エレクトロを突き詰めた、ねごと ラ
イブで感じた想いを具現化

『ETERNALBEAT』はBEATの効いた踊れるアルバムを作りたいというコンセプトから完成したアルバム

 千葉県で結成された4ピースバンドのねごとが2月1日に、約2年ぶりとなる通算4枚目のフルアルバム『ETERNALBEAT』をリリースした。昨年2nd e.p.『アシンメトリ』で、よりエレクトリックでダンサブルな方向性を見出したねごと。今作では、中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES)や益子樹(ROVO)が参加し、打ち込みを使ったサウンドと、生音や歌の質感のギャップが、絶妙なバランスで混じり合った、これぞ“ねごと”の真骨頂とも呼べるものになった。「自分たちの答え」とも例える今作の誕生の背景とは。そして、中野、益子によって新たに見出されたものとは。

踊れるアルバムを追求

蒼山幸子

――今回のアルバムはどんなところから作っていったのですか?

蒼山幸子 タイトルが『ETERNALBEAT』で、BEATという言葉が入っていることからも感じてもらえるように、BEATの効いた踊れるアルバムを作りたいと思いました。今までは、自分たちの中から湧き出るものを曲にしていたので、ひとつのテーマに向かって制作するということが初めてできたアルバムです。

――ねごとの曲は、もともと踊れる感じはありましたけど、そこをアルバム1枚で突き詰めようと。

沙田瑞紀 そうですね。ライブでも、そういうテーマで曲間とかも繋げてやってみたら、それがけっこうお客さんの反応がよくて、自分たちとしてもすごく気持ちのいい状態で音を鳴らせたので、それを軸にしていこうと思いました。

――ブログで、自分たちが求めていたものの答えがこのアルバムにある、と書いていましたよね。

藤咲佑 はい。今の自分たちの答えというか。ライブを通して感じてきた、ここ数年の想いが詰まっています。

――タイトル『ETERNAL BEAT』には、どういう気持ちを?

蒼山幸子 リードトラックに<やまないビート♪>という歌詞があって。バンドとしての流れもそうですし、ビートを止めずにこの勢いをずっと続けていけたらいいなという想いを込めています。

――打ち込みが前以上に使われていて、きっと今までとは違うデモ作りで、大変だったのでは?

澤村小夜子 瑞紀が大変だったと思います。

沙田瑞紀 基本的にデモアレンジは私がすべて作っていて。時間がたっぷりあって。プリプロも第三段階くらいまであって、その上でやっとレコーディングという。それくらいのスピード感だったので、徐々にデモのクオリティをあげて、実際のレコーディングまでに精度を上げていくことができました。

――その第一段階や第二段階などは作業的にどういう違いが?

沙田瑞紀 最初に曲を作った人のデモがあって。基本的には私と幸子のデモなんですけど、私のデモなら私が自分で歌っているものもあったので、それを幸子に歌ってもらったり。幸子が作ったデモに対して、私がトラックをつけたりというのが、第一〜第二段階で。そこで「もっといいメロディがあるかもね」って、いったんメロディをはずしてトラックだけにして、そこに対して4人で改めてメロディを考えるとか、それを幸子が歌ったらどう聴こえるか実際に歌ってみたり、というのが、第二〜第三段階。それで、実際にどのメロディにするかを決めて、本番のレコーディングに臨むという。そういう段階の中で、じゃあ歌詞は誰が書くとか、すでにある歌詞を使おうとかいうのもやっていきました。

――メンバー全員が、共作の形もありつつ歌詞や作曲で関わっているのは、そういうやり方だったからなんですね。

沙田瑞紀 そうです。最初のアイデアがあり、それに対して全員のアイデアを試して、一番いいものやいい組み合わせをチョイスしたものもあります。逆に「せーの」で録ったのもありますよ。「cross motion」「holy night」「Ribbon」がそうかな。

――大変だった曲はありましたか?

蒼山幸子 今回は、あまり大変だったという感覚はなかったですね。踊れるというのは、もともとある要素でもあったので。方向性を突き詰めるという点で、時間がかかったのは、BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之さんと一緒に作業をした「アシンメトリ」です。最初から最終形になるまでに、すごく形を変えた曲なので。

藤咲佑 その「アシンメトリ」ができたことで、他の曲も方向性が見えた感じでした。アルバムの方向性が固まったというか。

――「アシンメトリ」は、スマホ2台で楽しめるMVのアイデアも面白かったですね。そういうアイデアも含めて、テクノロジーを使いながら感覚的な部分でも楽しめるのが、今回の作品かなと。

沙田瑞紀 そうですね。「アシンメトリ」のMVの監督・大河臣さんは今回初めてだったのですが、そういう感覚を共有できる方と一緒に今回は作ることができたことが、すごくよかったと思っています。

――「アシンメトリ」の次にできたのは?

沙田瑞紀 「アシンメトリ」と「シグナル」を中野さんと同時期に作って、それと並行して益子樹(ROVO)さんと「holy night」や「cross motion」を作りました。この4曲がほぼ同時期で、これらが固まった上で、その後に自分たちのプロデュース曲を進めました。

今までとは違う初めてのレコーディング手法

沙田瑞紀

――たとえば中野さんのレコーディングはいつもとは違っていたり?

