INTERVIEW / Half Mile Beach Club4
人それぞれが見つけたシグネチャー・
サウンド。サイトウ “JxJx” ジュン
と作り上げた新作『Glare EP』 4人そ
れぞれが見つけたシグネチャー・サウ
ンド。サイトウ “JxJx” ジュンと作
り上げた新作『Glare EP』

神奈川県逗子市出身の4人組バンド、Half Mile Beach Club(以下:HMBC)が新作『Glare EP』を8月4日(金)にリリースした。
いわゆる“マッドチェスター”と形容されるようなUKのサウンドからの影響が色濃く反映されていた1stアルバム『Be Built, Then Lost』(2019年)、そしてコロナ禍に発表された、Eminata、Maika Loubtéをそれぞれフィーチャーした2作のエレクトロニック・ナンバーを経て、昨年リリースのシングル「Vibrant Sun」ではより有機的なグルーヴを獲得したHMBC。同シングルはサイトウ “JxJx” ジュン(YOUR SONG IS GOOD)をプロデューサーとして迎えて制作されており、それ以前とは明らかに異なるサウンド・デザインを携え、より開けた景色を描き出す作品となった。
その方向性そのままに、同じくサイトウ “JxJx” ジュンと作り上げたのが今作『Glare EP』だ。ここには生楽器の温かい音色と、心地よいグルーヴを携えたダンス・ミュージックであり、また生活の様々なシーンに寄り添うようなBGMとしても機能する4曲が収録されている。
今回は「Vibrant Sun」、そして『Glare EP』に至るまでのバンドの変化を探るべく、メンバー4人にオンラインで話を訊いた。主催パーティの休止も余儀なくされたコロナ禍を経て、新たに4人が見つけたというシグネチャー・サウンド、その背景に迫る。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Fushiro Kimura
1stアルバム移行の変化、コロナ禍がもたらした影響
――新作EPについてお聞きする前に、まずは1stアルバム『Be Built, Then Lost』リリース以降のHMBCの体制、ムードの変化について教えてください。
ヤマザキ:1stアルバム以降のことをお話すると、やっぱりコロナ禍の影響が大きくて。当然僕らが開催してきたパーティもストップせざるを得なかったですし、この状況でHMBCとしてはどのように活動していくべきかっていうことをクルー全体でも話し合いました。その中で、イベントはできずともこの4人のバンド・チームは音楽を作って、発表し続けようという話になって。
ミヤノ:年2回くらい行っていた主催イベントができなくなったこと、そしてこの4人は現状では東京に住んでいて、コロナ禍で制限されていた時期は中々地元にも戻れなかった。なので、HMBCとして音源制作にフォーカスすることになったのは自然な流れだったように思います。
ヤマザキ:それと並行する形で、1stアルバムリリース以降、ライブを重ねるうちにより肉体的なダンス・ミュージックに傾倒していったんです。その2軸が重なることによって、バンドのムードが大きく変わっていきました。
――その変化について、もう少し詳しく教えてもらえますか?
ヤマザキ:1stアルバムまでは僕がボーカルを取るスタイルでやっていたんですけど、ライブでわかりやすくボーカルがひとりいるっていう見せ方をすると、お客さんはそこに集中してしまいがちで。それはそれでありがたいことでもあるんですけど、僕らとしてはもっと自由に、クラブのように踊って欲しいなと。そのために、自分がボーカルとして立つのではなく、まずは客演でシンガーを迎えるのはどうか、というアイディアが生まれて。それで制作したのが2021年にリリースした「Never to CDG (feat. Eminata)」「Full Moon (feat. Maika Loubte)」の2曲ですね。
――なるほど。
ヤマザキ:この2曲のコラボレーションはコロナ禍になったことでリモートでの制作を取り入れてみたことも影響していると思います。リモートが浸透したからこそ、色々な人とより容易に共作することができるようになったので。
――ただ、この時期のシングルは新作のサウンド感とは大きく異なりますよね。
アサクラ:その時期の作品ももちろん気に入ってるんですけど、色々と試していく中で、もっとバンド感を出したいって思うようになったんです。
ヤマザキ:あの当時は基本的にこの4人もフルリモートで制作していて。そうすると必然的に打ち込みが軸になっていくんですよね。そこで得た学びもたくさんあるんですけど、久しぶりにスタジオに入ってみると、やっぱりバンドで演奏しにくいところが出てきて。そこでもっと有機的な感覚を取り戻そうという話になり、去年リリースしたシングル「Vibrant Sun」の原型が生まれました。
ミヤノ:あと、単純に僕らの聴く音楽が変化したことも影響しているんじゃないかなって思います。以前はUKインディやいわゆるマッドチェスター辺りを参照することが多かったんですけど、コロナ禍以降はよりオーガニックな音楽を志向するようになったというか。
――そういえば、過去のインタビューではメンバー間で共有するプレイリストがあると語られていました。それは今も継続しているんですか?
