【佐藤舞 インタビュー】
全員に共感してもらえなくても
一緒に前に進む曲を歌いたい
20歳のシンガー佐藤舞が「ひとり芝居」「大人」を同時配信し、本格的な音楽活動をスタートさせた。50〜60代の大人にはノスタルジックで、10〜20代の若者には新鮮な驚きを与え、儚さや悲しみを湛えながらほのかな光や希望を感じさせる2曲。果たして佐藤舞とはどんなシンガーなのだろうか?
自然に出たものが
自分らしいと思って歌っている
「ひとり芝居」と「大人」という2曲を配信リリースしましたが、「ひとり芝居」は作詞が松本隆さんで作曲が荒井由実さんという、石川セリさんが1976年に発表した楽曲のカバーという。
まったく知らない曲だったのですが、ディレクターが私に合うんじゃないかと薦めてくださったんです。とても大人の歌詞なので年齢的にまだ早いと最初は思いましたけど、実際に歌ってみるとスッと自分の中に溶け込んできて、歌っていくうちにしっくりきて。曲調的にも今じゃないレトロな感じに惹かれましたし、歌詞の言葉使いも今とは違っていて、古い曲ではあるのですがそういう感覚にはならなくて、むしろすごく新鮮に感じて、そこがいいなと思いました。
いなくなった相手が、あたかもまだ目の前にいるかのように振る舞って、思い出に浸っている歌詞になっていますね。
自分が歌詞の主人公だと思って、曲のシチュエーションや気持ちを理解しようとはしたんですけど…私はまだ20歳で人生経験がまだ少ないので、歌詞の状況は分かるけれど、共感するまではいかなくて。でも、いなくなった相手への気持ちをこういう表現方法で歌詞にすることができるのは、本当にすごいと思いました。
家でたくさん練習したんですか?
はい。どういうふうに歌えば、曲がもともと持っている良さを崩さずに自分らしく歌えるか、自分のものにできるか、何十回と聴いて歌ってを繰り返して、ようやく音源のような歌い方に辿り着きました。あまり淡々とならないように、逆に気持ちを込めすぎてもいけないし。その中間のいいバランスで歌うのはとても難しかったのですが、何度も歌っているうちに“ここだな”と思えるポイントを見つけることができました。
こういう曲だと感情を込めてドロドロに歌いたくなりますよね。
そうなんですけど、込めすぎてしまうと、私は結構涙もろいので泣いて歌えなくなってしまうんです。だから、レコーディングではディレクターさんと相談しながら、“ここはもっとシンプルに”とか“ここはもっと大きく”など、細かくアドバイスをいただきながら録っていきました。それにライヴでもう何度も歌っているので。
ちなみにライヴ活動はいつからやられているのですか?
昨年12月から渋谷Take Off 7を中心に月に1、2回くらいやっているんですけど、未だに慣れませんね。緊張しながらも、楽曲の魅力は崩さず、しっかり伝わるように心がけています。初めてのライヴは緊張しすぎて頭が真っ白になってしまって、ほとんど覚えていません(笑)。
お客さんの反応は?
渋谷Take Off 7はバンドさんが多く出ている箱なので、その中でエレキギターと歌だけという私のようなスタイルは他にはいなくて、ちょっと場違いな感じがあったりするのですが、聴いてくださる方ひとりひとりの目を見て歌っていると、みなさん静かに聴き入ってくださっていて、すごく温かいというか。あまりの緊張感で“今日、行けるかな?”って不安になったり、逃げたい気持ちになったりすることもありますけど頑張っています!
「ひとり芝居」は歌詞に《あなた》と何度も出てくるのですが、全部ニュアンスの違った歌い方をされてたのが印象的で。そこは自然と出たものですか?
自分の中で明確に違いをつけて歌っている意識はないのですが、前後の言葉との兼ね合いで自然と変わってくるものがあって。それは感覚というか本能的にやっているので、言葉で説明するのはちょっと難しいですね。考えるよりも前に自然と出たものが、良ければそれを活かすし、違うと思えば変えるし。私の場合は何度も歌って練習するよりも、じっくり聴き込んで自分の中に落とし込むことを大事にしています。
結構集中力がいるレコーディングだったと思いますが、途中で休憩を挟みながら?
いえ、ぶっ通しです。感覚が薄れてしまわないように、集中の糸が途切れないようにと思って。
レコーディングで感情が高ぶったりうまくできなかったりで、泣いてしまうようなことも?
たくさんありました。うまく表現できなくて、悔しくて…。ライヴでも歌っている途中で泣いてしまうことがあって。
でも、泣いたら歌えないじゃないですか。
そうなんですけど、それも味方につけるというか、“これは演出ですから”みたいな雰囲気で全部観てもらおうと(笑)。ライヴが終わったあとの物販で、お客さんから“すごく良かったよ”と言っていただくことが多くて、初めて観てくださったお客さんからも“感動しました”と言ってもらえます。
憑依型なんでしょうね。
曲に入り込んで泣いてしまうのが半分、もう半分はうまく歌えないことの悔しさですけど。でも、泣かずに歌えることもあるんですよ。その時はプライベートで心が落ち込んでいて、そういう時のほうがうまく歌えたりするんです。実際のつらい気持ちを歌に映すというか。ある種、動物的というか、本能のままというか…もちろん練習の時は悲しみやつらい気持ちを込めようと意識するんですけど、ライヴの時は“こう歌おう”とかは考えず、自然に出たものが自分らしいと思って歌っているので。
もう一曲の「大人」はSNARECOVERさんの作詞作曲です。こちらはどういう曲ですか?
これは私のとらえ方ですけど、大人になってから必死に社会を生きるというか、もがいて上に上がっていくというか。“大人ってこういうものだ”と思いながら歌っています。“大人って大変だな”って(笑)。
(笑)。最後に《大人よ諦めないで》という歌詞があるのですが、そこは大人へのエールみたいな?
それもありますけど、自分自身に対して歌っているところも大きいです。私は20歳ですけど、“大人になっても夢を諦めるなよ”と自分自身言い聞かせています。メッセージとして言っている部分と、自分自身に訴えかけている部分と、両方がありますね。これもライヴで歌っている曲なんですけど、毎回SNARECOVERさんからもアドバイスをいただいて、歌うたびにどんどん良くなっていった感覚があります。
頭の中ではどんな情景を浮かべながら歌っているのですか?
つまづいている自分を想像して、“それでも今は必死に生きていくんだ!”と立ち上がるところを想像しながら歌いました。