澤村小夜子 レコーディングの行程で、普通はリズムから録っていくんですけど、「アシンメトリ」は、歌やギターを先に録って、ドラムが最後だったんです。まず、それが初めてでした。

蒼山幸子 すごく新鮮でしたね。歌録りの作業も中野さんと一緒にやらせていただいたのですが、自分ならこのテイクを選ぶのに、中野さんはこっちを選ぶんだなとか、どれをOKテイクにするかの違いもあって面白かったし。たとえば、ちょっとしたニュアンスの部分で、自分では声が揺れていてダメだなと思っても、中野さんはそれがいいと思うといってくれたり。

――新しい歌い方を発見できましたか?

蒼山幸子 そうですね。きれいに歌おうとしなくてもいいと言われて。他の楽器がタイトにかっちりしているので、その真ん中で歌は生のものとして、揺らいでいたりしたほうが人っぽくていいと思う、と。「幸子ちゃんの存在を感じられる歌をチョイスしたほうがいい」と。それは、なるほどな〜と思いました。

藤咲佑 歌が先に固まっている状態だったので、そこに合わせて行くというか。歌がふんわりしていてリズムの揺れがある場合は、そこに合わせていったりとか。だからリズム隊は、すごくやりやすかったですよ。

澤村小夜子 やりやすかったですね。いつもは自分が間違えてやり直しになると、そのぶんみんなを待たせてしまうので、そういうところに意識がいったりするんですけど。最後だと、安心して好きに叩けました。

――ドラムの打ち込みは?

澤村小夜子 打ち込みは瑞紀がやっています。私は、生で入れたいところだけ録って。だから、キックだけ録るとかハイハットだけ録るとか。チキチキチキって、延々とハットだけやったりしたんですけど、身体のバランスが変わってくるので、すごく難しくて。

――あと、シンセベースも使っているんですよね。

藤咲佑 中野さんから、「アシンメトリ」を作った段階でこの曲はシンセベースでいきたいと提案してくださって。楽曲に合っていると思ったし、新しいねごとの魅せ方の一つとして、新しい楽器にトライすることは視野が広がると思って。それまでは、ロックバンドという意識からシンセベースには抵抗があったんですけど、「アシンメトリ」が、それを取り払う突破口になりました。なので今作は、シンセベースを使った楽曲も増えて。ベースの楽しさも増えた気持ちですね。

自分たちが良いと思って鳴らしているものの説得力

藤咲佑

――ロックとかロックバンドというものに対する、変なこだわりがなくなった?

沙田瑞紀 そうだと思います。前作は、エモーショナルにロックバンドとして鳴らせるものを鳴らすということを意識して。今回は踊るとかエレクトロというものに対して突き詰めることができました。選択肢が広がった感じです。前は、バンド然としたレコーディングのやり方がいいと思っていて、そのよさもあるんだけど、必ずそうじゃないとダメなわけではないと、変なこだわりがなくなって。

 逆に、その曲ごとにどうこだわるかを考えるようになって。打ち込みを使うのも、シンセベースを使うのも、その曲をより伝えるための選択です。そうやって曲一つひとつの精度を上げることで、アルバムとしての完成度を高めることができました。

――どんなにサウンドが打ち込みになっても歌は生なわけですが、歌という部分でも、向き合い方に変化はありましたか?

蒼山幸子 私は自分らしい歌い方を意識しながら曲を作っていて。今までは、メロディとしてのキャッチーさを求めて、サビは高音域を使ったほうがいいんじゃないかとか。そうじゃなくて、自分らしさの出る音域でサビを作るとか、ちょっとした語尾の切り方やブレスの入れ方でも、自分らしさは出せると思ったし。そういうものを大事にして、曲を作ったというのがありました。歌を大事にというか。

――今までも、そういう意識はあったんですよね?

蒼山幸子 今考えると、前はロックだから元気に歌ったほうがいいとか、そういう気持ちがあったのかもしれないです。でもやっぱり、自分は語るように歌うのが好きなので、バンドでももっとそれを押し出していきたいと思って、今回は作りましたね。

――きっとファンの人は、このアルバムを聴いて驚くのでは?

沙田瑞紀 ライブにずっと足を運んでくださっている方には、徐々にこういう方向にシフトしていたことが伝わっていると思うんですけど。音源をメインに聴いてくださっている方が聴いたら、3rdアルバムとまったく毛色が違うので、びっくりすると思います。でも、そのびっくりを狙っている部分もあって。どうせやるなら、大きく変わって、より大きなびっくりを与えたいと思うので。

――バンドシーンの中で、このアルバムは他とは違う特別なものになったと思いますが、みなさんとしてはどうですか?

