竜星涼「役と一緒に進化していく姿を
見届けて」~舞台『ガラパコスパコス
~進化してんのかしてないのか~』初
日前会見&公開ゲネプロレポート

2023年9月10日(日)~9月24日(日)世田谷パブリックシアターにて、舞台『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』が上演される。
本作は、劇団はえぎわの主宰で、脚本家、演出家、俳優として活躍するノゾエ征爾が、世田谷区内の高齢者施設を10数カ所まわって生み出した代表作だ。2010年に初演され「老い」と「進化」という正反対に見える2つのものを重ね、その先にあるものを群像劇として描いていく。
主演のピエロとして働く青年・太郎役を竜星涼、太郎の兄・晴郎役に藤井隆、特別養護老人ホームから抜け出した老女・まっちゃんこと徳盛まちこ役を高橋惠子が務める。
共演者として青柳翔、瀬戸さおり、芋生悠、駒木根隆介、山本圭祐、山口航太、中井千聖、柴田鷹雄、家納ジュンコ、山田真歩、菅原永二、そしてノゾエ自身が出演。バラエティーに富んだキャストがそろった。東京公演終了後、京都、岡山、新潟公演の実施が予定されている。
このたび初日前会見と公開ゲネプロが開催された。初日前会見には、ノゾエ征爾、竜星涼、高橋惠子、藤井隆が登壇。初日を迎える気持ちと独特の演出法をとった作品の見どころについて語った。
ーーまずは初日を迎える今のお気持ちと意気込みをお聞かせください。
ノゾエ:明日からいよいよ始まりますが、早くお客様の前でご一緒したいという気持ちでいっぱいです。怖さはもちろんありますが、それよりもわくわくする武者震いのほうが先立っています。
作品としての上演は4回目になりますが、台本や演出の内容はそれほど変わっていません。ただ、俳優さんたちが進み続けている中、ここにこうして集まっていただき、せりふが何も変わっていないのにとても良い息づかいでお一人おひとりがいてくださることが何よりも嬉しく「進んでいる」と感じています。
ノゾエ征爾
竜星:まずは世田谷パブリックシアターという素晴らしい劇場で、真ん中に立たせてもらえ、明日初日を迎えられることをすごく嬉しく思っております。太郎として皆さんにどういう影響を与えて、ノゾエさんの演出を受けた自分がどう進化していくのか、また新しい自分を見つけることができるのか、この作品を通して、少しでも僕自身が進化していけたらなと思います。ぜひともいろんな方に見て楽しんでもらえたら嬉しいです。
竜星涼
藤井:8月から稽古を重ねてまいりまして、出演者の皆さん、スタッフの皆さんが穏やかで優しい方が多くて、楽しい稽古でした。劇場に入っていよいよ本番を迎えるのが本当に楽しみです。旅公演もございますので、たくさんの方にご覧いただけたらと思っています。
藤井隆
高橋:皆さま、本日はありがとうございます。徳盛まちこ80歳、老人ホームから抜け出した老女を演じさせていただきます。この『ガラパコスパコス』に参加できたこと、私にとっては本当に幸せなことだと思っております。女優という仕事を続けてきて、また新たな扉が開く感じがしております。
これからゲネプロがありますけれども、早くお客様の前で演じたいと思っております。ちょっと怖いですけれども……。今まで私、怖いと思ったことはほとんどありませんでしたが、今回の役に限っては本当に初めてのことが多くて……。表情をなくす、反応しない、そういうことを要求されている役でもあります。たくさんの皆様に見ていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
高橋惠子
ーー今回のセットは小道具を使わず、黒板を使用するなど印象的な演出となります。稽古場で苦労したこと、印象的なエピソードを教えてください。
ノゾエ:ただ「書く」ということではなく、それぞれの役、人物そのものの行動であり、息遣いであり、生活そのものなので、そこから乖離しないで欲しいことを共有するのに時間をかけました。
自分もそうなんですけれども、実際書くとなるとやっぱり「ただ書く」ことになってしまうので、きちんと自分の息遣いやいろんな行動にのせていくのに、時間がかかったかな……。でも今、とてもいい感じになっているので、よいところに気付けたと思っています。
竜星:舞台上にチョークで何かを書くというのは、僕にとってもそうですが、ほとんどの方があまり見たことのない演出スタイルだと思います。最初は戸惑いがあり「このぐらいの大きさでいいのかな」とか「見えるのかな」とか……。実際に劇場に入ってやってみると、もう少し大きく、濃く書かなければいけないことが見えてきたり、横長に書いたほうが分かりやすいと思ったり、いろいろな発見がありました。
書いてまたそれを消すのか、はたまた汚すのか、それをお芝居の中で表現できるというのも新しい魅力なのかなと感じています。全く何もない状態のところに、どんどんいろんなものが描かれて、描かれたあとの舞台上を見るのも素敵だと思っています。
藤井:竜星くんが書かれる絵がすごく素敵なんですよ。
高橋:上手よね。
藤井:(高橋に向かって)上手ですよね! ファンの皆さんは竜星くんの字を見たことはあったかもしれませんが、絵はなかなかないと思うのでチョークの絵は見ていただきたいし、惠子さんも生活の一部みたいなことを書かれる場面があるんですけど、すごい素敵です。
そして僕自身に関して言えば、お客さまに地面に書く絵を見ていただくため、舞台に角度がついているんですけど、ありがたいことに稽古場からこのようなセットを組んでいただいたので、1ヶ月以上、足の裏がパンパンになった状態でやってます(一同笑い)。
高橋:私は認知症の役で、お漏らしなんかもしちゃうんですけど、黄色いチョークで書いてお漏らしを表現するので、チョークでよかったなと(一同笑い)思っています。
ノゾエ:(チョークで書くのは)何かと便利なんですよね。
藤井:惠子さんは、ものすごくきれいなお花も書かれているので、そちらも注目してください。惠子さん、本当に上手ですよね。
高橋:私、絵は苦手だったんですよ。
ノゾエ・竜星・藤井:ええ!!
高橋:今まで一度も褒められることがなく、今回初めて上手だねって言ってもらえて、それがすごくうれしかったです。
竜星:お人柄が出ていますよね。字もきれいで、先生という感じで……。
高橋:(まちこは)小学校の先生をやっていた設定なんですよね。だから縦書きで書いてみたりもしました。
ーー今回のタイトルが『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』ということで、皆さんが進化したと思うこと、もしくは進化したいと思うことを教えてください。
ノゾエ:僕の中では、何をもって進化というのか、必ずしも進化イコール成長と思っていないところがあります。ただ先に進んで上がっていくことととらえたほうが、いろんなことが広がりを持って見えると思っています。僕自身、変わっていくことを受け入れられるようになったのは、自分の中で違いを感じているし、進化なのかなと。例えば最近、白髪が増えてきていますが、受け入れてます(笑)。
竜星:僕はこの間30歳になりましたけど、30歳をまず受け入れるということ、そして今回の役自体が自分自身にない役柄だったので、この公演が終わったときに、少しでも役者として、人間として進化したねと言ってもらえたら、太郎を演じて良かったと思えると思います。
藤井:視力の矯正で手術がう時代ですから、そろそろ記憶力がアップできるような、チップみたいなのが出来上がるんじゃないかと願っています。今回、せりふを覚えるのに時間がかかったので、自分自身の進化というよりは技術の進化で「後付けハードディスク」みたいなものができたらいいなと願っています!(会場で少し笑いが起きたので「はっ?」と突っ込みを入れる)
高橋:今までは、くよくよ悩むことが多かったんです。母が生きている頃は「なんでお前はそんなにくよくよ悩むんだ」とよく言われていました。最近は(今回演じる)まっちゃんに近い状態かもしれませんが、忘れることと切り替えが早くなって、いつまでもくよくよしなくなったのは私にとって進化です。
そして、他の惑星の人と話せるようになるぐらい世の中が進化したらいいなと思っています。言葉じゃなくて……なんていうんでしたっけ? まっちゃんの役に馴染んじゃって、こうやってすぐに忘れちゃうんです。
ノゾエ:テレパシー。
高橋:そう! テレパシー! テレパシーで話せるようになるように進化したいですね。
ーー最後に、上演を楽しみにしている皆さんに竜星さんから一言お願いします。
竜星:チョークを使いながら、最初はきれいな格好をしていますが、最後は出演者みんなが汗とチョークまみれになっています。それが愛おしく、素敵に見える舞台になったと思ってます。
何を感じて受け止めてもらえるかは人それぞれ違うと思います。でもその中で、きっと僕らはこの役と一緒に1分1秒毎日進化していくと思います。まずは東京公演千秋楽まで、一度といわずに進化の様子を見届けてもらえたらと思います。
もしかしたら退化してる日がある……? いや、ないでしょう! 多分毎日進化し続けていると思いますので、ぜひともその姿を見届けてもらえたらと思います。