ヤマザキ:今も更新してますけど、曲を入れるのはごく一部の人間だけになってますね(笑)。
ミヤノ:初期は本当にみんなバラバラな曲を入れてたけど、何となく統一感みたいなものが少しだけ出てきた気もするんですよね。
アサクラ:確かに。僕は元々ハウスやテクノが好きで、そういう楽曲をひとりでプレイリストに追加してたんですけど、最近は(ミヤノ)マフユくんが入れる曲とだいぶ被るようになった。
ミヤノ:メンバー間での最大公約数的な部分が固まってきたっていうことなのかもしれません。例えば、DJ/プロデューサーだけど生楽器を多用するJack Jは去年よく聴いていたし、HMBCとしても参考にしています。
ヤマザキ:それこそSession VictimとかDJ KozeといったDJ/プロデューサーの名前も挙がってたよね。ダンス・ミュージックを生バンドに落とし込むっていう発想からスタートして、こういった要素は取り入れられるけど、これは無理だなっていう部分なども見えてきて。そうこうするうちに、大文字のダンス・ミュージックではないけど、Ezra CollectiveやKokorokoといったUKジャズのアーティストたちのサウンドも参考にするようになったり。
アサクラ:そういった変化が加速したのは、やっぱりスタジオに入れるようになってからだと思いますね。フルリモートでDTMで制作していると、中々上手くキャッチボールができなくて。僕はシンセサイザーなんで一歩引いて見てるんですけど、スタジオで合わせながら作った方が当たり前ですけどドラムとベースとギターのグルーヴがバチッとハマるんですよね。
ヤマザキ:うん。やっぱりスタジオの方がみんなの感覚が揃いやすいよね。それこそドラムは特に影響が大きかったんじゃない?
ツヅキ:スタジオに入るようになってフィジカルな表現ができるようになったことで、曲のフレージングとかも自然と変化していったと思います。
アサクラ:今振り返ると、「Vibrant Sun」はその変化の過渡期に完成した曲なのかなって思いますね。
サイトウ “JxJx” ジュンの参加によって加速した生音回帰
――去年リリースの「Vibrant Sun」からYOUR SONG IS GOODのサイトウ “JxJx” ジュンさんをプロデューサーに迎えています。サイトウさんとの共作の経緯を教えてください。
ヤマザキ:「Vibrant Sun」のデモができてから、それを仕上げるのに少し苦戦していたんです。ちょうどその頃、生バンドでインスト、かつダンス・ミュージックを演奏しているという点でYOUR SONG IS GOODの音楽をすごく参考にしていたというのもあったし、これまでシンガーやラッパーを招いたことはあったけど、次は外部のプロデューサーに参加してもらうのもアリなんじゃないかっていうアイディアがメンバーとの会話の中で出てきて。
その2つが僕の中で合致したので、勇気を振り絞って正面からコンタクトを取ってみました。そしたらありがたいことにお返事をいただけて。オンラインでの打ち合わせを経て、一緒に制作してくれることになりました。
――サイトウさんが加わったことで、制作はどのように変化しましたか?
ヤマザキ:各パート細かい部分を挙げ始めたらキリがないとは思うんですけど、僕が印象的だったのは、「もうちょっと生音を中心にしていこうよ」って言ってもらえたことですね。ダンス・ミュージックにおいてロー(低音)はとても大事な要素だと思うので、それまではキックも生ドラムにリズムマシンの音を重ねてボトムを強化していたんです。そこを「いや、生ドラムだけでいいんじゃない?」って言ってくれたり、上音もアサクラさんが実際に弾いているシンセの音を大事にして、サンプリングや打ち込みの音は極力削いでいって。あとはコード進行や構成、展開についても細かくアドバイスをいただきました。
アサクラ:サイトウさんが参加してから、ヤマくんのベース・ラインも明るくなった気がする(笑)。
ヤマザキ:それはありますね(笑)。ベースだけじゃなくて、全体的に明るくなったと思います。僕ら、カッコつけようとするとダークになっちゃうんですよ。サイトウさんのおかげで、自分たちが思うクールさを保ちつつも、明るいサウンドにすることができたというか。あとはグルーヴの面もすごく議論しましたね。
――グルーヴとなると、やはりドラマーのツヅキさんにもお聞きしたいです。サイトウさんとはどのようなやり取りを?
ツヅキ:個人的には「Vibrant Sun」よりEPの制作の方が印象的で。それまでフィルインは個人的に好きじゃなくて、「やりたくないです」って頑なに拒否してたんですけど(笑)、「こういう展開の場合はこれくらいの長さのフィルインがあった方がいいと思う」って詳しく音楽的に解説してくれて、実際に挑戦してみたらすごくいい感じにハマったんです。それによって変化した部分は大きいと思いますね。最近はフィルを考えるのが楽しくなりました。
アサクラ:よかった(笑)。
ヤマザキ:前は絶対にやらなかったもんね(笑)。
ツヅキ:あとは装飾音符だったり、より細かい部分も納得いくまで突き詰めるようになりましたね。
――「Vibrant Sun」の制作で感じた手応えそのままに、EPの制作にもサイトウさんに参加してもらったという形でしょうか。
ヤマザキ:そうですね。最初はお互い探り探りだったんですけど、「Vibrant Sun」を完成させて、これが自分たちの新たなシグネチャーになるっていう確信が得られたので。
アサクラ:僕らが音楽を通して見せたい景色がよりクリアになったので、一作だけっていうのはもったいないなって思いましたし。
――EPのレコーディングに関しては、大部分が生音ですか?