藤咲佑 他と比べるとかより、自分たちの中で最高だと思えるものであればいいなと思っています。それって、聴く人に伝わると思うので、その点では自信を持って送り出せるアルバムになりました。

沙田瑞紀 自分たちが良いなと思って鳴らしているものの説得力って、他に勝てるものがないと思います。ちょっとでも伝わっているかな? とか不安があると、そのくらいしか届かないんです。それは、ライブをやるたびに実感することです。自分たちが納得するものができたので、それを一刻も早くライブで鳴らしたいという気持ちがいちばん大きいです。

『フリースタイルダンジョン』からもインスパイア⁉

澤村小夜子

――アルバムとしては約1年ぶりの作品になりますが、この1年ぐらいで影響を受けたものは?

藤咲佑 影響というか…、私が歌詞を書くときは、今までは元の誰かの歌詞があって、それをベースに書くことが多かったんですけど。今回は瑞紀と共作したものがあって。そこでは、瑞紀がどういう気持ちなのかとか、メンバーのことを考えながら書きましたね。

沙田瑞紀 私は、映画をたくさん見ましたね。最近では『この世界の片隅に』がすごくよくて。もう1回見に行きたいなと思っています。あと『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』もよかったし。

蒼山幸子 私は、いろんなところでいってますけど、宇多田ヒカルさんのアルバム『Fantome』をすごく聴きました。耳に新鮮に飛び込んでくるものがたくさんあって、私もそういうものを作りたいな〜という意識で、久しぶりに音楽を聴くことができました。

澤村小夜子 私は最近、ラップものがけっこう好きですね。『フリースタイルダンジョン』をよく見ているし。その影響で、アルバムの「凛夜」みたいな曲ができたのかもしれないです。「凛夜」はラップではないけど、そんな雰囲気もあるということで。あと、新宿ゴールデン街とかいろんな場所に行って、まったく違うジャンルの職種の人と、考え方とかいろいろ話を聞きました。アルバムに影響しているかはわからないけど。

バンド結成10周年で、転機になった曲とは?

ライブのもよう

――2017年は、バンド結成10周年にあたるとのことで。10年で印象に残っているのは?

澤村小夜子 一昨年のデビュー5周年イベント『お口ポカーンフェス?! NEGOTO 5th Anniversary ~バク TO THE FUTURE~』は楽しかったです。ねごとばっかり、いろんなねごとが5バンド出るというイベントで、7時間出ずっぱりで大変だったけど。

蒼山幸子 それも含めて、自主企画をたくさんやってきたので、あのときはあの人が出てくれたとか、一つひとつ思い出すと楽しいですね。デビュー前は下北沢ガレージでやっていたこととか、当時を思い出すと早いな〜って思いますね。

澤村小夜子 一度、くるりさんと一緒に下北沢シェルターでやって、会場がギューギューだったんですけど、それもすごく楽しかったし。

――ディスコグラフィー的に、転機になった曲は?

沙田瑞紀 ファーストシングル「カロン」じゃないかな。

蒼山幸子 あと、4thシングル「nameless」から6thシングル「たしかなうた」までの3ヶ月連続リリースの期間は、自分たちの中では暗黒期と呼んでいて(笑)。環境的に、大学と音楽活動の両立がすごく大変だったし、バンドの方向性としてもすごく悩んだ時期でした。そのすぐあとに2ndアルバム『5』を出したんですけど、1stアルバムは初期衝動で作れたけど、2ndアルバムはすごく悩んでいた時期かもしれないです。ここらへんからグ〜っと深いところに潜っていって。

澤村小夜子 「シンクロマニカ」くらいから、また浮上してきた感じ。

藤咲佑 気持ち的に復活していった。

――その暗黒期を乗り越えるモチベーションになったものは?

沙田瑞紀 大学を卒業して音楽活動1本で考えられるようになったのもあるし。

藤咲佑 ライブをたくさんやって、自信がついたのもあります。それまでは、シーンを気にしてしまって自分たちを見つけられない感じがあって。そこからようやく見つけられたのが「シンクロマニカ」だったと思います。

――そんな10年を経て、自分たちらしいと思えるアルバムがついに完成。その上で、今後の目標は?

沙田瑞紀 この流れを止めたくないですね。

蒼山幸子 あまり間を開けずに、いろいろ攻めていきたいですね。ツアーをやるとお客さんとの距離感が近くなるので、もっといろんな場所にも行きたいと思います。またどこかのタイミングで、自主企画イベントもやれたらいいなと思っています。

澤村小夜子 今後を楽しみにしていてください!

(取材=榑林史章)

 ◆ねごと 高校時代にバンド結成し、2008年からライブ活動をスタート。同年『第1回閃光ライオット』で審査員特別賞を受賞。2010年にミニアルバム『Hello! “Z”』でメジャーデビュー。これまでにアニメ『銀魂゜』EDテーマ「DESTINY」 など、数多くのタイアップ曲を手掛ける。2月3日(金)香川・高松DIMEを皮切りに、3月24日(金)東京・Zepp DiverCity Tokyoまで、『ねごとワンマンツアー2017「ETERNALBEAT」supported by café & pancakes gram』を開催。

※宇多田ヒカルのアルバム『Fantome』の「o」はサーカムフレックス付きが正式表記。

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