ここからは、極力ネタバレがないように、ゲネプロの模様をお伝えしよう。
舞台上のセットは黒い大きな倉庫がひとつのみで、壁は黒板で埋め尽くされている。倉庫の中から登場人物たちが次々と出てくるのだが、幕が上がったあとおよそ8分間は、音楽とせりふのみで物語が進んでいく。まずはピエロの姿をした木林太郎(竜星涼)が登場し、長い手足を存分に活かし、舞台をところ狭しと飛び回るパフォーマンスを見せる。
『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』舞台写真    撮影:細野晋司
そんな太郎をジッと見つめている老女の徳盛まちこ(高橋惠子)に、太郎は手品で出した花を渡す。嬉しそうに花を受け取ったまちこは、太郎のあとを追いかけて家まで来てしまう。特別養護老人ホームから逃げ出してきた老女だと知った太郎は、まちこを老人ホームへ送り届けようとするが、彼女の寂しそうなまなざしを見て、再び自分の家に連れて帰ってしまう。そこから2人の奇妙な同居生活が始まるのだ。
『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』舞台写真    撮影:細野晋司
   撮影:細野晋司
チャップリンの映画を思わせるような冒頭の8分間で、太郎やまちこが置かれている状況が手に取るように分かる。太郎はピエロの仕事をやりながら、職場の上司・花丸(青柳翔)に怒鳴られる毎日で、鬱々とした日々を送っている。まちこは認知症で、自分の名前も言えない状態で、水をコップに入れることさえできない。
『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』舞台写真   撮影:細野晋司
そんなまちこを太郎はなぜ連れて帰ってしまったのか。それは太郎自身のパーソナリティーが大きく影響しているように思える。太郎は高校時代、担任教師の柱谷(菅原永二)に「人と話す時は、目を見て話せ!」としつこく言われたものの、それができなかった。どうしても人の目を見て話すことができない太郎は、人とコミュニケーションを取ることが苦痛で、壁を作るようになったのかもしれない。

