity』でメジャー・デビュー。06年には“m-flo loves DOPING PANDA”として「she loves the CREAM」でm-floとの共演も実現。
ヴォーカルのFURUKAWAは、自身を「ロック・スター」または「スター」と自称し、それが愛称にもなっている。また、DOPING PANDAのファンは「ドーパメイニア」および「メイニア」と呼ばれており、一種のファン・シーンが形成されていると言えよう。
05年作『High Pressure』に続き、07年には“High”3部作シリーズ完結編となるアルバム『High Brid』をリリース。“ハイパー・ポップ・ロック”との呼び声も高い本作は、一度聴いたら忘れられないそのバンド名同様、非常にキャッチーかつエンターテイメント精神溢れる音楽を構築している。DOPING PANDA Official Website
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