ヤマザキ:シンセサイザーは一部ソフトウェアの音源を使用していますが、その他は自分たちの演奏した音で構成されていますね。シンセサイザーもいわゆる音ネタとして使うのではなく、ちゃんと音色を作り込んで、アサクラさんが弾いた音をメインに使用しています。
アサクラ:声ネタは引き続き使ってますけど、自分たちが演奏できる部分に関してはサンプリングを使わないようにしました。
ヤマザキ:パーカッションもYOUR SONG IS GOODの松井泉に参加してもらって、生演奏をレコーディングしたんですけど、改めて生音のよさを実感しましたね。
今のHMBCが切り取る風景
――EPはタイトルの通り、より明るく、開けたような作風が印象的で、ここに至るまでの変化に対してもとても自覚的だったことがこれまでの話でわかりました。ただ、そうなるとこれまでの作品におけるひとつのシグネチャーとなっていた“逗子っぽさ”──曇りの日が多く湿度も高い、生活者としての逗子の景色──という部分について、今のHMBCのみなさんがどのように考えているのか気になります。
ミヤノ:昔は僕らも逗子に住んでいて、おっしゃるように生活者としての逗子を描いていました。当時の僕らにとって、今のようなサウンド──“外から見た逗子”のイメージに合うような──は、ちょっと気恥ずかしかったんですよね。
――逗子のパブリック・イメージに対して、少しだけ反発するような気持ちもありましたか?
ミヤノ:多少はあったと思います。やっぱりみんな若くて尖ってましたし(笑)。ただ、いざ地元を離れたら、より冷静に逗子を客観視できるようになったし、その魅力にも気づけた。それと同時に、もっと大きなテーマ、コンセプトを掲げた方がわかりやすいんじゃないかっていう話も出ました。
アサクラ:逗子だけにフォーカスを当てるというよりは、“海”とか“ビーチ”っていう部分で共感してもらった方がいいよねっていう。
ミヤノ:とはいえ、もちろん幼少期から住んでいた逗子の景色や温度感っていうのは体に染み付いてると思うので、サウンドやフレーズの根底には流れていると思うんですけど。
ヤマザキ:うん。今も逗子を描いている感覚はあるけど、切り取り方が変わったという方が近いかもしれません。サイトウさんと最初に打ち合わせしたときも、逗子を貫いている134号線を走る映像をお送りして、「この景色に合う音楽を作りたいんです」ってお伝えしたんです。そしたらその後、サイトウさんは実際に現地をドライブしてきてくれて。
アサクラ:そうそう、そのドライブの感想が的確で。ビーチの明るい部分だけではなく、リアルな部分にも着目してくれた感性の鋭さにシビれました(笑)。
ヤマザキ:確かに。逗子っていわゆる湘南エリア、茅ヶ崎とかの景色や温度感とは少し違うと思うんですよね。海沿いなんだけど、どこか日陰感がある。これはサイトウさんともお話したんですけど、「夏! 海! 酒!」っていう感じではないよねって(笑)。この何とも言語化しづらい雰囲気と、僕らにとって気持ちいいサウンドをサイトウさんと一緒に探っていった感じですね。
――なるほど。EP収録曲は一貫した世界観、情景を想起させながらも、個人的にはそれぞれが切り取っている時間帯が違うような印象も受けました。それこそ「All Sunlight Must Fade」はそのタイトル通り夕暮れ、もしくは明け方など、景色が変わっていくような感覚があって。
ヤマザキ:「All Sunlight Must Fade」は元々「Vibrant Sun」のアウトテイクに入っていたギター・リフがすごくよくて。それを元にアサクラさんがデモを組んでくれました。最初にデモ・トラックを投げてくれたときから「マジックアワーくらいの時間帯だよね」って話してたよね。
アサクラ:僕がどうしても明るい曲を作れなくて、結局いつも何かが終わってしまうようなイメージの曲になっちゃうんですよね。「All Sunlight Must Fade」は個人的には夜明けをイメージして作っていて、パーティの終わりや夏の終わりを感じさせるような曲にしたいなと考えていました。ただ、これはマフユくんのギター・リフに引っ張られた部分も大きいと思います。ちなみに、マフユくんはあのギター・リフはどういうイメージで弾いたか覚えてる?
ミヤノ:ヤマが作ってくれた「Vibrant Sun」のデモが、最初はもっと明るい感じだったんです。なので、ちょっと陰を落とすようなギターを入れてみたらどうだろうって思って、あのアルペジオを弾いた記憶があります。その陰の部分をアサクラさんが拾ってくれて、「All Sunlight Must Fade」ができたのかなって。
――最初のデモはヤマザキさんやアサクラさんが作ることが多いんですか?
