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映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウ
トローたちの誇り』(多少ネタバレあ
り):ロマン優光連載237

ロマン優光のさよなら、くまさん
連載第237回 映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』(多少ネタバレあり) 映画『 ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』を見に行ったわけですが、本当にエンタメとして非の打ち所がない作品で、「わかりやすい」とは何なのかということを考えさせられる作品でもあった。
 冒頭のいかにも獰猛そうな人間型の生き物が牢獄に連行されていき主人公たちが投獄されている房に入れられるくだりで、舞台が人類以外の異種族が人間として共存する中世的な世界が舞台であること、主人公の男女が男性のエドガンが口八丁でユーモアあふれる人物、女性のホルガは口より手が先にでる武闘派でかなりの強者であることがわかりやすく提示される。
 別に台詞で何かを説明されるわけではない。絵面と会話でそれが伝わってくるのだ。説明のための説明みたいな台詞はなく、自然な会話の中に必要な情報が盛り込まれている。当たり前といえば、当たり前なのだけど、この当たり前はなかなか実現されないものだ。
 本当にわかりやすい作品だ。見ていれば自然に物語を楽しむのに情報が入ってくる。設定にこだわるあまりに、それに関する知識がないと物語を楽しめなくなる作品も多いわけだが、今作に関していえば、原作のテーブルトークRPG『D&D』に関する知識がなくても物語を理解するのに支障はない。知らなくてもハーパーが善の団体でサースが悪い国であるとか簡単に理解できるし、サイモンの先祖である設定のエルミンスター・アルマーは原作での重要キャラであるが、そんなこと知らなくても「何か偉い人なんだ」だとわかるし、それぐらいわかれば何の問題もない。
『D&D』はおろか、魔法も使えて色んな種族が共存して社会が成立している世界だということさえ理解できれば(おそらく、大半の人はできる)、別にファンタジーの知識がなくても困らない。本当によくできているのだ。
 あと、キャラクターが本当に魅力的。主人公チームは言うに及ばず、敵役や脇役も本当に魅力的。
 エドガンもホルガもサイモンもドリックも、みんな欠点だらけで善人というわけではないけど、それぞれに悲しい過去や失敗を抱えていて、人間くさい連中だ。たいていの人間は人生が思い通りにいっているわけでもなく、後悔してもしきれないような失敗の一つや二つは抱えていている。楽をしてとくをしたい、ズルしたい、問題に直面したくない、めんどくさいことから逃げ出したい、そんなセコい気持ちだって沢山抱えている。そんな情けない自分たちに似た連中が奮起して、別に英雄然とするわけでもなく、等身大のままで危機に立ち向かう姿に心動かされないわけがないと思う。
 聖騎士(パラディン)のゼンクは完璧超人みたいな人なのだが、融通の効かなさがユーモラスさを醸し出していて、愛される人である。あの完璧さと融通の効かなさ、「プレイヤーキャラクターじゃなくてダンジョンマスターが使うキャラ」というふうにゲームを知ってる人には伝わるようにやっているのだろう。だから、ゼンクはラストバトルに参加しないし、岩があっても真っ直ぐ進むような変なとこがあるのだなと思う。
 あとヒュー・グラントが演じるフォージが本当に小悪党なのに憎めない感じでいい。よく考えると、大量の領民の命と引き換えに宝を盗み出して逃げようとしたり、極悪非道かつスケールが小さい行動をとるのだが、あの、さわやかでうざったい笑顔を見ていると何となく愛せてしまう。いや、失敗したから良かったものの、あれ本当に極悪だからね…。しかし、笑顔が素敵なのだ! ちょっとどうかしているレベルの裏切りや悪事を働きながらも憎めない可愛いサイコパス犯罪者、それがフォージ!
 そんなフォージの失礼な言動にストレスを貯めていた悪の国サースから派遣されていた悪の魔女・ソフィーナ。全体的に非人間的で不気味な印象が強い彼女だが、フォージに苦しめられてる時の彼女や、フォージに対する怒りを激白する彼女は何か可愛かったです。 
 好きな脇役も何人もいる。物語中で一番不憫な鳥人間のジャーナサン。ホルガの元配偶者マーラミンとその現配偶者がみせる善良さと優しさ。魚の口から助け出される猫人間の赤ちゃんの可愛さ。猫人間の赤ちゃんがお母さんのとこに戻れて本当に良かった! しかし、あの赤ちゃん可愛かったな。
 ラストも伏線(というか投げっぱなしだったネタ振りというか)を回収していて無駄なところが全くなく、ケチの付けようがないバランスのいい作品だ。自分の本来の好みだとバランスが悪い、凄く良い部分とダメな部分が混在した映画を好きになりがちなのだけど、ちゃんとした面白い作品はやっぱり面白いというべきなのではないかと思う。そういうところをちゃんとしてないと、逆張りに走ってダメな奴になってしまうと思うので。
 サブカル中高年にありがちだけど、みんなが褒めているものを褒めるのは恥ずかしいとか、かっこ悪いとか思う人もいる。でもそれは人気がないものはつまらないに違いないと思って見ないようなことと表裏一体であり、みんなが褒めていようが褒めていまいが、人気があろうがあるまいが、自分が面白いと思ったものは面白いと言うべきなのだと思う。
 映画『 ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』は本当に面白かったし、よくできた映画だったし、何よりダメだけど魅力的な連中が頑張って生きてる姿を生き生きと描いた作品だった。
(隔週金曜連載)
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