L→R 金澤ダイスケ(Key)、山内総一郎(Vo&Gu)、加藤慎一(Ba)

L→R 金澤ダイスケ(Key)、山内総一郎(Vo&Gu)、加藤慎一(Ba)

【フジファブリック インタビュー】
フジファブリックの
肖像画と言えるものを作りたかった

フジファブリックは
お洒落になっちゃダメ(笑)

ところで、さっき少しだけ話が出ましたが、「Particle Dreams」は「カンヌの休日 feat. 山田孝之」(2018年10月発表のミニアルバム『FAB FIVE』収録曲)以来となるメンバー3人による作詞です。どんなふうに書いていったのでしょうか?

デビュー15周年のアニバーサリーをやって、それからコロナ禍を経ての今回の20周年なんですけど、コロナ禍の終わりってよく分からなかったじゃないですか。もちろん今もコロナに罹っている方はいらっしゃいますけど、「Particle Dreams」を作ったのはライヴにお客さんの心がまだまだ戻りきっていない時期で。それでも意を決してお金も時間も使ってライヴに来てくださる方たちと楽しめる、身体を動かせるような曲を作りたい。なおかつ、20周年が控えているということで「Particle Dreams」はライヴということを念頭に置きながら作ったんですけど、15周年の時に夢であり目標だった大阪城ホール公演を実現させた…実現させたら夢は終わりなんですけど、その夢というものを炭酸水の泡に例えて何度でも注いでいけば気泡として湧き上がってくる。ダイちゃん(金澤ダイスケの愛称)が炭酸水の泡というキーワードを出してきたところに、加藤さんが20周年を総括する意味で“行き詰まったところが始まりだ”というメッセージでもあった「徒然モノクローム」(2012年5月発表のシングル「徒然モノクローム/流線形」収録曲)のフレーズをアンサー的に入れてくれて、ダイちゃんから加藤さんに渡った時点でほとんど完成していたんですけど、最後にちょっとだけ僕が調整させてもらいました。そういう書き方は初めてだったから難しく思いながらも、20周年に向けてバンドとしてそういうことにもチャレンジしないといけないかもしれないというのはありましたね。

その一方で、今回のアルバムの演奏面では山内さんがギターを弾くことにこだわっていないというか、弾く時は弾く、弾かない時は弾かないというメリハリが以前よりもはっきりしてきたという印象がありました。

そうですね。例えば「KARAKURI」はガットギターでウダダウダダ・ウダウダ・ウダダウダダっていう速いブラジル音楽みたいなものをやりたかったんです。そこにブラジルのマンドリンみたいな12弦の楽器で弾くような単音フレーズをギターで入れたんですけど、これだとスケールが大きくならないと思ってオルガンに置き換えたんですよ。基本的に僕はフレーズを全部ギターで作っていて、それをシンセやオルガンに置き換えているのでギターを弾いていない感覚はないですね(笑)。もちろんそのままギターでいく時もありますけど、今回はギターというよりは歌とトータル的なサウンドメイクみたいなところに力を注いだかもしれないです。

そのぶん、金澤さんのキーボードが上モノとして以前よりも活躍しているという印象もありました。

いやぁ、「KARAKURI」「ミラクルレボリューションNo.9」「ショウ・タイム」なんてダイちゃんらしいと思います。アナログシンセのサウンドとか、ハモンドオルガンのサウンドとかも大活躍していますよね。“こういうふうに弾いて。ああいうふうに弾いて”という説明がもういらないんです。僕が作ってきたデモをまずはなぞってもらいますけど、なぞってもらってもダイちゃん的に“こういう音の積み方のほうがフジファブリックっぽくない?”っていうアイディアをどんどんと出してくれて。やっぱりそこはキーボードの本職の人だけにいっぱいアイディアを持っているので、ダイちゃん流にやってもらって。なおかつ、ライヴのことを想像すると、僕は歌っている時にマイクの前から動けないし、動こうと思ったらヘッドセットになるから(笑)。それはどうかと思うし、フォワード的な役割としてシンセのような強い楽器をダイちゃんに弾いてほしいというのもありますね。だから、シンセソロを弾いてもらうことも多いんです。僕もシンセソロを家で弾いているとめっちゃ楽しいですからね。“おお~!”って楽しくなるんですよ(笑)。

(笑)。そう言えば、今回はシンセソロが多いですね。

そうですね。ギターソロも弾きたいですけど、歌いながら弾くのは大変ですから…って言ったらいけないのかもしれないですけど(笑)。

もういくつか特に印象に残った曲について訊かせてください。「音楽」は音楽への愛をストレートに歌っていますが、《民生の新譜が良かったよなぁ》とか《サザンの新譜もよかったよな》という歌詞は、山内さんの実体験なのですか?

そうです。時間軸はいろいろなんですけど。歌いながら最初から最後までサッと書いて、何日か置いて、もう一回読み直して手直しして。そういう感じで作りました。

コードがお洒落だとおっしゃっていましたが、昔のニューミュージックをちょっと連想させるところもあって。

あぁ、なるほど。ガットギターで弾いたデモをもとにダイちゃんがコードのテンションを決めてくれて、相談しながら調整しましたけど、基本的にダイちゃんのセンスが詰まっている曲ですね。“メジャーセブンスをそのまま弾くんじゃなくて、ナインス以上を入れたいよね”“曲の一番、二番が繰り返しに聴こえるけど、繰り返しに聴こえないテンションを選びたいよね”っていうちょっとしたミュージシャン的なこだわりを入れてくれて、めちゃくちゃ頑張ってくれました。