ヤマザキ:曲によってバラバラですね。マフユが作ってくれることもありますし。ただ、デモと言っても本当に大まかなもので、ベースとなるリズム・パターンやテンポ、コード進行といった雰囲気などが伝わるようなものって感じですね。
アサクラ:最初に作り込み過ぎちゃうと、空中分解しがちなので、“デモのデモ”くらいの形でみんなに渡します。
ヤマザキ:誰かが作ったデモを生演奏で再現するというよりは、みんなでちょっとずつ積み上げていくって言う感じですね。完全インストになってからはマフユのギターが主旋律になることが多いので、ギターが入ってから各自のパートを改めて整え直すことも多いです。
――なるほど。
ミヤノ:あと、ゼロからスタジオ・セッションで生まれる曲もあって。今回のEPで言うと「Reef Chorus」がそうやってできた曲ですね。
アサクラ:今の形に辿り着くまでに1年くらいかかったよね。
ヤマザキ:ライブでやる度にお客さんの反応などを見ながら、少しずつ変化させていきました。これまでは曲として完成させてからライブで披露するっていう流れだったんですけど、今回のEPでは完成前の曲をライブで試すことも多くて。それもこれまでとは違うポイントかもしれません。
アサクラ:そのおかげか、レコーディングはすごくスムーズに行きましたね。あと、「Reef Chorus」の制作を経て、各楽器の役割をしっかりと考えるようにもなりました。これまでDTMで作ってたときは良くも悪くも各パートを均一に扱いがちだったんですけど、引くとこは引いて、立たせるところはより際立たせる。自分がシンセサイザーでやるべきこともはっきりとわかってきたというか。
――2曲目の「Flowing」は妖艶な雰囲気漂う、夜っぽいイメージの曲ですよね。ドラムのリズム・パターンもおもしろくて。
ヤマザキ:「Flowing」は大枠のコード進行と、ベース・ライン、ドラム、シンセのメロディの原型などを僕が作って、メンバーにはYouTubeにアップロードされていた「夜のビーチ」みたいな4K映像と一緒に投げたんです(笑)。そこにマフユがギターを入れてくれて、カッティングの裏にシンセが入るっていう感じの構成が見えてきました。リズムはドラムのツヅキとサイトウさんと話し合いながら色々なパターンを試しましたね。
ツヅキ:シンプルな4つ打ちにもしてみたし、逆にもっと露骨にサンバっぽい感じにもしてみたんですけど、どうもしっくりこなくて。あと、最初はギターにつられて僕のドラムが熱くなりがちだったので、サイトウさんから「もっとテンションを下げてみない?」って言われたのが印象的でした。結果的には僕の手癖も残しつつ、バンドとしてちょうどいいバランスの温度感になったのかなって。
ヤマザキ:最初はコード進行ももっと複雑だったんですけど、そこもサイトウさんのアドバイスでシンプルにして。気持ちいコード進行を循環させることで、よりキャッチーに、そしてダンス・ミュージックとしてのグルーヴも強化されたと思います。
――4曲目の「Casa Tranquila」はEPのアウトロを飾るような、ビートレスの幽玄な1曲です。
ミヤノ:EPの中で1曲はインタールードになるような、アンビエントっぽい曲も作りたいねっていう話はしていて。最初のデモは僕がガット・ギターとシンセ、リズムボックスで組みました。実は最初はドラムも入ってたんです。
ヤマザキ:というか、最後のミックスダウンの段階までドラム入ってたよね。ただ、4曲を並べて聴いたときに、「ビートない方がいいかもね」っていう話になって、「ツヅキ、ごめん」って言ってミュートした(笑)。
ツヅキ:寂しかったです……(笑)。
ミヤノ:描き出す情景としては「All Sunlight Must Fade」と被るかもしれません。何かが終わっていく時間帯というか、薄暗くなったビーチでチルアウトしているようなイメージですね。やっぱりガット・ギターで弾くと哀愁感が出るので。
変化したフロアの雰囲気と、復活する主催パーティ
――バンドとしての新たなスタイルを見出した今作を経て、HMBCとしては今後どのような活動を展開する予定ですか?
ヤマザキ:この方向性、世界観でフルレングスのアルバムを作りたいですね。本当は今回のEPもアルバムにしたかったんですけど、1曲ずつ丁寧に時間を掛けて作っていたので、4曲仕上げるのが精一杯で。
アサクラ:あと、今回の制作のタイミングで各々機材を見直したこともあって、引き続き今の機材とバンドのスタイルで、もっと色々な曲に挑戦してみたいですね。
ヤマザキ:音作りの面でいうと、以前のエレクトロニック期を抜けて4人それぞれが自分のシグネチャー・サウンドのようなものを見つけた感覚もあるよね。
――先ほど、EP収録曲はライブで試しながら変化していった部分も大きいと語られていましたが、ライブ・パフォーマンスの面でも変化は起きましたか?
ミヤノ:最初にヤマが話したことと被るかもしれないんですけど、ジッと見入るようなライブでなく、クラブのように楽しんでくれる人が増えた気がして。これは特に野外フェスに出させてもらったときに感じました。
――よりDJライクな雰囲気というか。
ヤマザキ:僕は最近、フロアの雰囲気がすごくいいなと感じていて。元々フロアの人たちを踊らせるためにバンドを組んだ部分が大きいんですけど、ボーカル/フロントマンをなくしたことによって、サウンドに身を委ねて自由に踊ってくれる人が増えた気がするんです。それが自分たちのやりたかったこととすごく合致してる。
アサクラ:意外とヤマくんがベーシストに転向していることについて、指摘してくる人がいないんですよね(笑)。それくらい自然に溶け込んでるのかも。
ヤマザキ:確かにそうかも(笑)。
――イベントに関する制限もほぼなくなった今、HMBC主催パーティにも期待が高まります。何か計画していることはありますか?
