キラキラサウンドに隠された深い闇。
Mrs. GREEN APPLE『ミスカサズ』

その名も、Mrs.GREEN APPLE。

彼らの楽曲はシンセサイザーの音を多用したキラキラと煌めくようなサウンドとメッセージ性の強い歌詞が特徴的だ。アニメのEDに選ばれた『Speaking』や、今やライブの定番曲になりつつあるメジャーデビューアルバムのリード曲『StaRt』などでは、ポップで覚えやすいメロディと前向きでありながら何処かシビアで深みのある歌詞と言う彼らの真骨頂が思う存分楽しめる。

そのハイテンションな作風から音楽フェスなどでも大人気の彼らだが、実はその魅力は「キラキラした明るさ」だけではない。彼らのもうひとつの魅力――「深い闇」は、ファンの間で絶大な人気を誇る楽曲『ミスカサズ』に現れている。



昨年発売されたメジャー1stフルアルバムに収録されているこの曲は、ボーカル大森元貴の溜息と泣き叫ぶような歪んだギターの音から始まる。フェスなどで多く演奏される彼らの代表曲とは一線を画している事が、冒頭をひと聴きしただけでわかるだろう。





そう、その通りこの曲は「名前の無い気持ち」を描いた歌なのだ。
この曲の主人公は、自分を取り巻く人達の心が見えない、知ることができない事に悩んでいる。手探りのように周囲の人に接し、その閉塞感に苦しむ。



1番冒頭のこのフレーズに描かれている「貴方」は一見すると恋人の事のようにも思えるが、友達や家族など様々な可能性が想像出来る。主人公は「立ち込む煙の輪」に阻まれるような感覚に支配され、「貴方」に出会えないと嘆いている。人の心を見透かせない事はある意味では当たり前の事だが、彼にとってそれは苦しみそのものなのだ。



誰かとどんなに「肩寄せあって」も、相手の気持ちは見透かせない。だから彼は見透かす事を諦め、目を閉じてしまう。
しかし、サビにはまだ希望を捨てきれない彼の本当の気持ちが痛々しい程に鋭い言葉で描かれている。



「守っていて その腕と目で」「待っていて」と言う言葉には、わかりあえなくても知りたい、誰かの心に触れたい、自分のことも知ってほしいという思いが身を切り裂くような切なさと共に表されている。しかし、その後に続く言葉は「無理なのね」と言う諦めのひとこと。
更に、大サビの前にはこんなフレーズが繰り返される。



実は作詞作曲を手掛けたボーカルの大森は、この曲を作った時たったの19歳。小学生の頃からバンド活動を開始し、中学生で作詞作曲を本格的に行うようになった早熟のミュージシャンである彼は、同世代の普通の若者達よりもよほど多くの言葉を知っているはずだ。
しかし、そんな彼が「言葉に表せれない」「嫌になる」と言う程に、この楽曲で描かれる感情は複雑なもの。静かに、しかしやけっぱちのように繰り返されるこのフレーズが、楽曲に込められた闇の深さを物語っている。

曲の最後で、大森は今にも泣き出しそうな声で祈るようにこう歌っている。



何度諦めても諦めきれず、言葉に出来ない程の狂おしさに苛まれても人の心に触れようとしてしまう彼の思いが、物悲しげで控えめなピアノの旋律と怒涛のように迫りくるギターの轟音に彩られて切々と胸に迫る。この曲には、思春期に誰もが一度は経験する「得体の知れないもどかしさ」そのもののような少年の嘆きが、赤裸々な言葉で描き出されている。

明るくポップなサウンドも勿論充分魅力的だが、この曲のような闇の部分に触れれば更にMrs.GREEN APPLEの魅力に気づけるだろう。物悲しい秋の夜長、部屋の電気を消して少年達の闇にじっくりと浸ってみては?

TEXT:五十嵐 文章

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