そういうこだわりってリスナーは専門的なことなので分からないかもしれないけど、音楽として伝わりますよね。

そうですね。耳に入ってきた時に景色がちょっと変わるようなところはあると思います。

リズミカルな曲にもかかわらず、リズムがあまり跳ねていないところが面白いです。

全然跳ねていないですよね(笑)。これ、打ち込みなんです。フジファブリックはお洒落になっちゃダメというか、カッコ良いよりもダサカッコ良いを選ぶというか(笑)。“朴訥とした歌がいい響きに乗っていますけど、どういうことですか⁉”っていうギャップを楽しむんだったらリズムも跳ねないほうがいいと考えました。

《僕を救済する》と歌っていますが、音楽に救われた経験を大上段に構えず、これぐらいのテンションで歌っているところもフジファブリックらしいのかな。

作った人は僕を救うために作っていないですからね。勝手に僕が救われているだけですから(笑)。僕はこれまで人生の95パーセントぐらいを音楽に振りきって、あとの5パーセントは余暇みたいだと考えて生きていると思っていたんです。でも、40歳を越えた時にふと気づいたら100パーセント振りきっていて。20年やってきたこともそうですけど、そういう自分も嬉しくて、そんな時にできた曲なんです。もう潰しがきかないどころか、これしかできないみたいな(笑)。それをやっと実感できた時にできた曲だし、“何か面白いことないんかな?”と言っているような曲っていう(笑)。

フジファブリックはお洒落になっちゃダメという意味では、「月見草」も叙情派フォーキーと言える曲にアナログシンセの音が突然大きめに入ってくるという。

あれ、でかいですよね?(笑) エンジニアさんがすごくでかくしてきて。でも、そのいびつさが良くて。いびつさって意図的に作れなかったりするので、“でかくなっちゃいました”“いいんじゃない?”っていうようないびつさが降ってきてくれました。“ラッキー!”みたいな感覚なんですけど、この曲自体が人生において“寂しい、侘しい、しんどいって感じるのも最高じゃん”っていう曲だし。ざっくり言いすぎですけど、そういう曲なので生きていることのよく分からなさと嬉しさと寂しさみたいなところが…そういったものを表現するには、ああいうシンセが必要だったんです。曲が広がるタイミングだから、あれくらいレベルがでかくていいと思います。

途中のラッパの音はカズーですか?

あれは口で出した音なんです。“口トロンボーン”って呼んでいるんですけど、デモを作った時から入っていて、デモの音をそのまま使っています。メンバーに“ここ、のどかなトロンボーンのミュートした音が欲しいね”って説明する時にトロンボーンのプラグインを持っていなかったから口でやったら、それが面白いってなりました。

ライヴで「月見草」をやるとしたら?

口でやるんじゃないですかね。もう、全員でやりたいですね(笑)。

お話を聞きながら、人生観や音楽愛も含め、自分を見つめ直すことが今回、大きなテーマになっていたんだと改めて感じて、肖像画を意味する“PORTRAIT”というタイトルは本当にぴったりだと思いました。

自分たちの肖像画と対峙している感覚がありますね。それはやっぱり20周年ということが大きくて、バンドを続けていく中で節目になる年でもあるので、ちゃんとこのバンドと向き合って未来にも思いを馳せつつ、過去のことも振り返りながら“こういうことを思ったよな”っていう総集編のようなアルバムになりましたね。

取材:山口智男

アルバム『PORTRAIT』2024年2月28日発売 Sony Music Associated Records
    • 【完全生産限定盤】(CD+Blu-ray+PHOTO BOOK)
    • AICL-4490~2
    • ¥6,600(税込)
    • 【通常盤】(CD)
    • AICL-4493
    • ¥3,300(税込)

ライヴ情報

『フジファブリック20th anniversary SPECIAL LIVE
at LINE CUBE SHIBUYA 2024「NOW IS」』
4/14(日) 東京・LINE CUBE SHIBUYA

『フジファブリック20th anniversary SPECIAL LIVE
at TOKYO GARDEN THEATER 2024「THE BEST MOMENT」』
8/04(日) 東京・東京ガーデンシアター

『フジファブリック 20th anniversary 3マンSPECIAL LIVE
at Osaka Jo Hall 2024「ノンフィクション」』
11/10(日) 大阪・大阪城ホール
※フジファブリック以外の出演バンドは後日発表

フジファブリック プロフィール

フジファブリック:2000年、志村正彦を中心に結成。09年に志村が急逝し、11年夏より山内総一郎(Vo&Gu)、金澤ダイスケ(Key)、加藤慎一(Ba)のメンバー3人体制にて新たに始動。奇想天外な曲から心を打つ曲まで幅広い音楽性が魅力の個性派ロックバンド。「銀河」、「茜色の夕日」、「若者のすべて」などの代表曲を送り出し、『モテキ』TVドラマ版主題歌、映画版オープニングテーマとして連続起用された。数多くのアニメ主題歌も担当。18年には映画『ここは退屈迎えに来て』主題歌、そして劇伴を担当。19年にデビュー15周年を迎えアルバム2作を発表。同年10月に大阪城ホール単独公演を大成功させた。21年3月に11thアルバム『I Love You』を発表。23年には4本のツアーを開催した。24年4月にデビュー20周年を迎えるが、目前となる2月に12thアルバム『PORTRAIT』をリリースする。フジファブリック オフィシャルHP

「Portrait」MV

「プラネタリア」

「Particle Dreams」MV

フジファブリック×フレデリック
「瞳のランデヴー」LIVE MV

フジファブリック×フレデリック
「瞳のランデヴー」MV

「ミラクルレボリューション No.9」

『PORTRAIT』全曲Trailer

『PORTRAIT』完全生産限定盤特典映像「
クイズ フジファブリック
~ミラクルレボリューションで
ランデヴー!!~」Official Teaser

OKMusic編集部

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