ミヤノ:去年久しぶりに開催予定だったのですが、台風で中止になってしまったので、もう4年くらいやってないことになりますね。今年も9月に開催を予定しているんですけど、これまでは逗子に色々なゲストをお呼びしたり、映画上映にフォーカスしていた面が大きいと思うんですけど、今後は自分たちのライブやDJに重きを置いてもいいのかなって考えています。もちろんCINEMA AMIGOという特別な会場を使用するので、そこでしか体験できないことっていう部分は変わらず。
ヤマザキ:まだ具体的なことは決まってないんですけど、今後は逗子だけでなく東京などでも自分たち主催のパーティができたらなって考えています。というのも、逗子の会場だと音量面で表現できない部分もあって。例えば東京のクラブで僕らがいいなと思っているDJやライブ・アクトをお呼びして、一緒にパーティができたらおもしろそうだなと。逗子でしかできないこと、東京でしかできないこと、それぞれの長所を際立たせたパーティができたら理想です。
【リリース情報】
【イベント情報】
[LIVE & DJ]
Half Mile Beach Club
■チケット予約:halfmilebeachclub@gmail.com
■Half Mile Beach Club: Twitter(https://twitter.com/HMBC_tw) / Instagram(https://www.instagram.com/halfmilebeachclub/)
神奈川県逗子市出身の4人組バンド、Half Mile Beach Club(以下:HMBC)が新作『Glare EP』を8月4日(金)にリリースした。
いわゆる“マッドチェスター”と形容されるようなUKのサウンドからの影響が色濃く反映されていた1stアルバム『Be Built, Then Lost』(2019年)、そしてコロナ禍に発表された、Eminata、Maika Loubtéをそれぞれフィーチャーした2作のエレクトロニック・ナンバーを経て、昨年リリースのシングル「Vibrant Sun」ではより有機的なグルーヴを獲得したHMBC。同シングルはサイトウ “JxJx” ジュン(YOUR SONG IS GOOD)をプロデューサーとして迎えて制作されており、それ以前とは明らかに異なるサウンド・デザインを携え、より開けた景色を描き出す作品となった。
その方向性そのままに、同じくサイトウ “JxJx” ジュンと作り上げたのが今作『Glare EP』だ。ここには生楽器の温かい音色と、心地よいグルーヴを携えたダンス・ミュージックであり、また生活の様々なシーンに寄り添うようなBGMとしても機能する4曲が収録されている。
今回は「Vibrant Sun」、そして『Glare EP』に至るまでのバンドの変化を探るべく、メンバー4人にオンラインで話を訊いた。主催パーティの休止も余儀なくされたコロナ禍を経て、新たに4人が見つけたというシグネチャー・サウンド、その背景に迫る。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Fushiro Kimura
1stアルバム移行の変化、コロナ禍がもたらした影響
――新作EPについてお聞きする前に、まずは1stアルバム『Be Built, Then Lost』リリース以降のHMBCの体制、ムードの変化について教えてください。
ヤマザキ:1stアルバム以降のことをお話すると、やっぱりコロナ禍の影響が大きくて。当然僕らが開催してきたパーティもストップせざるを得なかったですし、この状況でHMBCとしてはどのように活動していくべきかっていうことをクルー全体でも話し合いました。その中で、イベントはできずともこの4人のバンド・チームは音楽を作って、発表し続けようという話になって。
ミヤノ:年2回くらい行っていた主催イベントができなくなったこと、そしてこの4人は現状では東京に住んでいて、コロナ禍で制限されていた時期は中々地元にも戻れなかった。なので、HMBCとして音源制作にフォーカスすることになったのは自然な流れだったように思います。
ヤマザキ:それと並行する形で、1stアルバムリリース以降、ライブを重ねるうちにより肉体的なダンス・ミュージックに傾倒していったんです。その2軸が重なることによって、バンドのムードが大きく変わっていきました。
――その変化について、もう少し詳しく教えてもらえますか?
ヤマザキ:1stアルバムまでは僕がボーカルを取るスタイルでやっていたんですけど、ライブでわかりやすくボーカルがひとりいるっていう見せ方をすると、お客さんはそこに集中してしまいがちで。それはそれでありがたいことでもあるんですけど、僕らとしてはもっと自由に、クラブのように踊って欲しいなと。そのために、自分がボーカルとして立つのではなく、まずは客演でシンガーを迎えるのはどうか、というアイディアが生まれて。それで制作したのが2021年にリリースした「Never to CDG (feat. Eminata)」「Full Moon (feat. Maika Loubte)」の2曲ですね。
――なるほど。
ヤマザキ:この2曲のコラボレーションはコロナ禍になったことでリモートでの制作を取り入れてみたことも影響していると思います。リモートが浸透したからこそ、色々な人とより容易に共作することができるようになったので。
――ただ、この時期のシングルは新作のサウンド感とは大きく異なりますよね。
アサクラ:その時期の作品ももちろん気に入ってるんですけど、色々と試していく中で、もっとバンド感を出したいって思うようになったんです。
ヤマザキ:あの当時は基本的にこの4人もフルリモートで制作していて。そうすると必然的に打ち込みが軸になっていくんですよね。そこで得た学びもたくさんあるんですけど、久しぶりにスタジオに入ってみると、やっぱりバンドで演奏しにくいところが出てきて。そこでもっと有機的な感覚を取り戻そうという話になり、去年リリースしたシングル「Vibrant Sun」の原型が生まれました。
ミヤノ:あと、単純に僕らの聴く音楽が変化したことも影響しているんじゃないかなって思います。以前はUKインディやいわゆるマッドチェスター辺りを参照することが多かったんですけど、コロナ禍以降はよりオーガニックな音楽を志向するようになったというか。
――そういえば、過去のインタビューではメンバー間で共有するプレイリストがあると語られていました。それは今も継続しているんですか?