『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』舞台写真   撮影:細野晋司
そんな太郎にとって、認知症のまちこはそばにいても負担にならない存在だったのだろう。まちこは太郎の言っていることを理解できないが、太郎が作った壁を強引にこじ開けることをしないからだ。

太郎を演じる竜星は、複雑な太郎の心の内を体当たりで演じている。特に担任教師に「目を見て話せ!」と言われ、苦痛の表情を見せるところは胸が締め付けられる。太郎は、誰に話しかけられても多くを語らない難しいキャラクターだが、あることをきっかけに想いが爆発し、本音を吐露するシーンで、竜星はその場の空気を一変させた。
まちこを演じる高橋は、ほとんどせりふがない。初日前会見で語っていたように、無表情で無反応な認知症の老女を演じることはとてもハードルが高いものだったろうが、うつろな目で徘徊する姿は、これまで高橋が見せたことがない役であることは間違いない。
そんな二人は、太郎が舞台上にチョークで書いた囲い線の中で生活し、上演中は、ほぼその場に居続ける。舞台上に書かれた囲い線が、まるで太郎とまちこが社会との間に作った壁のように思えてくる中、その横でさまざまな家族の群像劇が描かれていく。
『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』舞台写真   撮影:細野晋司
コミュニケーションを取ることが苦手な太郎を心配する兄の晴郎(藤井隆)は、太郎を気にしつつも、どこか遠慮して一歩踏み込めずにいる。自分自身も妻(山田真歩)との間にトラブルを抱えており、太郎とまちこが同居を始めたことをきっかけに、それまで我慢してきた夫婦間のトラブルが爆発する。さらに自分のあとを付け回す後輩(ノゾエ征爾)にもイライラが募る毎日だ。
『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』舞台写真   撮影:細野晋司
まちこの娘(家納ジュンコ)と孫(中井千聖)は、まちこが老人ホームからいなくなったことでうろたえ、娘はまちこを老人ホームに入れてしまった自分を激しく攻める。
『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』舞台写真   撮影:細野晋司

『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』舞台写真   撮影:細野晋司
太郎の職場の上司・花丸は、友人の晴郎から太郎の面倒を見るように頼まれているが、新入社員の渡(芋生悠)が太郎を気にかけているのが気に入らない。渡に片思いをしている花丸は、素直に自分の気持ちを言うことができず、セクハラギリギリのラインで渡を誘うことしかできない。

そして太郎の自宅の近くに住む高校の同級生・緑(瀬戸さおり)は、かつて恋をしていた担任教師の柱谷と結婚して妊娠したが、二人の様子は何かおかしい。
それぞれが深刻な悩みを抱えているのだが、その悩みは決して他人事ではなく、私たちの身近に生じる可能性がある問題ばかりだ。暗くなりがちなそれらの悩みを極力明るく、時には茶化すように表現していくのがこの作品の特徴だ。
『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』舞台写真   撮影:細野晋司
初日前会見でノゾエが語っていたように、チョークで文字や絵を書くことで、出演者はそれぞれの役、人物そのものの行動を表現していくのだが、これが思っていた以上に心に刺さった。言葉や絵はこんなに訴える力があるのかと驚いたし、リアリティーは想像をはるかに超えてきた。
さまざまな角度から「老い」と「進化」を表現し、太郎をはじめとして登場人物たちが行きつく先に何があるのか。ラストはラヴェルの名曲・ボレロに乗せて、太郎を取り囲みながら登場人物全員がどこかを目指して行進していく。その先には明らかに「進化」を感じさせる光が見えており、なんだかホッとした気分になった。
取材・文・撮影(会見のみ):咲田真菜

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