ヤマザキ:今も更新してますけど、曲を入れるのはごく一部の人間だけになってますね(笑)。
ミヤノ:初期は本当にみんなバラバラな曲を入れてたけど、何となく統一感みたいなものが少しだけ出てきた気もするんですよね。
アサクラ:確かに。僕は元々ハウスやテクノが好きで、そういう楽曲をひとりでプレイリストに追加してたんですけど、最近は(ミヤノ)マフユくんが入れる曲とだいぶ被るようになった。
ミヤノ:メンバー間での最大公約数的な部分が固まってきたっていうことなのかもしれません。例えば、DJ/プロデューサーだけど生楽器を多用するJack Jは去年よく聴いていたし、HMBCとしても参考にしています。
ヤマザキ:それこそSession VictimとかDJ KozeといったDJ/プロデューサーの名前も挙がってたよね。ダンス・ミュージックを生バンドに落とし込むっていう発想からスタートして、こういった要素は取り入れられるけど、これは無理だなっていう部分なども見えてきて。そうこうするうちに、大文字のダンス・ミュージックではないけど、Ezra CollectiveやKokorokoといったUKジャズのアーティストたちのサウンドも参考にするようになったり。
アサクラ:そういった変化が加速したのは、やっぱりスタジオに入れるようになってからだと思いますね。フルリモートでDTMで制作していると、中々上手くキャッチボールができなくて。僕はシンセサイザーなんで一歩引いて見てるんですけど、スタジオで合わせながら作った方が当たり前ですけどドラムとベースとギターのグルーヴがバチッとハマるんですよね。
ヤマザキ:うん。やっぱりスタジオの方がみんなの感覚が揃いやすいよね。それこそドラムは特に影響が大きかったんじゃない?
ツヅキ:スタジオに入るようになってフィジカルな表現ができるようになったことで、曲のフレージングとかも自然と変化していったと思います。
アサクラ:今振り返ると、「Vibrant Sun」はその変化の過渡期に完成した曲なのかなって思いますね。
サイトウ “JxJx” ジュンの参加によって加速した生音回帰
――去年リリースの「Vibrant Sun」からYOUR SONG IS GOODのサイトウ “JxJx” ジュンさんをプロデューサーに迎えています。サイトウさんとの共作の経緯を教えてください。
ヤマザキ:「Vibrant Sun」のデモができてから、それを仕上げるのに少し苦戦していたんです。ちょうどその頃、生バンドでインスト、かつダンス・ミュージックを演奏しているという点でYOUR SONG IS GOODの音楽をすごく参考にしていたというのもあったし、これまでシンガーやラッパーを招いたことはあったけど、次は外部のプロデューサーに参加してもらうのもアリなんじゃないかっていうアイディアがメンバーとの会話の中で出てきて。
その2つが僕の中で合致したので、勇気を振り絞って正面からコンタクトを取ってみました。そしたらありがたいことにお返事をいただけて。オンラインでの打ち合わせを経て、一緒に制作してくれることになりました。
――サイトウさんが加わったことで、制作はどのように変化しましたか?
ヤマザキ:各パート細かい部分を挙げ始めたらキリがないとは思うんですけど、僕が印象的だったのは、「もうちょっと生音を中心にしていこうよ」って言ってもらえたことですね。ダンス・ミュージックにおいてロー(低音)はとても大事な要素だと思うので、それまではキックも生ドラムにリズムマシンの音を重ねてボトムを強化していたんです。そこを「いや、生ドラムだけでいいんじゃない?」って言ってくれたり、上音もアサクラさんが実際に弾いているシンセの音を大事にして、サンプリングや打ち込みの音は極力削いでいって。あとはコード進行や構成、展開についても細かくアドバイスをいただきました。
アサクラ:サイトウさんが参加してから、ヤマくんのベース・ラインも明るくなった気がする(笑)。
ヤマザキ:それはありますね(笑)。ベースだけじゃなくて、全体的に明るくなったと思います。僕ら、カッコつけようとするとダークになっちゃうんですよ。サイトウさんのおかげで、自分たちが思うクールさを保ちつつも、明るいサウンドにすることができたというか。あとはグルーヴの面もすごく議論しましたね。
――グルーヴとなると、やはりドラマーのツヅキさんにもお聞きしたいです。サイトウさんとはどのようなやり取りを?
ツヅキ:個人的には「Vibrant Sun」よりEPの制作の方が印象的で。それまでフィルインは個人的に好きじゃなくて、「やりたくないです」って頑なに拒否してたんですけど(笑)、「こういう展開の場合はこれくらいの長さのフィルインがあった方がいいと思う」って詳しく音楽的に解説してくれて、実際に挑戦してみたらすごくいい感じにハマったんです。それによって変化した部分は大きいと思いますね。最近はフィルを考えるのが楽しくなりました。
アサクラ:よかった(笑)。
ヤマザキ:前は絶対にやらなかったもんね(笑)。
ツヅキ:あとは装飾音符だったり、より細かい部分も納得いくまで突き詰めるようになりましたね。
――「Vibrant Sun」の制作で感じた手応えそのままに、EPの制作にもサイトウさんに参加してもらったという形でしょうか。
ヤマザキ:そうですね。最初はお互い探り探りだったんですけど、「Vibrant Sun」を完成させて、これが自分たちの新たなシグネチャーになるっていう確信が得られたので。
アサクラ:僕らが音楽を通して見せたい景色がよりクリアになったので、一作だけっていうのはもったいないなって思いましたし。
――EPのレコーディングに関しては、大部分が生音ですか?
ヤマザキ:シンセサイザーは一部ソフトウェアの音源を使用していますが、その他は自分たちの演奏した音で構成されていますね。シンセサイザーもいわゆる音ネタとして使うのではなく、ちゃんと音色を作り込んで、アサクラさんが弾いた音をメインに使用しています。
アサクラ:声ネタは引き続き使ってますけど、自分たちが演奏できる部分に関してはサンプリングを使わないようにしました。
ヤマザキ:パーカッションもYOUR SONG IS GOODの松井泉に参加してもらって、生演奏をレコーディングしたんですけど、改めて生音のよさを実感しましたね。
今のHMBCが切り取る風景
――EPはタイトルの通り、より明るく、開けたような作風が印象的で、ここに至るまでの変化に対してもとても自覚的だったことがこれまでの話でわかりました。ただ、そうなるとこれまでの作品におけるひとつのシグネチャーとなっていた“逗子っぽさ”──曇りの日が多く湿度も高い、生活者としての逗子の景色──という部分について、今のHMBCのみなさんがどのように考えているのか気になります。
ミヤノ:昔は僕らも逗子に住んでいて、おっしゃるように生活者としての逗子を描いていました。当時の僕らにとって、今のようなサウンド──“外から見た逗子”のイメージに合うような──は、ちょっと気恥ずかしかったんですよね。
――逗子のパブリック・イメージに対して、少しだけ反発するような気持ちもありましたか?
ミヤノ:多少はあったと思います。やっぱりみんな若くて尖ってましたし(笑)。ただ、いざ地元を離れたら、より冷静に逗子を客観視できるようになったし、その魅力にも気づけた。それと同時に、もっと大きなテーマ、コンセプトを掲げた方がわかりやすいんじゃないかっていう話も出ました。
アサクラ:逗子だけにフォーカスを当てるというよりは、“海”とか“ビーチ”っていう部分で共感してもらった方がいいよねっていう。
ミヤノ:とはいえ、もちろん幼少期から住んでいた逗子の景色や温度感っていうのは体に染み付いてると思うので、サウンドやフレーズの根底には流れていると思うんですけど。
ヤマザキ:うん。今も逗子を描いている感覚はあるけど、切り取り方が変わったという方が近いかもしれません。サイトウさんと最初に打ち合わせしたときも、逗子を貫いている134号線を走る映像をお送りして、「この景色に合う音楽を作りたいんです」ってお伝えしたんです。そしたらその後、サイトウさんは実際に現地をドライブしてきてくれて。
アサクラ:そうそう、そのドライブの感想が的確で。ビーチの明るい部分だけではなく、リアルな部分にも着目してくれた感性の鋭さにシビれました(笑)。
ヤマザキ:確かに。逗子っていわゆる湘南エリア、茅ヶ崎とかの景色や温度感とは少し違うと思うんですよね。海沿いなんだけど、どこか日陰感がある。これはサイトウさんともお話したんですけど、「夏! 海! 酒!」っていう感じではないよねって(笑)。この何とも言語化しづらい雰囲気と、僕らにとって気持ちいいサウンドをサイトウさんと一緒に探っていった感じですね。
――なるほど。EP収録曲は一貫した世界観、情景を想起させながらも、個人的にはそれぞれが切り取っている時間帯が違うような印象も受けました。それこそ「All Sunlight Must Fade」はそのタイトル通り夕暮れ、もしくは明け方など、景色が変わっていくような感覚があって。
ヤマザキ:「All Sunlight Must Fade」は元々「Vibrant Sun」のアウトテイクに入っていたギター・リフがすごくよくて。それを元にアサクラさんがデモを組んでくれました。最初にデモ・トラックを投げてくれたときから「マジックアワーくらいの時間帯だよね」って話してたよね。
アサクラ:僕がどうしても明るい曲を作れなくて、結局いつも何かが終わってしまうようなイメージの曲になっちゃうんですよね。「All Sunlight Must Fade」は個人的には夜明けをイメージして作っていて、パーティの終わりや夏の終わりを感じさせるような曲にしたいなと考えていました。ただ、これはマフユくんのギター・リフに引っ張られた部分も大きいと思います。ちなみに、マフユくんはあのギター・リフはどういうイメージで弾いたか覚えてる?
ミヤノ:ヤマが作ってくれた「Vibrant Sun」のデモが、最初はもっと明るい感じだったんです。なので、ちょっと陰を落とすようなギターを入れてみたらどうだろうって思って、あのアルペジオを弾いた記憶があります。その陰の部分をアサクラさんが拾ってくれて、「All Sunlight Must Fade」ができたのかなって。
――最初のデモはヤマザキさんやアサクラさんが作ることが多いんですか?
ヤマザキ:曲によってバラバラですね。マフユが作ってくれることもありますし。ただ、デモと言っても本当に大まかなもので、ベースとなるリズム・パターンやテンポ、コード進行といった雰囲気などが伝わるようなものって感じですね。
アサクラ:最初に作り込み過ぎちゃうと、空中分解しがちなので、“デモのデモ”くらいの形でみんなに渡します。
ヤマザキ:誰かが作ったデモを生演奏で再現するというよりは、みんなでちょっとずつ積み上げていくって言う感じですね。完全インストになってからはマフユのギターが主旋律になることが多いので、ギターが入ってから各自のパートを改めて整え直すことも多いです。
――なるほど。
ミヤノ:あと、ゼロからスタジオ・セッションで生まれる曲もあって。今回のEPで言うと「Reef Chorus」がそうやってできた曲ですね。
アサクラ:今の形に辿り着くまでに1年くらいかかったよね。
ヤマザキ:ライブでやる度にお客さんの反応などを見ながら、少しずつ変化させていきました。これまでは曲として完成させてからライブで披露するっていう流れだったんですけど、今回のEPでは完成前の曲をライブで試すことも多くて。それもこれまでとは違うポイントかもしれません。
アサクラ:そのおかげか、レコーディングはすごくスムーズに行きましたね。あと、「Reef Chorus」の制作を経て、各楽器の役割をしっかりと考えるようにもなりました。これまでDTMで作ってたときは良くも悪くも各パートを均一に扱いがちだったんですけど、引くとこは引いて、立たせるところはより際立たせる。自分がシンセサイザーでやるべきこともはっきりとわかってきたというか。
――2曲目の「Flowing」は妖艶な雰囲気漂う、夜っぽいイメージの曲ですよね。ドラムのリズム・パターンもおもしろくて。
ヤマザキ:「Flowing」は大枠のコード進行と、ベース・ライン、ドラム、シンセのメロディの原型などを僕が作って、メンバーにはYouTubeにアップロードされていた「夜のビーチ」みたいな4K映像と一緒に投げたんです(笑)。そこにマフユがギターを入れてくれて、カッティングの裏にシンセが入るっていう感じの構成が見えてきました。リズムはドラムのツヅキとサイトウさんと話し合いながら色々なパターンを試しましたね。
ツヅキ:シンプルな4つ打ちにもしてみたし、逆にもっと露骨にサンバっぽい感じにもしてみたんですけど、どうもしっくりこなくて。あと、最初はギターにつられて僕のドラムが熱くなりがちだったので、サイトウさんから「もっとテンションを下げてみない?」って言われたのが印象的でした。結果的には僕の手癖も残しつつ、バンドとしてちょうどいいバランスの温度感になったのかなって。
ヤマザキ:最初はコード進行ももっと複雑だったんですけど、そこもサイトウさんのアドバイスでシンプルにして。気持ちいコード進行を循環させることで、よりキャッチーに、そしてダンス・ミュージックとしてのグルーヴも強化されたと思います。
――4曲目の「Casa Tranquila」はEPのアウトロを飾るような、ビートレスの幽玄な1曲です。
ミヤノ:EPの中で1曲はインタールードになるような、アンビエントっぽい曲も作りたいねっていう話はしていて。最初のデモは僕がガット・ギターとシンセ、リズムボックスで組みました。実は最初はドラムも入ってたんです。
ヤマザキ:というか、最後のミックスダウンの段階までドラム入ってたよね。ただ、4曲を並べて聴いたときに、「ビートない方がいいかもね」っていう話になって、「ツヅキ、ごめん」って言ってミュートした(笑)。
ツヅキ:寂しかったです……(笑)。
ミヤノ:描き出す情景としては「All Sunlight Must Fade」と被るかもしれません。何かが終わっていく時間帯というか、薄暗くなったビーチでチルアウトしているようなイメージですね。やっぱりガット・ギターで弾くと哀愁感が出るので。
変化したフロアの雰囲気と、復活する主催パーティ
――バンドとしての新たなスタイルを見出した今作を経て、HMBCとしては今後どのような活動を展開する予定ですか?
ヤマザキ:この方向性、世界観でフルレングスのアルバムを作りたいですね。本当は今回のEPもアルバムにしたかったんですけど、1曲ずつ丁寧に時間を掛けて作っていたので、4曲仕上げるのが精一杯で。
アサクラ:あと、今回の制作のタイミングで各々機材を見直したこともあって、引き続き今の機材とバンドのスタイルで、もっと色々な曲に挑戦してみたいですね。
ヤマザキ:音作りの面でいうと、以前のエレクトロニック期を抜けて4人それぞれが自分のシグネチャー・サウンドのようなものを見つけた感覚もあるよね。
――先ほど、EP収録曲はライブで試しながら変化していった部分も大きいと語られていましたが、ライブ・パフォーマンスの面でも変化は起きましたか?
ミヤノ:最初にヤマが話したことと被るかもしれないんですけど、ジッと見入るようなライブでなく、クラブのように楽しんでくれる人が増えた気がして。これは特に野外フェスに出させてもらったときに感じました。
――よりDJライクな雰囲気というか。
ヤマザキ:僕は最近、フロアの雰囲気がすごくいいなと感じていて。元々フロアの人たちを踊らせるためにバンドを組んだ部分が大きいんですけど、ボーカル/フロントマンをなくしたことによって、サウンドに身を委ねて自由に踊ってくれる人が増えた気がするんです。それが自分たちのやりたかったこととすごく合致してる。
アサクラ:意外とヤマくんがベーシストに転向していることについて、指摘してくる人がいないんですよね(笑)。それくらい自然に溶け込んでるのかも。
ヤマザキ:確かにそうかも(笑)。
――イベントに関する制限もほぼなくなった今、HMBC主催パーティにも期待が高まります。何か計画していることはありますか?
ミヤノ:去年久しぶりに開催予定だったのですが、台風で中止になってしまったので、もう4年くらいやってないことになりますね。今年も9月に開催を予定しているんですけど、これまでは逗子に色々なゲストをお呼びしたり、映画上映にフォーカスしていた面が大きいと思うんですけど、今後は自分たちのライブやDJに重きを置いてもいいのかなって考えています。もちろんCINEMA AMIGOという特別な会場を使用するので、そこでしか体験できないことっていう部分は変わらず。
ヤマザキ:まだ具体的なことは決まってないんですけど、今後は逗子だけでなく東京などでも自分たち主催のパーティができたらなって考えています。というのも、逗子の会場だと音量面で表現できない部分もあって。例えば東京のクラブで僕らがいいなと思っているDJやライブ・アクトをお呼びして、一緒にパーティができたらおもしろそうだなと。逗子でしかできないこと、東京でしかできないこと、それぞれの長所を際立たせたパーティができたら理想です。
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[LIVE & DJ]
Half Mile Beach Club
■チケット予約:halfmilebeachclub@gmail.com
■Half Mile Beach Club: Twitter(https://twitter.com/HMBC_tw) / Instagram(https://www.instagram.com/halfmilebeachclub/)

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